ちょっと短め+説明多めです。
2016年12月26日(28日目)
俺は狭間の世界に戻ってきた。自分のベッドから起き上がるとすぐに部屋を出た。
「あっあの!ボイスレコーダー回収したので聞いていって...」
野田さんが声をかけてくる。
「大丈夫。こっちの暗号解読が終わった。全部わかったよ。だから聞かなくても大丈夫だ。時間もないしね。みんなが次の仕事に行ってしまう前に終わらしたい。突入してくる」
「えっでも1人じゃ危険じゃ...」
「俺なら1人でも大丈夫だ。すでに覚悟はできている。佐川の電話にかけて会話を送るからスピーカーにして黙って聞いてて」
引き止めようとする野田さんを振り切って俺はクソ女神のいる部屋へと向かう。成功するかはわからない。けれど、きっと俺の望む形になると信じて、俺は勢いよく扉を蹴破るように開けた。
「な、なに⁉︎なんの用できたのよ!」
急に扉が開いたことにびっくりしたのか、クソ女神が変な声を上げていた。無様だ。これだけで来た甲斐があるというものだ。俺は後ろ手に隠していた携帯で佐川に電話をかけ、ポケットに隠す。これで会話があっちに届くはずだ。
「いやーちょっと...ね」
「…なによ。用があるなら早く言いなさい」
「ちょーっと聞きたいことがありまして...なんでこんな仕事をしているのかもう一度聞きたくなったんですよ」
さっそく本題に入る前に、少し油断させるために会話をすることにした。
「前にも言ったじゃない。忘れたの?死ぬということはとても辛いこと。だからその恐怖から解放するために憑依して代わりに死んでもらうのよ」
「そうですね。それで、この仕事はいつまで続くんでしたっけ?」
「一ヶ月よ」
「ちげぇだろクソ女神」
「…は?」
「永遠の間違いだろ。俺はもう27回目だ。一ヶ月経ったら記憶を消してもう一回やらされるのはもう知っている」
「…………」
黙りこくっているクソ女神を無視して話し続ける。
「死んだ日をやり直せるというのは嘘だ。そこでは以前なった死から逃れても別の死因で死ぬことなる。そしてまたここに戻ってくる。そうだろ?」
「………」
「そこで死因が変わっても現実世界の死因が変わらないことから、死んだ日に戻れるわけじゃないってのがわかった。もしこのまま何もしていなかったら、文字通り永遠とこの仕事をしていただろうな」
「………」
「それに本当の目的もわかってる。話すのめんどいし自分から言ってくれないか?」
「…カマかけようたって無駄よ」
「じゃあ話すしかないか。お前の真の目的は...死者の魂の回収、そして初期化だ」
「へぇ...それで?」
「まず最初に言っておこう。お前の名前はイシュタムだろ?マヤ神話における自殺を司る女神。死者を楽園に運ぶ役割を担っている神だ」
「…よく私の名前を知っているわね」
「まぁ、な。おそらくお前は誰か、別の神と敵対しているのだろう。それがどの神なのかは知らないが、多分輪廻転生を司るような神なんじゃないか?お前は未来が全て決められていて人がいつ死ぬのか確定しているこの世界を憂いた。だからその輪廻転生の流れを破壊しようとした」
「……」
「まず、お前は自殺者の魂を集めた。それ自体は本来の業務とほとんど変わりないから簡単にできるだろう。そして次にお前はその魂をその日のうちに死ぬ人間に憑依させた。"楽園"の定義を変えたりしてうまく誘導すればできないことではない。そして被憑依者が死んだ時、憑依者の魂と一緒に回収する。そして回収した魂を初期化して元の世界に戻す。これがお前のやっていることだ」
「…何を根拠にそれを言っているのかしら。それに推理に曖昧な部分も多いし説明になってない」
「"よく私の名前を知っているわね"とかほざいてたのはどこのどいつだったかなぁ?お前がイシュタムだと認めた時点で証明は終わっている。行動の過程は分からないことが多いが、結果はもうわかっている。俺たち自殺者を集めて仕事をさせ、魂を...俺が前にこの部屋に来た時に弄んでいたボールのようなものを回収する。それらが紛れもない事実なことには変わりない」
「…っ!」
「…今言ったことハッタリのようなものだったのにその反応で確信できたよ。お前わかりやすいな」
「騙したわね」
「こっちは騙そうだなんて思ってなかったんだけどなぁ...勝手に引っかかって何言ってやがんだ。それに元々悪いことしてんのお前だろ」
「チッ!」
「話を戻そう。初期化された魂は本来通る道を外れて別の人生を歩み出す。だからお前は全ての人間の魂を初期化して全ての世界の未来を不確定にしようとした。でも、失敗した。それは今日、今も仕事が継続されていることからわかる。まだ全ての人の魂の初期化には成功してないし、そもそも初期化させた人も結局生まれた瞬間に人生が確定してしまうからこれを続けることに意味はない」
「…意味はある」
「そうだな。神の生命事情は知らんが、多分これをさらに続けていけば敵対している神は死ぬってことなんだろ?このまま普通の死人の魂が奪われ続けると存在意義を失って消えるとかそんなんだと思うけど。計画に失敗したお前はそもそもの元凶を叩くことにした。そうだろう?」
「…よくそこまで調べ上げたわねあなた。片桐陽介、それを知っているのはお前だけか?」
「そうだ。一人で調べた結果だ」
これは保険だ。万一俺が失敗しても、他の誰かに託すための保険である。
「俺はお前を止めにきた。確かに全て決まっている人生だなんてつまんない。そこにだけは俺も賛成だ。だけど、方法が間違っている。やるならちゃんと説得すりゃよかったんだ」
「はぁ...あなたと同じように、永遠に仕事をすることになると見抜いた者が過去にいたわ。流石に私の目的までは探り当てられなかったみたいだけど。大体30年くらい前だったかしら」
観念したのか、クソ女神...イシュタムが話し出す。
「あの男、小名木勇平はどうやったのか知らないけど記憶を引き継ぐことに成功していた。記憶を消すことに失敗したわけじゃなかったのに何故か覚えていた。どこかにメモでも残してたのかしら。最初の仕事から70年近く経ったのち、私の前に立ち塞がった」
「小名木...勇平...」
「彼は私にこう言った『俺はお前を止めにきた。確かに死ぬのは辛いし怖い。だからその恐怖から開放してやりたいってのはまだわかる。でも方法が間違っている。誰かが犠牲となった開放じゃダメなんだ』ってね」
「そうか、それで?」
「あいつには隙をつかれてアレを奪い取られてしまったが...あいつはそのあとどうなったと思う?」
「……」
「この世界から消えてもらったよ。仕方なくだけど元の世界に戻ってもらった。どうせ次の人生になったら記憶は無くなるし死んだら初期化するから問題ない。小名木勇平は消えた」
「そう、か...」
「そしてこれでお前も終わりだ片桐陽介!小名木勇平と同じようにこの世界から消えてしまえ!」
俺の体の周りに光の粒子が集まり出す。完全に光に飲み込まれてしまえば、俺はこの世界から消えることになるだろう。
その前に、俺は勢いよく走り出すと右手にあの御守りを握りしめてイシュタムの顔面を思い切り殴りつけた。
「いっっっった!!!あなたなにを...ってかその宝石!」
イシュタムが俺の持つ御守りを指差して言う。
「どうしてあなたがそれを...まさか、あなた小名木勇平⁉︎自殺して戻ってきたというの⁉︎」
「へっ!お前のこと一発ぶん殴ってやりたいとつくづく思ってたがやっと叶ったぜ、イシュタム!」
「小名木勇平!それを返せ!!」
「もう遅い!お前は気付くのが遅すぎた!」
光が俺を包み込む。もうイシュタムでもこの光を止めることはできない。それは光に包まれながらも宝石を奪い取った小名木勇平を、そのまま取り逃したことから証明できる。
「いいかイシュタム。俺は必ずまた戻ってくる。お前の野望を止めるために、みんなを解放するために必ず戻ってくる。首を洗って待っていろ!」
俺は光に完全に飲み込まれて、狭間の世界から完全に消え去った。
「片桐さん...」
「消えた...のか」
俺たちは片桐の指示に従って電話に出て、スピーカーモードにして会話をみんなで聞いていた。しかし、その電話は前触れもなく突如として切れてしまった。
「電話が切れたってことはそういうことだよな。多分」
「大丈夫なんですか!片桐さん消えちゃったんですよ!」
「そう...だな。そうだ。消えた。片桐はこの世界から去っていった」
「そ、そうだ!俺たちも同じようなことをすれば!」
「無理だ。俺たち自身には記憶継承の術がない。元の世界に帰らされることなくループによって記憶を消されるだけだ。それに...片桐は必ず戻ってくる。俺たちを開放するために戻ってくると言い切った」
「…そうだな。変なこと考えた。ごめん」
「いや、謝らなくてもいい。そんな暇があるのなら、俺たちにしかできないことをやっていこう。安達さん、ちゃんと録音できたか?」
「バッチリよ」
「よし、そのデータを全てのパソコンに移せ。俺は片桐の部屋を漁っておく。片桐が消えたのに俺たちの記憶が残っているってことは、部屋に置いていた鞄の中身も消えてないはずだ。メモがあるなら、それは一生消えない情報源になるはずだ」
俺たちはそれぞれできることをし始める。
片桐がここに戻ってくる、その日まで。
俺はまた繰り返す。
イシュタムの野望を止めるため、何度だって繰り返す。
伏線をはるのがが難しくてできなかったので、こんな感じになりました。
ちゃんと伏線はって今回の説明で回収するとかできたらよかったんだけど...文才ある人が羨ましい。