0日目が、またやってくる。
2016年11月27日(29日目)
結局、あの後俺たち抵抗戦線に進展はなく、ほとんど何もできずにここまで来てしまった。
「俺は明日で仕事終わりだ...ごめんみんな、何も成果を残せなかった」
「いいよ別に。片桐がいなけりゃそもそも何もできてなかったんだ。十分やったよ」
「もし次記憶を取り戻せなかったら...」
「大丈夫だって安心しなよ。もし記憶が戻って来なくてもここまで組織が大きくなってるんだ。きっと何も知らない片桐を勧誘すると思うよ」
「記憶の残し方はこっちでも色々考えてあるしな。安心して行ってこい」
みんなが励ましてくれる。この一ヶ月、今までのどの一ヶ月よりも濃厚かつ長い一ヶ月だったように思えた。
「…そうだな、励ましてくれてありがとうみんな。行ってくるよ。次の俺をよろしくな」
時計の二つ針が真上を向く。そして俺は、この狭間の世界から姿を消したのであった。
2016年11月28日(30日目)
(少なくとも今回まではクソ女神の監視があると見ていい。やっぱり今回も下手な行動はしない方がいいよな)
今回俺は高校生に憑依している。資料はしっかりと読んでいるため違和感なく行動できるだろうが、細心の注意を払って再現しなければならない。
(ここでミスって次の俺が警戒されでもしたら困るしな)
前回の周期でなぜか狭間の世界の記憶が無いという異常事態があったため、今回の俺は一回のミスで警戒をされてしまった。できれば今回何もしないで次に生かしたい。
(今回の俺の死因は交通事故。飛び出した子供を突き飛ばして代わりに死ぬことになるらしい。自分で行動しないといけないから他の仕事よりも大変だな)
もし、俺が子供を助けなかったら。助けるはずだった子供は今日死なないという運命にあるので死にはしないだろう。だけれど、死にはしないまでも大怪我を負うことは避けられないのだ。それによって未来は大きく変わる。
多分だが、クソ女神はそれがわかってて俺にこの仕事を振ったのだろう。試金石代わりなのだ。
(元々ちゃんとやるつもりだったんだけどな。心配性だなクソ女神は)
頭の中で考えながら身支度をすましていく。口に出して言うと聞かれちゃうしね。
(というか荷物少なすぎでしょ。置き勉しすぎだろこいつ)
帰宅部にしても荷物がなさすぎる。机とロッカーに教科書とかがギチギチに詰まっているのが容易に想像できた。
「行ってきます」
少ない荷物を鞄に入れ、誰もいない家から出た。学校から家まで片道で一時間ちょいかかる。俺は電車に揺られながら、パラパラと単語帳をめくって目的の駅に着くまで待っていた。
(やべぇ授業ほとんどわかんねぇ...)
学校について、ロッカーから教科書を取り出して席に着く。授業が始まってしばらくして思ったのはそんなことだった。
(高校の授業なんて何年振りだろ...全くわからん)
ブランクがあるのもあるが、高校時代そこまで頭がいいわけでもなかったため地力がそもそも低いのが大きい。受験期しか真面目に勉強してなかったしな。受験終わったらほとんど記憶消えた。
「えーじゃあこの問題...そうだな、今日は28日だし出席番号28!森本だな、解いてみろ」
指名されたので黒板まで歩いていく。そしてサクッと答えを黒板に書いていく。
(チョークやっぱ書きにくいな。手汚れるしやりたくないなぁ)
「正解だ。戻っていいぞ」
席に戻る。
(まぁ、授業分かってなくても資料を読んでなんて答えるかは覚えてきたからな。余裕余裕)
指されても問題はないようにはしてある。そもそもいつ指されるかはわかってるしな。対策は簡単だった。
(…まぁでも授業中暇だな。ノートは取らないといけないけど、それ以外の時間が暇すぎる。記憶でも読んで暇つぶししよ)
記憶も読んでおけば再現性も上がる。やっておいて損はないはずだ。
ノートを取りながら記憶を読んでいく。口調や細かい仕草、癖を身につけていく。
(……うん、大体覚えた。これで完璧なはず)
その時、ちょうどチャイムが響く。やっと一時間目が終わった。
(これをあと六時間分やらないといけないのか。よく高校生の俺はこんなの耐えられてたな)
技能教科がないのがせめてもの救いか。ただ授業を聞いてるだけでいいのが楽だ。といっても、どの授業でも最初に俺が指名されることになっているのだが。
(日付と出席番号で指名する人決めるのやめろよ。もう少し捻って指名してほしいな)
資料通り、全ての授業で最初に指されることになった。ちゃんと全部答えることができたけどな。そしてロングホームルームが終わって下校時刻となった。
(よしさっさと帰ろう。時間に間に合わないなんてことないようにしないとね)
帰宅部なので荷物を鞄に詰めてさっさと学校を出る。ここで走らないと電車に乗り遅れて時間に間に合わなくなるのでジ・エンドだ。
(あれ?これ間に合うよな...よしギリギリセーフ)
電車に滑り込むように入ってなんとか乗り込む。危なかった...駆け込み乗車してごめん車掌さん。
それから電車に一時間乗って駅を降りる。少し行ったところの交差点を曲がって住宅街に入ったところらへんが死亡現場だ。
(…あっ、子供飛び出した!飛び出なきゃ!)
「危ない!」
飛んできたサッカーボールを追いかけるように子供が飛び出していく。創作物でよく見るようなシチュエーションだが、洒落にならない。反射的に体が動いて子供を突き飛ばす。
次の瞬間、後ろからトラックに追突される。勢いよく吹き飛ばされ地面を転がり、そのままトラックの下敷きになる。
(あー...交通事故は何回目だっけ?記憶ないだけで何回もなってるんだろうけど)
そんなことを考えていると、少しずつ意識が薄れていく。
(次の俺は、ちゃんとやってくれることを祈ろう)
未来に思いを馳せながら、俺は何回目かもわからない死を迎えた。
2014年10月2日
朝起きて、顔を洗い無理やり眠気を吹き飛ばす。今日はいつもよりもちょっと長く寝ることができた。それでも2時間寝ただけじゃまだ眠い。
「はぁ、早く仕事行かないと...」
オートミールを使ってさっさと朝食を終えると、すぐに荷物を詰め込んで家を出る。駅に向かう足取りは重い。
「会社行きたくないなぁ...行けない理由が降りかかってこないかなぁ...」
例えば事故とか事故とか事故とか。と言ってもそんな簡単に事故に遭うわけでもない。何事もなく駅にたどり着く。
「やっべ一個乗り遅れた」
まぁ次の電車でも間に合うからいいけど。各駅でしか停まらないからちょっと待つ必要があった。
『まもなく2番線を列車が通過します。危ないですから黄色い線までお下がりください』
快速列車が通過するようだ。警告のアナウンスが鳴る。
(……もし、これに突っ込んだらどうなるんだろう)
いわゆる飛び込み。列車に轢かれるのだ。そうすれば、俺は仕事を休むことができるのではないだろうか。
そんな考えがふと、頭の中をよぎり、俺は体勢を前に傾け...
るのをやめた。
(いやダメだってそんなの!どれだけの人に迷惑がかかるかわからん!)
もし、俺がここで飛び込んでしまえば、ダイヤが乱れ、多くの人の交通を妨げ、母さんに損害賠償がいくと考えられる。そんな迷惑はかけられない。
(なんでこんなこと本気でやろうとしてたんだろう...)
そんな考えがよぎることは何度もあった。だけれど、実行に移そうとしたことすら一度もなかった。
(仕事休んでも迷惑かかるし...行くしかないか)
俺はそのあと来た各駅停車の電車に乗り込んで会社へと向かった。
3駅ほど電車に揺られて、俺は駅を降りる。そして会社へと歩いていく。
「うわ工事してる。朝から大変なこった」
耳を手で押さえながら工事現場を横切る。またしばらく歩いて交差点を渡って会社に入る。
(さてさて、お仕事今日も頑張らないと...)
いつも通りの仕事の日々が始まった。
「はぁ、今日も今日でブラックだった」
俺、片桐陽介は会社から出て駅へと向かう。もうすでに深夜だ。早く家に帰って少しでも長く寝なければいけない。
「でも俺よりもひどい人たちもいるだろうし...ここで潰れてたらダメだよなぁ」
お前よりもひどい状況の人が世界には何人もいるんだと何度も何度も言われる。そう言われるたびに無理矢理自分を納得させて仕事をこなしていくのだ。
「明日は金曜日。明日さえ終われば休みが...来るわけないよなぁどうせ休日出勤だよなぁ」
すでに何連勤しているのかは覚えていない。覚えていたらそれはそれで気が滅入ってしまいそうだ。
「何かこう...劇的に何かが変わってくれればいいんだけど」
自分では動こうとせず、周りに変わってもらうことを考えている今のままでは何も変わらないのは明白である。無意識に考えている以上改善は難しい。
「いや、いっそ転職をいやだめだ辞めさせてくれると思えない」
一人でぶつぶつと呟く。周りに人がいなくてよかった。誰かいたら変な人だと思われたかもしれない。
「ってあれ?いつのまに青信号に...渡らないと」
俯いていたため青信号に変わっていたことに気づいていなかった。それは幸運だったのだろう。
「うわっ!なんだ今の車!危ねぇなおい!」
信号無視で爆速で目の前を車が走っていった。もう少し早く横断歩道を渡り始めていたら轢かれていたかもしれない。
「死ぬところだった...なんだったんだよ今の車通報してやりてぇ」
左右確認をしっかりしながら横断歩道を渡る。流石にさっきのような車は何度も来るわけがなく、危なげなく横断歩道を渡り切る。
「早く帰って寝ないとなぁ、どれくらい寝れるかなぁ」
寝れたとしても1時間くらいだろうか。会社で寝泊まりした方が長く寝れるかもしれない。
「ううっ工事の音がうるさい...深夜なのになんで工事してるんだよ...」
こんな深夜にもマンション建設の工事をしているらしい。俺よりも大変そうな人がいることを実感する。肉体労働に深夜労働とかすごいなこの人たち。
「でもうるさい...深夜なんだから工事やめればいいのに」
眠い頭に響きまくって頭がすごい痛くなってくる。
「はぁ、真横通りたくないなぁ。さっさと抜けちゃお」
耳を手で塞ぎながら駆け足で工事現場の横を抜けていく。音は手を貫通して耳に響いてくる。早く逃げたい。
工事現場の横を抜けたその瞬間、自分の真後ろで轟音が響く。
「えっなに⁉︎」
あれは鉄骨だろうか。どうやら工事現場から落ちてきたようだ。もし俺が駆け足で工事現場の横を通り抜けていなかったら、あの鉄骨に巻き込まれて死んでいたかもしれない。
「あ、危なかった...死ぬところだった。こっわ」
「君!怪我はないか!大丈夫か!君...君!」
でもそんなことを気にしている暇はない。さっさと帰って寝たいのだ。さっきから、後ろから俺のことを心配をする声が聞こえてくるが無視して駅へと向かい続けた。
その時、突然右脇腹に痛みが走る。
(えっ、は?え?)
焼けるように痛い。理解が追いつかない。人影が逃げていく。ナイフが脇腹に...!
「なん...で」
通り魔に脇腹をナイフで刺されたようだ。ナイフは深々と刺さっており、ほんの少し体を動かすだけでもナイフが動いて体の中を抉る。
「 」
声にならない叫び声を上げ、やがてその声が小さくなっていき、赤い血溜まりの中、俺は息絶えた。
閉ざされた世界の中でいくら足掻こうとも、死からは逃れられない。
しかし、ほんの少しの運命は変えられる。
一つの死から逃れてもすぐ死ぬことになるんですよね。
ちなみに1日の最後まで生き残りそうになると強制的に心臓発作で死にます。