独身魔王が婚活を仕掛けてきた! 作:はふへェ!
黒幕であるアリュードを打ち倒した。
薬の流通は完全に停止。魔法増強薬が再度流通するには数年かかるだろう。その期間があれば法整備、監視体制が整う。
つまり、王国で魔法増強薬の完全規制に大きく近づいた。
これにて一件落着。
ようやく俺の心に平穏が訪れ——なかった。
「淫乱オオクワガタ!」
「つるぺた石女がなにを!!」
どったんばったん大騒ぎ。
王族御用達の高級なお皿や花瓶も、今や泥団子以下の扱い。暴言と共に投げつけ合う。
「聖剣が刺さった時点で1分59秒! 私の勝ちよ!!」
「いいや、倒せたのは爆炎が上がった瞬間! つまり2分01秒!! 私の勝ちだ!!」
争いの原因はこの1秒。
賭けの勝者は自分だと、両者一歩も引かずに言い争っている。
「バカじゃないの? 聖剣が刺さる前から勝負はついてたのよ? 私の温情で刺さった瞬間にしてあげた上で私の勝ちなのよ?」
「その目は節穴なのか? 刺さった瞬間にゴーレムから脱出していればまだまだ戦えていた。素人には分からないだろうが、決定打は爆炎だ」
「あ?」
「は?」
「………」
「………」
「「しねっ!!!」」
というような会話を戦いが終わった瞬間から今の今まで繰り広げている。
止めないのかって? 上司と魔王を? 俺が? 死ぬが?
というわけで、高級品が飛び交う部屋の片隅で紅茶を片手に空を見上げている。
おっ、あの雲カブトムシみたいだなあ……
そうして妄想に逃避していると、扉がノックされる。
「おい勇者、国王様がお呼びに……なんだこの惨状は?」
財務大臣がギョッとした顔初めて見たな。
■■■
財務大臣に連れられ、長く荘厳な廊下を歩く。
しかし、その足は鉛のように重い。
国王様直々にお話というシチュエーションも胃痛の種ではあるが、それ以上に呼び出される理由に思い当たる節が多過ぎる。
廊下を全壊させたことの説教だろうか?
魔王関連の面倒ごとだろうか?
婚約関連の通達だろうか?
両手の指で数えられないほどの問題に対し、胃がキリキリと痛む。
何より最悪なのが——
「お話って何かしら? も、もしかして婚約の……!」
「ううむ……私も同席するようにという事は……ま、まさか婚約の……!」
姫様と魔王。
2人も一緒に呼び出されていたのだ。
思い当たる問題の大半がこの2人関連。
つまり、ただの説教や小言では済まない。なにか面倒ごとが降りかかる事が確定している。
「憂鬱だ……」
「着いたぞ……おい、背筋を正さんか!」
「はい……」
「全く……国王様、勇者を連れて参りました」
「入れ」
巨人すら入れそうな巨大な両開きの扉が開かれる。
廊下に負けず劣らずの荘厳さがある、しかしながら決して下品ではない瀟洒な一室。
その中心にある紙束の山の中から、恰幅の良い白髪混じりの男——グレゴール王国国王が現れた。
「よく来たな、座って楽にせよ」
ソファに深く腰掛ける。
なんでもないような所作にも、国王特有の威厳というものが感じられる。
でもこの人なあ……
「お父様、お話ってなに? 私も暇じゃないんだけど」
「おー、よく来たなディアナ! ほら、ケーキあるぞケーキ! メチャタカの!」
「え!? 数量限定で予約もできない幻のメチャタカのケーキ!? もらっていいの!?」
「もちろんだとも!」
ディアナ姫に対して甘々なんだよなあ……
「国王様、勇者にお話があったのでは?」
「ん? ああ……そういえばそうだったな」
コホン、と切り替えるようにわざとらしいため息を吐く。そして真剣な眼差しを向けてくる。
「今回呼んだのはアリュードの処遇についてだ」
「アリュードの……もう判決が?」
「ああ。全て嘘なく自供したからな」
そう言うと、バサリといくつかの紙束を机に置く。
「組織の全体図、販路に商品、顧客リストと帳簿……」
「ず、随分とたくさんありますね」
「手広くやっていたようだからな。関係者全員を捕まえるのは……まあ、追々だろうな」
急に降って湧いた大仕事に眉間を揉む国王様。
治安向上は嬉しいのだろうが、それに伴う仕事の増加で嬉しさと面倒くささが半々なのだろう。
よく見ると心なしか疲れた表情をしている。夜中に叩き起こされて大仕事をさせられる……王様も大変だな……
「それで、あいつの処遇だが……無期限の懲役だ」
「……国家転覆罪にしては軽いですね。死刑は免れないかとばかり」
「薬の流通以外、お前への嫌がらせくらいだったからな」
「なるほど……ん? 嫌がらせ?」
嫌がらせ……嫌がらせか……
「どれだ……?」
「なぜ分からないんだ?」
「何が不幸な事故で、何が嫌がらせか見分けが付かないからだが?」
「自信満々に言う事ではないと思うが……」
ちなみに旅の中で最大の不幸は準備期間すっ飛ばされて魔王に突撃させられた事。
準備できてたらまだ対抗できた……! たぶん……!
「それで、アリュードは何をしたんですか?」
「アイツがやってたのは……暗殺未遂、ハニートラップ、討伐報酬6割横領、装備類の無配布、無理矢理進軍させる……」
次々と挙げられる嫌がらせの数々。
中には嫌がらせというより殺人未遂では? というようなものまである。
なるほど、なるほど……つまりはだ。
「旅の問題の原因だいたいアイツじゃねーか!!」
びっくりだよ! 一つや二つだと思ったらこれだよ!!
アイツがいなければ旅がもっと早く終わってたし楽できてただろ……っ!!
「やっぱり死刑にしません?」
「いや、無理」
「そこをどうか……!」
「無理だって」
「姫様からもお願いします!」
「むぐむぐ……ん? んー……お父様、ダメ?」
「うっ……ぐっ…………だ、ダメだ……!!」
「だってさ」
「もう一声……!」
「えー、食べるのに忙しいんだけど……」
「あー! あー! 私はもう聞かんからな!!」
くっ、耳を両手で塞いで抵抗を……!
愛娘からのおねだりなら聞いてくれると思ったが、この態度。よほど死刑にできない理由があるのか。
「そこの、クs……あー……オジサン」
「……もしかして、ワシのことか? あとクソと聞こえた気がするんだが?」
「気のせいだ。それよりも、聞きたいことがある」
「……なんだ」
「部下があの規模の暗躍していて気が付かなかったのか?」
財務大臣は急に矛先向けられて驚いてはいたが、内容を聞いてそんな事かとため息を吐く。
「そんな事
「……なら、なぜすぐに捕まえなかった? 勇者への嫌がらせのためか?」
「ふん、話が分からん小娘だな」
「なに?」
「捕まえるためにも手順が必要なのだ」
記憶を探るように遠くを見たと思うと、忌々しげに舌打ちをする。
「確信はあったが確証がなかった。そのため、証拠集めに動いていたが……この阿呆め! また勝手な行動をしおって!」
「うげっ……お、俺は巻き込まれただけなんですが……」
「知るか! 毎回のように面倒ごとに巻き込まれとるなら、対策ぐらいせんか!」
財務大臣から毎回のように同じような事を言われている気がする。
そして毎回のように思う。巻き込む方が悪くないか? と。
「全くけしからん! 貴族の仕事を平民が首を突っ込むなど……!」
その差別的にも聞こえる発言に、魔王が少しムッとした表情をする。
まあ……この調子なら、
「貴族には責任があるのだ愚か者め! 特権と共に責任があるのだ!! 特権を持たない平民がなにを大層に責任を背負っている!」
そして魔王はキョトンとすると、俺の肩を叩く。
「なあ勇者、あれって……」
「ああ、財務大臣は勇者が平民なのに納得がいってない、貴族の仕事を平民にさせるなとかいう人だ」
「なるほど……あれがツンデレというやつか」
「まあだいたい合ってる」
財務大臣はツンデレだ。
区別がハッキリしてて、貴族の誇りと責務を全うしようとしているだけの、優秀な善人。
ただ、ツン99デレ1ぐらいの比率のため、関わりが薄いと口が悪い仕事ができる人止まりなんだ……
「それで、国王様」
話もいい区切りがついた所で、ずっと思っていた事を切り出す。
「本題はなんですか?」
アリュードの処遇について?
そんな事、国王自ら、この3人を集めて言うような事ではない。
本題はもっと、国王でさえ頭を悩ませるような厄介ごとが———
「あー! 聞こえん! 絶対に聞かんからな!」
「まだやってたんですか!?」
あの後、姫様の助けにより耳から手を離してくれた。
「あの、本題はなんですか?」
「なんだ、気づいていたのか」
「今更威厳を出されましても……」
「ん? 口ごたえか?」
「イイエナンデモ」
ふっ、貴族の威圧など慣れたものさ。国王様などまだまだお優しい……
ただ勇者辞めたいポイントは加算されました。
「アリュードの処遇だけなら、私だけ呼べば良い……この3人を呼ぶ必要があるのでしょう?」
「うむ……あー、そうだな。話さなければいけない……もっと話の流れでしれっと言いたかった……どこから話すべきか……」
「あの、国王様?」
ぶつぶつと口に手を当てながら遠くを見る国王様。
すると、大きなため息をひとつ。そして、覚悟を決めたかのようなまっすぐな眼差しをこちらに向ける。
そこまでして話しにくい内容……ま、まさか、魔王のことがバレて……!
「話というのは……」
「は、話というのは……」
ゴクリと生唾を飲み込む。
言いにくそうに口元をまごつかせる国王様の姿に緊張が高まる。
「お前の婚約についてだ……」
「「婚約!」」
「ふふん、お父様。正式に決まったのね、私と勇者の婚約が!」
「ま、まさか……! い、いや。決闘は私の勝ちだし……ぜ、ぜぜぜ全然あせあせあせせせ……!!」
鼻息を荒くして昂揚する姫様、顔を青くして焦点が定まらないほど動揺をあらわにする魔王。
この2人の対照的な反応に対し、国王は気まずそうに視線を逸らす。
「い、いや……」
「いや!? え、いやって言ったお父様!?」
「うぅ……その、言いにくいのだが……」
「いやぁー! 聞きたくない! 聞かないからね!!」
先ほどの国王様のように、耳を塞ぎソファに顔を埋める姫様。
「その、な。他国から見合いの話が来ていてな……」
「またですか? いつも通り断って頂ければ……」
「それがそう行かなくてだな……」
……おっと?
「実は、魔王討伐への莫大な支援金。そこにアリュードの薬の流通という身内の犯罪。他にもアリュードが国境を跨いで色々としでかしていたようで……その……」
「……断れなくなったと」
「…………ああ」
なるほど、なるほどなあ……
「やっぱりアイツ死刑にしません?」
「いや、生きていてもらわなくては色々と面倒がな……」
「私も賛成、死刑にしましょう」
「私自ら手を下しても良いが? むしろさせろ」
「ダメだからな! はい言った! もう聞かん! 聞かんからな!!」
「お父様! くっ、この……!」
「ここまで望まれてるなら死刑にするべきだろう!? 聞いてるのか! おい!」
姫様と魔王に揺さぶられながらも、耳を塞ぐ手を退けない強固な姿勢を見せる国王様。
「そんなわけで勇者よ! 国からはこの婚約話は拒否できん!」
国王は叫ぶ。
致し方なかったと。
開き直るように、そう叫ぶ。
「だが、お前が個人的に断るなら話は別だ!!」
抜け道はある。
なんとかして、抜け道は作った。
それが国王の精一杯。
「さあ、勇者よ旅立つのだ!!」
数年前に聞いた言葉を、またしても。
■■■
俺には使命がある。
勇者として、人類を救うため魔王を倒すこと。
しかし、それも一旦お休み。
今は魔王討伐ではなく、魔王の結婚相手探しの旅……のついでに俺の婚約申し込みのお断り行脚をしている。
これも人類を救うため。そして俺の心の平穏を保つために必要な事。
そして、その候補者の1人にキチンとお断りをすべく面会をして——
「よくいらっしゃいましたわ勇者さん! ところで、子供は何人欲しいですの!?」
耳を疑った。
「は?」
「【声にならない声】!!?」
「あら、いたんですの? 帰っていいですわよ」
「はぁああああ!!!?」
「【咆哮に近い絶叫】!!!!!」
キャットファイトと呼ぶには過激すぎる口論を遠巻きに見つめる。
帰っていいなら俺が帰りたい……
「決める権利は勇者さんにありますわ! ほら、男らしくイエスと答えてくださいまし!」
「えっ」
「クリフ!」
「勇者!」
「勇者さん!」
俺は勇者。勇気ある者。
3人の視線を浴びながらも、ゆっくりとした所作で紅茶を一口。
そして一息ついて、こう言った。
「だれかおれをたすけて」
これにて完結です!
応援ありがとうございました!!
「会話」と「会話」の間は
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詰めて
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1行あけて
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どっちでもいい早よ書け
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興味ないね……