独身魔王が婚活を仕掛けてきた! 作:はふへェ!
「なに言ってんだお前……」
ババアの意味不明な提案に思わず本音が溢れる。
魔王に婚約破棄させに行く?つまり俺がいる国に来ると?本気で言ってんのかこのババア。
そんな事をすれば、下手するとどこかの国が地図から消えたり、生態系が破壊されたりするだろうが。
まあなんにせよ、絶対に被害が出る。人類サイドに確実に、致命的な被害が出る。少なくとも俺の胃に穴は開く。
「まあ聞け、これはかなり理に適ったものなのじゃ」
「ほう」
「まず、魔王様の伴侶候補は勇者ただ1人じゃ」
なるほど、変わった意見だな。
絶対に認めない、認めたら負けだ。世界は広いんだからいるはずなんだ、
「しかし、当の勇者には既に婚約者がいる……貴殿の判断で婚約破棄ができたら良いが、それも難しいと来た」
「まあ、恩だの借りだの身分だのといった問題で無理だな」
「そこで、第三者……つまり魔王様に婚約破棄のため動いてもらう必要があるんじゃ。もちろん、人類側にバレぬよう身分などは隠してもらうがの」
一理はある。
確かに、俺は婚約破棄のために動く事はできない。恐らく姫様も動けないだろう。
貴族や有力者に知れ渡っているわけでは無いが、要所要所の重要人物が知ってしまっている。自分から撤回するにはリスクが大きすぎる。下手に動けば変な噂を流されたり、いつの間にか牢屋の中の可能性もあるからな。
……本当になんで人類側に苦しめられているんだろうか……
まあ、そこで第三者である魔王が動くというのはごく自然な流れだろう。
だが、そうなると
「一応聞くが、魔王は魔族の王として来るのか?それとも、一個人として来るのか?」
「個人として、プライベートで行く事になるの」
「だったら魔王が動く必要があるのか?」
「と言うと?」
「俺と姫様の婚約破棄が目的だろう?そうすると、政治的な話し合いで解決する事もできるし、そっちの方が妥当だろう」
ここまで話が入り組むと、当事者だけの話にはできない。どうしても政治的な話し合いが必要になってくる。
魔王が人類側に乗り込むリスクを加味すると、公的に記録が残る話し合いの方がいい気もする。
しかし、老婆は首を横に振る。
「それは悪手じゃろう。今回の話はあくまで隠密に、そして迅速にで行う必要がある。政治的な解決だと動きが遅すぎるからの」
「遅いと何か問題が?」
「魔王様と勇者が婚約できれば、それは実質的に和平の成立となるじゃろう。しかし、魔族と人類が和平されては困る者というのは一定数いるものじゃ。それが感情か、打算かは知らぬがの」
そう言われると、和平に反対しそうな人が何人か思い浮かぶ。
理由は様々だが、結構な人数が反対するだろうな。
当事者からすれば今すぐ和平して俺に平穏と安寧と休暇をもたらして欲しいが。
「政治的な解決には時間がかかる。そうすると、和平を面白く思わない奴らからの妨害工作が激しくなる。それでもしも被害を出してしまえば、二度と和平が成立しなくなる可能性も高いのう」
一般的には「魔族許せねえ!滅ぼそうぜ!」という意見が割とメジャーだ。情報操作……というより、魔族が人類側に攻め続けているせいだ。
500年前から休戦期間を空けつつ喧嘩を売り続けている。魔王を倒してもすぐに次代の魔王が現れるし、人類側は「もういいよ…なんだよコイツら……」とうんざりしている人が多い。
そんな中、和平交渉中に問題なんて起きようものなら後に引けない戦いが幕を上げることになる。
「和平が結べぬ状況になると、魔王様と勇者の婚約ができなくなってしまうからの。そうせぬ為に、婚約破棄は迅速に行わなければならないんじゃよ。納得してくれたかの?」
「そういう事なら、まあ……」
理屈は通っている。通ってしまっている。
「魔王との婚約のため」というなんとも言えない目的のためだが、結果的に和平へと繋がっている。
その事自体は悪い事では無い。むしろいい事だし、俺も賛成する。
しかし、しかしだ。
魔王が人類の国に来る事は阻止しなくてはならない……絶対に何か問題起こすだろうからな!
「だとしても、魔王が来る意味があるのか?魔王じゃなくとも、側近や四天王の誰かでも良くないか?」
「いや、魔王様が行かないと意味がないんじゃが……」
「どういう事だ?」
「どうもこうも、
なんて?
「決闘?」
「うむ」
「誰が?」
「魔王様と勇者の婚約者が」
なるほど、聞き間違いでも思い違いでも無かったようだ。
なるほどなるほど、魔王と姫様が決闘………
「なに言ってんだお前」
勝ち目ゼロだよ!どう考えても負ける未来しか見えねえよ!!
というかそもそも、和平交渉しに行くんだろうが。魔王と姫様の決闘なんてしてみろ、和平交渉なんて開始した瞬間に決裂するぞ。
「……ああ、そうか。人類にはこの文化は無かったの」
俺の反応にずっと怪訝な表情をしていた老婆が、納得したように手を叩く。
「魔族の習わしで揉め事は決闘で解決するんじゃよ」
「……正気か?」
多分姫様パーンッてなるぞ。デコピン一発でそうなると思うぞ。
「なに、心配する事はない。魔族の決闘とは殴り合いではなく、単なる勝負。知恵比べや料理勝負など何でも良い」
「ああ、なるほど……てっきり殴り合いかと」
「もちろん、そっちがメジャーじゃがな」
知ってた。
しかし、「最も強いやつが魔王!」などと割とふざけた種族だから、勝負は戦闘しか認めないものと思っていたが……
「人類より比較的にステータスが優れている魔族じゃが、中には当然戦闘が不得意な者もおる訳じゃ。そこで、決闘の公平性を保つため『3本勝負で挑まれた方に内容の決定権があり、次戦は負けた方に決定権がある』という暗黙の了解があるの」
「一応ルールらしいルールはあるんだな」
「まあ、一本勝負だったり挑まれた方が内容を全て決めたりと、細々した部分は個人間で決めるがの」
「念のために聞いておくが、決闘で決まった事を反故したりは……」
「ああ、心配せんでも決闘で決まった事をとやかく言う者はおらんよ。少なくともワシは聞いたことがないの……まあ、魔族はそういう習性とでも思っておいてくれ」
不安は未だに拭えないが、それでもだいぶマシだ。少なくとも姫様がパーンッとなる事態は避けられるだろう。
いや、超絶箱入り娘の姫様を魔王と会わせるのも不安だが……
まあ、そこは魔王の側近達が止めれてくれるはず───
「ああ、そうじゃ。魔族側からは誰も人員を出せぬから、魔王様の世話を頼んだぞ」
……………はい?
「魔王様の世話の注意点なんじゃが……」
「ちょ、ちょっと待て!」
「?どうかしたかの」
「つまり、なんだ?魔王は1人で人類の国に来ると?」
「そうじゃが?」
待って待って、なにも理解できてない。
え、来ないの?なんで?魔王1人なの?王なのに???
俺がおかしいのか?魔王って王様だろ?魔族の中で一番偉いんだろ?なのに1人???
考えれば考えるほど理解できない……
魔王が1人で来る理由も、魔王を勇者に託す理由も、俺が世話をすることになっている理由も……
「……俺が納得できる説明はあるんだな?」
「納得できるかは知らんが、説明はできるぞい」
話をまとめると、
・側近組は政務があり、四天王は養生中で連れて行ける人材がそもそもいない。
・人類との関係性や、魔王様の取り扱いが分かってない者を下手に付けられない。
・今回は隠密行動が必要なため、下手に公言すれば妨害される可能性があるから人材の選出が難しい。
と言ったところだ。
なるほど、理解はできる。そうする必要があるのも、そうなる理由も。
このままだと事態は悪くなる一方の状況で、今回のこの話は渡りに船だ。婚約は決闘を何とかして勝てばいいし、決闘の可否に関わらず和平に繋がる可能性も高い。上手くいけばだが最高の選択肢ではある。
それでも、魔王を俺が面倒を見るなんて思ってはいなかった。
それは覚悟していないぞ……
「お前は魔王が1人で敵陣に乗り込むとか心配じゃないのかよ……」
「魔王様を止められる生命体がいるとでも?」
「………」
意趣返しで言ってみたが、黙る事しかできない。
魔王なら全てのSランク冒険者に囲まれたとしても生き延びてそうなんだよな……
それに、魔王は
「それに、アレを見て止められると?」
「アレ……?」
老婆が指を刺す方を見ると、そこには巨大に蠢くナニカがあった。
よく見ると、それは巨大な荷物を背負った魔王だった。
「え、は?」
「ハァハァ……じ、準備終わったぞ!さあ行こう、今すぐ行こう!」
「ちょっ、おまっ」
魔王は気が昂っているようで、顔をほのかに赤くして鼻息を荒くしていた。
そしてこちらに向かって止まらずに突き進んで来たと思うと、急に手を取られる。なんだと思った次の瞬間、フワリと足が地面から離れた。
混乱しているなんとか現状を理解しようとする。
とりあえず、魔王の肩にタオルのように担がれているという事は分かった。
そして、なんで担ぐ必要があったかなんてバカでも分かる。
こいつ、このまま行く気だ……!
「ふふ、これは実質的に婚前旅行……!仲を深めれば、向こうからなんてことも……!ふふふ、媚薬も勝負下着も防音魔道具も必要な物は全て持ってきた。もしもの時なんていつ来ても問題ない!これで勝つ、私は人生のウイニングロードを駆け抜けるんだ……!」
「なに言ってんだてめー!?というか降ろせ!」
よく見ると、背嚢からは服や本が大量にはみ出していた。
ああ、こいつ話に参加してないと思ったら荷造りしてたのかよ!
「では、行ってくる!朗報に期待していてくれ!」
「お気をつけて。何かあればすぐに駆けつけますので」
「ま、待て魔王!せめて下るぉぁっ───」
俺の次の言葉は無かった。
景色が加速する。
疲れた体に朝日が沁みる。
俺は今日、風になった。
勝った!!プロローグ完!!!
ということで、プロローグ終わりです。長かったですね。2万文字のプロローグですよ。長ぇ!
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