独身魔王が婚活を仕掛けてきた!   作:はふへェ!

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第28話 悪の組織は保険適用外

 人には役割がある。

 得手不得手、権力に責任、能力と大義名分。

 様々な要因が絡まり、その人でなければ後々面倒事が多発するという事柄が多数存在する。それは貴族、政治がらみになればなるほど厄介なものだ。

 

 何が言いたいかと言うと、勇者を辞めたいと言う事だ。

 

 勇者はいわゆるワイルドカード。反則とも呼べる鬼札。

 ありとあらゆる人物への強制調査の執行権を持ち、貴族に属していないため貴族の暗黙の了解も無視できる。

 その強みを活かして不穏分子の家に乗り込み……潜入……隠密捜査を何度やらされた事か。

 便利だからと言って農民出身一般人を貴族の家に突撃させるのはもう辞めてほしい。辞めてくれないだろうが。

 人類の希望であるはずの勇者のアンチがやけに多い理由がそれである。白寄りの貴族以外からは本気で嫌われている。呪い無効の聖剣がなかったら呪い殺されてるとすら思うほどに。

 

 貴族に恨まれるとかどれだけ高級取りでも割に合わない。いますぐ辞めたい。

 

 しかし、どれだけ愚痴を言おうが仕事は無くならない。放棄すれば世界が終わったりするため、やらないという選択肢は消滅した。

 

「これも仕事、か……」

 

 意識を切り替える。

 俺の役目は黒幕の確保。勇者という駒を最大限活かすにはこの役目が適当だろう。

 

 月の光があたりを照らす渡り廊下。

 向かいの事務棟から人影が現れる。

 

「こんな夜中にお疲れ様です」

「……あなたが、どうしてここに……闇市からここまで1時間は……」

 

 挨拶をすると、その人は目を見開いて驚く。

 それもそのはず。居ないはずの人間が目の前にいる。そして、それは自分にとって都合が悪い人物。

 

「なに。私はただ帰宅しただけですよ、財務副大臣……アリュード殿」

 

 俺が王城にいる理由は単純だ。最速で飛んで来た(物理)。以上だ。

 今回は吐かなかったが、気分は最悪だ。とりあえず魔王は許さん。なにが勇者大砲だ頭魔王め……!

 

 アリュードの思考が回り始めたのか、すぐに平静を装う。落ち着いた口調で普段通りに話しかけてくる。

 

「いやはや、驚きました。先ほど事故に巻き込まれたと聞いたばかりでしたから……お身体に異常はありませんか?」

「ええ、大丈夫です。軽い擦り傷程度でしたので、回復魔法でこの通りです」

「そうですか……それはよかった。私が闇市での調査など依頼したばかり、こんなことに……」

「いえいえ。ただの事故ですので、お気になさらず」

 

 お互いに思ってもいない事を定石のように口にする。

 実際、軽い擦り傷だったが大体魔王のせいだ。魔王がいなければ崩落なんてしなかったからな。

 だが、同時に魔王のおかげで戦闘を回避できたわけだが……これはプラマイゼロなのだろうか? いや、いつもの過失が多すぎて合計マイナスか。

 

「ところで、こんな時間までお仕事ですか?」

「ええ、私も今帰るところでしたが……このような事態ですからね。少しだけ確認と処理をしておこうかと」

「ああ、そういうことでしたか。それでしたら、何かお手伝いしますよ。私のミスでもありますしね」

「いえ、それには及びません。勇者殿はお疲れでしょうし、お休みください。なに、私も最低限の仕事が終わり次第休みますよ」

「そうでしたか……それでは、お言葉に甘えさせていただきます」

「ええ、お疲れ様です。また明日」

 

 アリュードはそう言うと、どこかホッとしたような顔をして横を通り過ぎた。

 もう少し動揺してボロを出すと思っていたが、流石に手強い。財務副大臣まで登り詰めたのは伊達じゃない。

 

 ……まだ来ない。本来ならば後で使う予定だったが、今が使い時か。

 

「……ああ、アリュード殿。落とし物ですよ」

「っと、すみません。危ないところ………で……」

 

 アリュードは先程の驚愕を上回る、正しく茫然自失といった表情をする。

 

「おや、大丈夫ですか? まるで幽霊でも見たかのような驚きようですが」

「どうして、これが……」

「これですか? 落ちていたので拾いましてね」

 

 本来ない物が存在する。それは驚愕に値する出来事だろう。

 アリュードの身に起きたのはそれである。

 見やすいように視線上に掲げてみせた少しくすんだファイル。それはアリュードにとって余りにも見覚えがありすぎる代物で、二度と見ることの無いと思っていた爆弾でもあった。

 

 微動だにせず固まってどのくらいが経っただろうか。10秒、1分。いやもっとかもしれない。

 静寂と風と月夜だけがある圧迫した空間。

 動きを見せたのは、アリュードだった。

 

「……はあ。確認し次第速やかに捨てておけと言い含めていたのですがね」

 

 深く、深くため息を吐きながら、両手を上げる。

 目を閉じ、顔を軽く伏せる様は、極度の疲労を覗かせていた。

 

「おや、随分と潔い」

「それを持っていると言うことは、全てが遅きに失している。さながらバイトの不始末で店を全焼させられた個人経営のオーナーの気分ですよ」

「よく分からないですけど、保険入ってなかったんですか」

「悪の組織って保険適用外なんですよ」

 

 よく考えたらそうだよな。悪の組織って法律を守らない代わりに、法律とか社会から守ってもらえないんだよな。

 そう思うと、悪の組織の成功者って敏腕だな。犯罪とかせず大人しく社会貢献してれば良いのに……

 

「それに、私は見苦しい真似は嫌いでしてね。処刑台の上で泣き叫び慈悲を乞う悪党など滑稽で哀れすぎて言葉も出ないでしょう?」

「自分の命は誰でも惜しいものですよ」

「ただの正論ですよ。勇者殿なら理解できると思っていたのですが」

「私は人より魔物や魔族が専門でしてね」

「ああ……そういえばそうでしたね」

「おい」

 

 勇者の本分は対魔物、魔族なんだが?

 ……まあ、俺も「勇者なのに貴族案件多くない?」とは常々思ってはいるが。

 こういう案件は騎士団とか検察官の仕事では? 間違っても前線に出る戦闘員に任せる仕事では無いだろう?

 

 ……そういえば、今回も対貴族の案件だったな。

 

「それはそうと、私を捕まえないのですか? 縄で縛っておくだけでもしておくべきでは?」

「犯人側から言うのか……まあ、事情があるんですよ。それに、非戦闘員をこの距離で逃すほど弱くはないのでご安心を」

「なるほど……では、一服しても? 最後のタバコになりそうですから」

「どうぞ」

「失礼……勇者殿もどうですか?」

「いや、結構。匂いで察知する魔物や魔族が多いので、タバコは吸わないようにしてるんですよ」

 

 「そうですか」と淡々と言うと、アリュードは手すりに寄りかかり静かにタバコを吸い始めた。

 ……なんというか、ひどくマイペースだ。本当に悪の組織のトップかと思うほどに。

 以前も影の薄い、ただの優等生といったイメージだった。それが今でも少し冷淡でやさぐれ気味な優等生。育ちが良い所が滲み出てる不良のそれだ。

 今まで見てきた悪の組織のトップは強欲で執着心が強く、なにより生き汚い。どこか必死さがあった。しかし、アリュードにはそれが見当たらない。

 今まで見たことの無いタイプの悪党……一応警戒は続けておくべきか。

 

 そうして、タバコの長さが半分になろうとした時、後ろの扉が勢いよく開いた。

 

「すまない、待たせたか?」

 

 魔王はなんの警戒も無く、悠然と俺に近づく。

 一応黒幕と対面しているのだから、もう少し警戒心というか、空気感というか……魔王に言っても無駄か……

 

「待ちくたびれたぞ全く。どこで油を売っていたんだ」

「そこは『ううん、全然待ってないよ』と言うべきなのでは?」

「待ちくたびれたぞ」

「そ、そんなに私に会いたかったのか……!」

 

 ……会話って難しいな。同じ言語のはずなのに、意思疎通ができる気がしない。

 

「というより、なんでお前だけなんだ?」

「ん? ……あれ!? どうしていないんだ!?」

 

 

「アンタが置いていったからでしょうが!!」

 

 

 スコーン! と魔王の頭にハイヒールの角が直撃する。

 ハイヒールが飛んできた方を見ると、姫様が全身で不機嫌さを表しながら近寄ってくる。

 魔王、あいつ一体なにをしたんだ……

 

「ふぅ……遅くなって悪かったわね」

「姫様」

「でもこのアホのせいなのよ!」

「……俺は姫様を連れてきて欲しいとしか言ってないのですが……」

「本当に大変だったの!!」

 

 姫様の説明曰く。

 

 魔王が姫様の寝室に突貫。

 当然の如く護衛の騎士に止められるも、事情を説明している暇はないとノックアウト。

 叩き起こされた姫様はその後処理として、騎士たちの治療及び記憶操作の魔法を使う。その最中に魔王から事情を聞く。

 寝巻きのまま行くわけにはいかず、着替えて出るも魔王が走るので見失う。案内役がいなくなったため仕方なく魔力探知を使い場所を特定。

 

 そして今に至ると……

 

 なるほど。つまりはだ。

 

「仕事くらいきちんとしろ!」

「だって……身分証明とか事情説明とか時間かかるだろう?」

「だからといって殴り倒すのは違うだろうが……!」

「これが一番早いと思った」

「聞いて驚きなさい。ここに来るまでにかかった時間の9割が治療と記憶操作よ」

 

 魔王に頼んだ俺が悪いのか、これ?

 だが魔王に姫様を呼んでもらわないと、アリュードを取り逃がしていた可能性もあるしな……

 もう少し常識的にというか、何事もパワープレイで解決するのをやめて欲しい……

 

「第三王女……なるほど、待ち人はディアナ姫ですか」

 

 アリュードは少しも驚かず、納得したようにそう呟く。

 

「クリフ。どこまで話してるの?」

「ファイルは見せましたよ」

「じゃあ大体分かってるってことね……少し下がってなさい」

 

 そう言うと、姫様は俺の一歩前に出てアリュードと対面する。

 貴族特有のプライドからか、こういった場面では黒幕と対面して話したがる。

 護衛側の人間から言わせてもらうと、もう少し危機感を持って欲しい。怪我をされると護衛の責任問題になるんだ……

 ギロチンが「呼んだ?」と顔を見せてる……呼んでないから帰って欲しいけど勝手に来る……

 

「アリュード……事情は聞いてるわ。けど、財務副大臣のあなたがなぜ……」

「ふむ……なぜ、と申されましても……強いて言うなら、『趣味』でしょうか?」




よく探偵とかが犯人の前に出るやつ、護衛側ヒヤヒヤ説。
あると思います。

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「会話」と「会話」の間は

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  • 1行あけて
  • どっちでもいい早よ書け
  • 興味ないね……
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