独身魔王が婚活を仕掛けてきた!   作:はふへェ!

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高評価は良い文明。


第14話 真の敗北とは精神的ダメージを伴う

「ふっふっふっ……どうだ勇者、勝ったぞ!!」

「………」

「見ろ、この見事な花丸を!」

「………」

「これで正式に妻としての第一歩を踏み出せたという訳だな!さあ、思い切って2歩目どころかゴールまで突っ走って『叔母さん結婚しないの?』と煽ってきた姪っ子共にウェディングマウントを……」

「……おい」

「うん?……あっ」

 

興奮した様子で語りかけてくる魔王に、静かに指と視線だけで示す。

うん、分かるだろ?勝って嬉しいのは分からなくもない。でもな、お前ちょっと黙れ本当に。これでこの後苦労するのは俺なんだよ。

 

「あー、こほん!き、騎士団長よ!すまないがお手洗いはどこだったかな!?」

「ご案内しますね!それとアイラで構いませんよ!」

「な、名前呼びはちょっと……その、もう少し段階を踏んでからで……」

「遠慮なさらず!」

「いや、そういうことじゃ……」

 

察してくれたのか、早々に部屋から立ち去る魔王。ナイスだ。

だが、騎士団長に話しかけてしまったため、騎士団長まで引き連れて出て行ってしまった。クソが。

 

くっ、騎士団長が居れば負担が減ったのに……いや、魔王がいた方が負担だったか?……まあ、差し引きゼロか。

 

出て行く二人の背中を見届け、最重要案件に取り掛かろうと振り返る。

あー……やっぱりこれを一人で対応はちょっと……放置、とかはダメだよなあ。

…………………はあ、仕方ない。腹くくるか!

 

「あー、姫様?」

「………なに」

「そのー……喉乾きませんか?お水とか持ってきましょうか?」

「………いらない」

「そ、そうですか……」

 

と、このように負けてからずっとこの調子だ。

体育座りをして遠くを見つめたまま動こうとしない。話しかけても生返事しか返ってこない。

 

そう、最重要案件とは落ち込んだ姫様を元に戻す事だ。

こんな所、他の誰かに見られてしまったらいくら取り繕っても怪しまれてしまう。早急に元の調子を取り戻してもらう必要があるのだ。

 

これでも俺は一応姫様の婚約者。短い付き合いとはいえ、それなりに関わりを持っている。

当然、姫様の扱いもある程度は心得がある。特に、不機嫌な姫様の扱いは一番上手いと自負しているほどだ。

 

だが……

 

 

「まけた……まけたのよねわたし……」

 

 

こういう姫様はどうしたらいいのか誰か教えてください……

 

怒ったり不機嫌な姫様だったらともかく、落ち込んでる姫様なんて初めて見たぞ……対処しようにもなあ……

 

まあ、落ち込んでいる理由は分かる。

あそこまで自信満々に挑んでおいて負けてしまった。

王族のプライドがズタズタにされたとか、負けたショックとかでメンタルがグチャグチャになってるんだろう。

 

これが地元の農村にいる子供だったら「ふはははは!見事な負けっぷりだったな!!よし、飯食いに行くぞ!敗北会だ!!」とでも言っていたが、ロイヤルな身分の姫様にそれはできない。したら切腹が冗談じゃなくなる。

 

うーん、慰めると言ってもなあ……時間に任せて回復をというのは定番だがそれは使えないし……

慰める……飯……やけ食い……ストレス発散……

 

あ、そうだ。

 

「姫様」

「なによ……もうほうって……」

「少しお出かけしませんか?」

 

 

 

■■■

 

 

 

そう、要はスッキリさせればいいんだ。

 

落ち込んでいる時、人によって取る行動は変わる。

やけ食いする人、動物と戯れる人、ひたすらサンドバッグを殴る人……これらの行動には『スッキリする』という一貫した目的があるのだ。

 

「いやあ、今日は天気がいいですね」

「………」

 

うーん、会話が続かない。

姫様が何をすればスッキリするか不明だったから、こうして無理に連れ出したわけだが……まあ、ああして座り込むよりも精神衛生上マシだろう。

 

「あの……そろそろ離してもらうわけには……」

「……やだ」

「周りの目が……」

「……もうちょっと」

 

立つ気力が無いからか、俺の腕を掴んで歩いているため非常に歩きづらい。それに、普段と違いすぎて調子が狂う。

立場的にも現状的にも無理に引き剥がせないな……

 

周囲からは「ロリコン?」「あれ犯罪では?」「兄弟の可能性も……」とヒソヒソとした声が聞こえる。

変装しているから良いものの、普通なら社会的地位が地の底に落ちていた所だった。

 

俺も姫様も有名人で顔が知れ渡ってるが、分からないようにメイクをしたり、服装でイメージを変えたりしているのでこうして街に出ても問題はない。歩き方や重心まで把握しているような変態的なファンにでも見つからない限り大丈夫だ。

ちなみに、あの仮面は緊急用件持ち歩き用だ。嵩張らず変装が楽な反面、完全不審者になるのが欠点だ。あれは町人に通報されるリスクを伴ってしまうので本当にもしもの時しかやらないようにしている。

今回のように、余裕がある時はメイクの方が良いのだ。

 

 

にしてもどうするかな……こうして連れ出したはいいものの、完全にノープランだ。

このまま街を歩くにしてもなあ……散歩なんかで気分転換にはならないだろうし……

 

そんな事を考えていると、いい匂いが漂ってきた。

 

「あれは……」

「屋台、ですね」

 

じゅうじゅうと肉が焼ける音がさらに食欲がそそる。

……そう言えば、昨日の昼から何も食べてなかったな。主に胃痛で食欲がわかなかったせいだが。

 

「オヤジさん、串焼き2つ」

「アイヨ!おや、可愛い子連れてるねお兄さん!デートかい?」

「でっ!?」

「あー、(婚約者だし)まあ間違っては無いかな」

「ピェッ!?」

「おお、そうかいそうかい!若いっていいねえ……ほれ、これオマケだよ!」

「ありがとうございます」

「まいどあり!」

 

あのオヤジさん、いい人だったな。串焼き2つが4つに化けた。

いくら大金を持っててもこういうのは嬉しいものだ。

 

「姫様、お2つどうぞ」

「でっでっ、でででで……!」

「姫様?」

「はわっ、はわわわわ……!」

 

急に壊れたように頬に手を当てて頭を横に振り出した。

なんだか顔が赤いようだし、体調でも崩したかな?

 

「で、デート……!よく考えれば、二人でお出かけってデートじゃない……!ふふ、ふふふ……やったわ、苦節4年、ようやくここまで漕ぎ着けたわ……!」

「あの、大丈夫ですか?気分が優れないなら城に戻るのも……」

「大丈夫!大丈夫よ!!ほら、座って食べましょう!」

「そ、そうですか。ならいいんですが……」

 

ボソボソと独り言を呟いたと思えば、急に元気になった姫様。

王族だし、庶民の食べ物に憧れでもあったとか……?うーん……よく分からないが、元気になったようで良かった。

 

手を引かれてベンチに座る。

朝と昼の間という微妙な時間だからか、大通りにも関わらず人気が少ない。

 

「はい、どうぞ。お口に合うか分かりませんが……」

「……食べさせて」

「はい?」

「食べさせてって言ったの!」

「ええと、食べにくいですよ?」

「ソースがついた串を持ちたくないの!」

「あ、気が回らずすみません。今拭きますね」

「いいから!食べさせなさい!早く!」

 

姫様はそう言い、俺の太ももをバシバシと叩く。

ええ……姫様の考えが本当に分からない。自分で食べた方が良くないか?

……まあ、食べさせるくらいいいか。減るもんじゃないし、人の目も無いし。

 

「では、あーん……」

「あ!?………あ、あー……んっ……んん?」

 

姫様の口に串焼きを突っ込むと、なんだか不思議な表情をしていた。

あー……もしかして嫌いな味だったか?

 

「苦手なら残しても大丈夫ですよ」

「いや、その……んん?これ何の肉なの?」

「あれ、食べたことありません?ボアボア」

「ボアボア……?え、食べられるボアってキングボアだけじゃないの?」

「キングボアは貴族ぐらいしか食べれませんね……」

 

ボアボアは庶民の味方。キングボアの原種に当たる豚っぽい魔物だ。

数が異様に多く、幅広い環境に適応し、初心者でも狩りやすい。そのため、格安で売られている割に美味しいということで庶民に愛されている。

一方、キングボアはボアボアの変異種。一説では、好戦的なボアボアが他の魔物を狩り続けた末の姿だと言われている。そのため、戦闘能力が異様に高く、Sランク冒険者でも不意打ちで大ダメージを負った記録があるほど。火龍などには流石に劣るが、強いと言っても差し支えない魔物だ。

 

そんなキングボアを常食できるなんて余程の貴族でも難しいが……グレゴール王国、金あるんだなあ……

 

「んー……まあ、食べられなくもないわね」

「ソデスカ……」

 

美味しいはずなんだけどなあ……

 

「ん!」

「はい?」

「ん!」

「えっと、食べさせろと……食べるんですか?」

「ん!!」

 

口を開けて待つ姫様の口に串焼きを突っ込む作業に戻る。

食べられなくもない……あれって褒め言葉だったのか……?

うーん、まあ嬉しそうに食べてるし、そういうことなんだろうたぶん。

 

 

「ん!」

 

 

 

■■■

 

 

 

その後も姫様とのお出かけは続いた。

 

「ねえ、見て!何かやってるわ!」

「大道芸ですね。見たことありませんか?」

「初めて見るわ!それにしても、魔力が感じられないけどどうなってるのかしら?」

「さあ……自分もああいうのはサッパリで」

「あ!帽子からハトが出てきたわ!」

「出てきましたね……って多い多い多い!どこに仕込んでたんだ!?」

 

 

「あら、これは……」

「その杖が何か?」

「いや、妙な魔力が……」

「ほっほ、お目が高いのお嬢さん。それは世界樹の杖の先っぽで作った杖の削りカスを肥料にして作られた木を使った杖ですぞ」

「カスじゃねーか」

 

 

「立ち止まってどうかしましたか?」

「ねえ、あの服……アイツが着てたのと同じじゃない?」

「アイツ……?ああ、実は奴の服が汚れてしまい、そのまま城に顔を出させるわけにもいかなかったので急遽買ったんですよ」

「ふぅーん……貴方が選んだの?」

「?店員が選びましたが……」

「ふぅーん…………入るわよ」

「あの、服なら確か御用達の所が……」

「いいから!入るわよ!」

 

 

 

そうして時間は経ち、気づけばもうすっかり夕暮れ。

小高い丘から街並みを見下ろしながら、ふうとため息を吐く。

 

流石に丸一日歩き回ったのは疲れたな……姫様が元気になったようで良かったけど。

 

「さて、そろそろ帰りましょうか」

「……ねえ」

 

振り向くと、姫様が少し暗い顔をしてうつむいていた。

初めて見る顔だ。

 

「決闘、負けちゃったわ」

 

先程までの元気な様子とは違い、憂いのある表情をして服の裾を握り締める。

これも。

 

「そもそも、私が勝手に決闘を受けちゃったからこんな事になって……」

 

はあ、と自嘲気味にため息を吐く。

これも。

 

「本当に、ごめ」

「姫様」

 

頭を下げようとする姫様の肩を掴む。

無礼かもしれないが、それどころじゃない。

 

こんな調子じゃ絶対勝てない。

負の感情でパワーになるのは恨みや怒りのみ。悲しみや後悔はマイナスにばかりに作用する。

決闘を勝つためにも、姫様には前を向いてもらわないと困るんだ……それに、こうもしおらしいと調子も狂うしな。

 

「王族が平民に向かって、そんな簡単に頭なんか下げないでください」

「でも……」

「姫様に頭を下げさせたなんて知られては、国王様からお叱りを受けてしまいます」

「………」

「自分は気にしてませんよ」

「なんで……」

「元はと言えば自分が不覚を取ったせいです。それなのに、こうしてまだチャンスがある。自分は運が良いとつくづく思いますよ」

「……ふふ、なによそれ」

「それに、信じてますから」

「………」

「まだ負けたわけじゃありません。後2回勝てばいいんです。3回勝負なんですから、まだ勝ち目はあります」

 

 

……長々と言葉を尽くしたみたけど、なんだか違う気がする。

俺が、言いたい事は───

 

 

「だから前を向いてください」

 

温かな黄金色の風が吹き抜ける。

言いたいことは全部言った。姫様に託すしかない俺ができるのはここまで。後は姫様次第だ。

 

「……まったくクリフは、あの時もそうだったわね」

「あの時?」

「ふふっ、なんでもないわ」

 

突然クスクスと笑い出す姫様。

あの時、と言っているが思い当たる節はない。俺から姫様に何か特別な事をした覚えもないし……誰かと勘違いしてるのか?

 

「ねえ、勝てると思う?」

 

少し不安そうに、でもどこか気軽げに姫様は問いかけてくる。

それに対して、俺はお決まりのようにこう言った。

 

 

「当たり前じゃないですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと帰れた……って魔王?人の部屋の前で寝そべって何してるんだ?というか、その服どうした?お前も出かけてたのか?」

「……試合に勝って勝負に負けた気分だ……」

「はあ?」

 




一方その頃

魔王「え、あーんしてる!あーんしてる!!」
団長「串焼きください!」

魔王「腕組んでる!ずっと!!」
団長「すごいですね!ハト!」

魔王「くっ、青空露天デートなんて羨ま……」
団長「あ、たい焼きください!」

魔王「そ、そこは私と勇者の思い出の……!」
団長「ええと、そのお店はあの道をギューン!と行ってバーン!と曲がって……」

魔王「ほ、ほぁー!夕暮れバックでハグとか!ほぁー!!」
団長「おおー、綺麗な街並みですね!」


なんてことがあったり。


2023/4/8 一部追記

「会話」と「会話」の間は

  • 詰めて
  • 1行あけて
  • どっちでもいい早よ書け
  • 興味ないね……
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