ゴルゴ13-鉄火激るロアナプラ-   作:範馬勇太郎

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PART11『南米の風』

 我々が望む死はただ一つ

 しかるべき者と、しかるべき戦いの中で

 自分がかつて何者だったかを想い出して

 死ぬことなんだよ

 

 

 呪われているのだろうか。

 このホテルは。ついでに俺も。

 

 そのような諦観じみた想いに囚われているのは、ロアナプラ随一の高級ホテル“サンカン・パレス”のホテルマンだ。

 深夜(レイト)チェックインや早朝(アーリー)チェックアウトの客に対応するべくこうして夜間のフロント業務に勤しんでいるのだが、そもそもこのシフトは彼が望んだものであり、決して昼夜逆転の勤務を嘆いての情念ではない。

 

 彼はついこの間、やたらと客室の枕を吟味する銀髪の妙にスカした男と、脳髄が下半身についているのかと疑わしくなるほどの変な女を客室へ案内した際、突然大陸系のマフィアが来襲し、そのマフィアがこの街の悪党共と派手な殺し合いを始め、そして悪党の一人(ゴス女)()()()()()凄惨な現場を目の当たりにするという大変不幸な出来事があったばかりであり、そのような次第で夜勤シフト……極力人と出会わなくて済む時間帯の勤務を熱望するようになっていた。

 

 いかに高級ホテル勤務だからとて、ロアナプラというこの世のありとあらゆる業を煮詰めて熟成させた上で丁寧にラッピングしたかのような悪都で働く以上、何かしらのトラブルに巻き込まれる事は覚悟していたが、”臓器が持ち去られていたバラバラ死体“という地獄絵図を見てしまうと、このような逃避めいた仕事ぶりになるのも致し方ないのかもしれない。

 もっとも、常人ならばとっくに退職してロアナプラから居を移すはずなので、そういった意味ではやはりこの街の住民は色々な意味で逞しい生き物だった。

 

 とはいえ、世の道理に照らし合わせて考えると、むしろ深夜の方が犯罪に巻き込まれやすいのだが。

 テンパっていたとはいえ、なぜ軽率に夜勤を希望したのかと、彼は過去の己を激しく糾弾することとなる。

 

「あ、あの、お客様のプライバシーがあるので宿泊者名簿は──直ぐにお渡しします!」

 

 払暁にはまだ少しだけ早い深夜。またしてもマフィアがサンカン・パレスへ襲来せしめる。

 それも件の中国マフィアではなく、南米の悪風を纏わせたマニサレラ・カルテルの郎党が現れて「宿泊者名簿を寄越せ」と凄む始末。

 彼は一瞬だけ職業倫理に従った行動を見せるも、直後に数多の銃口を突きつけられたとあっては、それが霧散してしまうのも仕方がないだろう。

 

「野郎、どの部屋に泊まってやがる……!」

 

 マニサレラ・カルテルのホセは差し出された名簿を乱暴にひったくると、文字通り血眼になって目当ての名前を探し始めた。

 

「トニー・トウゴウ……いや、多分こいつじゃねえな」

「ホセ、間違えるんじゃねえぞ」

「分かってるよ」

 

 東洋系の名前は各階にちらほらと見かけたが、ほどなくして最上階の角部屋──スイートルームに宿泊する客の名を見留めた。

 

「デューク・トウゴウ、こいつだ。本国から通達された名前と同じだ」

「よし、行くぞ」

 

 ホテルへ来襲したマニサレラ・カルテルの総数は15名。

 カルテルの規模を考えれば些か少ない手勢に見えるが、彼らは事務所詰めの要員──普段は電話番だが、いざとなればカルテルの為に命を投げ打つ鉄砲玉揃いであるので、むしろこの場合では最適解な戦力であった。

 各々がサブマシンガン、ライフル、散弾銃を携え、必要以上に殺気立った様子を見せる。

 ゴルゴ13を知らなかった者であっても、自身のボスを含めた黄金夜会が最大限に警戒する相手となれば、恐れを知らぬ特攻隊員でもその精神に少なからず影響は受けるのだろうか。

 

「おめえら、気ぃ抜くんじゃねえぞ……!」

 

 張り詰めたものを纏わせながら、彼らは5名ずつに分かれ、三つのエレベーターに分乗し最上階、サンカン・パレスの13階はスイートルームを目指す。

 深夜である為、エレベーターはノンストップで上がっていった。

 

 ひとつだけ除いて。

 

「あ?」

 

 チン、という音と共に、カルテル郎党が乗るエレベーターのひとつが停止を告げる。

 インジケーターは7階を示しており、彼らはやや怪訝な表情を浮かべた。

 極度の緊張を強いられた者は、多少のイレギュラーが発生しても目的そのものを前にするまでは、それは些細な出来事として脳が深く認識しないもの。

 

 故に、彼らはもう少し考えるべきだった。

 なぜ深夜に、エレベーターを使う客がいるのか。

 なぜその客が、下階ではなく上階へ向かうエレベーターを止めたのかを。

 

 もっとも、それらを事前に察知し、何かしらの対処をしたところで、彼らに待ち受ける運命にさして変化はないのかもしれない。

 エレベーターの扉が開く。

 

「……」

 

 彼らの目に飛び込んだのは、拳銃を構えるゴルゴ13の姿。

 

「ッ!?」

「ゴ、ゴル──ッ」

 

 そして、その発砲音が、彼らが最期に聞いた音だった。

 

「……」

 

 スミス&ウェッソン社が開発した小型リボルバー拳銃“M36チーフ・スペシャル”の排莢をしつつ、ゴルゴ13は無表情で骸を晒すカルテル郎党を見下ろしていた。

 抜き撃ちまでに0.17秒、連射速度は0.04秒に1発というゴルゴ13の超人的な早撃ち。その上で、精密機械の如き正確無比な射撃。

 暴力を生業にしている麻薬カルテルのメンバーとはいえ、超絶戦闘技巧を前にしては所詮銃を持った一般人でしかない。

 銃を構える間もなく、5人全員が眉間に穴を空け死亡した。

 

「こんな夜中に一体何が……?」

「じゅ、銃声よ!」

「なんで!? このホテルは安全じゃなかったのかよ!?」

「クソ、また間違われたのか!?」

 

 とはいえ、銃音はしっかりと響いており。

 何事かと顔を出した宿泊客達は、血と硝煙の匂いを敏感に感じ取ると、我先にと避難を開始した。

 ちなみにロアナプラでは突発的な鉄火場の発生に“何故”という詮索は無意味である。柳葉刀と飛刀を操る玲瓏な人狩り師曰く、そのような余計な事を考えている暇があったら鞘を払い撃鉄を起こすのが長生きの秘訣とのこと。

 無論、この場合の宿泊客達は非武装である為、避難以外の選択肢は無かったのだが。

 

「……」

 

 逃げ惑う宿泊客の中に、一夜を共にしていたジョアンナの姿を見留めたゴルゴ13は、そのまま死臭が漂うエレベーターの中に入ると、13階のボタンを押した。

 

 

 

 

 マニサレラ・カルテルの郎党がサンカン・パレスへ乗り込んで来る少し前。

 最上階スイートルーム。夜の薄明かりに包まれたダブルベッドでは、裸身の男女の姿があり。

 

「……」

「ん……なぁに?」

 

 しっとりと濡れた張りのある肉体(カラダ)を、ゴルゴ13へ絡ませながら眠っていたジョアンナ。

 おもむろに半身を起こした男へ寝ぼけ眼を向けた。

 

「起きろ」

「えっ」

 

 そして、返ってきた鋭い言葉。

 有無を言わせないその言葉で、ジョアンナの揺蕩う脳髄は一瞬で覚醒せしめる。

 

「あ、あの、あたし……」

 

 何か粗相でもしたのだろうか。

 ゴルゴ13が黙々と服を着ている様子を不安で潤んだ瞳で見つめる。

 しかし、彼が窓の外を一瞥しながらS&WM36の装弾を確認し始めた事により、ジョアンナもまた慌てて服を着始めた。

 

「だ、誰かに追われているの?」

「……部屋を変える」

 

 地上からかすかに聞こえるスペイン語が混じった怒声。

 静謐な星付きホテルには似つかわしくない喧騒を受けても、ゴルゴ13は常の機械の如き表情でそう言った。

 

「部屋って……」

 

 戸惑うジョアンナに構わず、ゴルゴ13は身だしなみを整えると部屋を出てエレベーターに乗る。

 慌てて付いていくと、7階のシングルルームに入った。

 当然ともいうべきか、最上階のスイートとは別名義、トーゴ・ロドリゲスというフィリピン系の名前で借りていた。

 変装はこの為でもあったのだろうか。しかし、ジョアンナはそれを確かめる間もなく、ゴルゴ13からこう告げられた。

 

「……騒ぎが始まったら、お前は他の客に紛れてホテルから脱出しろ」

「え……え、えっと、あなたはどうするの?」

「……」

 

 ジョアンナがそう心配げに言っても、ゴルゴ13は沈黙を返すのみ。

 ただ一晩、身体を重ねただけの関係に答える義理はないとでも言うように。

 むしろ、ここまで自身の安全に配慮しただけでも、相当に破格の扱いなのだろう。

 

「……あの」

 

 ジョアンナを置いて再び部屋を出ようとするゴルゴ13。もはや彼女への興味を失ったかのように。

 それでも、ジョアンナは湿った瞳を彼へ向けた。

 

「全部終わったら、あなたともう一度会いたい。夜の女としてじゃなく、あなたに……」

「……」

 

 ゴルゴ13は振り返りもせず、無言のまま部屋を出た。

 後に残されたジョアンナは、悲しげにうつむいたままだった。

 

 

 

 

 

「今の音は……?」

 

 既に13階へと上がったホセ達。

 階下からかすかに聞こえた発砲音。不審に思いつつ、少し遅れたタイミングで残りのエレベーターが到着する。

 扉が開くも、乗っているはずの5人の仲間は降りてこない。ホセ達からは死角となっており、内部の様子は伺えなかった。

 

「ホセ」

「ああ」

 

 しかし、見えない代わりに嗅ぎ慣れた死臭がホセ達の鼻をついた。

 

「見てこいカルロ」

 

 ホセはカルロという若党へ指示を出した。

 カルロは自身に待ち受ける運命をなんとなく予感しているかのように、恐る恐る近付き、そして開いた扉を覗き込んだ。

 

「……ッ、ホセ、こいつら殺られて──」

 

 そして、彼は最後まで言葉を続けられなかった。

 折り重なる死体に紛れ身を潜めていたゴルゴ13。そして、死体から奪った散弾銃でカルロの頭部を撃ち抜いていた。

 

「カルロ!?」

「奴だッ! 撃てッ! 撃ちまくれッ!!」

 

 銃声と共に飛び散るカルロの脳漿。ホセ達は即座に銃を構え、猛然と発砲を始めた。

 サンカン・パレスの最上階は一瞬にして戦場と化す。

 

「撃ち続けろッ! ここで殺しきらないとやべぇぞッ!」

「死にやがれ畜生ッ!」

「死ね! 死ねェェッ!!」

 

 銃弾の雨を浴びせながら、ホセ達は少しずつエレベーターへにじり寄る。

 やがて、一人がゴルゴ13の隠れているエレベーター前に辿り着いた。

 

「死ねッ!」

 

 転がり込むようにエレベーター内へサブマシンガンを乱射する。

 しかし。

 

「んなっ……!?」

 

 内部は同胞の無残な死体しか残されておらず。こつ然と姿を消したゴルゴ13。

 

「くそったれッ! どこへ──!?」

 

 中を見回す。

 そして、エレベーターの天井の隅に張り付くゴルゴ13の姿を見た。

 

「野郎ッ!?」

 

 銃口を向けようとするが、当然の如くゴルゴ13の動きの方が速かった。

 即座にカルテル郎党の眉間へ銃弾を叩き込む。

 そして、素早い動きでエレベーターから飛び出すと、対面にある非常階段の扉を体当たりでこじ開ける。

 

「逃がすなッ! 追えッ!」

「ま、待ておめえら!」

 

 ホセの制止を振り切り、幾名かの郎党がゴルゴ13を追う。

 しかし、その郎党達もまた銃火に晒される事となる。

 放たれた銃弾に一発の無駄弾も無く。

 

「畜生、バケモンだ……!」

 

 ホセは瞬く間に半数以上の仲間を失い、その戦意をみるみる失いつつあった。

 

「お、おいホセ、こいつはまずいぜ!」

「迂闊に追いかけたら俺たちも殺られちまう!」

 

 残った仲間も同様に萎えていたのだろう。

 彼らは口々に撤退を進言した。

 しかし、ホセは己を奮い立たせるように声を荒げる。

 

「馬鹿野郎! ここで逃げ帰ってみろ! 俺たちはロアナプラ中の笑いもんに──」

 

 そう言いかけた時。

 ホセの懐にある携帯が震えた。

 

「ちくしょう、なんだってこんな時に……!?」

 

 悪態をつきながら携帯を取り出す。しかし、ディスプレイに見慣れた番号が表示されると、慌てて通話ボタンを押した。

 

「ボ、ボス、その」

 

 言葉を震わせるホセ。電話先の主は、マニサレラ・カルテルのボス、グスターボだった。

 

「ええ、はい。いや、でも……ロシア人が……? いえ、分かりました……」

 

 手短な通話を終え、ホセは携帯を仕舞う。

 忸怩たる思いを表情に滲ませながら、変わらず非常階段口へ銃口を向けていた郎党達へ声をかけた。

 

「おめえら、引き上げだ」

 

 ホセの言葉に逆らおうとする者はいなかった。

 来た時とは真逆の面持ちで、彼らは死臭が漂う最上階を後にすべくエレベーターへ乗り込む。

 

「畜生……」

 

 ホセの呟きは、ロアナプラに吹き荒れた南米の暴風が、今や凪と成り果てていた事を表していた。

 

 

 

 サンカン・パレスの避難用の非常階段は、ホテル外部に備え付けられた屋外階段である。

 空はうっすらと白み始めていたが、地上はまだ闇が残っており、街灯が僅かにその周囲を照らしていた。

 

「……」

 

 既に宿泊客や従業員の避難は済んでいるのか、サンカン・パレスの周囲は鉄火場が発生したとは思えないほどの静けさに包まれている。

 静寂の中、ゴルゴ13は油断なく非常階段にて拳銃を構え続けていた。

 

「……」

 

 地上からは見えない位置にて気配を探ったゴルゴ13。やがてホセ達がホテルから引き上げた事も確認する。

 しかしそれでも尚拳銃はホルスターに収めず、新たな襲撃者への備えを怠らないのは、超A級のプロフェッショナルだからこその習性か。

 ゴルゴ13は警戒を続けながら階下へ下り始めた。

 

 しかし。

 

「──ッ!?」

 

 超人的な反応で咄嗟に身を伏せるゴルゴ13。

 僅かに頭をかすめる銃弾。一瞬遅れで聞こえる狙撃銃の発砲音。

 

(7.62mm……ドラグノフ狙撃銃か)

 

 独特の射撃音、夜間でも己を正確に狙い、且つこちらからは見えない位置にて行われた狙撃。

 赤外線暗視装置を標準装備している狙撃銃はそう多く無く、ゴルゴ13はただの一発でその狙撃銃の正体を看破していた。

 そして、この街でソビエト製の銃器を好んで用いる組織は、ひとつしかない。

 

「……ッ」

 

 僅かに身を起こせば、続けざまに第二射が襲い掛かる。

 手摺壁という遮蔽物に身を隠すしかない状況に追い込まれたゴルゴ13。

 這いずって屋内へ退避しようとするも。

 

「……」

 

 微かに聞こえたロシア語。屋内の階段から上ってきたのだろうか。

 耳を澄ませば、軍靴(マーチ)の音は階下の非常階段からも聞こえた。

 死神を十全に包囲せしめたるは、ソビエトの亡霊。

 

 ホテル・モスクワの精鋭中の精鋭である遊撃隊(ヴィソトニキ)

 もちろん率いるのは、彼らの守護天使であり、冥府での道標ともいえる、焼傷痕の戦乙女である。

 

 

 

『狙撃班より報告。標的Gは屋外避難階段にて停滞中』

「お手柄だザチャーミン伍長。分隊が標的を挟撃するまでそのまま狙撃体勢を継続しろ」

 

 近隣に建つビルの屋上に展開している狙撃班の報告を、バラライカはボリスら指揮分隊と共にサンカン・パレスから少し離れた路上……臨時野戦指揮所と化した路上にて、粛々と指揮を執っていた。同時に、ある思いが彼女の内に広がる。

 

 世界一の狙撃手を前にしても、自身の遊撃隊は決して遅れを取るまい。バラライカはそのような絶対の信頼を部下達へ寄せていた。なにせ余所の中隊ではトップを張れるほどの選抜狙撃手(マークスマン)が、遊撃隊では十指に余るほど揃っているのだから。

 もっとも、本来の狙撃の実力で言えば、遊撃隊で一番の実力者はバラライカ自身であった。だが、その技量は彼女が難民──子供を庇って捕虜となり、全身の肌を寸刻みで焼き潰されるというムジャヒディンの拷問を受けた事で失われた。半失した右目の視力と共に、彼女が無頼に堕ちる前に抱いていた五輪出場という夢も失われていた。

 

 今はただ、己とその同胞達に相応しき幕引き──血と硝煙の夢の終焉さえ迎えられれば──

 

大尉(カピターン)

 

 数瞬、思いに耽っていたバラライカは、副官のボリスの声で我に返る。

 

「すまない、軍曹。少し集中が切れていた。相手はあのゴルゴ13だというのに」

 

 このバラライカの返しに、ボリスは意外そうに目を丸くさせた。常に竜驤虎視し、全てを嫣然一笑するバラライカが見せた弱気ともつかぬ油断。

 しかし、ボリスは直ぐに口角を上げた。

 

「お気付きで無かったのですか? 大尉は今、笑っておられましたよ」

 

 思考に反し、本能では我知らずに昂ぶっていたのだろうか。

 恋い焦がれた戦争を、この上ない相手と果たせる事実に。

 

「狙撃班より報告! 標的Gが避難階段から屋上へ退避! 遮蔽物が多い為狙撃効果を認めず!」

 

 通信兵から新たな戦況報告が舞い込む。バラライカは口元を引き締めた。

 やはり、そう甘くない相手だ。優秀な狙撃手が揃っていても、完全に拘束はできない。

 いや、彼のような──スタニスラフ伍長のような狙撃手がいれば、もう少し違う状況が生まれていたのだろうか。

 しかし、そうでなくては。

 

「そのまま牽制を続けろ。屋内と非常階段の分隊は合流次第屋上へ展開。火力を以て標的Gを包囲。相手が単体だと思うな、小隊規模の戦力を備えていると捉えろ」

 

 それから、バラライカは改めてボリスへ向き直った。

 

「軍曹。これより指揮分隊も屋上の部隊と合流する」

「はっ……いえ、しかし」

 

 バラライカの唐突な命令。ボリスは僅かに戸惑う。

 上官のこの手の酔狂は、双子の時や熱砂の悪夢に囚われた同胞の時のように度々経験している。

 しかし、今回の相手は彼らと同程度と捉えるには、些か浅慮がすぎるのではないだろうか。

 

「危険です、大尉」

 

 故に、ボリスは上官を確りと諌めた。だが、バラライカは薄く笑いながら首を横に振った。

 

「軍曹、()()()()()()。後方で安穏と指揮を取り続けて仕留められる相手ではない事は、ムジル中佐が教えてくれた」

 

 ゴルゴ13と対峙し、あと一歩まで追い詰めた者達に共通している事がある。

 それは、己の命を賭けるというリスクを享受した上で、持てる戦力を最大限にぶつけていた事だった。

 選抜した精鋭でも、戦力の逐次投入は悪手。バラライカは恩師の戦闘報告で、それを十分に理解していた。

 

「……了解しました、大尉」

ありがとう(スパシーバ)、同志軍曹」

 

 渋々ながらも了解したボリスへ、バラライカは凄艶な笑みを浮かべた。

 そして、将校コートを颯爽と靡かせながら、サンカン・パレス屋上に陣取る部下達の下へ向かった。

 

 

 




◆年代設定補足
OVA『BLACK LAGOON Roberta's Blood Trail』でキャクストン少佐のベトナム時代回想のテロップに『27年前の1969年』とあったのでロベルタ再来編は1996年。OVAラストのロックの言で数ヶ月経ってるとあるけどフォン編あたりまではまだ96年っぽいので本作も96年。
ゴルゴ13第360話『間違われた男』の発表年は1996年。基本発表年と作中年代はリンクしてるので本作は360話のちょっと後という設定。

※暦月に関しては色々矛盾が出てきそうなのでガン無視しております。ブラックラグーンも日本編以外は季節感無いし。

※ちなみに小説版『ブラック・ラグーン シェイターネ・バーディ』(日本編の前の物語。原作コミック準拠だと竹中さん編〜日本編の間、アニメだと偽札編〜日本編の間)でロックがロアナプラに来てから2年程経過とあり。日本編は年始の縁日が立っていたので96年始めと仮定して、ロックがロアナプラに来た年は多分93年頃。


以下上記考察を踏まえた簡易年表

・1993年
ロックが捕まる。

・1993年〜1995年
色々あった。
レヴィの髪が伸びる。かわいいね♥

・1996年
色々あった。
ロベルタさんが興奮してガルシアくんが大人になる。

・1996年以降(1997年?)
中指ちゃんが来た。かわいいね♥スクールウォーズ♥
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