独身魔王が婚活を仕掛けてきた!   作:はふへェ!

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第26話 たのしいおしごと!

 ダレヤネン家の子供と別れた後、結局店に潜入することにした。

 十中八九で詐欺ではないだろうが、店は何かしらの犯罪をしていると考えている。

 黒服のリアクションと店構えだけで怪しむには情報が少なすぎる。だがしかし、直感が怪しいと告げている。

 少年にここを紹介した貴族は……正直分からん。店の関係者か、詐欺だった可能性か、ただのバーのファンか。

 

 ……まあ、仮に全員白だったとしても闇市で隠れ家バーを経営している時点で調査が入ってもおかしくないから問題ないはずだ。動機としては完璧だな、うん。

 ……最悪姫様を拝み倒そう。

 

 隠し扉から階段を降りる。すると、一本道の狭い地下道に出た。

 

「少年から中の構造は聞いていたが、思ったよりも暗くて狭いな」

「ここで襲われるとまずいな……ま、まさか! だ、ダメだこんなところで……! でも、どうしてもと言うなら……!!」

「先に行くぞ」

 

 狭い地下道……おそらく突入の人数を絞ることと時間稼ぎ、あとは防音対策だろうか? 隠し扉といい、あからさまに怪しいことをしている気配がするな……

 

 魔王も敵地で警戒しているのか、少し目つきが鋭い。先ほどの痴態はなんだったんだと問いただしたいぐらいに真剣だ。

 

 俺と初めて出会った時にこの顔と雰囲気でいてくれればこんな胃痛の未来には……いや、シリアスバージョンの魔王相手なら即プチッとやられて終わってたな。

 婚期に焦ってアホみたいな理由で勇者を婚活相手に見立てていなかったら死んでたのか、俺……

 運命って残酷だな……

 

 気付きたくもなかった運命を知り軽く凹んでいると、豪華な両開きの扉が現れた。

 立て札や看板はないが、ここがバーだろうか?

 

「止まれ」

 

 扉を開けようと手を伸ばすも、壁側から低く掠れた声に足を止める。

 声の方向に目を向けると、そこにはカーテンが締め切られた小さな窓。

 なるほど、少年が言っていた窓口とはこれか。確かに最初は驚くな。

 

「これを」

 

 窓口の手元にある隙間に少年からもらった紹介チケットを置く。

 

「ヒッヒッヒッ……ああ、なんだ。あの坊やの紹介かい。なに、詮索はしないさ。噂好きから消えていくのがこの業界さね……」

「それは賢明だな」

「さてと……おおっと、お二人さん。悪いが少し下がっててくれ。ちっと危ねえからなぁ」

 

 そう言うと扉から駆動音がし、重々しい動きで()()開く。

 

 なるほど、この扉もまたダミーか。

 入り口は壁にカモフラージュしており、中は狭い地下道、そして両開きにカモフラージュした縦開きの重厚な扉……

 

 うん。ここまで来ると厳重過ぎて黒だと自白しているようなものでは?

 

「……行くか」

 

 鬼が出るか蛇が出るか……できれば証拠が出て欲しいところだが。

 

 

 

「ヒッヒッヒッ……夢の時間を楽しんで」

 

 

 

■■■

 

 

 

 奥に進むと、そこはまさに夜の世界。

 自然にはない淡い薄暗さ、シャンデリアが怪しく光を反射する。豪華な装飾がどこか別世界のような不思議な雰囲気を醸し出す。

 

 これは、これは───

 

「なんというか……バーというよりもクラブと言うべきか?」

「思ったより、人が多いな……」

 

 正面のステージでは生演奏をバックにしてダンスを披露しており、そこを中心に人の群れを形成している。

 バーは? と思ったが、脇の階段からドリンクを持った人が降りて来た。見上げると、手すりに何人か寄りかかりながらステージを見ている。

 なるほど、バーカウンターとテラス席は上にあるのか。

 

 ステージを見下ろせるテラス付きの大広間。どう見ても外から見た建物よりも広い。

 空間拡張の魔道具の線もあるが、それをするには金がかかりすぎる。その上、高度な魔道具の管理には専門知識を持った魔法使いが必要。そう考えると、人材的にも金銭的にも非現実的だ。

 

 可能性が高いのは……地下か。いままでの通路に下り階段しか無かった上、道中も少し斜傾があった。1階分ほどの高さは稼げるだろう。つまり、地下1階、地上1階の2階構造になっている。

 そうなると、建物を崩壊させるような大技を放つのは控えるべきだな。瓦礫で通路が塞がる程度ならともかく、下手をすれば生き埋めになる。

 

 …………魔王に攻撃行動をさせたら生き埋め確定かあ……

 

「はぁ……憂鬱だ……」

 

 思わずため息がこぼれる。

 魔王を潜入捜査に同行をさせたのは早計だったかもしれん。

 だが、同行させないと魔王が野放しになってしまう。それだけは避けないといけない。

 

 なんでこう、魔王を制御する方法がないのだろう……火力が過剰すぎる。星を荒野にでもする気か?

 人類の切り札の聖剣ですらガチガチに封印されていたんだぞ? 魔王も魔王城に封印されておくべきでは?

 なんで身振り手振りで環境破壊できるバケモンを野放しにしてるんだ魔族……魔族(のうきん)だからか………

 

 ……うん、魔王のことを深く考えるのは本当に良くない。本当に良くない。

 仕事だ、仕事で脳のリソースを埋めろ。余計なことを考えるからこの世の理不尽に気付けてしまうんだ。

 

 おしごとたのしい! おしごとたのしい!!

 

「さて、2階に行くか。まずは聞き込みだ」

 

 陰鬱とした思考を切り替え、2階へ向かう。

 

 2階はフロアよりも人気が少なく、落ち着いた雰囲気。

 個人的にはこっちの雰囲気の方が好みだ。フロアはなんというか、エネルギッシュすぎて疲れる……

 

 ちょうど空いていたカウンターに座る。すると素早く、それでいて優雅な所作でバーテンダーがやって来た。

 

「いらっしゃいませぇ♡」

「ぅぉ……」

「こちらメニューになります♡」

「あ、はい」

「ち・な・み・にぃ。わたしのオススメはコチラです♡」

「あ、じゃあそれで」

「かしこまりましたぁ♡ 少々お待ちください♡」

「あ、はい」

 

 そう言うと、バーテンダーはドリンクを作りに行った。

 

 ……すごく驚いた。驚きすぎていまだに頭が回っていない気がする。

 なにがってムキムキマッチョでクールなできるバーテンダーから一転、キャピキャピした夢カワ女子のような雰囲気になったからだ。

 

 低音の渋いおじ様ボイスで夢カワ女子的発言はなんと言うか、反則だろう……

 

 というか待て。

 少年が言っていたバーってここだろう? 辺りを見渡しても女性のバーテンダーはいない。ということはまさか……いや、シフトの関係で今日は全員男性店員だけなのだろう。

 確か、リィナだったか? うん、名前も女性名だし偶然今日いないだけだろう。

 うん、少年も彼女って言っていたしな! うん! そうだろう!!

 

「お待たせしましたぁ♡ コチラ当店限定スペシャルドリンクです♡」

「どうも……ぉ!?」

「? ではごゆっくりお楽しみください♡」

 

 身を乗り出してドリンクを置いた時に見えてしまった。

 胸の辺りにある名札……そこに『りぃな♡』と書かれている事に。

 

 少年……いや、マジか少年……

 貴族の長男だろう? どうするんだダレヤネン家……お家問題については何も言えないが、確実に騒動になりかねんだろう……

 性癖についても迷惑をかけない限り自由だと思うが……こういうのがタイプなのか少年……

 

「む……甘いな」

 

 衝撃の連続で動揺が収まらない中、魔王は悠然としてドリンクを口にしている。

 くそっ、動揺しているのが俺だけなのが無性にムカつく。

 落ち着け。そうだ、ドリンクでも飲んで───

 

「───っまずい、これは!」

 

 アルコールと共に香る独特な甘い匂い。

 無味無臭ではないが、スキルを貫通するという特性から暗殺に多用される()()、『死神の落涙』!

 こんな希少な高級品を初手から使ってくるか! どんな規模の組織だ!

 

「警戒しろ、仕掛けられている!」

 

 小声で魔王に囁く。

 他の客もいる中で堂々と襲うような真似は難しいはずだ。だが、狙撃か暗殺か……何かしらの手段で必ず仕掛けてくる。

 すでに毒が使われている。手段がこれだけと考えるのはあまりにも楽観的。『死神の落涙』を使用から、()()()()という強いメッセージが伝わってくる。

 

「悪いが何もするなよ、頼むから。反撃は魔力なしゆるデコピン縛りなら死にはしないと思うが……おい、聞いてるのか……おい!」

 

 一向に返事がない魔王に目を向ける。

 

「……おいおい嘘だろ」

 

 そこには、バーカウンターに力無く顔を埋める魔王の姿があった。

 




やはりムキムキマッチョ夢カワ女子風激渋ボイスイケオジバーテンダーはどの作品にも必須っすよね……

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