久しぶりに仕事中の描写が入ります。
2016年11月16日(18日目)
あの作戦会議の後、手がかりはなかなか手に入らず、停滞状態が続いていた。流石にあの女神もそう簡単に情報を残してくれているわけでもない。仲間だけが段々と増えていた。
「今日はちょっと実験してみるか」
今日は仕事の日。狭間の世界で今やれそうなことはほとんどやったため、現実世界でできることを仕事中にやってみることにしたのだ。
「今日は深夜まで死ぬことないしな。色々試してみよう」
今日の予定は深夜にコンビニに行った帰りに通り魔に後ろからナイフで刺されるとかいうものだけだ。死ぬことしか予定がないこの人かわいそう。まぁ平日に仕事がないニートやし同情はあまりしないけど。
「まずはこっちで情報を残せないかやってみるか」
何回か狭間の世界で実験はした。その結果、解雇され消える人の情報を残せるのは俺だけだと判明した。でも、俺が持ち込んだ紙に書いても俺が解雇のタイミングで消えてしまうだろうし、誰かの紙に書いてもやはりその人の解雇のタイミングで消えてしまう。どうにかして狭間の世界の紙を手に入れなければ恒久的な情報は残せそうにない。
だったらこっちの世界で情報を残す方法を考えるのは当然だろう。
「と言っても前に試したことあるんだよなぁ...」
前にネット掲示板に書き込もうとしたらパソコンが落ちたことがあった。ボールペンやシャーペンや鉛筆で紙に書こうとしても書けなかった。何か他の方法で残せないものだろうか。
「暗号みたいな感じで残せないかなぁ...」
たとえばローマ字にして一つずつずらすとか。簡単なシーザー暗号で突破できるんだったらとんだザル警備だけど。
「えっとまずは...狭間の世界って書いてみるか。えっとまずはローマ字に変換して...うわ一旦書くこともできないのか」
一旦書くことすらできないため頭の中で一つずつずらしていく。すっごいやりにくい。
「えっと書いてみるか...うわ書けない。流石に一つずらしたぐらいじゃダメか」
次は二つずらして紙に書いてみる。
「おっ!いけたいけた。へっザル警備め」
なかなかに面倒だがこれで情報を現実世界に残せることが判明した。
「て言っても流石に面倒すぎるな...何か方法はないものか」
もう少し考えてみる。アルファベットに置き換えて二つずらすのを毎回頭の中でやるのは骨が折れそうだったからだ。
「パソコンだと保存さえしなければ書けるんだよな...縦読みしたらいけるとかないよな流石に」
ダメ元で実験的に書いてみる...よし書けた。
「無理だったら保存しようとした瞬間にフリーズしてパソコン落ちるんだろうけど...嘘だろ通るのかよ」
狭
間
の
世
界
こんな一文字ごとに改行するだけでいいのかよほんとにザル警備だな。
「よ、よし、じゃあ適当に鍵付きのブログを作って...と。とりあえず今わかってること全て書き込んでおこう」
狭間の世界のこと、そこで行われている仕事のこと、永遠にループしていること、そして抵抗戦線のメンバーについて。縦に箇条書きをしていく。
「ちゃんと書き込めた...よかった。これでこの地球に仕事をしに来る人にこのブログのログインコード教えて、見て書き込んで貰えば情報の引き継ぎができる」
他の世界のことは俺には干渉できないしどうしようもない。せいぜいこの方法を教えて同じようにやってもらうくらいか。この世界に似ている世界ならいいけどネットの発達してない世界だとできないな。他の方法も考えておかないといけなさそうだ。
「うーん...暗号使えば書き残せるってわかったからな、最悪縦書きでもいいし、適当に各世界ごとに暗号決めてもらってやりとりしてもらうのが一番早いのかな」
少し考えてみたがいい方法は思いつかなかったので丸投げすることにした。各自頑張ってもらおうそうしよう。
「ほかにこの世界でできることってないのかな...そうだ、俺が死んだ時のことって何かに書いてないのかな」
俺が死んだという事実自体はこの世界に残っているはずなのだ。実家に自分の仏壇が置いてあったしそれは揺るぎない事実なはずだ。とりあえず調べてみる。
「……変だな、どこにも載ってない。工事現場の鉄骨が落ちてきて死んだんだ、何かしらのニュースになってないとおかしいだろ」
いくら探してもそれらしいネットニュースは見つからなかった。
「なんでだろ...あれ?そういえば前回は車に轢かれて死んだよな。そっちで載ってたり?」
交通事故のニュースも探してみるも、2014年10月2日に死人の出る交通事故はなかったらしい。一つも情報が出てこない。
「これでもない...もしかして過去改変じゃなくて別の閉鎖された一日の世界を作ってるだけなのかな」
死んだ日をやり直したことで死因が変わってしまっているが、それによる影響がこの世界に出ていない。とすると過去に戻ったわけではないことがわかる。
「交通事故でもないとすると俺は最初何で死んだんだ...?だめだ思い出せない」
おそらく、俺が記憶しているよりも前からこの仕事を繰り返しているということは前から薄々気がついていた。俺が死んだ日から考えると今回で23回目だと予想できる。
「あの時に確認できてたらよかったんだけど...」
母に憑依していた時に、もし最初から記憶を覗いていたら、俺の本当の死因を知ることができていたのかもしれない。けれど、もう遅い。知る機会は失われてしまった。
「みんなの死因も聞いとけばよかったなぁ...死んだ日しか聞いてなかった」
狭間の世界に戻ったらみんなに聞いて仕事の時に調べておこう。と言っても多分出てこないんだろうな。
「…これからどうしよう...やること無くなった」
今の時間は10時ちょい。色々やった気でいたがまだ朝起きてから3時間も経ってないらしい。暇だと時間がとても長く感じてしまう。
「やることやること...あとしなきゃいけないことなんかなかったっけ」
死ぬまであと半日ほどあるのだ。何かで時間を潰したい。
「んー...あっいいこと思いついた」
一つ、今日できることを思いついた。
「よしそれまで寝よう」
それができるのは深夜だ。仕事をしていていつのまにか狙った時間に起きれるようになったため、さっさと寝て時間を飛ばしてしまうことにした。
「ふわぁ...よし時間通りだな」
死ぬまであと30分もない。適当に身支度を済ませて俺は近くのコンビニへと向かった。
「…やべ何買えばいいのか忘れた。まぁいっか別に」
そうしてコンビニへとやってきた俺は自分のミスに気づく。でも些細なミスだ。特に関係ないだろう。
「何買えばいいんだろ...財布入ってるだけ買えばいっか」
財布の中身を確認する。
「ろ...67円...だと⁉︎」
あまりにも少なすぎる。財布の場所だけ確認してポッケに突っ込んだから中身は確認してなかったわ。
「あっ、なるほど忘れたんじゃなくて買うものがなかったから覚えてなかったのか。資料の通り魔ってのも本当は強盗だったんじゃねぇの?」
仕方ないので本を立ち読みして時間を潰してからコンビニを出る。
(…よし、ついてきてるな)
コンビニを出て少しすると、誰かが後ろからついてきているような気配を感じた。
(気付いてないふりしないといけないの大変だなぁ...このまま歩き続けないといけないんだよな)
資料には、この後も後ろからついてきている人に気づくことなく、人気の少なくなったタイミングで背中から刺される、と書いてあった。
(刺されるまであと10秒、9秒、8秒)
スマホの時計を見ながら歩き続ける。
(7秒、6秒、5秒、4秒)
体が強張る。これは決して死ぬことに対する緊張ではない。実験の成功を願っているからこそだ。
(3秒、2秒、1秒、今!)
刺される直前に身を翻して通り魔の方を向く。そしてほんの少しバックステップをした。けれど、その程度ではナイフを避けることなんて到底できない。
(ぐっ...!)
腹にナイフが刺さる。目の前にいる通り魔は突然俺が振り返ったことにびっくりしつつも、刺さっていたナイフをねじってから引き抜く。それによって致命的なほどに傷口が広がる。
(クソこいつ手慣れてやがる...)
傷口からどんどん血が流れていく。少しずつ霞んでいく目には、逃げていく通り魔の姿が映っていた。
(さて...これでどうなるか...)
今行った一つの賭け。その結果を知るために、俺は自ら意識を手放した。
目が覚めると、あのクソ女神の部屋に立っていた。
「はぁ...何をやらかしてくれちゃってんのさあんた」
クソ女神が何かボールのようなものを手で弄びながらこちらを見ていた。
「…なんのことでしょう」
「誤魔化しても無駄よ。ちゃんと見たからね」
(見た...もしかしてと思って実験してみたがやはり仕事中の出来事は監視されているのか...?まずい、それだとあのブログの存在も...)
「なんであそこで体捻っちゃったかなぁ...死亡時刻と死因が少しずれちゃったじゃないの。ほんの少しのズレでもバタフライエフェクトは起こるのよ!」
思っていたのと違う言葉が出てきた。なんだ、あのブログのことはバレていないようだな。
「い、いやーすみません。ちょっとビビっちゃって」
「気をつけなさいよね。全部監視してるわけじゃないけど死因と死亡時刻だけは全部確認してるんだからね」
おっ!監視体制のこと勝手に話してくれた。助かる。
「すみません。次からはもう少し気をつけますね」
「じゃあ言っていいわよ。ちゃんと仕事真面目にしなさいよね」
部屋を出る。最後まで小言多かったなあのクソ女神。
「よかったバレなくて。監視体制についても知れたしやってよかったなこの実験」
バレる危険性も高い危険な実験であったが、リスクを冒さなければリターンもないのだ。
「死ぬ時だけちゃんとすれば咎められることはない。みんなにもこれ共有しとかないとな」
早歩きで佐川の部屋に行く。あそこが抵抗戦線の本拠地となっていた。え?俺の部屋でやれ?いいじゃん別に、佐川もいいって言ってたし。
「みんないる?すごい情報仕入れてきたよー」
暗号や縦読みによる情報の残し方、クソ女神の監視体制のザルさなどを簡潔に伝えていく。
「……というわけなんだけどとう?」
「暗号ね。適当にこっちの世界で決めておくよ」
「なんか面白めのやつ作っておこー」
「てか縦読みでいいとかどんだけザルなのさ」
「いや縦読みのは機械じゃないとできないからね。多分そこらへんの文化に弱いんだろうね。なんか機械オンチみたいな印象ある」
「たwしwかwにw」
笑いすぎだ有田さん。
「あっそうだ。明後日仕事終わりの人の情報揃ってる?」
次の記憶を残すためにまず会わないといけないからな。いつもやってることだ。
「すまんな。1人しか見つからなかったよ」
「いいよ別に1人でも。それでどこの誰さん?」
「この辺に住んでる安達さん」
「おっけありがと」
そう俺が言った瞬間にここにいるほとんどの人間が消滅する。日付変わったのか。死ぬことには慣れたけど人が突然消えることにはまだ慣れていなかった。
2016年11月17日(19日目)
「それじゃ行くか」
俺は部屋を出て安達さんの部屋へと向かう。
「それにしても安達さんかぁ...なんか聞き覚えあるけど知り合いにいたっけ?」
なんか頭の片隅にあるけどなんだこれ。なんの記憶だろ。
「おっ、ここか。すみませーん安達さんいますー?」
いつも通り扉を叩く。なんかもう俺はそういう人だという認識をされていて周りから白い目で見られることがなくなってきた。それはそれで辛いぞ。
「はいはーいなんですかぁ?」
女の声がして扉が開く。
「あのすみませんちょっと話がありましてー...あっ!お前!」
「なによ急に。指差さないでよ」
こいつは...こいつは!
「あんときのヤンデレじゃねぇか!」
忘れもしない、車で海に突っ込んだ時の記憶。目の前に立っていたのは、その時憑依していた俺を殺したあのヤンデレ彼女であった。
この出会いが、また一つのピースを埋めることとなる。
あと1日遅れていたら、手に入らなかったピースだ。
まさかのキャラ再登場。
再登場させるつもりであの時書いてたけど、名前は今回適当につけました。