独身魔王が婚活を仕掛けてきた! 作:はふへェ!
爆散した壁からパラパラと瓦礫がこぼれ落ちる。
粉塵を切り裂く様に、魔王が一歩こちらに詰め寄る。
その姿は、先ほどのダメ女の奇行を端ほども感じられない様な絵物語の魔王そのもの。敵対する全てを打ち砕き、絶望を与える者。
コツ、と鳴る靴の音一つで背筋が凍る様な気分だ。
くそっ、こんな事になるならババアなんて放っておいて一目散に出口へ向かうべきだった。
先の魔王との一戦で逃げ回るために準備してきたアイテムは全て使った。しかも、一度隠れる事ができたのは幸運に過ぎない。アイテムがないこの状況じゃ二度目の幸運など望めないだろう。
いや、落ち着け。冷静になれ……!
手はまだある。そうだ、優先順位を誤るな……今後の人生が、今からたった数分の間で決まる。文字通り運命の分かれ道だと言う事だ。
「や、やあ……ご機嫌いか───」
直感的に体が動く。
後ろに思いっきり飛ぶと、頭のあった位置に拳が通り過ぎる。
今日ほど鍛えた体に感謝した事はない。もし動いてなければ、頭が潰れた果実のようになっていたに違いないだろう。
ぶわりと突風の後、粉塵が晴れる。そこには右手を振り抜いた姿勢の魔王と、壁があったはずの大広間が。
わあ、魔王の席がすごく見える。
「どうして……」
声を僅かに震わせながら、少し潤んだ目でこちらを見つめる。
……もしかして、選択肢間違えたか?
「どうして、私と真剣勝負してくれないんだ!!」
「死ぬからだよ!!!!」
思わずツッコんでしまった。
いや、無理に決まってんだろふざけんな。
誰が近づけば垂れ流しの魔力で吹っ飛ばされるし、踏ん張れば魔力に当てられて常時ダメージ受けるし、近づかなきゃ延々と魔法で削られる相手にどうやって正々堂々戦えと言うんだ。
そもそも俺は近接戦特化なんだぞ、お前と正々堂々とか死刑宣言と同じだろうが常識的に考えて。
「いや、待て。落ち着け話をしよう。俺たちは会話ができる生命体だろう?」
一瞬沸騰した頭を振って、自分に言い聞かせる様にそう言う。
戦闘で分からせるのは不可能だ。先ほどの一撃で再認識した。なら、俺がするべきは話し合い。テーブルにさえ付ければ勝機はまだある…はず……!
「……積もる話もあるだろう。私も聞きたいことが山の様にある」
「!じゃあ……」
「だけど」
喜びも束の間、なんだか嫌な予感がする。
主に、解かれてない拳とかに。
「それは、勇者と戦った後でも遅くはないよな?」
そんなこったろうと思ったよ!!!!
■■■
逃げると言うのは案外難しい。
振り切るための走力、ミスをしないための判断力、虚を突くための想像力……
戦闘以外の全てが相手より上回ってなければ簡単に捕まってしまうこともある。
だからこそ、格上の魔王から逃げるというのは困難を極める。
後ろなんか見ている余裕はない。
ただ、後ろから聞こえる破壊音が俺に焦燥感を与えてくる。
「くっそ、丁寧に全部破壊しやがって……!」
《潜伏》さえ使えればある程度誤魔化しが利いていただろうが、それをさせないためか通る道全ての壁を丁寧に壊して来る。
大型魔獣でも通ったかの様な跡に口が引き攣る。
AGIは辛うじて勝ってはいるが隔絶した差なんてものはない。その上、魔王には障害物という概念がないらしく、壁をクッキーの様に砕いて進んで来る。
このまま壁を破壊され続けると、最終的に逃げも隠れも出来ずに死ぬ……!なにか、なにか次の一手を……!
「大変そうじゃの」
「ああ、人生で1番忙しい……ってうおぉ!?バッ、ババア!?」
今までどうして気が付かなかったのか、老婆が俺のマントに蝉の様にしがみついていた。
「ど、どうしてここにいる!」
「どうしても何も、貴殿が急に動くからマントに絡まったんじゃよ……それよりも、後ろ危ないぞい」
「ん……どぉあっ!?」
あぶねぇ!!《魔力探知》で魔法を避けてた事がバレたのか、壁を殴って瓦礫を飛ばして来た。
ジリジリと追い詰められているのが分かる……くそっ、
「にしても、さすが勇者と言うところじゃの」
「なにが、だよっ!」
「『もういいやボコボコにしてから考えよう』モードの魔王様から今の今まで致命傷を受けずに生きている事じゃよ。1時間も逃げるとは……これは四天王ですら成し得なかった偉業じゃぞ」
「なんだっ、そのっ、物騒な形態は!!」
三角飛び、直角カーブ、階段を登ると見せかけて壊して下に!
なんとか翻弄しながら魔王の弾幕を避ける。しかし、このままだと千日手……それも俺の必敗の未来が待つ状況。
どうにかして生き残る術を見つけなければ、マジで終わる!人類が!
悪いが、人類が魔王に勝てる未来が見えない。
いや、手を組んで連携を完璧にすればなんとか勝てるかもしれないが……あのジジイども、足を引っ張りあって自滅する気がするんだよなあ……
「勇者勇者」
「なんだ!」
「ワシの案、今一度考えてみんか?」
「ああ!?」
「魔王様との婚約の件じゃよ」
「それは断る!」
もう黙っててくんないかなあこのババア!!今俺の足に人類がかかってるんだよっ!
「一つ聞きたいんじゃが、どうしてそこまで魔王様との婚姻を嫌がるんじゃ?」
「俺が勇者であいつが魔王だからだ。後はこっちの事情だ!」
いつの間にか第三王女が婚約者になってて、断ろうにも王様からの「この婚約に不満はないな?」とのお言葉に平民の俺に首を縦に振る以外の選択肢なんてなかった。
王様に恩もあるし、無下にできないのもあるが……一番は外堀が完璧に埋められて拒否しようにもできなかった。
誰がなんの目的で仕組んだんだよ一体……
そんなわけで、魔王とか関係なしに婚約破棄が不可能な状態だ。
「魔王様が嫌いだと言うわけではないんじゃな?」
「嫌いもなにも、今日さっき会ったばっかりだろうが。………まあ、あの言動はちょっと…いやだいぶ引いたが……」
仮にも魔族の王だろう……なんでああなったんだ……
「しかしな。今の状況を打破するには、婚約以外の手が無いと思うのじゃが?」
「………いやいや、そんなまさか………」
れ、冷静になれ。落ち着いて考えれば良い。
まず、最悪なのは魔王の手にかかり、無理矢理結婚させられる事だ。人類と魔族の動きは読めないが、おおよそ良い結末にはならないのは確かだろう。
一番良いのは逃げ切る事だ。しかしそれは難しい。隕石や火龍でも魔王城に突っ込んできてくれなければ状況の打開は不可能に近い。
交渉する案はさっきの魔王の発言的にあり得ない。交渉する前に一旦ぶち殺されるのがオチだ。
倒すのは不可能、寝返るのは論外……
婚約?一番無い……とは言い切れないのが辛い。どの選択肢も地獄な事は変わりないが、魔王と婚約するのは地獄の中でもマシな方だろう。
くそっ、どれだ……俺が取るべき選択肢は、いったい……!
「《バインド》」
「うおぼぁ!?」
急に足が動かなくなり、顔を床に打ち付ける。
見ると、足首には蛍光色に発光しているロープが絡まっていた。……って、
「何しやがるババア!」
「ワシ、魔王様の幸せが一番じゃから。あと、逃げ続けられて今以上に城が壊されると修繕が大変じゃし……」
「クソが!!!」
普通に会話してたけど、そういえばこいつ敵だったな畜生!!
急いで足に絡まる魔法のロープを切る。《バインド》は魔法でしか切れないが、例外的に魔剣やその類の刀剣類だと切れる仕組みだ。
聖剣で切る…切る……くっそ、ロングソードだから取り回しが面倒くさい!
「よしっ、これで」
「これで?」
「にげ……」
立ち上がろうとした瞬間、俺の体を影が覆う。
見上げると、そこには空間を歪ませるほどに魔力を漲らせた魔王がいた。
あ、この状況さっきも見たな!(絶望)
魔王様のステータス構成は、
STR、VITとSTM、MPが異常に高く、
AGI、DEX、LUCが死ぬほど低いです。
つまり大体重機みたいな感じです()