独身魔王が婚活を仕掛けてきた! 作:はふへェ!
と言うわけで、創作意欲の高まりを感じる季節ですね。
魔族の領土と接している王国、グレゴールの第三王女、ディアナ・フォン・グレイズロッド。
貴族特有の鮮やかな金の髪と青い目を持つ、小柄の可憐な少女。
齢にして14。王立魔法学園に所属しており、優秀な成績を収める才女である。
そして何よりも、知る人ぞ知る事実だが、人類の希望とされている勇者の婚約者でもある。
さて、そんな彼女は今───
「じゃあ死刑ね」
究極に苛立っていた。
「姫様、これには事情が……!」
「ふん、なによ!婚約者の私を放っておいて、他の女にうつつを抜かすなんて良い度胸ね!」
「いや違うんです。本当に違うんです……!」
「言い訳なんて聞きたくないわ!王族であるこの私をコケにしたことを後悔しながら腹を切りなさい!」
「腹をですか!?」
あの後、広間から王城の一室に通されると、床に正座させられてた。
なんとか誤解を解こうと試みるも、この様に取り付く島もない。
姫様は何事にも動じず、冷静で頭の切れる才女……なんて噂も聞くが、どうも信じられない。
無茶苦茶ワガママを言うし、思うようにならないとキレるし、猫よりも気分屋。それが俺の知る姫様だ。
もし俺だけにそんな態度だとすると、やはり嫌われているんだろう。
だが、一体誰が姫様が嫌っている俺なんかを婚約者に仕立て上げたんだろうか。嫌がらせにしては手が込み過ぎているしな……学園で大貴族に何か恨みでも買ったのだろうか……?
「痴漢にナンパ……現行犯はこれだけだけど、他にも余罪はありそうね。勇者の名誉のため、表沙汰にはしないから安心しなさい」
「誤解なんです……」
「じゃあ、どうしてあの女は赤面でプルプル震えてるの?」
「さあ……」
「『さあ』じゃないでしょ、『さあ』じゃ!羞恥で死にそうな顔って言うのよあれは!」
ちらりと後ろにいる魔王に目を向ける。広間からずっと上の空だ。
時折「これは既成事実……?責任問題……?」なんてとぼけたことを抜かしていて、今の今まで正気を取り戻していない。
くっ、魔王に誤解を解いてもらう事が一番手っ取り早い解決方法だったのだが……
仕方ない、無い物ねだりはできない。
こうなったら、事情を全て話す……こいつが魔王とバラすか?いや、この混沌とした状況で話せる事じゃないな……それに、一応説得のためのシナリオは練っている。それを放棄するのは危険だ。
ここはひとまず、姫様の怒りを鎮めよう。
「姫様」
「なによ、言い訳は聞かないわよ」
完全にヘソを曲げてしまった様で、口をへの字にする姫様。
「すみませんでした」
「……なんで謝ってるのよ」
「姫様の気持ちを考えず、迂闊な行動をしてしまった事にです」
姫様の機嫌を直すには、こうして謝る他ない。
こうして怒っている理由はおそらく、王族にも関わらず舐められたと思い、プライドを傷付けられたからだろう。
多くの貴族を見て分かったが、貴族はプライドが高い。
無礼や無知に関してはそこまで怒らないが、少しでも舐められれば烈火の如くキレる。それはもう、平民に寄り添う穏健派と知られる貴族でも滅茶苦茶キレる。
そんなキレている人に対して正論は無意味。説得はできない。
だからこうして頭を下げる他ない。
「……貴方に頭を下げられても嬉しくないわよ」
「姫様……」
しかしやはりと言うべきか、謝って済みそうにない。
一度貴族のプライドを傷つけると、なかなか許してもらえず面倒くさい事になる。年単位で謝罪巡りなんて話もよく聞くほどだ。
こうして頭を下げる、というのも全くの無駄ではないにしろ、焼け石に水なのは確かだろう。
だが、俺には秘策がある。
「……やはり、姫様はお優しいですね」
「なぁっ……!」
「色々とお忙しいはずなのに、この国に帰ってきていの一番に駆けつけてくれました」
「お、王族の務めよ!勇者を蔑ろにできないでしょ!」
「魔王討伐の失敗を責めずに、こうして誰もいない部屋に通してくれました」
「さ、最初から期待していないだけよ!次こそは倒してもらわないと困るわねっ!」
「姫様のそう言うところ、自分は好ましく感じていますよ」
「っ〜〜!!」
顔を赤くして腕をブンブンと振る姫様。
少し前に知ったのだが、姫様は褒められる事に慣れてないらしい。こうして褒め殺しにすれば、大体の状況は切り抜けられる。
「ふ、ふん!そんなこと言ったって許してあげないんだからっ!!」
しかし、今回は簡単にはいかない様だ。
先ほどよりも軟化したが、相変わらず怒っている。
さて……万策尽きた。どうしよう。
「………約束も忘れたアンタなんか……」
「約束……?」
ボソリと呟いた姫様の言葉に首を傾げる。
約束、約束……
姫様と何か約束したか?
「もしかして、『姫様』と呼んでいる事がご不満でしたか?」
「……ふん!」
「あの、それは2人きりの時だけとのお約束では……」
「……約束は『小うるさい貴族や、事情を知らない者の耳に入らない所では名前呼びにする』……そのはずよね?」
「あー……」
言われて思い出す。
姫様は何かと名前を呼ばせたがる。しかし、勇者と言えど平民。身分の差は大きい。
そのため、2人きりの時だけ……と約束したのだが、姫様と2人きりになる機会なんて無かったので完全に忘れていた。
「この度は誠に申し訳ありませんでした、ディアナ様」
「……呼び捨て」
「はい?」
「『様』なんてつけないで。前にも言ったでしょ」
初めて言われましたけど。
「いや、いくらなんでも身分の差が……」
「私が良いと言っているの!それとも何?私のお願いが聞けないのっ!」
……この事が勇者を目の敵にしている貴族の耳にでも入ったら面倒になるな……
しかし、今は姫様が第一……逆らうのは得策じゃないし、そもそも逆らえない。
「……ディアナ」
「……ん」
「この度は申し訳ありませんでした。許してもらえませんか?」
「……次はないから」
「はは、気を付けます」
ぽす、と頭の上に手を置かれる。
年下に頭を撫でられている様で少し恥ずかしい……まあ、処刑されるよりもマシだし、誰の目もないしいいk「ああああああああ!!!!!!」……いたな、人。
「脳がっ!脳が破壊される……!」
あまりの声量に思わず振り向くと、そこにはなんとも名状し難い、凄絶な表情で頭を抱える魔王がいた。
「えっと、何かの病気?記憶喪失とは聞いてるけど……」
「さあ……頭の病気じゃないですかね」
「医師団呼んだほうがいいのかしら……」
「必要ないと思いますよ」
頭を抱えて呻く
そうだよな、この反応が普通だよな……
俺はもう、ファーストコンタクトが「子供は何人欲しい?」とかいうトチ狂ったものだったし、常に妄言は吐くし常識ないから慣れてしまったよ……
「おい貴様ァ!」
「きさま!?ちょっと、私王族よ!?」
「私の前でイチャイチャと……!これで勝ったと思うなよ!!」
「何に!?」
「おいおい、流石に落ち着けって……」
「穏便に話し合いから始めようと思ったが、もういい!」
魔王はソファの上に立つと、上から姫様に指を差してこう言った。
「貴様に決闘を申し込む!!」
はい、今回は脳破壊回です。
魔王からしてみれば、自分が妄想でやってたシーンを現実で目の前で他の女にやられてるわけですからね。そりゃ壊れますよ。ジェネリックNTR…BSSですねたぶん知らんけど。
ちな、勇者くんが姫様からの好意を気付いてないのは、ツンデレ語録と乙女心を全く理解してないアホだからです。あと姫様がツンデレチキンなのと、身分が天と地ほど離れているせいです。