独身魔王が婚活を仕掛けてきた! 作:はふへェ!
黒服を華麗なサブミッション(ボディブロー)で意識を飛ばした後、貴族の少年、ダレヤネン家の嫡子と少し話をした。
どうやらこのバーは表向きはただの隠れ家バーらしい。この少年も他の貴族に紹介されたことで通い始めたようだ。
彼女とはこのバーで出会い、そろそろいい感じの関係になってきたとろこで彼女から呼び出しがあった。そしてリスクを承知でこんな時間に闇市へと足を運んだと……
どう考えても新しい金ヅルとして目をつけられていたな。
「それで、勇気を出して足を運んだのに門前払いされていたと」
「そうなんだ! ひどいとは思わないか!?」
「ああ、ひどいな」
主に頭が。
下心で正常な判断ができていない。それ以前にそもそも貴族が無闇に闇市へ足を運ぶなと言うべきか。
子供可愛さで教育を怠ったせいで、子供がやらかして没落した貴族など数えきれないほどいる。特に新興の貴族がやらかす印象が強い。
「彼女から呼び出し……こんな子供まで……私は、この歳までいったいなにを……」
地べたなのも気にせず横たわり失ったものを数える魔王。
過保護な貴族の子供は稀にこうなるケースがままある。40代未婚の姫君などという扱いに困る貴族もいる。
まあ、コイツの場合は魔族特有の感性から孤立しているんだろうがな。
「それより、早く帰った方がいい。闇市に自衛手段なしで入り浸るには危険すぎる」
「だ、だが彼女が中に……」
「いや、どう考えても罠だろう」
「はあ!? 罠なわけないだろう!! リィナとぼくがどんなに愛し合っていたと思うんだ!!」
「あいしあって……アイ……ホシイ……」
もはや愛を求める哀しいモンスターと成り果てた魔王。
俺はもう何も言うまい。関わったら面倒くさい事になりそうだからという理由では決してない。
しかし、ここまでハッキリと言うならばハニートラップではなく健全な付き合いの可能性もあるのか……?
「彼女が欲しいと言ったブランドの靴を買い! 彼女が夢だと言った1本で家が買えるワインをプレゼントし!! 彼女が羨ましいと言っていた創作でしか出てこないような超巨大ダイヤモンドの婚約指輪だって用意しているんだ!!!」
可能性が全力バックステップで消え去っていったぞ。
「さらに彼女は優しく、病気気味の母親の看病をしているそうだ。薬代がバカにならないらしく、働き詰めと言っていた!」
「その薬代は?」
「ぼくが払っているに決まっているだろう? 彼氏なんだから、この程度の甲斐性は見せなければな!」
薬代を出しているなら働き詰めなワケがないし、働き詰めならこんな闇市に来ないはずだがな。
もはや健全な付き合いの可能性が豆粒に見えるくらい後ろにいる。
「さらに記念日には手紙もくれるんだ! 『いつもありがとう、愛してるね♡』なんて書いてくれててな! どうだ、可愛いだろう!!」
その話だけ聞くと確かに可愛いが、穿った目で見ると彼女サイドの出費がないのが目につくな。
そして健全な付き合いの可能性が「探さないでください」というメモを残して消えた。
「これが純愛でなくてなんというんだ!!!!」
詐欺。
「それはもしかすると結婚詐欺というやつでは?」
「なんだ、もう復活したのか」
「これを羨ましいとは流石に……」
なんとも言えない微妙な顔でのそのそと立ち上がる魔王。
恋愛事で魔王にこんなことを言われればおしまいだろう。
本当に金目当てで引っ掛けられている……もしやこのバーを紹介したと言う貴族もグルの詐欺なのでは?
目的だった魔法増強薬とは別件だとは思うが、貴族を狙った恋愛詐欺なんて面倒ごとの芽は早めに摘んでおくべきか。
「ば、ばかな……」
「恋人らしいエピソードはないのか? デートしたとか」
「……そ、そういえばこのバー以外で会ったことがない」
詐欺の可能性がぐーんと上がったな。
健全な付き合いの可能性は跡形もない。やつは死んだ。
そんな感想をよそに
「ぼ、ぼくに言った『愛してる』も『あなただけ』も全部、全部嘘なのか……!!」
「うんうん、辛いのはよく分かる……勘違いだと気がつくことが遅ければ遅いほど傷つくんだ……」
「お前はなんでそっちサイドなんだ」
「深掘りはしないでくれ。でなければ初対面で見せたガチ泣きをする事態になる」
「よしわかった。俺が悪かったからあっちに行ってろ」
「うん……」
何を思い出したのか、どこか遠くを見ながら自重気味に薄く笑みを作る魔王。壁際の植木鉢の間に体育座りをして哀愁を漂わしている。
危なかった、魔王城で見たあのガチ泣きを一人で対処する羽目になりかけた……
というか、なぜ俺が魔王の面倒を見ているんだ? おかしいだろ……おかしいよな? 側近連中でなくても四天王でも誰か一人でいいから寄越してくれれば……
もしもをいくら考えても無いものねだりか……諦めて切り替えよう。
「えっと、少し聞きたいことがあるのだが……その、色々と大丈夫か?」
「……ああ、色々と聞いてくれ。正直に話そう」
「そ、そうか……本当に大丈夫か?」
「ああ……いま謎に頭がスッキリしているんだ……なぜなんだろうな……」
「りかいできる……」
「共鳴するな、頼むから静かにしててくれ」
真っ白に燃え尽きたと表現するのが適正だろうか。少年は熱を入れていた分だけ失恋の反動がきたのか、埴輪のような虚無顔をしている。
ここ、野外なのに空気が重いな……
「あー……ごほん。まずはこのバーを紹介したという貴族なんだが、名前は分かるか?」
「名前は知らない。仮面パーティーで会ったから貴族なのは確定だがそれ以外は痩身の男ということ以外分からない」
「なるほどな……」
仮面パーティー……正体を伏せて活動をするにはうってつけか。
金に困る貴族も少なくない。貴族は見栄をどれだけ張れるかという側面もあるので金遣いが荒い上、金を稼ごうとして事業に失敗してしまうケースもある。
まあ、そういう失敗をした貴族は淘汰されて今があるため、代を重ねた貴族ほどは金に困る事は少ない。
新興の貴族は初代で築いて、2代目で消費して、3代目でとどめを指す。こういうケースが多い。
おそらく今回も金に困った貴族が詐欺行為に走ったと見ていいだろう。
詐欺の対象としては金を持っている貴族はある意味カモだ。それも貴族として碌に教育を受けていない2代目ともなれば、カモがネギを背負って鍋の中に自ら飛び込んできたようなもの。狙われるのも頷ける人選だ。
「その貴族のことで覚えていることはないか?」
「いや特に……ここを紹介してくれた時以外に面識はないし、バーでも会ったことはないな」
「紹介というからには、一見様お断りのバーではないのか? なにか名刺的な物をもらってたりは」
「店の紹介チケットだったな」
「これだ」と取り出したのはなんの変哲もないチケット。ナンバーが書かれているが、店の名簿と渡したチケットのナンバーで照らし合わせができるようにしているのだろう。
「このチケットは貴族の男から貰ったチケットか?」
「いや違う。ここに通い始めて半年ほどで貰った」
「ここに通い始めてどれくらい経つ?」
「それも半年だな。このチケットもこの前もらったばかりだ」
名簿が残っているなら犯人の特定はできるが、半年か……名簿が処理されていてもおかしくない期間だ。
一旦整理しよう。
ここを紹介した貴族は推定黒。闇市にある隠れ家バーを身分を隠して紹介しているのは怪しい以外の何者でもない。
次に彼女も推定黒。聞く限り典型的なハニートラップだろう。貴族の男と共犯説が強い。
しかし、ここで謎なのがこの店だ。最初は店が主導の犯罪だと考えていた。だが、詐欺の類をするのに店を構えるのは意味がない。詐欺の利点は足がつかないこと、情報が回らないうちに取れるだけ取って逃げる。拠点を構えるにしても店は構えない。
いや、なら黒服のリアクションが妙だ。
俺を見た時に目を見開いて動揺していた。あれは何か後ろ暗いことが見つかったような焦りが見えた。犯罪者によくあるリアクションだ。
では店も黒……そうなると詐欺との関連性が……
「いや、今回の件と店は関係ないのか?」
二つの犯罪が同時進行している。
詐欺とは別の犯罪をこの店はやっている。
……そう考えると道理は通るな。
「ん? 何を言っているんだ?」
「声に出ていたか? すまない、少し情報を整理していてな」
「いや、そうじゃなくて。今回の件……うぅ……彼女と店は無関係じゃない」
「なに?」
無関係じゃない? 何か見落としが……
「彼女はここで働いているバーテンダーだ」
「ざけんな」
ただのガチ恋客と店員の関係じゃねーか!!
一般通過魔族「話し合いなんて野蛮な……ここは穏便に暴力で……」
魔王「(色々と騙されたり勘違いした経験あるから)わかる」
まあこれは極端すぎる例ですが、魔族で言葉巧みに騙すタイプは少ないです。基本的に意見が割れると真っ直ぐ行ってぶっ飛ばすタイプが主流。一応話し合いはするが「いつやるってんだ今すぐでもいいぞコラ」「ンだと今から用事あっから明日にしろやコラ」みたいな内容ばっか。
100の言葉より1の暴力なんですねぇ!
高評価、お気に入り、感想、誤字報告等お待ちしております。温泉で貸切状態だった時くらい喜びます。
「会話」と「会話」の間は
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詰めて
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1行あけて
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どっちでもいい早よ書け
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興味ないね……