独身魔王が婚活を仕掛けてきた!   作:はふへェ!

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しれっと投稿すれば気がつかれないはず……!


第24話 隠密とは見つからないことである

 貴族っぽい子供を追いかけると、どんどん大通りから外れていく。

 《潜伏》スキルでバレる心配こそあまりしていないが、開けた場所を通る必要があるなら視認されて《潜伏》が解除されるリスクがある。今はまだ人混みに紛れて視線を切ることができるが、今より人気がなくなると厳しくなるな。

 

 正面戦闘はできるだけ避けたい。

 ご禁制の魔法増強薬の製造及び取引をしている場合、少なくない人手が必要だ。人がいるなら、契約書や手順書など書類が残っているはず。

 それを差し押さえるまでは大人しくしておきたい。特に魔王を大人しくさせておきたい。

 ……やっぱり置いていくべきだったかなあ。

 

「クリフ見ろ、キョロキョロしてあからさまに怪しいぞ!」

「はしゃぐなバレるだろ」

「それにしても配管の前で何を……」

 

 魔王がそう呟いていると、配管だった壁が扉のように開いた。

 

「なっ、アレは……!」

「なるほどな、軽く見回っただけでは気が付かないワケだ」

 

 魔法を用いない物理的ギミックの隠れ家。

 索敵系のスキルや魔法を使用しない限り……いや、使用したとしても複雑な構造の闇市では見落としてしまう可能性が高いか。

 さて、問題はここで引き返すか否か。

 

「アレは浮気やナンパに使われる隠れ家バーでは……!?」

 

 となりで戦慄(わなな)く魔王を無視し、慎重に様子を伺う。

 周囲に監視役はいない……下手に配置すると察知されると考えたのか、はたまた《遠見》や《予知》などのレアスキル持ちがいるのか。

 こういうレアスキル持ちが相手の場合、用意無しで捕まえるのはほぼ不可能……いや、一度引いて体制を立て直す方が悪手だな。

 

「グラサンの黒服が出てきたぞ! これはもう怪しいバーでは!?」

「うん、バーかもな。それと少し黙ってくれるか?」

「あそこでナンパなどの公序良俗に反する行いが……!」

「うん、されてるかもな。それとマジで黙ってくれるか?」

 

 魔王をあしらっていると、黒服と貴族っぽい子供が揉め始めた。

 流石に離れすぎて何を言っているか分からないが、憮然とした態度の黒服に貴族っぽい子供が地団駄を踏んでいる。

 

「何を話しているか把握したいが……」

「ふむふむ……なるほど、ダレヤネンという貴族なのか……この前のパーティでは見なかったな……」

「……もしかして、あの会話が聞こえるのか?」

「? あんな大声で話してるのに聞こえてないのか?」

「普通の人間はスキル持ちじゃないと聞こえないぞ……聞こえているなら丁度いい。そのまま盗み聞きをしてくれ」

 

 呑気にふんふんと頷きながら耳を傾ける魔王。

 この距離で声が聞こえるのは魔王だからか、種族差か。俺の勘では前者だ。基礎スペックと基本攻撃だけで魔族の頂点に立つ様なやつに道理など通じないだろう。

 今思えば、魔王が俺の部屋に突撃する時は毎回着替え中だったり入浴中だったり、測った様なタイミングだったのは偶然じゃなかったんだな……よし、帰ったら戸締り強化しよう。

 

「……なん、だと」

「ん? 壁にもたれかかってどうしt」

「あの子豚、隠れ家バーで待ち合わせデートだと……!?」

「いきなりどうした」

 

 本当にいきなりどうした。

 急に発狂されると困るのは俺なんだが?

 

「くっ……隠れ家バーでお忍びデート……っ! 羨ましいぃ……!!」

「えぇ……」

「何が『愛しのハニーとの待ち合わせ』だ! 私だってお忍びデートしたかった! でもっ、相手が……っ!!」

「ええい、チラチラとこっちを見るな。行くなら一人で行ってろ」

「ああいうリア充と陽キャしか行かない様な空間に一人で行くの怖くないか?」

「魔王が怖いとか言うなよ……」

 

 堂々と情けない事言う魔王。

 なんというか、なんでこんな悲しい独身モンスターが生まれているのだろう。なんとかならなかったんだろうか。側近連中頑張って合コン組んだりしてあげられなかったのだろうか。

 まあ、お膳立てされたところでこの魔王が結婚まで漕ぎ着ける姿は想像できないが……もう少し独身モンスター度がマシになってたりしたかもしれない。たぶん、きっと。

 

「それで、何か聞き取れたか?」

「ああ。どうやら予約無しで突撃したせいで満席だからという理由で追い払われているようだ。それであの豚が『僕のお父様は貴族だぞ!?』とキレて地団駄を踏んでいる」

「なるほど……」

 

 成金で薄暗い噂が絶えないダレヤネン家、貴族を物ともしない態度の黒服、闇市の隠れ家バー……

 おそらく黒。目的の魔法増強薬でなくとも、なんらかの犯罪の温床ではあるだろう。

 黒幕の検討はつかないが、少なくともダレヤネン家ではないだろう。黒幕がダレヤネン家なら黒服程度にあしらわれてなんていない。

 

 これ以上の情報の精査は潜入して証拠を集めてからだな。

 

「さて、どうやって潜入するか……」

 

 客と装って正面から入るのは難しいだろう。闇市で後ろめたい事をしてる場所の門番だ。変装なんて一瞬で看破されるのが関の山。

 そもそも、俺がしているのは雑踏に紛れて印象をぼかすメイク術であって、顔の造形などを変える類の変装術じゃない。真正面から顔を凝視されれば気がつく人は気がつく。

 裏口を探して潜入するにしてもそこは隠されているだろう。裏口探しに時間がかかると、勘づかれて取り逃す可能性も大きい。さて、どうしたものか……

 

 そんな事を考えていると、肩に手を置かれる。

 振り返ると、魔王がドヤ顔をして親指を立てていた。

 

 嫌な予感がする。

 

「ふふん、私に任せろ!」

「任せろと言ってもどうやって」

「まず、私があのクソリア充モドキを誘惑して一緒に入る」

「ふむ」

「次に、潜入した後すぐさま引き返して黒服とクソ貴族を絞め落とす」

「うん?」

「もちろん、人の目が少ないところで全員絞め落とす。目撃者も全員だ」

「………」

「その後、クリフを潜入させて目的を達成する。これが1番早いし楽だろう」

「なるほど、やめておk「では行ってくる!」ちょ、まっ」

 

 止める間もなく魔王は突撃した。

 潜入調査という言葉は魔王の辞書に無いのか……無さそうだな。全部正面突破でどうとでもなる戦闘力だからな……

 

 余計なことをしないかという心配半分、潜入捜査が台無しになった際の責任からの胃痛半分。しかしこうなれば魔王を影から見張ることしかできない。

 

 どうか、平穏無事に何事もなく丸く治ってくれ───!

 

 

 

■■■

 

 

 

 魔王は人類ではなく、魔族である。

 そして、魔王は魔族の感性で動いてしまう。それは人類とは確かに違うもので、時には首を傾げたくなるものまである。

 

「ぐすっ……うぇぇ……なんでぇぇ……!」

 

 つまり、黒服にもダレヤネンにも鼻で笑われ、口で負かされ、目尻に涙を浮かべながら帰ってきた魔王の姿はある意味当然と言えるだろう。

 

「なんでってお前……」

「私の誘惑は完璧だったはずなのにぃ……! そ、それを鼻で笑った挙句『芸人事務所はメインストリートの方ですよ? プフッ……』などと……!」

「あれは誘惑というより海藻のモノマネだろう」

 

 俺はてっきり一発芸をして油断させて「面白いなお前!」的なノリで潜入する方針に変更したのかと思っていた。

 

「くっ、ここまで魅了への耐性があるとは……不覚ッ!」

 

 あれで魅了されたらサキュバスも商売上がったりだろうな。いや、逆に繁盛するのか?

 

「さて、状況は振り出し……いや、ややマイナスになったわけだが」

「……まだだ」

「うん?」

「まだ勝負はついていない!」

「そうだろうか?」

 

 俺が見る限り完全敗北だったと思うが。

 しかし魔王は、涙を拭いながらも力強く立ち上がった。

 

「リベンジだ」

「リベンジ」

「あれは何かの間違いだったんだ! やり直してくる!!」

「待て、それはやめておけ」

 

 今度はしっかりと肩を掴み静止させる。

 何回突撃しても結果が変わらないことが目に見えているからな。

 少しでも警戒心を持たれたくないのに、こんなことをしては不審者丸出し。ここは慎重に行きたいところだ。

 

「くっ、なぜ止める!? 私が魅力的ではないと言いたいのか!」

「いや、そういう事じゃなくてだな……」

「つ、つまり私が魅力的だと……!? これは実質告白では……!?」

 

 無敵か?

 

「ふへへへ……新婚旅行は魔神の森第4層の水晶がきれいな湖のほとりでしっぽりと……」

「うるせえなさっきから! 嬢ちゃん帰ってくれ、こっちも暇じゃ……」

「「………」」

「お、お前はゆうs」

「ステルスサブミッション!!」

「うぐぁ!!!?」

 

 角から出てきた不審者の鳩尾目掛けて正拳突きを放つ。

 すると不思議なことに、黒スーツを着た不審者は少しの呻き声をあげ意識を手放した。

 

 ふう……あやうく潜入捜査がバレるところだった。

 

「今のは危なかったな、クリフ」

「ああ。だが大体お前が原因だと思う」

「きゅ、急に魅力的だなんて言ってくるのが悪いんだ!」

「言ってないが?」

 

 言ってないんだが、こいつの頭の中では言ったことになってるんだろうな……

 

 半ば諦めの感情を振り払い、目の前の仕事にとりかかる。

 角から身を乗り出し、先ほどの場所で固まっている少年に向けてなるべく穏やかな顔で語りかける。

 

「さてと……それで、そこの君。お兄さんと『おはなし』しないか?」




ダレヤネン家はダレヤネン家です。
マジ・ダレヤネンという敏腕子悪党が成り上がってできた1代目の貴族。有能だけど影が薄いのが悩み。顔も喋り方も特徴的なのに印象が薄い。本編には多分出てこない。

高評価、お気に入り、感想、誤字報告等お待ちしております。デッキトップ解決した時くらい喜びます。

「会話」と「会話」の間は

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