独身魔王が婚活を仕掛けてきた!   作:はふへェ!

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第4話 損して得取れ

蛇に睨まれた蛙……いや、ドラゴンに睨まれたゴブリンとでも言えばいいだろうか。

今の状況を言い表すならば、まさにその様な場面だ。

 

魔王が目と鼻の先に立つ。振れば拳が当たる距離。

ついさっきも似たような状況があったが、それとは違い鉛のように重い殺意が逃走を許さない。

 

この状況じゃ逃げるのは不可能、倒すのも論外。ならば……説得する。これしかない。

 

だが、魔王をどう説得する?

魔族に魔王と婚約できるやつがいなかったせいで、人類から結婚相手を探そうとしている。その矛先を向けられたのが魔王を倒しに来た勇者、即ち俺だ。

……改めて考えると、頭おかしいな魔王。何というか、もう少し方法あっただろう。

しかし、愚痴を言う余裕はない。魔王の目的は…結婚……強い相手……勇者じゃなくてもいい?

 

そうだ、()()()()()()()()()()()()

 

「魔王、話をぉぉ!!?」

 

ブォン!ともガオンッ!とも聴こえる、人知を超えたパワーで振り下ろされた拳が床にめり込む。一切話を聞くそぶりのない様子に思わず顔が引き攣る。

くそったれ!『とりあえずボコすモード』だったか!?ええい、こうなれば強行突破だ!

 

「勝手に話すぞっ!お前に、得の、ある、話っ、だっっ!!」

 

しゃがんで跳んで回って受け流して聖剣で壁叩いた反動で位置ずらして反対側の壁に体打ち付けながら後ろに転がってフィニッシュ!

魔王の連打をなんとか躱しきり、死の暴風域から命からがら遠ざかる。

 

はっはっはっ!死んだと思った!!

 

よくスキルを使わずあの攻撃を避け切れたな……しかし、無傷とはいかない。聖剣は壁に刺さってるし、左腕と右手首を痛めたのか思うように動かない。ただ足が無事なのは運がよかった。

 

まあ、こうして無事なら話ができる。

 

「俺より強い人類はいるぞ!!」

 

そう言うと、次の攻撃態勢に入っていた魔王の肩がピクリと動いた。

よし、興味は持った!

でも焦るな……これは言わば魚が針を突いただけ。慎重に、冷静に……

 

「俺より強い人類なんていくらでもいる。俺はお前と婚約できないが、他のやつを紹介する事はできる!」

 

俺の作戦はそう、『俺より強いやつを差し出そう作戦』だ。

外道?いやいや、俺はただの婚活の仲介役を買って出ただけ。そう、俺はただ紹介するだけなんだ。紹介した後、結婚するかどうかは本人が決める。本人の意思を尊重するからそこまで外道じゃない。

 

それに、『勇者と魔王の婚約』より『人類と魔王の婚約』の方が幾分か聞こえは良いからな。

前者だと、余程運が良くなければ争いの火種にしかならない。

勇者の役割は魔王を倒すためにある。その勇者が役割を放棄して討伐対象の魔王と結婚するとか、一周回ってギャグにしか聞こえないだろう。

後者だと、和平のために〜なんて名目をつければ何とでもなる。

 

そう、これは仕方がない事なんだ。俺が勇者じゃなければこんなことには……!

 

「勇者の言いたい事は分かった」

 

よし、よし!好感触だ!このまま行けば……!

 

「だが、そいつらは結婚適齢期の男なのか?」

「それは勿論……もち、ろん………」

 

真っ先に頭に浮かんだのは、騎士団長と魔女と聖女。俺が一度も勝てた事がないほど強い……女……

 

い、いやっ、俺より強い男はいるはずだ。

剣聖……はだいぶ前に寿命で亡くなったな。

賢者……は年老いて入院生活。

仙人……は5年前から行方不明。

 

「いやいやいや、いやいやいやいや……」

 

嫌な汗が背筋を伝う。

え?俺が知ってる強者、半分女で半分老人なんだが?

思い返せば、同年代の男に負けた覚えが……

い、いやっ!まだ見ぬ強者とかいるはず!山で修行している僧侶とか、海で修行している拳法家とか!

 

「魔王様、我々の調べでは10代後半から40代前半の男の人類で最も強いのは勇者という結果が出ていますぞ!」

「クソババアーーーー!!!!」

 

なんつータイミングでなんつー事ほざいてんだテメー!!

 

「ほう、なるほどな……」

「い、いや待て!情報に誤りがある可能性も……」

「なら、誰か紹介できるのか?」

「…………ああ!」

「《看破》……勇者は嘘をついておりますぞい」

 

畜生、誰が連れてきたんだこのババア!!

 

「なるほどな……」

 

指の骨を鳴らしながらゆっくりと近づいてくる魔王。

くっ、万事休すか……逃げる……いや、無駄だ。逃げた所で問題の先延ばしにしかならない。最悪なことに、先延ばしにした所で解決する問題でもない。ならば、ここでなんとかするしかない。

 

「魔王、俺を倒すと後悔するぞっ!!」

「そういうのは倒した後……いや、結婚式の後に聞こうか!」

 

魔王を前に息を呑む。しかし、臆してはならない。ここが最後のチャンス。

 

考えろ、魔王が止まる一言はなんだ。

 

「結婚しよう」……違う、そんなセリフで止まるわけがない。俺にデスペナルティを課せば(ぶち殺したら)容易にできる。

「幸せにする」……無駄だ、魔王は俺を倒してから幸せを掴む予定だからだ。

 

人類側の許容範囲……魔王の条件……俺を倒すデメリット……()()()()()

そうだ、突くならそこだ。損を自覚させてやればいい。

 

今にも上げた拳を振り下ろさんとする魔王を前に、早急に頭の中で説得の言葉(言い訳)を構築する。

 

 

「耳かっぽじってよく聞けよ魔王……!」

 

 

魔王の拳が迫る。

 

当たれば頭が弾け飛ぶのは間違いない。

 

それでも避けない。

 

この言葉が魔王の動きを止めなければ、どの道意味がないからだ。

 

今死ぬか、後で死ぬか、生き延びるか。この3択だ。

 

それに、これは俺の人生ごと狂わせる呪文。

 

これは使いたくなかった……本当に使いたくなかったが、どうせ落ちるなら良い地獄だ!

 

さあ、この呪文で止まってくれよ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺を倒せば、幸せな結婚生活は実現しないぞ!!」

 

 

渾身の呪文(言い訳)と共に、爆発音が魔王城に響き渡った。

 




勇者に迫る(物理)をしていますが、魔王様は意外と強い勇者君にワクワクドキドキムラムラしてます。
逃げれば逃げるほど好感度が上がるし、攻撃を避けるほど好感度上がるし、倒そうと向かってきても好感度上がる……つまり詰みです。
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