独身魔王が婚活を仕掛けてきた! 作:はふへェ!
ガラガラと音を立てて壁や天井が崩れる。高そうな調度品はどこかに吹き飛び、耐久度の低い木の扉などはへし折れている。
入った泥棒が風の上級魔法でも使ったかの様な惨状の中、俺は何事もなく立っていた。
「止まってくれると信じてたぞ……」
目の前数センチ先でピタリと止まった拳。後ろには拳圧だけで吹き飛ばされた
魔王の右ストレート。その一振りが引き起こした惨劇である。
これ当てられてたら肉片も残らず蘇生なんてできなかったんじゃないか?俺、VITそんなに高くないぞ。
もしもの事を思うと乾いた笑いしか出てこない。こいつ本当に蘇生する気あったのか……?
「………いうことだ」
「ん?」
「私のイチャラブ新婚生活が叶わないとはどう言うことだ!!」
「うぉお!?」
「どうしたらいい、どうしたら私は幸せになれるんだーーー!!!」
「魔王様、魔王様!勇者の首が締まってます!手を離してくだされ!」
「あっ」
「ぐへぇ」
魔王が掴んでいた襟を離され、どちゃりと力なく地面に横たわる。
超大型ゴーレムの端っこにしがみついてる時に回転技をかけられた時と同じ気分だ……視界がチカチカする……吐き気もだ……
「す、すまない……」
「いや、いい……それよりも、説明するから聞け」
落ち着いて話をするために椅子……なんて贅沢なものはどこかに吹き飛んでいるため、ちょうど良さげな瓦礫に腰を下ろす。
「簡単に説明するが、まず結論から言うと、俺を倒せば幸せな結婚生活は送れない」
「……そうなのか?」
「そうなんだよ」
理解が追いついていないのか、未だに疑問符を浮かべている魔王。
「まず、俺を倒した場合どうなると思う?」
「そうだな……蘇生して弱くなってる隙に封印術を応用した部屋でラブラブな性活…いや、生活を……」
「ざけんな」
なんつー恐ろしい事考えてんだこいつ。
「ふむ……短期的に見ると人類側は躍起になって攻め込んで来るかと」
「そうなのか?」
「勇者が倒され、囚われた。となると取り返すという大義名分のため予算が降り、軍隊を動かすことができる……それこそ、人類総戦力を動員する可能性すらありますの」
「それは最悪のケースだが、俺の国は軍を出すと思うぞ」
ケチな財務省だが、この事態で金を惜しむほどアホじゃない。
いや、でもどうだろう。勇者の旅の初期装備、使い古しの鉄の剣一本だったしな……さ、流石に大丈夫だろ、うん。脳みそはマトモなはずだ。たぶん。きっと……
「それの何が問題なんだ?四天王は養生中だが、私が出れば問題ないだろう?」
「えぇ……」
冗談……ではないんだろうな。真顔だし。
確かに、魔王とぶつかってまともに戦える人類は一握りだろう。だが……
「確かに、魔王様が出れば万の大軍も羽虫の如く散らせましょう。人類という種族は魔族と比べステータスが貧弱な傾向にあるため、何度侵攻されても容易に跳ね返せましょう」
「ふふん、そうだろう!」
「ですが、人類の脅威は数なのです」
人類は魔族よりも弱い。魔族の一般市民でも、人類の中級冒険者パーティくらいなら蹴散らせる程度には性能の差がある。
しかし、数は人類の方が何十倍も多い。弱い人類が今まで生き延びてこれたのは、極小数の強者と圧倒的な数のおかげと言っても過言ではないだろう。
「多少多くとも、私なら……」
「ああ、いえ。魔王様が苦戦するなどの心配はしておりませぬ。ただ人類が数に物を言わせた長期戦をしますと、魔王様が前線に出ずっぱりになりますの。少なくとも数年は」
「そんなに!?」
「そんなにです」
「数年……ねん……」
そして、魔王は何かに気付いたのか深刻な顔でワナワナと震え出す。
「前線に年単位で居座る事になると、業務に追われて新婚生活どころじゃなくなるな」
「わ、私の幸せイチャラブ甘々新婚ライフは……」
「まあ、無理だろう」
「ぐぅぅ……!」
魔王が苦悶の表情で膝をつく。
そういえば、今日初めてダメージらしいダメージを負ったな……
「俺を倒すのは悪手だとは分かってくれたか?」
「ああ……痛いほどにな……」
「まあ、俺も鬼畜じゃない。解決策ぐらい一緒に考えてやるよ」
「えっ……い、いいのか?」
「勿論だ。このことは後日また腰を据えて話そう」
「あっ、ああ!よろしく頼む!」
「それじゃあ、またな」
清々しい気分で出口に向かい歩き出す。
しかし、流石に疲れたな……帰ったらひとまず寝ようかな。
「待てい!」
「ぐおぉ!?」
マントを思いっきり引っ張られ足を止める。
くそっ、いい感じに丸め込めたと思ったが、作戦を勘付かれたか……!
「貴殿、うやむやにして逃げるつもりじゃったろ」
「はっはっはっ、いやいやそんなまさか」
「勇者よ、魔王様の条件に合うのは今のところ貴殿だけじゃ。ならば……後は分かるな?」
「分からないし分かりたくないので帰らせてもらう」
「くっ、強情な……!」
「強情なのはどっちだ……!」
進もうとするが、マントを掴まれていて思う様に進めない。
見ると、両腕や足に強化魔法をかけているようだ。こっちは魔法使えないのに卑怯だと思う。
「だが俺を倒せず捕まえられない以上、黙って帰らすしか道がないぞ……!」
「急がなくとも、問題を解決してから帰れば良かろう……!魔王様と婚約すればすぐに帰れるぞ?」
「戯言を抜かすな!」
説得を試みるも、どうも帰してくれそうにない。
お互いに引けないせいか、こう着状態が続く。
いっそマントを引きちぎって……畜生マントにも強化魔法が!無駄に小器用な事しやがって!!
「くっ……そもそもの話、俺には婚約者がいる。魔王との婚約は無理だぞ」
「婚約者、ということはまだ結婚してないんじゃな?」
「あ?ああ、そうだ」
「婚約者から婚約破棄されれば、勇者はフリーということじゃな?」
「そうなるな。だが婚約破棄の予定はないぞ?」
何の意図か分からないが、当たり前のことを聞いてくる。
すると、老婆のマントを掴む手に力が入る。目はギラリと怪しく光り、口元は三日月型に歪んでいる。それはもう、何度も見た「
すごくいやなよかんがする。
「ならば、婚約破棄させれば良いのです。───魔王様、自らの手で」
ババアは魔法支援のスペシャリストです。魔王の隣に立ってバフデバフ回復強化解除回避無敵付与とかしてきて「こいつから倒さなきゃ無理ゲー」みたいな感じのキャラです。
まあ、魔王単体でも無理ゲーなんですけどね!