独身魔王が婚活を仕掛けてきた!   作:はふへェ!

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第7話 準備とは後悔しないためにある

問題。

徹夜で命がけの鬼ごっこをした後、胃袋と三半規管を揺さぶられ続けると人はどうなるでしょう?

 

答え。

 

 

 

「おろろろろろろろろろろろ……」

 

 

 

俺は今、草陰に四つん這いになりながら、とんでもない無力感と尊厳の喪失を感じている……

 

 

魔王の超高速立体機動は徹夜で疲労困憊の身体では耐えきれなかった。

具体的には、崖や川などを飛び越えたり、狭い間を潜り抜ける時の縦横無尽な動き。担いでいる肩がちょうど腹の柔らかい部分を圧迫し続けていた事。そして最後に急ブレーキが止めとなった。

 

魔王、もうちょっと運び方を……というか、移動方法がなんで徒歩なんだよ。いや、走った方が速い事は分かるんだがな?もうちょっとな、人道的扱いというか……うん、馬車使おうか!

 

とりあえずは、もう二度とあの運び方は頼まない。二度とだ。今からだと王都まで少し遠いが、歩いたほうがマシだ……

 

そして、その諸悪の根源はと言うと。

 

 

「うぇっ、げほっ…ぐすっ……どうして……」

 

 

ギャン泣きしている。

それはもう、己の美貌を投げ捨てるほどのガチ泣きだ。

まあ、魔王城でみせた泣き方に比べれば優しいものだ。嗚咽しているものの、ネガティブになって己の世界に入ってないだけマシだろう。

 

それはそうと、お前が原因でこんな目に遭ってるのに介護の一つくらい……いや、やっぱりいい。絶対変なことやらかすだろうからな。

 

それに、今の魔王にそんな余裕はないだろうしな。

 

「けほっ……はー……魔王、もういいだろう。いや、同情はするがな……」

「ゆ、勇者ぁ……」

「仕方なかった。というか、ここまで耐えたことが凄かったんだ」

「でっ、でもぉ……」

「だからまあ、なんだ…………いい加減に沼から出ろよ」

「うぅ……」

 

泥水を被った半泣きの美女……もとい、魔王が両手いっぱいに荷物(ゴミ)を持ちながら沼から這い出る。

 

 

なぜこうなったか。順番に説明すると……

 

魔王城から飛び出た魔王は、何をトチ狂ったかここまで走って移動していた。

背中に荷物を背負い、肩に俺を担ぎながら。

 

そして進む道も問題だった。

魔王はなにを思ったか、王都まで文字通り直線で突き進んでいた。つまり、正規の道から外れ、森や川など自然あふれる場所を通ったのだ。

 

正規の道でない、整備されていない自然のルート。それを魔王は()()()に突き進んだ。

崖を一飛びで登り切り、森を木々の上をトランポリンのように跳ねて通り、湖を沈む前に足を出すことで水上を走り抜ける。

 

このような無茶苦茶をすればどうなる?そう、ものすごい揺れるのだ。

それはもう、俺の胃はシェイクされ、荷物はバルンバルンと揺れていた。

 

よく耐えた、本当によく耐えていたのだ。

しかし、何事にも限界がある。

 

 

目の前の沼を飛び越えようとしたその時、ブチリと嫌な音を立てて荷物の取っ手が千切れた。

そのまま重力に従い落ちる荷物。

色々と無理矢理詰め込んでいたせいか、走ってきた振動のせいか、空中で散乱する中身。

荷物に気を取られて急ブレーキをする魔王。

荷物が次々と沼に沈む。

胃と三半規管に大ダメージを負い限界を悟る俺。

呆然と立ち尽くす魔王。

草陰に飛び込む俺。

沼に飛び込む魔王。

 

 

───そうして、今に至る。

 

 

「いやまさか、背嚢(リュック)が千切れるとは思わないよな……」

「ほ、本はともかく魔道具は……あっ、ダメ……」

 

こちらの話を聞く余裕がないのか、カコカコと魔道具を弄る魔王の背中に哀愁を感じる。

 

魔道具は基本的に高級品だ。それこそ、物によっては国庫と同価値レベルの魔道具もある。

そして、そんな魔道具が()()沼に沈んだ。

他にも宝石が散りばめられたドレス、水晶で作られた小瓶に入っていたポーションらしき物、豪華な装飾が施された本。どれを取っても安物には見えないそれが、全て沼に飲み込まれた。

 

回収できた物もほぼゴミ同然になったと言えば……まあ、この落ち込みようは妥当だろう。

 

なんて言葉をかけようか……と悩んでいると、スッと魔王が立ち上がる。

 

「もう行こう」

「い、いいのか?まだ荷物は……」

「いいんだ……もういいんだよ勇者……さあ、行こう」

「あ、ああ」

 

魔王は少し充血した目をこちらに向ける。まるで全てを悟ったかのような顔で微笑むその姿に、考えていた言葉が抜け落ちる。

 

「……着替え、あるか?」

「ないな……全部沼の底だろう」

「あー……て、適当な街に行って買おう。うん、それがいい」

「……すまないが、今無一文なんだ。必ず返すから少し貸して欲しい」

「……奢ってやるから、服ぐらいいくらでも」

 

さ、流石にかける言葉が見つからない……

「ありがとう」と薄く微笑む魔王。彼女の水面のような静謐さに涙を禁じ得ない。

 

魔王城を自分で半壊させてもピンピンしていたのに、荷物がなくなってこうなるという事は、つまり城1個分以上の値段は沼に……

 

沼の方を振り返る。

あれ、やっぱり回収した方がいいんじゃないか……?だが、沼に沈んだ物を回収するのは難しいしな……そうだ。

 

「こう言うのって魔法とかで何とかならないのか?ほら、物を動かす魔法とかあっただろう?」

「……私は攻撃魔法一辺倒でな、そんな小器用な魔法は習得していないんだ……ははっ、できないの間違いか……」

「そ、そうか……」

「「………」」

 

並びながら無言で歩く。

足音や鳥の鳴き声がいつもよりよく聞こえる。しかし、清々しさとは真逆に重苦しい空気が流れている。

 

よし、荷物の話はダメだ。話題を変えよう!

 

「あー、その……魔王はこっちに来てからの計画って考えているのか?」

「計画?」

「ああ。婚約破棄をすると言っていたが、具体的にはどうするんだ?決闘が云々とかの話は側近の老婆から聞いてはいるが、その他は何も知らないんでな」

「ぐたいてき」

「そもそも、街にはどう入るんだ?魔族とバレたら婚約破棄をするどころか、門番に追い返されるのがオチだろう」

「……ええっとぉー……」

「それに、姫様に会わせるのはともかく、お前のことをどう説明するんだ?ある程度今回のシナリオはできているとは思うが、少し共有してくれなければ困る。下手に問題になって和平も何も無くなることが一番最悪だからな」

「……そ、それはぁー……」

 

魔王は明後日の方向を向き、手をモジモジと遊ばせる。口をモニョモニョとさせ、いかにも挙動不審な様子だ。

それはまるで、イタズラがバレて怒られそうになっている悪ガキのような態度で……

 

………まさか。

 

「おい、魔王」

「な、なんだ?」

「お前何も考えずに飛び出てただろ」

「ははは、そんなまさか」

「目を見て言え」

「い、いや。ちょっと寝違えたようでな。首が回りそうにない」

「そうか、じゃあ俺が見てやろう……どうした?今度は反対の首を寝違えたか?」

「い、いやぁ……」

 

ぐるぐると魔王の周りを回るが、目が一向に合わない。

 

「ええおい。お前、魔族が人類の生存圏に来ること自体滅茶苦茶問題なのに、その上なにも考えずに飛び出してきた魔王とかいるはずがないよな?王都とかいう国の心臓に行くっていうのに、対策や行動を考えてない魔王がいるはずないよな?おいどうなんだ答えろよ!下手すりゃこっちの首が物理的に飛ぶんだよっ!!」

「へ、変身の魔道具はあるから見た目だけは人類になれるぞ!も、問題はそう起きないはずだ!」

「バカ!すごくバカ!婚約破棄の話をするなら、少なくとも王様と姫様には話通さなきゃならないんだよ!!その時点で追い返されたら和平どころか、俺が追放されるなり打首になるわ!!」

「ああ、もう!現場で高度で柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応するっ!!これでいいだろ!」

「いいわけあるか、ただの行き当たりばったりだろバカ!もうちょっと考えてものを言え!!」

「さっきからバカバカと、私は魔族最難関の学園を首席で卒業しているんだぞ!」

「勉強できるだけのバカなんていくらでもいるんだよバカ!現にお前なんも考えてねーじゃねーか!!」

「うぐぅ……」

 

このバカ本当にどうしてくれようか……

 

そんな事を思いながら、どうにかして誤魔化す方法を考えるのだった。




尊厳破壊お米様抱っこの威力は凄まじいですね。勇者をノックアウトできますからね!

ちなみに豆知識的設定なんですが、【AGI】は「制御できる速度」です。
しかし、魔王の高速立体機動は【STR】の値を参照とした「意識的な暴発による加速」です。制御?できませんよ。例えるなら「爆発の爆風で空中移動する」くらいアホなことです。
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