死人多め回。
2032年5月2日
「よし、今日は死なない」
朝起きて、しっかりと自分の意識を保てていることを確認する。これで今日は何をやっても死ぬことはない。まぁ今日意識不明の重体になって明日死ぬとかはあり得るため、怪我や事故などには気をつけないといけないことには変わりないが。
「あれ?もう両親とも仕事に行ってるのか早いな」
自分の部屋を出てリビングに向かうと、もうすでに誰もいなかった。机にはラップされた朝食と、今日も仕事遅くなりそうだから昼食と夕食は自分で用意してという書き置きがあった。
「こっちとしても一人になれるのは助かるんだけどね」
冷めているご飯をレンジでチンして食べ始める。
「やっぱり連絡はこない...か」
朝食を食べながらスマホを操作する。俺が立ち上げたブログサイト。狭間の世界で得た情報を書き留めておき、情報共有をするサイト。昨日、そこに今の俺のことを書き込んでおいたのだが、なかなか返事がこない。なんのアクションもない。
「10年近く更新されてないしこのサイトもう使われてないのかな...見てるやつ1人くらいはいるかなって思ったのに」
16年も経って記憶の継承にミスったのだろうか。まぁ宝石の力がなければ記憶を引き継ぐことも難しいことだし仕方ないことだが。
「これが使えないのならどうやって連絡を取ろうかな...」
新しい方法を考えておく必要がありそうだった。けれど、直接連絡を取る方法はそれくらいしか思いつかない。
「あっ、あんじゃん連絡方法」
なんでこの考えが今まで出てこなかったんだろう。少し頭が硬くなっていたのかもしれない。
「思い立ったが即行動っと」
俺は朝食を食べ終えると、身支度を整えて家を出た。
「出てみたはいいけど...見つかるかな」
俺は今日死ぬ人間を探しに来ていた。その人に直接コンタクトを取って伝言をしようと思ったのだ。そっちの方が手っ取り早い。
「死にそうな人死にそうな人...って見た目でわかるわけないよな。どうやって見つけよう」
狭間の世界の人間はそのことを公言できない。自分から今日死にますと言ってくれる人なんていない。
「事故にしても他殺にしても死ぬ時なんて急だし...ほんとどうやって見つけようかな。人の死にそうなところといえば...」
今の俺には70年ちょい分の死の記憶がある。そのほとんどが小名木勇平の時の記憶ではあるが、総計13000回の死の記憶は自らに多くの知識を残してくれていた。
「この感じ...多分あっちだ」
半ば引き寄せられるように移動していく。
「多分ここ...ってもう手遅れか。出遅れたな」
おそらくここなら交通事故が起こると思ったのだが、もうすでに多くの野次馬が集まっていたので近寄ることができなかった。背伸びをしてなんとか見ようとしても、一瞬だけ赤く染まった地面を見ることしかできない。あの感じだともう既に事切れてしまっているだろう。
「仕方ない、他をあたるしかないか」
すぐにその場を後にする。他に事故が起こりそうな場所を想像しながら歩いていく。
「次は多分こっちかな」
なんとなくではあるが事故の気配がしたのでそちらに向かって歩いていく。
「多分ここら辺だよな...うわ危ないっ!」
嫌な予感がしたので横を見ると、こちらに向かって軽自動車が突っ込んできていた。慌てて身を捩ると、軽自動車は俺の真横を通り過ぎていき電柱に衝突する。
「あ、危なかった...事故の気配がまさか自分に降り掛かってくるとは思わなかった」
やはり、今日死なないという確証があったとしても安心できそうになかった。
「こうしてる暇ない。早く行かないと」
事故った車を無視してその場を離れる。あの速度じゃ死にはしない。
けれど、歩いてしばらく経った時、後ろの方から轟音が響いた。何かが倒れた音だった。
「…おい、まさか!」
後ろを振り返る。電柱が倒れていた。おそらく先ほどの衝突によって折れてしまったのであろう。問題はそれが落ちた場所だった。
「クソっ判断ミスったか」
人が下敷きになっていた。倒れてきた電柱のちょうど先端が頭に直撃したのだろう。頭から大量の血を流した人が電柱の下敷きになっていた。身動きひとつしていない。意識を失っているか、最悪もう死んでいる。
もし、俺がその場に残っていたなら。俺は潰されそうになっている人を突き飛ばして助け、狭間の世界への伝言を残すことができていたかもしれない。チャンスを棒に振ったのだ。
「もう後の祭りか...もうここでできることはない。行くか」
また行こうとした時に事故が起きる、といったことになりそうな予感はしたが、これ以上事故の原因となりそうなものは無さそうなので祈りながら移動する。
「えっと多分次はここらへん...ううっ、何か悪寒がする。上か?」
上を見上げる。
「あっ」
異変に気づいた瞬間、急いで身を捩る。
「っっっっぶねぇ!」
避けれたのは、2016年10月15日の仕事の記憶があったからであった。落ちてきたのは、1人の男だった。
「…まだ息がある。おいお前!伝言を頼みたい!狭間の世界の佐川に伝えてくれ!」
俺は宝石を取り出して男に触れさせようとする。
「ゴブッ、グブッ、はざ...ま...?なん...のこと...だ」
けれど、その手はすんでのところで止まった。おかしい。宝石に触れたならまだしも、まだ触れていないのに狭間の世界の人間がそのことを口に出せるわけがない。
「まさか...まさか⁉︎」
上を見上げる。廃ビルであるその建物には、屋上にも途中の窓にも人の気配はなかった。誰かに落とされたという可能性はなさそうだった。ということは、それが意味していることといえば、それは...
「お前まさか飛び降りを⁉︎」
突き落とされたのでないならば、残る可能性はそれしかない。
「だめだ...だめだ!死んじゃダメだ!自殺だけは...それだけはしちゃいけない!」
もし自殺してしまったら、この男は狭間の世界に送られ、あの仕事をすることになってしまう。それだけはしてほしくない。
「今なら...まだ...!」
今救急車を呼べば、ギリギリだが助かるかもしれない。この男の意志にはそぐわないかもしれない。死にたいと願ったこの男の意志を踏み躙るものかもしれない。けれど、あの仕事をさせるのくらいなら妨害させた方がマシだ。
「やめ...てくだ...さい。通報...しないで...」
「ぐっ..」
スマホを操作して119番通報しようとしたが、引き止められる。
「この世界に...で...生きてく意味はない...いくら死んでもいいから...」
「……」
再度引き止められる。
「…わかったよ。お前の中に覚悟をみた」
多分だけど、今から119番通報しても間に合わないだろう。だったら、俺にできることは一つだ。
「もう少し、もう少しだけ生きててくれよ...」
スマホを操作する。まず最初にロック機能を解除する。そしてメモアプリを立ち上げて急いで文章を書き記していく。時間との勝負であった。
「あと少し...あと10秒でいいから!」
最後まで書き切ると、俺はスマホを男の手に押し付ける。
「よし、もう死んでいいぞ」
「ふっ...面白い女...だな...」
そう言い残して男は喋らなくなった。けれど、まだ多分死んでない。いつ死ぬかまでは俺でもまだわからない。俺は男が動かなくなってからも、しばらくスマホを手に押し付けていた。
いつのまにか誰かが通報をしていたのか、警察と救急隊がやってきた。もう既に死んでしまっている男は救急車に乗せられて運ばれていった。俺は最初の目撃者であり、最後まで男の近くにいたので警察の事情聴取を受けることとなった。スマホを押し付けるなどの奇行は自殺現場を目撃したことと、もしかしたら巻き込まれていたということによるパニック状態ということにして警察の追求から逃れた。
「これで...連絡が取れる...」
なぜスマホを押し付けていたのか。警察には説明しなかったが、本当の目的は狭間の世界との連絡だ。死ぬ瞬間に持っていたものは狭間の世界に持ち込むことができる。だから俺のスマホのメモにブログサイトのことを書いておき、そのスマホを男の手に押し付けた。これでメモの残っているスマホが狭間の世界にいくはずだ。
「これで明日になれば連絡が来るはず...!できれば安達さんと連絡したい。話しやすいし」
安達さんも確か地球担当だったはずだ。他の地球担当の人と比べれば付き合い長いし話しやすい。
「明日が楽しみだなー」
事情聴取で時間を食ったのでもう夜だ。俺は電車に揺られながら、明日という希望を待ち望んでいた。
2032年5月3日
「…あれ?連絡来てない...なんで?」
もしかしたらだけど失敗した?死ぬ瞬間にスマホを持たせることに失敗した?それともイシュタムにバレたか?いずれにせよちゃんと届いたのなら連絡が来るはずなのに。
「ちゃんと託したはずなんだけどな...自殺じゃなかったわけないし。いったいどうして...あれ?」
何か忘れているような...
「やっべ忘れてた!今日連絡くるわけねぇじゃん!時間差あるの忘れてた!」
狭間の世界に着くのは自殺してから9日後。まだ1日しか経ってないので連絡が来るどころかメモすら届いてない。
「連絡が来るのは早くても5月11日...ゴールデンウィーク終わっちゃうよ。待ってもいいけど早めに連絡取りたいな。いつ死ぬかわからないし」
しばらくの間だが、死ぬ人を探すという訳の分からない日常を過ごすことになりそうだった。
伝言は残した。
いつか死ぬ命ではあるが、あと少し、もう少し生き延びなければ。
この話を書くのに2日近くかかった。学校で忙しいとはいえ難産すぎる。
おかげでストックが全て吹き飛びました。