トントン拍子で話が進んでいきます。
2016年12月2日(4日目)
「過去の俺はどこに記録を残したんだー?」
仕事中に俺はパソコンを立ち上げたが、どこに記録を残したのか見当もつかなかった。そもそもあるかどうかわからないものを探すのが辛い。探し物がちゃんとあるとわかっていないと探す気力も出てこない。
「記憶の継承頼りで記録残してないとかだったら困るぞ...」
と言ってもやることもないので闇雲に探していくしかないが。
「ほんとどこに書いてあるんだろ。多分鍵付きのブログとかSNSなんだろうけど...」
ブログやSNSも数がとても多い。それらから探していく作業は、まさに砂漠の中から小さな米粒を探すような重労働だ。どれだけの時間がかかるかわからない。
「まぁ時間はいくらでもあるし、気長にやっていくしかない...か。っととやべ、そろそろ時間か」
死ぬ時間が迫ってきた。急いで現場まで行って死んでこないといけなかった。
「また監視されても困るしな」
俺はさっさと着替えて外に出る。そして車に乗り込むと、一気に走り出した。
「本当の俺免許持ってないけど...いいよね。どうせすぐ死ぬんだし、この体の持ち主は免許持ってるし」
俺はそのまま死ぬ現場へと車で移動する。凍結スリップ注意の看板が置いてあるのが見える。
「このままこのカーブに入れば...!」
スピードをあまり落とさずに峠のカーブに入る。当然、冬場で凍結した道路を走ったためスリップを起こし、ガードレールを突き破って崖下へと落ちていった。
2016年12月4日(6日目)
「今日は...どこから取り掛かろう」
俺は電車に乗りながら携帯を操作する。どうやら田舎から都会に出てくる日に死ぬことになるらしい。だからこんな朝早くから移動していないといけなくなったのだ。
「とりあえずSNS類からやるか。それっぽいアカウントあるかなー」
東京に着くまでには結構な時間がかかる。その時間全てを利用して、さまざまなアプリを調べてみる。
「いや、無理だろこれ。多すぎて無理だろ。どうせ鍵付きだろうしどうすりゃいいんだこれ」
2014年10月4日から2016年9月30日までの投稿を調べてみるが、いかんせん数が多すぎて特定できない。
「暗号っぽい投稿してるやつ全然ないな...そうだ、自分のアカウントに残してるとかないかな」
忘れてたけど自分のアカウントがあったはずだ。ちゃんとログインのパスワードも覚えているしとりあえずログインする。
「……俺が死んだ日以降の投稿がある!ビンゴ!」
俺が死んだ日以降、30日おきに投稿がされていた。と言っても、どこかのサイトのリンクと、数字とアルファベットの羅列が並んでいるだけの投稿だが。
「これは何かの暗号...いや、パスワードか?」
とりあえずリンクのサイトに飛んで、一番最初のパスワードを打ち込んでみる。
「おっ、ログインできた。でも何書いてあるのかさっぱりわかんねぇ...なんの暗号なんだこれ初めてみる」
訳の分からないひらがなの羅列が並んでいた。シーザー暗号だとか縦読みだとかそういう次元じゃない。日本語として成り立っていない羅列すぎて訳がわからないのだ。
「文字をずらすとか何個おきに読むとかそんな感じなのかな...わからん。次行ってみよう」
次の投稿に載っているサイトに移動し、パスワードを打ち込む。
「今度はカタカナ...まさか全部別の暗号とかそんなわけないよな」
3つ目の投稿を調べてみる。
「そんなに長くないな。今度は英語か...いや何か変だな。英単語のスペルミスが多いな」
今まで見てきたなかでは一番わかりやすかった。スペルミスをわざとすることで、投稿制限から逃れたのだろう。正しいスペルに直して翻訳機にぶち込んでみる。
「えーっとなになに?『2015年1月8日 この石について少しずつわかってきた どうやら狭間の世界で最初に触れた人物がその能力を引き継ぐことができるらしい あの日に戻ると石の効果が切れるのが少し面倒だがなんとかやっていくしかない』...なるほどなるほど。次もやってみるか」
そうしてどんどんサイトを開いていき、内容を確認していく。けれど、きちんと中身を読めたのは三つ目のサイトだけであった。
「これ以上は暗号の解き方を調べていかないとダメか...っとと、降りないと」
電車を降りる。今から急いで乗り換えないといけない。別のホームで3分後に発射する電車に乗れなければ死因が変わってしまうのだ。俺は今までで1番の速さで駅構内を駆けていくと、扉が閉まるほんの少し前で中に飛び込むことに成功した。駆け込み乗車おやめくださいとアナウンスが流れるが気にしない。こっちは死にに来てんだ。
「危なかった...ギリギリセーフ!これであとは死ぬだけだ」
吊り革に捕まってしばらく電車に揺られる。しばらく経つと次の駅に停車する。そして何人もの人が出ていき、空いた車内に1人の男が入ってくる。扉が閉まり電車が動き出す。快速電車なのでここからしばらく駅に止まることはない。死の鳥籠が走り出す。
「そういえばここにいる人全員狭間の世界の人なんだよな。テロリストも含めてだけど」
先程入ってきた人は自爆テロの犯人だ。自爆なのでもちろん誰かが憑依していることだろう。
「……っ!」
テロリストは息を呑む。正確には憑依している人は、だが。
時間が来た。
テロリストの持っていた鞄の中に入っていた爆弾が爆発し、俺の体は木っ端微塵に吹き飛んだ。
2016年12月18日(20日目)
やっと大半の暗号が解き終わった。と言っても復号できたものはその殆どが既に知っていること、わかっていることや特に意味のないものだった。
「重要な情報はそれだけ複雑な暗号にしてるのかな。そこの部分がわからないとどうしようもなさそうなんだよなぁ」
最初と二番目、そして最後のサイトに書かれている暗号だけが解けない。それ以外のサイトは、そもそもの文の量が少なく、文字数がとてつもなく多くても、素数の部分だけ読むとかフィボナッチ数列とかそんなんで実際の文は短いという場合が多かった。
けれど、この三つの暗号だけは全く解けない。どれも、ひらがなかカタカナなのだが、考えるだけで億劫になるほどの文の長さ。それに、それを頭の中で復号しなくてはならないのがとても面倒くさい。パソコンならメモをとりながら復号することができるが、それでも面倒なことには変わりなかった。
「ここまでめっちゃ悩んできたけど、実はすっごい簡単な暗号でしたとかやめてくれよ...」
ここまで21個の暗号を解いていった。被りはなかったし、ネタ切れで雑な暗号になってる可能性もなきにしもあらず。それに、今まで復号できた情報から察するに、仲間を作らず一人でずっと活動してきたようで、自分ならすぐにわかるような解き方なのかもしれないのだ。
「チッ、今回も時間短いな。暗号解読の時間が全然取れねぇ」
死ぬ時間だけはずらせない。その制約がある以上、全ての時間を暗号解読に費やすことはできない。それに、1日が始まってすぐに死ぬ人、深夜まで生き残る人、昼まで寝ていて活動時間が短い人など、人によって動くことのできる時間もバラバラで限られている。
かといって、暗号を全て覚えて狭間の世界で解くことは量的に不可能だ。俺はこうして仕事の合間を縫ってやるしかないのであった。
2016年12月19日(21日目)
「片桐今戻りましたーつっても芦川さんしかいないんだよなこの時間」
「主要メンバーの大体が仕事ですものね。ところで暗号解読の方はどうなんです?」
「全然。まったく進展なしさ。最近の仕事は時間も取れなくて暗号の解き方を探す時間がないからさ。もしかしたらこの周期では全部は解けきれないかもしれない」
「こっちも手伝えたらいいんですけどねぇ...そういえば安達ちゃんの回収はしなくていいの?」
「あっそういえば今日だったか。ちょっと行ってきます」
ずっと同じような作業をしていたから日付感覚がわからなくなってきていた。言われなかったらそのまま忘れていたところだ。俺は急いで広場へと向かう。この時間ならまだクソ女神の部屋の中か、その近くにいるはずだ。
「えっと、どこだどこだ...いた!」
安達さんはちょうど部屋から出てくるところだった。さっさと近寄っていつものように肩に触れる。
「っ...!なんだあんたか。びっくりさせないでよ」
「しょうがないだろ。いい加減慣れろ」
「記憶ないんだから慣れろつったってできないよ」
「一理ある」
「それじゃあ先に佐川の部屋行ってて。一回部屋行って着替えてくるから」
安達さんは自分の部屋の方へと走り去っていった。俺も佐川の部屋に戻る。
「ただいまー。安達さん後から来るって」
部屋にいる芦川さんに報告をする。
「ふいー疲れた疲れた」
突如虚空から佐川が現れる。基本的に仕事が終わったら自分の部屋のベッドに転送されるのだ。最初はちょっとびっくりしたけどもう慣れた。ちなみに転送される時に人や物があると、勢いよく吹き飛ばされるから危険だ。それで何回か痛い目を見たことがある。
「佐川、安達さんもう少ししたらこっち来るから」
「そうなんだ」
その時、扉の外からドタドタドタドタドタと誰かが走ってくるような音が聞こえてくる。そしてその音の主は勢いよく扉を開けると、なにかを机に叩きつけるように置いた。
「ボイスレコーダー!使える!!」
「……へ?」
「なんか崖から飛び出す直前に車から脱出してて、崖の近くをウロチョロしてたら結局落ちて死んじゃったんだけど、海に浸かってないからほら!ボイスレコーダーが使えるの!!!」
「わかった、わかったから落ち着いて!耳元で叫ばないで!」
安達さんを引き剥がす。
「えっとつまり、死ぬ状況が変わったからボイスレコーダーの状態も変わった...と、そういうわけでいいんだよな」
「うん!」
「よっ...しゃ!これで暗号解かなくてもいい!ナイスだ安達さんでかした!」
喜びでテンションがおかしくなってきた。
「早速俺がこれつけてくるよ!次の仕事で適当にミスすれば自然にあの部屋に行けるはず!」
「いや片桐が行くのはやめた方がいいんじゃ...失敗した時のために暗号解読もやっててほしいし」
「えぇ...仕方ないな。適当に誰かにつけてもらうか」
「それなら私がつけてくるよ。元々自分の持ち物だし使い方は覚えてるから。回収は別の人に頼むけど」
「それがいい。それなら多少怪しまれても分散できる。それに仕事が始まって結構経った片桐よりも、初日のはずの安達さんの方がミスしても初仕事だからと思ってくれるはずだ。クソ女神もそういう風を装わないといけない以上きつい対応は取れないはずだしな」
「それじゃあ明日つけて回収は...その6日後くらいでいいかな。というわけで行動開始だ!」
2016年12月26日(28日目)
あの日、安達さんが仕掛けてくれたボイスレコーダーは今日回収予定だ。回収自体は別の人がやってくれるが、俺が戻ってきたら聞かせてもらうことになっている。今日は俺が一番帰りが遅くなるので、みんなには先に聞いてもらう手筈になっている。
「さんざん悩んだけど...なんだよこれ暗号でもなんでもないじゃねぇか!」
一応暗号解読は進めていたのだが、今日やっと解き方がわかったのだ。
「なんだよ後ろから読めばいいだけって。確かにそれなら書けるし読めるからいいんだろうけどそんなの縦読みと変わんねぇじゃねぇかふざけんな!」
多分、長い文章だったため、読み返す時のことを考えてこうしたのだろう。ってかなんで復号方法を乗っけておかないんだふざけんな。
「チキショウ悩んできたこの一ヶ月弱はなんだったんだ...これだけ頑張ったんだから重要な情報が出てこないと俺このパソコン殴り壊したくなるから頼むぞ」
物理的にパソコンをクラッシュさせてしまいたくなるのをなんとか抑えながら読んでいく。漢字になっていないためとても読みづらいが、一旦元の状態に直そうとするとそれはそれで制限によりパソコンがクラッシュするので、こうやって地道に読んでいくしか方法がなかった。
「二つ目のサイトはあんまし重要そうな情報は載ってないな。他のとあまり大差ない。さて、残り二つはどうかな...」
まず先に一つ目のサイトを開きログインする。そして後ろからひらがなをどんどん読んでいく。
「……………これ、間違って読んでないだろうな」
句読点はついているが、どこまでが一単語なのかが分かりにくいので、間違って読んでいないか疑ってしまう。それだけ、このサイトに書かれている内容は信じられないものだった。
「いやまさかそんな...いやでもそう考えると辻褄が...最後のも読んでみるか」
最後のサイトを開きログインする。ひらがなでできた何十行もの文章を再度後ろから読んでいく。
「こっちは...なるほど、クソ女神の目的か。あと少しで追い詰められるところだったのに御守りを手放して記憶の継承ができなかったのか。運の悪いやつだ」
過去の俺は、一人で、自力で目的を探り当てた。クソ女神を、24回ものループの果てに追い詰めることができたのだ。だけれど、その記録は一度失われてしまった。
「ほんとお前は馬鹿だな...仲間がいればこんなに時間はかからなかったってのに」
おそらく、今頃狭間の世界ではボイスレコーダーを回収して、盗聴した内容を聞いていることだろう。そしてその中には、クソ女神の目的が入っているはずだ。仲間を作ったことで、24回のループを3回、実質2回のループで越えることができたのだ。
「お前の意志は受け継いだ。ここからは任せてくれ、片桐陽介、
全てを閲覧し切った俺はパソコンをシャットダウンさせる。もうこの世界にようはない。帰ったら決着をつけるのみだ。
「ボイスレコーダー回収してきました!」
回収係が無事に帰ってきた。バレずに成し遂げられたようで何よりだ。
「片桐はまだいないけど...一度聞きましょう」
再生ボタンを押す。しばらくの間、安達さんとクソ女神の会話が続いた。
「ここらへんは飛ばしちゃっていいと思うよ、飛ばすね」
安達さんがボタンを押し、少しの間早送りをする。そして早送りが解除されると、ゴトゴトッ、という音が鳴る。机の縁の裏の見えにくいところに設置した音だろう。
その後、扉の音が鳴る。安達さんが部屋を出た音だろう。
『はぁー...最近ミスする人増えてきたわねぇ。まぁ魂の回収には支障はないし、未来が変わることなんて万々歳だから別にいいけど』
「…来た!」
ボイスレコーダーからクソ女神の独り言が流れてくる。
『もうほとんど魂の初期化は終わったし...あとは不死だとか長命になった人間くらいか。死なないやつの魂は持ってこれないしどうしようかねぇ...』
その後も、ボイスレコーダーに録音されていた内容を倍速を交えながら聞いていった。ほとんどは無言か新しく入ってきた人への説明だったが、馬鹿でかい独り言のお陰で目的を完璧に知ることができた。
「どうする?片桐が戻ってくる前にけりをつけることができそうだけど」
「待ちましょう。これを一番聞くべき人間は彼で、あのクソ女神を糾弾できる人間も彼だけよ。それよりも、私たちにはやらなければならないことがある」
「そう...だな」
この音声、なんとしてでも残さないといけない。俺たちはこの音声データをすぐに抵抗戦線のメンバーが持っている全てのパソコンに転送しコピーした。
これでクソ女神に一泡吹かせることができる。
たとえそれができなくとも、何度も戻ってきてやり直してやろう。
今回ぱっぱと進めないとだれちゃうからテンポ良くやったけど、ちょっと雑すぎたかな。
さて次回、クソ女神に一泡食わせることができるのでしょうか。