Monster Hunter Reincarnation 作:scp-114514
ロンディーネからの話を聞いた耀真は、すぐに行動に移す事を決意。フゲンを始めとするカムラの住人に里を出る事を伝え、『猛き炎』達を交えたウツシによる急ピッチな訓練をやり遂げ、仕上げに少ない荷物をまとめて交易船の出航日に備えた。
そして里を去る当日。オトモ広場の船着き場には、ウツシに『猛き炎』達、そして里長のフゲンが集まっている。
「改めてですが…見ず知らずの俺の事を助けてくれて…皆さんには本当に感謝しています。
でも、はぐれた仲間があそこにいるかもしれないので…すみません」
ここに来て1年も満たない短さなのに、自分を家族のように扱ってくれた里の人たちにはとても感謝している。この里が存亡に危機を脱するために必死なのも理解している。
それでも…一刻でも早く現地で確認を行い、もし『本人』なら今後の自分たちの予定を立てなければいけない。だからどうしても里を去らなければならなかった。
「気にするな。オマエの人生は、オマエのモノだ。オマエが正しいと思った選択を進めばいい」
「ヨウマ君。君も、君の友達も、遠いところから来たんだろう。ここの『当たり前』が有り得ないようなところから。
時に目を背けたくなるかもしれないけれど…何とかできる気がする。頑張ってくれ」
「いつか…いつか、この里の力になれるよう、働きたいです。約束します」
「うむ。その意気や良し。なれどオマエはまだ右も左もわからぬ駆け出しの身。
炎の如く、日々を力強く生きよ。さすれば、おのずとその道も見えてくる」
「短い間でしたが…本当にお世話になりました!ありがとうございました!」
***
ロンディーネの交易船に乗せてもらって向かった先は、エルガドという広大な海に囲まれた、中世ヨーロッパ風の港湾施設。
3Gの集会所であるタンジアの港を思い出すが、こちらはモンスターの調査を目的とした拠点らしく機能的、実務的印象が強い。
ロンディーネの口からは例の青年について詳細な事は聞けず、当の彼女も交易の準備云々で離れてしまったため、ここからは耀真自身の手で探さなければならなくなった。
「まぁ、インパクトのある挨拶してんなら適当にそこらへんの人に声かけるだけでいいだろ。
…あのすいません、なんか変な挨拶を色んな人にしてる人がここに居るって聞いたんですが…」
聞き取り調査をすると決めた瞬間にすれ違ったハンターの少女と目が合い、早速質問する。歳は自分の方が上だろうが、この少女は『アグナコトルの防具を着用し、ディノバルドの双剣を背負っている』。ハンターとしては格が違うし、初対面の異性なんだから礼儀はきちんとしないといけないだろう。
「え、挨拶が変な人?あ~なるほど、彼の事ですね。こちらへどうぞ」
***
「こちらです。彼はまだ傷が治っていないので注意してくださいね」
「ありがとうございます」
少女に案内された先は、中央の広場から少し離れたところに建つ家屋の一つ。礼を言って彼女と別れた耀真は、恐る恐るノックしてからドアを開ける。
「お邪魔しまぁ~す…って、やっぱりか」
「ガッハッハッハ!今俺を見たな?…ってお前!」
「よぅ、生きてたな」
中にいたのは、ベッドで寝ていた耀真と歳が同じくらいの青年。彼と同じ世界出身であり、神の計らいで自宅に居候することになった転生者、
「おう!しかしその恰好、ハンターになったのか!すげえな!」
耀真の知る限り彼の結構テンションは高い方である。上半身が包帯でグルグル巻きにされているほどのケガを負っているが、それでもそのメンタルが翳らないのは好感が持てる。
「まだ駆け出しさ。受けれるのは採取や小型討伐が精々だ」
「いやぁ、それでも羨ましいぜ。迎えに来る前に早くケガ直さねぇとな!」
「だったらよく眠り、よく食うこった。
…ん?迎えに来るその人って誰よ?」
「ハンターじゃないスレ民なんだけど、こっちの世界に迷い込んだってスレ建てたら身元引受を約束してくれたんだ。あの人はあまり顔出さないから面識なかったんだけどな。
てか、お前もやってると思ってたんだが」
「スレで色々やる暇もないほど毎日忙しかったんでね。
というかなぜ、スレで助けを呼ぶことを決めた?
オーマニキの言葉借りるんならよ、モンハンの世界といっても無数に枝分かれしているんだ。結果オーライだけれども、連中がいる世界≠この世界って可能性もあっただろうに」
「うん、それは俺もわかってた。でも、手がかりを偶然にも見つけたもんでな。
ここで、アグナコトルの防具を装備してる女の子見なかったか?」
「出くわしたが…その子がどうした?スレ民じゃないはずだが」
「ああ。俺も面識ねぇのにどっかで見たことあるなーって思ったけどなぁ…」
「!まさか…」
「おう!記憶をたどってみればよ、バンホー達と行動していたわ。ワンチャンあるかと思って、最近色んな話をそれとなく聞いてみたんだよ。
そしたらよぉ…
モンスターを狂わせる光が立ち上る現象だの、それをもたらしていた規格外のモンスターだの、そいつを打ち倒して世界を救ったリオレウスのライダーだの!
どいつもこいつも何かと以前のスレで話題になってたものばっかりだったぜ」
「なるほどな。だからこの世界をあいつらが生きる世界と同じだと踏んで、スレに救援を求めたと」
「おうよ!どの世界か見当もつかないままむやみに救援出してたらあっちが疲れちまうしな。連中は以前の俺らと違って暇人じゃないんだし」
「フ、お前って結構考えるタイプだったんだな」
「おいおい、俺は考えごなしに行動するほど馬鹿じゃねえっての!…多分」
「多分なんかいっ!
…それで、その傷はどうした?」
「いやぁ、この近くの狩場…
「えぇ…」
「しかも不運にも、いくつかのギアとドンブラスターも失くしちまった」
専用武器を無くすなんて何やってんだお前ェ!!と耀真は言いそうになるが、似たような羽目に遭った自分の言えた事ではないので言葉を濁す程度で返す。
「ま、仕方のない話ってことで割り切ってらぁ。極端な話、俺はあの能力がなくたって分相応な生活は出来るはずだろう?」
祭我の言葉は強ち間違ってない。特段傑出した力を持たない凡人は云十億といる。その一人になった事なんて、恥ずかしい事でもない。というか、前世ではそれが普通だった。
「それは確かにそうだが…」
「というかよ、俺的にはこの傷はアレだ、激戦から生き延びた証!誉れってもんよ!
そん時の話、迎えが来るまでの暇つぶしと聞いていかねぇか!?」
近場の狩場で採集クエストにでも行こうかと考えていた耀真だが、その狩場に強力なモンスターがいたとなれば駆け出しの自分は立ち入りが不可能、行けたとしても危険と判断。エルガドで時間を潰す方がマシと踏み、祭我の話を聞くが、その内容はとんでもないものだった。
***
「いってて…い、生きてるぞおおおおおおおっ!!!!」
耀真がこの世界に放り込まれた時、祭我も同時に別の土地に穴を介して転移していた。
「おい耀真!俺達生きてたぜ!運がいいなぁ!そう思わねえ…か…?」
相棒に無事の報告をしようとする祭我だが、周囲にいる人間は見渡す限り一人もいない。
「はぐれちまったのか?…へ、へ、ぶへえっくしっ!寒い!」
改めて自分の周囲を見渡すと、冷風吹雪く平坦な石畳。崖の向こう側には朽ちて傾いている塔のような残骸が見える。遺跡のようなところなのかもしれない。
「こんなとこ早くオサラバしねぇと風邪ひいちまう!急げ急げ!」
背後にある朽ちた門のようなものを潜ると、ツタがついた小さな崖があった。おそらく、自分が落っこちたところは山か何かのてっぺんだろう。
「道なりに進んでれば、下に降りれるはずだ。もしかしたら人が住んでるところがあるかもな!」
***
轟然 大音声
遁げる弱者に 逐う強者
寒山 殺気充溢
恐るべし 原始の梟雄
《絶対強者》
***
崖を降りようとしたところで、祭我は下から何かの気配を感知して動きを止める。
咄嗟に陰に隠れて恐る恐る見てみると、そこにはオレンジ色と青色の縞模様が特徴的な、ティラノサウルスに似た頭をした翼竜のような生物。いや…翼竜と比べればその両腕は陸上生活に適するよう発達しており、そもそも胴体も尻尾もプテラノドンとは比べ物にならないほどマッシブだ。
そして祭我は、この生物に見覚えがある。
「ティガレックス…ティガレックスだ!」
そう。MHP2以降ほぼすべての作品において登場を果たした古参にして屈指の強力モンスター、『轟竜』ティガレックスを目の当たりにしているのだ。
「すっげえなぁ、あんなカッコイイやつを間近に見れるなんて!
怖くねぇと言えばウソになっけど、ワクワクが止まんねえぜ!」
ゲーム画面で見るのと、肉眼で見るのでは大きさ、迫力、何もかもが違う。もちろん恐怖もあるが、それをはるかに上回る感動が祭我の中で渦巻いていた。
「…待てよ?こいつをどうにかしないと、下に安全に降りられなくないか?」
が、それが彼の心を支配していたのもつかの間。冷静に考えれば、これが下山ルートにデカデカと居座っていれば、安全に降りる事が出来ない。
「グルゥ…?」
そしてうっかり出してしまった声に反応し、ティガレックスが辺りをキョロキョロ見渡し始める。隠れているのがバレるのも時間の問題だ。
「よォし!ここが命の張りどころじゃい!いっちょ腹括れよ、俺!」
頬をペチペチ叩いて気合を入れ、いまだ辺りを見渡すティガレックスの方に向かって大声を張り上げる。
「ハッハッハッハ! ワ~ッハッハッハッハ!」
急にテンションの高い声を聴いた何事かとティガレックスは上の方を見渡し、ちっぽけな一人の人間の姿を確認する。
「お!今俺を見たな?これでお前とも縁が出来た!」
標的を見つけたティガレックスは両腕に力を入れ、ガッチリと固定して吠えようとするが、その標的が何かを取り出し、強く回しているのに気づく。
「今日は新しいので行くぜ!」
人間がその『何か』を下に撃つと辺りが煙に包まれる。晴れるのを待ってしばらく様子見をした後、ティガレックスはありえないモノを目撃した。
人間がいつのまにか牙獣ほどの体躯を誇る白いヒトガタになっていたのだ。
「やあやあやあ、祭りだ祭りだ〜!袖振り合うも他生の縁、躓く石も縁の端くれ!
共に踊れば繋がる縁!この世は楽園!悩みなんざ吹っ飛ばせ!笑え笑え!ハーハッハッハッハ!!」
「ギジャアアアアアア————————ッ!」
祭我を獲物と見なしたティガレックスは、切られた啖呵に呼応するように「音」の範疇を超えた莫大な音量の咆哮を放ち、祭我の変身したヒトガタ…『ブンブンジャーロボ』に向かって爆走する。
「さぁ!楽しもうぜ!勝負勝負!」
祭我の方も腰をかがめ、相撲取りのようにティガレックスに立ち向かい、両者が激突する。
「グルオオオオオッ!」
勢いが勝ったのはティガレックスの方だった。ひとまわり以上も上回る体躯でブンブンジャーロボを押し倒し、取っ組み合いで転げた末に剛腕で地面に押さえつける。
「っ、流石は絶対強者…生態系の頂点!」
そのままティガレックスはブンブンジャーロボのボディに猛然と牙を突き立てた。一本一本が充分な殺傷力を持つ牙が幾つも立ち並ぶアギトで喰らいつかれては、並の生物は命の保障はない。
だが—————
「ガッ!?ガアッ、アガアッ!?」
部位を変えていくら噛みつこうとも結果は同じ。ティガレックスは肉に喰らいついたような感触が得られず、むしろ岩に牙が突き刺さるような感覚しかしない。
「へへっ、残念だったな!今の俺は体の芯までロボなのさ!」
祭我の特典は『歴代戦隊ロボ』。肉体を丸ごと鋼鉄のボディに変質させると、生体部位が一切存在しなくなる。故に、いくら喰らいつこうが肉にありつけはしないのだ。
「ただ、組み伏せられっぱなしもアレなもんでねぇ…。あ、隙ありィ~っ!」
「ゴアッ⁉」
ティガレックスの後ろ足を狙って祭我はローキックを繰り出した。意識外からの攻撃を受けたことでティガレックスは怯み、判断が遅れる。その隙を見逃さない祭我は更なる追撃をかける。
「柔よく剛を制すってワード、知ってるかい!?」
ブンブンジャーロボが瞬時にティガレックスの両肩を掴み、仰向けの体をねじるようにして渾身の力で投げ飛ばす。
「ゴアアアアアアア—————ッ⁉」
投げ飛ばされ、もんどりうって転がり倒れるティガレックス。牙獣程度の体躯でありながら、牙獣に非ざる肉体とスタイルで自分の攻撃を耐え切り、反撃したターゲットに驚く。しかしこの程度でKOするならば絶対強者の名は冠していない。
「第一ラウンドは俺が一本!さぁどうするよ、第二ラウンドは乗るか降りるか!」
「ジャアアアアッ…」
ファイティングポーズを取る祭我と、威嚇咆哮をするティガレックス。両者は目をそらさぬまま無言の睨みあいを続けた末に——————
「ガッ、ゴアッ、ガガアッ…」
“甲殻が硬く、隙間も全くないヤツなんて喰えるか。”
そう言うかのようにティガレックスは背を向け、足を引きずるようにして祭我から距離を取り、飛翔して立ち去った。
「あ、大勝利ィい!!———————む?」
勝利を確信して歌舞伎のように見栄を切る祭我だが、ある事に気づく。
「アイツの後ろ姿…傷だらけだ」
見えたのは、何かに斬りつけられた痕だったり、ところどころが爆ぜたような痕のある下半身。少なくともあんな傷はつけた覚えはない。
「なんだ、他のモンスターに傷つけられてたのか。なんか素直に喜べねーなぁ…」
だが、これで周辺における脅威が減ったのも事実。引き続き調査を行えられる。
「うん、結果オーライだ!次行くぜ次!」
***
道なりに進んでいく中で、祭我は分かった事がある。
この周辺は雪山ではない。氷雪に覆われた場所の他にも、森林などの緑地がある。更に、遠くを見たところどうやら廃墟のエリアも存在しているようで、この地は「山」というより「高地」と言うべき環境のようだ。
「まるで御伽噺の世界に入り込んだようだぜ…」
そこから更に気づいた事が一つ。ここでは森林地帯といい、廃墟地帯といい、特殊な立地環境を形成しているのだ。本来交わる事のないような地帯が存在し、攻めるにも守るにも適したこの地は、様々なモンスターの生存を可能にし、同時にそれらを喰らう上位捕食者のモンスターにとっては豊富な餌場ともなるはず。
ガムートのような寒冷地に生息するモンスターもいれば、イャンガルルガのような森丘など温暖な地域に生息するモンスターもいる…というように多様なモンスターが存在する魔境である可能性が高い。
「…気が抜けねぇなぁ、オイ」
何より、彼は今重大な問題を抱えている。
先ず一つ目は、スレ民が救援に応じれるかどうかの問題。
この世は多元宇宙で構成されており、ある一つの世界を原点として、そこから幾つもの世界線が生まれているというのをスレで聞いた。例えば、『魔法科高校の劣等生の世界』にも世界線がいくつもあり、同じスレ民の華貫頼斗が生きている世界はそのうちの一つである。また、頼斗が別の『魔法科の世界』で起きた異常事態の鎮圧に駆り出されたというのを耀真から聞いている。
ティガレックスの存在で『モンスターハンターの世界』を確信したのはいいものの、こちらだって無数の世界線があり、バンホー達スレ民がいるのはその中の一つ。ならば自分が飛ばされたこの世界とそれが同一なのは、∞分の1という天文学的な確率と言っても差し支えない。スレの助けを直に借りる事が出来ない可能性がある。
二つ目は、手負いのティガレックスからの推察。
あれが飛び去った方角は、この高地を下る方角とは真反対だった。この地を去った可能性が高いが、それはつまり『ティガレックスに傷を負わせ、追い出す』程度の実力は持ち合わせているモンスターがこの地にいるという事。より上の危険度を誇る古龍種の可能性が高いが、そのモンスターにしたって未知の環境ではどんなものが出現するのか見当がつかない。
そして、この地での生存。
これが真っ先に解決しなければならない問題だ。現地人の助けが来るまで、来ないならば長期間ここに留まっても問題ないような環境を用意しないといけない。それも元の世界と違って強力で凶暴な生物が跋扈する魔境で、だ。
飲み水と寝床を確保しなければ、いくら戦隊ロボへの変身能力があっても詰む。
「どんな高スぺのスマホでも、バッテリーも充電手段も無くなりゃ使い物にならねぇ。お先真っ暗だな」
祭我は不安と焦燥に駆られながらも、安全地帯を確保すべく引き続き見知らぬ土地の調査を続けるのだった。
***
祭我は調査の最中眠気を感じて仮眠を取る。目覚めた時には既に陽が沈み、満月が登る夜になった。真っ暗闇になると思いきや空は妖しい紫色に染まり、不気味な印象が強い。
「気味が悪いぜ…。モンハンっていつの間にこんなホラーチックな世界観になったんだ?早いとこ安全確保しないとな…」
歩みを速めて調査を再開するが、広く開けた平地でとんでもないものを発見する。
そこでは、空に漂う無数の紫色の火があった。まるで鬼火として、無数の人魂が夜を彷徨っているようだ。だが真にとんでもないものが他にある。
「ジンオウガが…死んでる⁉」
そう、大きく斬りつけられたような傷があるジンオウガが倒れていた。恐る恐る近づいて触ってみるが、何も反応しない。死んでいると言っていいだろう。
ハンターが討伐したのなら、素材として体の一部がはぎ取られてるはずだし、自分に声をかけてくる可能性だってあるはずだ。
よって祭我は確信する。ティガレックスやジンオウガよりも強いモンスターがいまだここに跋扈していることを。
「まずいな…こいつを倒したヤツが近くにいるのかもしれん。早くここから逃げないと死んじまう」
そうして今いるエリアを早々に立ち去り、安全地帯の確保に専念しようとする祭我を見つけたらしく、紫の火が漂う闇の向こうから『ソレ』は突然やってきた。
***
儚くも食らいつくされしものたちの炎よ
怨虎に集い 使いとなるにすぎし妄執の炎よ
かすかにつなぎし念はか弱く
いずれ ほどなく 消えゆくさだめ
煉獄の道程を辿る前に
しかと 見とどけよ
汝の魂魄がより強く
苛烈なる
《禍根極まりて》
***
「グルゥ…」
背後から動物が短く吠えた声が響き、振り返った先に見えたのは、悠然とこちらへ歩く見たことのない巨大なモンスター。
「紫色の…牙獣、いや牙竜種か?まさかジンオウガ以外にも該当するモンスターがいるなんてな」
怒気に満ちたトラの様な恐ろしい面構えに鎧兜のような厳めしい紫色と黄色の甲殻は、さながら怨念に満ちた亡霊武者のような非常に不気味で恐ろしげな雰囲気をしている。
また、そのモンスターには立派な『武器』があった。
一つは前脚。相手の肉を食い破り、引き裂かんとするかの如き巨大な鋸刃と化した、目を惹くほど巨大な爪が生えている。
もう一つは尻尾。先端の甲殻が変化したのか七又の穂先を備える異形の豪槍とも言うべき姿。
「まさに修羅…!恐ろしい風貌だぜ」
何より印象的なのは、そのモンスターの古傷だ。
度重なる戦いで刻まれたであろう無数の傷跡からは、常に鮮血を思わせる赤い光を放っている。とりわけ頭部の損傷は著しく、右角は根本から折られ、その下の右目も潰れて隻眼となっているほど。それが影響を及ぼしたか、残った左角は異常なまでに太く頑強に発達しており、隻眼の眼光も相まって尋常じゃない禍々しさを宿した面構えとなっている。
だが—————今の祭我に退却の選択肢はない。啖呵を切って牙竜を睨む。
「ハッハッハッハ!今俺を見たな?これでお前とも縁が出来た!」
「グルオゥアッ!」
既にブンブンジャーロボに変身している祭我を敵とみなしたのか、傷だらけの牙竜は全身から鬼火の如き紫色の炎を噴き出しながら飛びかかる。
「悪いな、そいつぁ避けさせてもらう!」
祭我の背中から異空間が発生し、ビュンビュンマッハ―ロボが出現。パーツが分解されてマッハ―ウイングが背部に、バクアゲチャージャーが左手に装着された派生形態『ウイングブンブンジャーロボ』へと姿を変える。
***
自然界における生存競争は、それを放棄した者から脱落する。捕食者や環境の変化から目を背き、何もしない事は、それらの脅威をただ受け入れるのと同じ。だからこそ、今の今まで生物はそういった答えの無い課題に対し各々なりに対処してきた。
例えば…肉食獣から抗うべく圧倒的な体躯と力をつけたサバンナの草食獣。
例えば…劇毒を有する事でヘビやタカに襲われない毒鳥ズグロモリモズ。
例えば…矮小ながらも群れる事で個体群の生存を図るイワシ。
例えば…周囲の環境と色を同化させる事で捕食者の目を欺き、獲物に忍び寄るカメレオン。
例えば…発達した脳で知恵を絞り、道具を持ち、コミュニティを作る人間。
どの生物もあらゆる方面からのアプローチが実を結び、今日まで生きている。
最も、生物が生物である限り欠陥は存在するので、各々が持つ力というのは必ずしも無敵と限らないが。
そして…ヒーローの在り方とは、往々にして『どんな脅威にも屈しない』というものだろう。
使命のため、主義信条のため、護りたいもののため…そのために背を向けられないからこそ、何度でも立ち上がって前を向き、必死に抗う。
まぁ、脅威に抗う事が間違いという時もあるにはあるが…そういうケースは、ただひたすらに逃げるのが正解というもの。あるいは、『今はまだその時ではない』というもの。ゴーカイジャーやキュウレンジャーがいい例か。
しかしながら…逃げる事も抗う事も出来ず、ただ死ぬしかない状況もあり得る。
総じて…彼は理不尽に巻き込まれただけ。運が悪かったとしか言いようがない。
***
「空からの攻撃、捌けるか⁉」
牙竜の飛びかかりを飛行によって避けた祭我は、ボウガンの役割を持つバクアゲチャージャーにより、空高くから雨のように射撃。着弾地点が炎と煙に包まれる。
「これで終わるわけねぇ、もっとビュンビュンいくぜぇ!—————うぉっ⁉」
「ヴォウウアッ!」
祭我は右手のバクアゲドライバーを構え、立ち昇る煙の中に高速で突っ込んで追撃をかけようとするが、それよりも早く牙竜が煙の中から祭我目掛けて飛びかかり、空を飛んでいるウイングブンブンジャーロボのボディにがっしりしがみつく。
「あががががっ!こいつぁ、予想外だ!」
エンジンを最大限にふかして縦横無尽に飛び回り、牙竜を振り落とそうとするが肝心の牙竜は相当執念深いのか中々離れず、それどころか激しく喰らいつき、前脚で引っ搔いてくる。
「この距離ならバリアは張れないな!お前がバリア持つかは知らんけど!」
強引に振り落とすべく祭我も牙竜の腹にゼロ距離でバクアゲチャージャーを連射。堪らず怯んで離れ、落っこちていくが…
「マジで⁉」
紫色の爆発と共に牙竜は再度飛びかかってくる。その後も顔面に蹴りを入れようが、パンチを喰らわそうが、絶対にあきらめることなく空中の祭我に襲い掛かるその姿は、見つけた獲物を何としてでも屠り、喰らう意志の強さを感じさせる。
「しつこい態度は…とりすぎるもんじゃないぜっての!」
祭我は牙竜の両前脚を掴み、膝蹴りを喰らわせて空中にカチあげた隙に、再び異空間を背中に発生させ、今度はブンブンサファリとブンブンマリンを召喚。前者を頭部に、後者を腕に合体させた怪獣のような形態『ウイングブンブンジャーロボモンスター』に形態変化する。
「もっともっと出力上げてやるぜ!」
「ゴゥルルルル…!」
一方、空中にカチあげられた傷だらけの牙竜からは血のように昏い赤色のガスを揺らめく炎のように吹き出し、爆発。紫炎が両腕と尻尾に集中して燃え盛っている姿となる。
修羅の妄執 鬼火となりて
「ぜやああああああっ!」
先に襲い掛かったのは祭我。両腕に新たに装備したバクアゲクロ―を振るわせ、力の限り斬撃のラッシュを浴びせるが、牙竜は肘を立てるように刃状の爪をボディに突き立て、より強く喰らいつくことでそれを耐え抜き、お返しに紫炎を纏った尻尾の豪槍を脇腹に突き刺す。
そして—————
「ご、お“ゔあ“あ”あ“あ”あ“っ!?」
槍の穂先から紫炎が幾重にも爆発を起こし、更にダメージを与える。文字通りに肉を切らせて骨を断つかのような攻撃を受け、祭我は自分でも出さないような苦悶の声を叫んでしまう。
哀れな竜に纏い付く
そして体勢が崩れたのを見逃さなかった牙竜は祭我を踏み台にして跳躍後、ガスを爆発させた勢いを利用して上から飛びかかり、紫炎迸る牙で肩に喰らいついた。ティガレックス以上の咬合力なのか途轍もなく痛く、しかも爆発も起こっている。
「…っ!!もしかしたら、あれは燃やす炎じゃない!爆発性のガスの類だ!」
—————カチン。
ようやく牙竜の特性に気付き始めたがもう遅い。刀を抜いたような音が短く響いた時、牙竜に組み伏せられる形で祭我は仰向けになって地面に撃墜される。
「いっ、て、ええええ…!」
爆炎に包まれた祭我。沈黙した獲物を喰らおうとする牙竜だが—————
「せめて一太刀」 悲壮の覚悟
「祭りは…まだ終わっちゃいねぇ…!」
祭我の闘志は未だ尽きない。震える足で立ち上がり、装着していたブンブンカーをすべて解除、異空間から召喚したブンブンレーシングとブンブンクラシック、ブンボットに換装する。
「お前が武士なら!こっちは騎士だ!」
右手にブンブンクラシックが変形した剣「バクアゲソード」を、左肩にブンブンレーシングが変形した「バクアゲバーナー」を装備した形態『ブンブンジャーロボナイト』へとなった。
「この一太刀で…勝負を決める!」
鎧兜の禍威に挑むも
祭我はバクアゲソードを構えてバクアゲバーナーから炎を噴射し、超高速で牙竜に突っ込む。牙竜の方も両腕の紫炎を最大限に噴出させ、眼前の獲物の命を刈り取らんとばかりに跳躍、両足から紫炎を爆発させて瞬時に祭我に襲い掛かった。
「バクアゲソード・ブンブンフィニッシュ!」
「グガガガアアアア———————ッ!」
赤き闘志の炎を纏った騎士の剣と、怨嗟の鬼火を纏った修羅の刀。両者が交錯し、暫しの間周囲は静寂に包まれる。
そして—————
合掌
「ん、ぐぅおう、あああ…!」
祭我の方が、苦悶の断末魔を漏らす。バクアゲソードは根元から折れ、ボディには横一文字の斬撃が刻まれ、そこから火花が漏れ出すとともに両膝をついてしまった。
「————————————」
ガァン!ドガァン!バアアアアアアアン!
もはや敵なし 鬼気の餓竜
ブンブンジャーロボが爆発に巻き込まれながら、無言でゆっくりと倒れ伏していった。
スーパーヒーローの力が、大自然に屈した瞬間だった。
***
「—————ぼはっ!」
牙竜に打ち倒された祭我だが、奇跡的にも生き延びていた。ブンブンジャーロボの変身が過度のダメージによって解けてしまったが、牙竜がそれを『消え去った』と勘違いし、ジンオウガの骸を喰らっている隙に橋の下から川に落ちたのだ。
「どうにか生きてたか。真水はここから取るとして…」
耳を澄ますと遠くから「ガァ、ギャァ」と小さな声が聴こえる。あそこにはランポスやジャギィに似た肉食性の小型鳥竜が近くにいた。無防備な今の状況では血の匂いを嗅ぎつけられたら最後、死ぬかもしれない。
「小型モンスターですら出入りできないところに身を隠すしかねえ…どこだ…!」
未知の場所で傷を負った祭我は、まともに働かない頭を必死に回転させて活路を見いだす。
「ここだ!ここで身を隠す!」
祭我が指差したのは石橋の下。ふさふさの白と黒の毛に覆われた羊のような草食種がいるエリアの近くには、溝のように狭い谷間から小川が流れている。アナコンダのような生物ぐらいしか入り込めなさそうなところに落下し、橋の下に身を隠した。
***
「ハッ!」
どれくらい時が経っていたのだろう。心身の疲弊でつい眠っていた。
「ブラスターが…ない…」
眠っていた間に落ちて川に流れていったのだろう。自分の身を守る手段だが、もう探す気力もない。
「…いや、それよりも前に助けを呼べるところだ!ケガしたままだと本当に後が無くなる!」
流れる冷水に顔を突っ込んで心を落ち着かせる。安全で、なおかつ人の目につきそうな場所つまり、開けていながらもモンスターの侵入を許さない場所を探すべく、橋の下からよじ登って周りを調べる。
「これは…」
草食種が呑気に寝ているエリアの端にある、古い石造りの門。その奥を覗くと、まさに僥倖と言うべきモノがあった。
「うぉ、マジか!マジだよな!?」
恐る恐る近づいてみると、人の気配はないものの真新しそうなテントがあった。それだけでなく外にはアイテムボックスと思われる青い箱、食事をとったと思われる焚火の跡もある。
「間違いない!ここが人が出入りする場所の拠点だ!」
祭我はこのエリアがベースキャンプと確信し、ここから救難のサインを出す事を決めた。恥も外聞も関係ない。全ては生き延びるためにあらゆる手段を模索する。
「…よし!ズボンとパンツだけは死守するか!」
煙を焚き、上着で作った旗を振り、空腹を川の水で凌ぎ、夜はベースキャンプで眠る。この極限生活が三日三晩過ぎた朝。近海に出ていた漁師が異変に気付いてこの地———
スレ民紹介
コテハン名:『祭屋縁太郎』
耀真の家に居候しているプリキュア世界のもう一人の転生者。特典能力として歴代戦隊ロボへの変身が出来る。
アツい性格で、桃井タロウに負けず劣らずの他人との縁を大切にするタイプ。そしてテンションの高さもあってスレでも彼にドン引きする者も少なくないが、それなりに常識は通じるので悪いヤツではない。
ストーリーズ関連のプレイ経験は
-
MHST
-
MHST2
-
オトモンドロップ
-
ライダーズ
-
2作品以上
-
ないです