最初の想定から物語がずれてきてて修正するのが大変だった...
2016年11月29日(1日目)
「……ここどこだ?」
目が覚めたとき、俺は真っ白な部屋で寝ていることに気づいた。辺りを見渡しても、ドア一つとさっきまで自分で持っていた鞄しか見つからない。
「えっと...なんでこんなところにいるんだっけ...?」
会社から家に帰宅している途中だったはずだ。そこから記憶が霞みがかったように薄れていた。
「えっとえっと...っ!そうだよそうだった!」
無意識のうちに自分が脇腹を押さえていることに気づき、記憶も戻ってくる。
「あんとき刺されたんだった。なんで傷治ってるんだ...?」
深々とナイフが刺さっていたはずなのに今は傷ひとつない。けれど、刺された部分の服は破けており、血で濡れていたためあれが夢だったわけではないことがわかる。
「くっそ何が何だかわかんねぇ。生きてるってことでいいのか?ひとまずここから出てみるか」
ここにいても何かできるわけではない。とりあえず自分の鞄を拾ってから扉を開けてみる。
「なんなんだこれ」
扉を開けた先に見える景色は、さっきまでいた部屋となんら変わらない真っ白な空間が広がっていた。
「進むしかない...のか?」
扉をくぐってそのまま前に歩き始める。どこまでも真っ白なせいで方向感覚が狂っていく。ちゃんと前に進めているのかすらわからない。後ろを振り返るとさっき通ったドアは跡形もなく消えていた。目印も何もない。
「どこまでいけばいいんだこれ。そもそもここは現実なのか?夢って言われた方が信憑性高いぞ」
真っ白な空間をずっと歩いていく。どれだけ歩いたかもわからない。疲れたしもう歩きたくない。俺はその場で座り込む。
「狭間の世界へようこそ、片桐陽介」
突然声が響く。顔を上げると、そこには金髪の美女が立っていた。あたりを見渡すと、いつのまにか何かの部屋に来ていたことに気づいた。
「あなたは選ばれた人間です。とりあえずここに座りなさい。この世界について説明するわ」
何が何だかわからなかったが、とりあえず指示に従って席に座る。
「ここは狭間の世界。現世とあの世との間にある世界よ」
「は、はぁ...つまり俺は死んだってことですか?」
「そうね。あなたは通り魔に刺されて死んだわ。けれど、あなたは選ばれた人間。その日をやり直すチャンスが与えられる」
「その日をやり直す...?生き返れるってことですか?」
「まぁそう捉えてもらって構わないわ」
そんな生き返れるなんてこと現実に起こることなんだなぁ。いや現実かって言われると微妙だけど。
「ってことは今から生き返れるんですか?」
「いいえ。あなたにはこれからとある仕事をしてもらうの。それの報酬が生き返れることなの」
「仕事ってどんな?」
死んでからも仕事をしないといけないなんて嫌だ。死んだんだからゆっくりさせてほしい。
「死ぬことよ。何度もね」
「…は?」
「これからあなたには、2日に一回、その日に死ぬことが確定している人に憑依してもらう。そして憑依したまま死ぬ。これを15回してもらえれば仕事完了よ」
「なんでそんなことする必要があるんだよ」
「あなたも一回死んでみてわかったでしょう?死ぬのは誰だって辛い。だからその日に死ぬ人の意識を乗っ取って死の恐怖や痛みから逃れさせる。一度死んだんだからもう15回くらい余裕でしょう?」
そんなわけあるか。何度も死ぬなんて経験したくない。
「まぁあなたがなんと言おうとやるしかないんだけどね。選ばれた以上仕事をするのは確定事項。あなただって突然の死に戸惑っているでしょう?現実として受け入れられていない。ならやり直せるチャンスが与えられているのはいいことでしょう?」
「あぁもうわかったよ!やりゃあいいんだろやれば」
「よろしい。明日から仕事よ。あなたの担当はもともとあなたの世界だから安心しなさい」
「あなたの世界ってまるで別の世界があるみたいだな」
「そりゃあるわよ。あなたたちの言うような異世界なんて無数にあるわ。ほんの少し違うだけの並行世界にシステムが丸ごと違う世界だってある。まぁこっちの都合で勝手に決めてしまったからあなたには関係ない話だけれど」
うわちょっと気になる。どうせならそっちがよかったな。
「一応言っておくけど異世界の方がより辛い死になると思うわよ。世界にもよるけど、いわゆる魔物に食い殺されるとか嫌でしょ?」
…確かに嫌だな。
「あっそうそうまた言い忘れてた。やり直すとき、ここでの記憶は消させてもらう。何回も死んだ記憶なんてあったら嫌でしょ?」
確かに死んだ記憶を持ってたら精神を病みそうな気がする...また?
「そうだ、何か質問はある?」
「んーそうだな...この仕事っていつからやってるんだ?」
「ざっと100年と少しぐらい前だね。日本だと明治時代くらいか」
「へー結構前からやってるんだな。あっ質問はもうない」
「そう。この資料を自室で読み込んでおきなさい。部屋の場所は一番上の紙に書いてあるからそれみて自分で行ってね。仕事の日になった瞬間に憑依開始で死んだ瞬間にここに戻ってこれる。仕事の前日になったら自室のポストに次の資料を入れておくからそれを見て仕事をすること。話は終わりよ。行きなさい」
言われた通り、俺は部屋を出る。部屋の外は広場となっており、たくさんの人が行き交っていた。
「すっごい人いるな...とりあえず自分の部屋ってのに行っておこうかな」
俺は手元の資料を見ながら自室に向かって移動する。そうしようとしたときのことだった。
「あの、ちょっといいですか?」
女の人が俺に話しかけてくる。
「なんです?」
「ちょっとついてきてもらいたいんですよ」
「え、これから自室に行くところなんでその後でいいですか?」
「まぁいいですけど...そのあと来てもらいますからね」
俺は自室に向かって歩き出す。女は俺の後ろをついてきていた。
(なんなんだろこの人。ちょっと怖いな)
「えーっと、この部屋であってるのかな」
表札のようなものがないからちょっとわかりにくいが、多分合ってるだろう。
「この部屋って...すみません、あなたの名前ってもしかして片桐陽介って名前ですか?」
「……なんで俺の名前を知ってるんだ」
女は俺が部屋に入ろうとするとそれを引き止め、そんなことを言った。
「ごめんなさい。やっぱり今すぐに来てもらえますか?」
「…まぁいいですけど」
女はそう言うと、俺の隣の部屋に入っていく。仕方ないので俺も部屋の中についていく。
「芦川戻りました。片桐さん連れてきましたよ」
「ここは...なんだこれ」
その部屋の中には5人の男女が立っていた。
「覚えてない...か。まぁこっちも君のことは完全に覚えられていないんだけどね」
「片桐も忘れちゃったか。前回のは奇跡だったのかな」
「すまん。ここがなんなのか、そしてお前らが誰なのかを早く教えてくれ」
ブツブツ何か話しているのは聞こえるが、全く状況が掴めていなかった。
「そうだな。まずここは抵抗戦線。あのクソ女神に反抗するための組織だ」
「抵抗戦線...?ってかクソ女神ってなんだよ」
「あのクソ女神は俺たちを騙している。死んだ日をやり直せるとかのたまっているがそれは嘘だ。またここに戻ってきてしまう。そして永遠にここで仕事をすることになってしまうんだ」
「……何を言ってるんだ。そんなこと証拠も何もないただの空想じゃないか」
「記憶を失ってるんだからそういうのも無理はない。だけれど、これを教えてくれたのは片桐、お前だった」
「嘘だ。もし仮に記憶を失ってここに戻ってくるとしたら、あんたらが俺についての記憶を持っていることがおかしい。そうしたらすぐにループしてることがバレるだろ」
「確かにそうだな。その通りだ。俺たちは片桐陽介の記憶を持っていない。君のことなんか全く知らない」
「言ってることが矛盾してるぞ。だったらどうして...」
「これを見ろ」
男が何枚もの紙を取り出して見せてくる。
「これは...これは⁉︎」
「前回の君が書いたものだ。君の想定通り、君が書いたものは紙やペンが消えなければ残り続ける。俺たちは君については全く知らない。これに書かれている通りにしているだけだ」
「これは確かに俺の書いた字...ってことはさっき言われたことは本当...なのか?」
その紙には、この抵抗戦線のこと、メンバー、記録の残し方、そして俺のことが事細かに書かれていた。
『次の俺へ。もしかしたら記憶を失っているかもしれないので、これを遺しておく。この情報を活かして、あのクソ女神の野望を解き明かして阻止してほしい』
最後の紙にはそんなメモが遺されていた。
「こんなことしてたのか...」
「君は唯一記憶を自力で思い出し、俺たちの記憶も取り戻すことができた。抵抗戦線の創始者にしてリーダー。もし記憶がなくても、君は俺たちのリーダーだ」
…そんなことを言われても俺にはどうもできない。期待に応えられそうにない。
「何も思い出せないや。ごめん、記憶があれば何かできたかもしれないのにこれじゃ何もできない」
「だから記憶無くたっていいって言ってるだろ?これから思い出せるかもしれないしな。突然前回の記憶を思い出したって言ってたからしばらくしたら自然に思い出すかも」
「…そっか。ありがとう。俺にも出来ることがあれば色々やってみるよ。俺も抵抗戦線に入れてくれ」
「ああ、俺たちは片桐陽介を歓迎するよ。これからもまたよろしくな」
「…そうだな。よろしく」
この場をまとめているリーダー的な立ち位置の男と握手をする。
「ごめん。一旦荷物置いてきていいかな。あと着替えてくるよ」
「わかった。終わったらまたこっちに来てくれ」
俺は部屋から出ると、隣の自分の部屋に入る。部屋の中にはベッドと机と椅子しかなかった。簡素な部屋だったが飲み食いが必要ないためこれで十分なのだろう。
「えっと制服は机の中だっけか」
鞄をベッドに放り投げてから机の棚を開けて制服を取り出すと、さっさと着替える。穴が空いて血に濡れていたから早く着替えたかったのだ。
「これであってるよな。前後逆とかなってないよな」
鏡がないから確認できない。簡素すぎて不便だ。
「うわやべ、鞄の中身がベッドに...しまっとこ」
適当に放り投げたときに鞄が空いてしまったのだろう。ベッドの上に中身が散乱してしまったので一つ一つしまっていく。
「っ、ぐっ⁉︎」
ベッドの上の荷物のうちの一つを手にした時、突如激しい頭痛に襲われる。頭が割れるように痛み出し、地面を転がりながらのたうち回る。脇腹を刺された時よりも痛く感じていた。
「いっつ!!!」
「大丈夫か片桐!」
隣の部屋からやってきたのだろう。何人か俺の部屋に入ってくる。
「いっってぇ!やばい助けて佐川!!」
「…なんで俺の名前を⁉︎」
「ぐっ!...はぁ、はぁ」
やっと痛みが引いてきた。やっと、戻ってこれた。
「よぉ佐川。今日仕事の日だったはずだろ?早いな。またバケモンに食われてすぐに戻ってきたのか?」
「もしかして思い出したのか⁉︎」
「そうだよ。ちゃんと全部思い出したよ。前回と前々回の記憶をね」
色々と保険をかけておいたがちゃんと記憶を取り戻すことができてとりあえずホッとした。
「それにしても...なんでこれに触れたら思い出せたんだ?」
その手には、子供の頃から持っていた宝石のような石。俺の大切な御守りが握られていた。
おそらくこれで27回目の一日目。
もう、これで終わりにしてやろう。
御守りが伏線だと思った人どれくらいいたんだろう。
露骨すぎてバレてたかな。