独身魔王が婚活を仕掛けてきた!   作:はふへェ!

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6と9って似てますよね^_^


第23話 闇市デート

 昼過ぎの闇市は大賑わいを見せていた。

 どこを見ても人だかり。祭りかと勘違いしてしまいそうなほどの活気だ。

 

 しかし、闇市は普通の市場と比べて治安が悪い。怒号や喧騒がたびたび耳に入る。巻き込まれると面倒……いや、今回は命に関わるから絶対に巻き込まれないようにしないとな。下手したらシミに早替わりだ。相手が。

 

「さあ、何から見ようか。服か? それともアクセサリーなんてどうだ!」

 

 そんな人をシミにしかねない奴がハイテンションで問いかけて来た。

 仕事だからどうせ全部見て回るが……そうだな。

 

「昼食時だろう。まずは腹ごしらえからしよう」

「む? もうそんな時間か。朝早くに出たはずだが……楽しい時間は過ぎるのが早いな!」

 

 姫様が駄々をこねていた時間と魔王が凹んで横になっていた時間だと思う。

 

「どこか入れる店は……」

「ないぞ、闇市だからな。屋台で買って食べ歩きが基本だ」

「なんと……だが、屋台で買うとなるとどこで買おうか迷うな」

 

 魔王がそう悩んでしまうのも致し方ない。

 闇市には飯系屋台が大量にある。素人が下手な物を仕入れるよりも、飯屋をやった方が妥当なんだろう。

 

 しかし、素人がやっている店は当然、安全基準的にもクオリティ的にも低い。串焼きを頼めば半生だし、揚げ物を頼めば炭が出てくる事もままある。普通は信じられない品質の提供があり得てしまう。

 闇市での飯屋選びは闇市初心者には難しいものだ。初心者が飯を食うなら大人しく表通りの店に行った方が良いだろう。

 

 しかし、俺はこう見えて世界を旅した男。当然、闇市なんて歩き慣れている。その上、過酷な旅のささやかな楽しみである食事に手を抜いた事はない。

 

 俺の五感はすでに研ぎ澄まされていた。店構え、客のリアクション、煙の匂い……ありとあらゆる情報を精査していく。

 

 串焼き屋……店主の腕も品質もまあまあだな。ただ価格がボッタクリ。無しだ。

 揚げ物屋……手際が悪いせいで揚げ方が安定していない。半生だったり揚げ過ぎだったり微妙な出来。無しだ。

 エンペラーマイマイの壺焼きだと? 美味だが有毒部位があるため、調理資格と出店資格が必要なはずだ。当然、闇市なら無許可。つまり違法な訳で……通報リストに入れておこう。

 

 ───そうして、ついに見つけた。

 

 品質、味、価格。どれも水準を満たしている……!

 まさに理想的。多少閑散とした場所で店を開いても大繁盛間違い無しのクオリティ。なぜ闇市で商売しているか不明なレベルのケバブサンド。

 

 職人気質で申請書類が億劫なのか、はたまた裏でしか活動できない理由があるのか……

 

「まあ、俺の知ることではないな」

 

 すでに口の中が迎える準備が整っている。

 いざ行かん───!!

 

「おーい!」

「ん? ……なんだそれは?」

「ああ、昼食だ」

 

 魔王は串焼きや揚げ物、壷焼きなど両手いっぱいに持っていた。考え込んでいるうちに買ってきたようだ。

 よりどりみどりと言った具合だが、そこに目的のケバブサンドはない。

 

 ふっ、審美眼が甘いな魔王。それではこの闇市でカモになるだけだぞ。まあ、闇市グルメの審美眼なんて王族が身につけているスキルじゃないだろうが。

 

「よくそんなに沢山買ったな。食べきれるのか?」

「二人分ならこんなものではないのか?」

「えっ」

「せっかくならと思って買ってきたんだ。時間がないと言っていたから適当に選んでしまったが……これだけあればお前が嫌いな物があっても私が食べられるだろう?」

 

 自慢げに胸を張る魔王。

 善意での行動だという事は分かる。しかし、俺の舌はすでにケバブサンドの舌となっている……だが、ここで断ってまた泣かれたり拗ねられては捜査が延期してしまう……!!

 

「そ、そうか………………ありがとうな……」

「ふっ、良い嫁は気遣いができるものだろう? このくらいは当然だ」

 

 ケバブサンドに後ろ髪を引かれながらもそう答えるしか無かった。

 

 魔王が持ってきた物は正直ハズレばかり。

 だがしかし、魔王の事を差し引いても俺にこれを食べないという選択肢はない。俺は食材を無駄にしない主義だ。

 

 食べきれなくて捨てられるくらいならば……いざ───!

 

 

 

「おお、これはいいな!」

「……まあ、普通だな」

「む。そっちのを一つもらっても良いか?」

「いいぞ」

「私の壷焼きいるか?」

「それはいらない」

 

 味はどうかと心配したが、意外にも問題は無かった。「屋台ならこんなものか」という程度の範疇には収まっていた。個人評価で10点満点中6点と言ったところだ。

 

 ……ケバブサンドは今度立ち寄ろう。

 

 

 

■■■

 

 

 

 一通り闇市を見て回った。

 服屋にアクセサリー店、薬屋。いろんな露店を見て回ったが特に異変はない。いつも通り、違法品が稀に紛れてる闇市。だが、その違法品の中には魔法増強薬は無かった。

 

 魔法増強薬なんて持っているだけで重罪な代物。見えるところに置いてはいないだろう。

 こういう代物は特定の注文をしなければ出さないようにしていたりするのが定石だが……妙な注文の仕方をする客が複数いる店はないし、中毒者特有の症状や匂いなどの痕跡もなかった。

 

 今の所、魔法増強薬は影も形もない。痕跡を消していたとしても、痕跡を消したという違和感が残るはずだがそれも無い。

 ここの闇市は怪しいだけで何も無かったのか……?

 

「なあ、次はあそこを見てみないか?」

「古本屋か。いいぞ、見てみるか」

 

 思考を中断し、古本屋に立ち寄る。入り組んだ路地の間に設置されており人気が少ない。商売気など感じられない店構えだ。

 

「にしても、本なんて興味あったのか?」

「アクセサリーや骨董品は見飽きたからな。変わり種を見たいと思った次第だ」

「なるほどな」

「おお、品揃えも品質も意外と良いな……あ」

 

 魔王の視線が一点を見つめて固まった。

 いったい何を……みつめ……

 

『マル秘オフショット〜勇者のゆけむり物語・極〜』

 

 ………ん?

 目がおかしくなったかな。なんだか俺が温泉に入っている表紙の写真集が見える気がする。そう、ついこの前、魔王から没収したのと同じような表紙の……

 

「嘘だろ……」

 

 目を擦っても頬を叩いても現実は変わらない。ふざけたタイトルと表紙の非公式勇者セミヌード写真集がそこにはあった。

 

 一応裏ルートで出回っていることは把握していたが……こう目の当たりにすると思ったよりダメージが大きいというか、頭が痛いというか……

 摘発するにしても、今は別件の調査中。ここで勇者とバレるのも得策ではない。離れて応援を呼ぶにしても、闇市から屯所までかなり離れているため時間がかかりすぎる。

 ……自分の写真集を自分で買うのは気が進まないが仕方がない、回収しておくか。

 

 と手を伸ばしたが、本に手が届く前に手首を掴まれる。

 

「……一応聞くが、その手はなんだ?」

「……デートなのだから手を繋ぐのは普通じゃないか?」

 

 ニコリといい笑顔で一向に引く気がない魔王。後少しで本に手が届きそうだが、フィジカルゴリラの魔王相手に一歩も進むことができない。

 

「俺は本が見たいんだ。悪いが離してくれないか?」

「照れなくていい。手を握るくらい普通さ!」

「俺はあの本を買わなければぬぉぉ……!?」

「アレは私が購入する。管理も万全にするから安心しろ」

「はあ!? ふざけるなクソゴrいだだだだ!!」

「そうかそうか、そんなに私と手が握れる事が嬉しいか!」

 

 クソッ、コイツ俺の手首を人質に取ってやがる。意地でも写真集を自分のものにする気だ!

 

「ま、待て。話し合おう。俺たちは同じ言語を使って会話できるだろう?」

「すみませーん!」

「お前ぇーー!!」

 

 説得を無視して突き進む魔王。手首を取られている時点で実力行使はもはや絶望的。

 

 魔王がこれを買った暁には、これを脅しの材料にされる未来が見える。「これが欲しいのか? だったら結婚しろ! 嫌、だと? ならばこれをコピーしてばら撒くのみよ。無論、世界中になぁ!!」とかすごく言いそうだ。やはり魔王、なんて卑劣な……!

 

「店主。この写真集をもらおうか!」

「あいよ。500万ゼニーね」

「は?」

「ん? ああ、一応言っておくが適正価格だぜ嬢ちゃん。非公式で生産中止されてるほぼ無傷の状態なんだ。しかも勇者様のセミヌードとか攻めに攻めた内容。こんなの転売屋でもなければ手放すなんてありえねえ。そりゃプレミアもついて値も釣り上がるってもんだ」

 

 魔王は財布から出した金をゆっくりとしまう。どうやら500万ゼニーなどという大金は持っていなかったそうだ。

 そんなことより嫌な情報を聞いたな。闇市で摘発しても根絶やしには程遠い事が分かってしまった。……まあ、根絶やしにはできなくとも、絶対数を減らすことに意味があるはずだ。すでに画像の原本は消失している。コツコツと減らしていこう……地道なことに意味があるはずだ……たぶん……

 それはそれとして帰ったらスザクを一回殴ろう。

 

「沼に全財産が沈んで無ければ……!」

「ふっ、残念だったな。安心しろ、俺が責任を持って購入しよう。すみません、これカードで」

「ウチは現金一括払いのみだよ」

「えっ」

「闇市にカード払いなんてないよ」

「えっ」

 

 

 

■■■

 

 

 

 あの場で現金を用意できなかったため、しぶしぶ撤退した。 

 だが今度来た時は覚悟しておけ。勇者の肩書きを全力で使って検挙してやる……!

 

「はあ……私の写真集が……」

「仮にお前の手に渡ったらありとあらゆる手を使って燃やしてやるからな」

「やれるものならやってみろ!」

「よし分かった。お前の手に渡る前に灰にする」

「そ、それは卑怯だ! 私になんの旨みがないじゃないか!」

「俺を犠牲にせず旨みを摂取してくれ」

 

 今度から見つけ次第買い取りか検挙できるようにしておこう。徹底的にだ。

 

「それにしても、なんの収穫も無しか……」

 

 財務副大臣に任せられた仕事だが、特に普段通りの闇市といった感じだった。

 しかし、魔法増強薬の生産工場などたいそうな施設、場所も人も金も大量に必要。そんなものを調達できるのは闇市くらいだが……まさか、改良して施設の小型化や生産の簡略化に成功したとか? そう考えると、闇市以外にも幾つか候補になる場所はある。しかし、大規模で動くなら闇市を通さずにいられるだろうか……

 ……まあ、これ以上考えるのは捜査部の仕事。闇市の調査としては、普段通りで異常は見られなかったとでも書いておくか。

 

 そんなことを考えながら闇市を出たところ、視界の端に違和感のあるものを捉えた。

 妙に身なりがいいが……貴族の子供か? 怖いもの見たさで闇市に来たのか、事情は分からないが注意くらいはしておくか。注意しなかったせいで後から苦情が来ても面倒だからな。

 

「……クソッ……こんなところに……バレたら………」

 

 表情が見える程度に近づくと、なにやら不審な様子。

 

 独り言はよく聞こえないが、怪しすぎる挙動。表情には焦りと緊張が滲み出ている。普段から闇市を利用していないのがよく分かる。

 そのまま意を決したように、彼は闇市へ足を進めたが……これは、おそらく黒だろう。

 闇市で何かあるのは確実。だが、ここまで痕跡すら分からなかったのに杜撰すぎる。罠か? いや、それにしては釣り針が大きすぎる気もするが……

 応援を呼んでいては取り逃がすか。ここは俺が動くしかない。

 

「おい、闇市に戻るぞ」

「闇市に? 用事はもう終わって……ハッ! そ、それは今から二人で夜の街に消えていってそのまま……ということか!?」

「違う」

「ふへ、へへ……だ、ダメだぞそんなことは! 決闘が終わってからでも遅くはないはずだ! ああ、だが無理矢理手を引かれてしまえば、ここで悪目立ちできない私は抵抗虚しく連れて行かれてしまうだろう!!」

「………」

 

 ダレカ、オレヲ、タスケテ。

 

 はぁぁぁ……と肺の空気全てを吐き出す勢いのため息を吐く。

 もう疲れた……同じようなやりとりが終わらない……今すぐに生贄を見つけて魔王を押し付けたい……早く結婚してくれ、俺以外の奴と……

 ハッ! いけない、思考が負の方面に沈むところだった。今は仕事だ。

 

「夜の散歩の誘いだ。ボランティアで掃除もするかも知れないけどな」

「……ああ、そういうことか」

 

 挙動不審な貴族っぽい子に視線を向ける。魔王も俺の視線を追い、俺のやりたい事を察したようだ。

 

「ふふふ、いいだろう。少し体を動かしたい気分だったんだ」

 

 全然察していなかった。

 

「……潜入や追跡をするだけで、戦闘はしないからな?」

「安心しろ、私は平和主義者だからな」

「平和主義者はそんなキレのあるシャドーしないと思うが?」

 

 とりあえず、あの貴族っぽい子の無事を祈ろう。蘇生魔法は高額料金だから嫌なんだ。

 




勇者の写真集(プレミア絶版本)は強敵でしたね……

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