独身魔王が婚活を仕掛けてきた!   作:はふへェ!

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第21話 胃痛パーティー、その4

 あれ、おかしいな……目にゴミでも入ったかな? それか疲労からくる幻覚か?

 はっはっはっ、やはり修羅のような顔をして凶悪なプレッシャーを放つ魔王が的確に財務大臣の頭蓋骨を粉砕するようにジャブのフォームを確かめながら近づいてきてるわけないだろう!! これは悪い夢だったんだ───!!

 

 

 なんて言えればいいが、残念ながらこれは現実。悪夢より酷い現実だ。

 

 クソッ、一難去ってまた一難……! 魔王め、大人しくしているという機能はないのか!? 不良品扱いで魔王城に返品してやろうか……!!

 

「おい、なんだ貴様その顔は。ワシをバカにしてるのか?」

「いっ、いえ! 少し口内炎が爆発しただけですお気になさらず!!」

「ふん、その程度の痛みで顔を顰めるなど……」

「30個ほど爆発しただけです!」

「それは歯医者へ行った方がいいんじゃないか!?」

「いえ! お気になさらず!!」

「そ、そうか……」

 

 反射で会話するが、そんなことよりも魔王が気になって仕方がない。

 なんだその拳は! 殴る気か!? 殴る気だな!! お前のデコピンでもオーバーキルなのに拳を振り抜いたら一般人なんて跡形も残らんぞ!?

 

「こほん……あー、貴様はそもそも───」

 

 よく見ると、姫様が腰にしがみついていた。最後の理性が働いているのか、怪我させないよう魔王の動きが止まっているのが幸いだ。

 姫様も危ない事をしないでくださいと言いたいが、今はそれどころじゃないし実際助かった……!

 

「勇者の支援金も莫大な───」

 

 今すぐパーティーから離脱したい。魔王の首引っ掴んで一刻も早くこの場から逃げ出したい。しかし、それは悪目立ちしてしまう。それだけは避けたい。

 

「こうも役目を果たせないなら他に予算を───」

 

 ならば、魔王を諌めるしかないのだが……精神構造も思考回路も謎が多い魔王に付き合いの浅い俺が宥めるなんてできるわけもない。そして当然ながら、ここには魔王の扱いに長けた側近連中はいない。つまり怒りを鎮める手段はないという事だ。

 くっ、こんな事になるならババアの首引っ掴んででも連れてこれば……! いや、それはそれで面倒になる気がするな……

 無い物ねだりはできない。この場を円満に、そして無事に収めるには……!

 

「いっそ全員気絶……コラテラルダメージ……」

「聞いてるのか貴様!」

 

 お前の頭が潰れたトマトにならない様に今必死に考えてんだよ! マジで少し黙れ銭ゲバトド!!

 くっ、落ち着け……! 全員腹パンは最終手段だ。どうする、魔王を窓から突き落としてパーティーから強制退場させるか……

 

「まあまあ、財務大臣殿も矛を納めてください。ここは祝いの場ですよ」

「……アリュードか」

 

 必死に頭を回していると、この剣呑な雰囲気に青年が割って入ってきた。

 彼は確か、財務副大臣の男だ。

 

「お久しぶりです勇者殿。またこうしてお会いできて嬉しく思います」

「帰還程度で祝いの席など……」

「財務大臣殿」

「……ふん」

 

 財務副大臣が諌めると、財務大臣は顔を顰めるだけで何も言わずに会場から出ていった。

 ……たすかった、のか?

 

「申し訳ございません。せっかくのパーティーを台無しにしてしまい……」

「いえ、大丈夫です。お気遣い感謝します」

 

 ───シャァ切り抜けたぁ!!! 財務副大臣くんナイスゥ!!!

 

 と心の中でガッツポーズを決めた。

 ありがとう……! 君は人類の救世主だ、本当にありがとう財務副大臣くん……!!

 

 と、いけない。そう言えば魔王は?

 軽く辺りを見渡すが、先ほどのような暴力的な魔力放出も感じないし、暴れてる様子も見えない。

 静かという事は落ち着いたという……いや、静か? そういえば財務大臣は会場から出たよな? まさか追いかけたとか……

 

「すみません。お話ししたいのは山々なのですが、取り急ぎの用がありまして……失礼します」

 

 まずい。もし追ってるなら財務大臣が潰れたトマトになりかねない!!

 くっ、ケチで勇者の経費をガンガン削減しようとしてくる所や貴族特有のウザさがあって「あいつの小指に千本ノックしたいな」とか思った事もあったけど死なれるのはマズイ。あんなのでも一応財務大臣。死なれると仕事が滞る。

 

 待ってろ財務大臣、今助けるぞ───!!

 

「少しお待ちください」

「っ……な、何か御用でしょうか?」

「勇者殿には大変申し訳ないのですが、一つお願いがありまして……」

「お願い、ですか……」

 

 駆け出そうとした瞬間に財務副大臣に止められた。

 なんだか嫌な予感がする……面倒ごとの予感だ。

 しかし、断る事はできない。貴族の「お願い」は平民にとって「命令」だからだ。

 

「はい。……勇者殿は遠征の件を知ってますか?」

「遠征の件……ああ、ご禁制の」

「はい、それです」

 

 コソコソと周りを気にするように囁くような小声で呟く財務副大臣。

 

「それについての調査……闇市を見てきて欲しいのです」

「闇市を?」

「金銭の動きが少し怪しくてですね……ですが摘発するには確証が足りず、騎士団を動かすのは動きが派手すぎて勘付かれます。そこで、個人で自由に動ける勇者殿にお願いしたく……」

 

 なるほど。怪しい所を

 

「分かりました、後日調査します」

「本当に申し訳ございません。魔王討伐でお忙しいのに……」

「いえ、大丈夫です。お気になさらず」

 

 本当に今は割と暇だからな。以前の貴族の依頼と魔王討伐の旅で板挟みされ休みが消滅していた日々に比べれば、この程度の仕事なんて仕事の内に入らないさ……

 

 軽く財務副大臣に別れを告げて、急いで出口を目指す。ギリギリ優雅な歩行速度で人混みをかわす。

 くっ、どうかリザレクション可能な範囲でなんとかなっててくれ……!!

 

「殴るだけでは解決しないのか……そうか、魔族とは違うのだったな……それはそれとして殴り合いが」

「やめて」

「む……では、軽く後頭部にゴミをぶつける程度で」

「やめて」

「じゃあ」

「やめて」

「……むぅ」

 

 会場から出ようとしたその時、すぐ近くに姫様と魔王が居た。

 姫様は疲れ切った様子でぐったりとしていて、魔王は拗ねた様にやけ食いをしていた。

 

「む?勇者じゃないか。急いでいる様だがどうしたんだ?」

「………いや、今解決した……」

 

 うずくまりながら重いため息を吐く。

 結果的には良かったんだが、張ってた緊張の糸が切れて疲れが一気に来た。

 本当に振り回してくれるなコイツは……

 

「おい、急にうずくまってどうした? 大丈夫か? 肉食べるか?」

「いらない。それよりも姫様、これからの段取りなんですが……」

 

 と、姫様に話しかけた瞬間。

 どこからか「ミシッ…」と、何かが軋む様な音が聞こえた。

 

「?どうしたのよ。虫でも居たの?」

「いえ……今何かが軋む様な音が聞こえませんでしたか?」

「聞こえなかったけど?」

 

 聞こえた気がしたんだが……気のせいか?

 

「気のせいならいいです。ええと、パーティーの段取りですね。これから『バキッ』……バキッ?」

 

 今度は間違いなく、明らかに何かが壊れる音が()()()した。

 上を向くと、天井に大きな亀裂が走り今にも崩れ始めようとしていた。

 

「……は?」

 

 思わず引き攣った声が出た。

 い、一体何が……いや、そんなことより!

 

「姫様、失礼します!」

「え? え!?」

「この会場はまもなく崩壊します! 騎士の誘導に従って逃げてください!!」

 

 姫様の了承を待たず、彼女を抱えて走り出す。

 騒ぎが広がりすぎない様、騎士に誘導を任せて俺は会場を後にする。

 会場を出る頃にはシャンデリアやスピーカーなどが爆発し始めていた。

 

「ど、どうして!? ここは魔道具で制御してて下手な災害があっても大丈夫な部屋のはずなのに!?」

 

 くそっ、なんだ。一体誰が何の目的で……まさか、財務大臣か? この事故の寸前で会場を後にしたのは彼だけだ。タイミング的には彼が最も()()()のだが……動機が一切思い当たらない。

 しかし、あんな次々と物が壊れたり爆発したりするのは人為的なものとしか……

 

 魔道具で制御? 

 

「……姫様、あの部屋の物ってほとんど魔道具でできていますか?」

「そ、そうだけど……ちゃ、ちゃんと建築法の安全基準をクリアした上で最高品質の物を使ってるわよ! 急に壊れたりする様な不良品は使ってないわ!」

 

 魔道具の部屋……壊れた物は、恐らく魔道具で開く事ができる天井、魔道具製シャンデリア、魔道具製のスピーカーやカメラなどだ。

 

 魔道具は外から大きな魔力に当てられると壊れる事がある。と言っても、魔法使いの全魔力を注いで手のひらサイズほどの魔道具が壊れるかどうかだ。

 しかし、ここには魔力が人と桁違いの魔王がいる。彼女の本気の魔力放出は、果たして人類の魔法使いの何人分に相当するのだろうか?

 

 まあ、つまり。

 

「な、なあ勇者。もしかして、これって……」

「……後で説教」

「こ、今回は! 今回は不可抗力だ! 減刑を要求する!!」

「原因がはっきりしたからな、覚悟しろ……!」

 

 結局は魔王のせいである。

 

 

 

■■■

 

 

 

 その夜。

 自室のバルコニーで一人。今日の疲れを吐き出す様に酒を飲んでいた。

 

 解析の結果、魔道具の魔力暴走による事故と判断された。事件の線も見ているが、ほぼ事故だろうと言われている。

 つまり、魔王が疑われる線は薄いということだ。

 

 きょうはいろいろあってつかれた……

 

 疲れを飲み込む様に、グラスを一気に傾ける。

 

「はぁ……前線じゃないのになんでこんなに疲れるんだ……」

「お疲れ様。はい、おかわり」

「ああ、どうも」

 

 注がれた酒を機械的に口に運ぶ。

 酩酊感が心地よい。このまま、泥の様に眠ってしまおうか……

 

 そう考えたところで、ふと気づく。

 この酒を注いだのは一体……?

 

「……姫様? こんな時間にどうして……」

「なによ。私が来たら迷惑だって言いたいの?」

「いえ、そんなことは無いですよ」

「……まあ、今日は疲れただろうし労いに来たのよ」

「それは……どうも、ありがとうございます」

「感謝しなさいよね!」

 

 酒を注ぎながら姫様は不遜げだ。

 俺を嫌ってるはずなのにここに来た理由は……恐らく、助けられた事に対するお礼的なものだろう。貴族社会は借りを作ると怖いから即返しが基本だしな。

 

「あなたも大変ね。休みなのに仕事入れられたんでしょ?」

「ええまあ。ですが、まだ暇な方ですよ」

 

 1番忙しい時、それこそ前線と王城をシャトルランしていた頃に比べたらの話だが。

 自分でもよく生きてたなと思う。多分もう一回したら発狂する自信がある。それほどの重労働だった……思い出しただけで気が滅入ってきた……

 

「あ。そう言えば姫様、お怪我はありませんでしたか?」

「怪我? それはないけど………あっ」

「姫様?」

 

 問いかけるも返事はない。

 無言で俯き気味に顔を背ける姫様。時折り首を横に振ったりして挙動不審だ。

 

「あの……大丈夫ですか? もしお疲れならもう休まれた方が……」

「いやっ、無事だったわよっ! 怪我一つないしピンピンしてるわ!! 丁寧に運んでくれたおかげで助かったわ!! 本当に、運ぶの上手ね!! ありがとうねっ!!」

「え、ええ。無事で何よりです」

 

 姫様は再起動したようで早口で捲し立てる。

 うーん……お礼を言うべきだが王族のプライドで詰まってたと言ったところだろうか?

 

 そこで会話は途切れ、お互い無言の時間が続く。姫様は俯き気味で話さないし、俺から提供できる話題も特にない。

 貴族対応モードならまだ何とでも取り繕えるが、絶妙に距離が近い姫様に貴族対応モードをするとキレられるからな。「二度とその態度で私に接するな」と本気でキレられたのもいい思い出だ。

 

 無言の気まずさを誤魔化す様に首の後ろに手を回し、何気なく上を見てみる。

 

「おお……見てください姫様」

「な、なによ」

「月が綺麗ですね」

「……今日は満月だったわね」

 

 空を見上げると、月が出ていた。

 先程まで雲がかかっていて気づかなかったが、綺麗な満月だ。

 疲れた体に満月の光が染みる。不思議といい気分だ。

 

「そうね。こんなにいい景色なのだし、一曲どうかしら?」

「……喜んで」

 

 貴族っていい景色見ると踊るものだっけ? と思いながらも差し出された手を取る。

 自室で練習以外で踊るのは不思議な気分だが……

 酒が入ってるせいか、悪い気分ではなかった。




胃痛パーティー完結!前後編で分けようとしたら4つに分裂しちゃったけど完結!!!
財務大臣は普通に無事です。あの部屋崩れたって聞いてキレてましたが無事です。修理費バカにならないし仕方ないね。

高評価、お気に入り、感想、誤字報告等お待ちしております。完璧な手札だった時ぐらい喜びます。

「会話」と「会話」の間は

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  • どっちでもいい早よ書け
  • 興味ないね……
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