詰めにかかります。
2032年5月12日
あれから、結局死ぬ人を通じて連絡を取ることが出来ず9日経った。
「よし、今日も生きてる。そして今日、やっと連絡が取れる!この日をどれだけ待ったことか!」
11日になれば連絡が取れると思っていたけれど、メモを持った男が狭間の世界に着くのが11日で、実際に連絡が取れるのは12日だった。それを忘れていて昨日はものすごいぬか喜びをしてしまった。
「ふわぁ〜...眠い...えっとえっとブログの調子はっと...」
今日は少し早めに起きた。学校が再開して自由に動ける時間が減ったのでこうして遅寝早起きして時間を確保している。そのせいで少し寝不足だ。授業中バレない程度に目を閉じてなんとか眠気を解消している。
「おっ、連絡来てる!」
ちゃんとメモを見てくれたみたいだ。そしてこのブログに書かれた俺の書き込みを見て、日本の千葉付近で仕事をすることになった人が書き込んでくれていた。これである程度情報の共有ができるようになった。
「おっ!安達さん千葉じゃん。放課後来てもらお」
書き込む時のルールとして、
自分の本来の名前
憑依した人間がどこの誰なのか
死ぬ時刻と場所
連絡するためのSNSのアカウント
は必ず書き込むようにしてある。
こうすることにより、特定の個人と連絡を取り情報共有を円滑に進められるようになっている。そして安達さんがこの近くに住んでいる人に憑依していて、死ぬ時間が深夜で時間が空いていることを確認した俺は、書かれているSNSのアカウントに直接連絡を取り、放課後に落ち合う約束をした。
「よし、これでよし!学校さっさと終わらして安達さんと話そ」
今日も今日とて両親は既に仕事に出掛けている。起きた時、ちょうど出掛けていくところだった。この親仕事ばっかで子供と遊ぶこと全然ないらしい。大丈夫かなこの両親、俺が覚醒してなかったらこの子多分病んでたかもしれないのに。一人でいるのがいいとか言ってたし。
そんなこんなで俺は朝ごはんを一人で食べ終えると、学校へと向かったのであった。
「学校終わりー。もう安達さん待ってるかな?」
授業はほぼほぼ寝た。仕方ないね、全くわからないし。帰りのショートホームルームが終わった瞬間に荷物を持ち、教室を飛び出した。部活をやってないからこのまま学校を出て安達さんと落ち合う約束をしたカフェに入る。
「いらっしゃいませーお一人ですか?」
「あっいえ、中に知り合いが...あっあの人かな」
こちらに向かって手を振ってくる人がいた。多分あの人だろうな。その人のいるテーブル席の向かい側に座る。
「安達さん...で合ってるよね?」
うんうんと頷く目の前の女子高生らしき女の子。なんで喋らないんだろう...あっ、そっか。
「喋らないんじゃなくて喋れないのか。ちょっと待っててね宝石出すから...はい」
手を出してもらい、宝石を触れさせる。
「…おっ、しゃべれるようになった。こっちでのこと話そうとしたら全部妨害されるんだから...」
「まぁしょうがない」
宝石に触れれば制限が全て解除される。触れるまでは狭間の世界のことや、それに関係することを口に出すことができない。先ほどまでずっと黙って頷いていたのはそういうことだろう。
「それにしても...まさか本当に女の子になってるだなんてねぇ。そこら辺どうなの片桐さん?」
「面白がってるんじゃないよ安達さん。そっちだって女子高生になってるのに。ってかそこら辺ってなんのことさ」
「私はもともと女だし。あんた元々男でしょ?女子高生になってどうしてんのかなって」
「そんなこと言われても...普通だぞ?」
「普通って...こう、なんかあるじゃん。女子に生まれ変わってこうした...みたいな?」
「いや考えてもみろよ。70年近く仕事してたんだ。女に憑依することだってそれこそ何千回もあるよ。この沙優の人格も残ってるしね一応」
「へー。そんなもんか」
確かに小名木勇平のころの初めての仕事で女に憑依した時は結構色々やったような記憶がある。まぁ今じゃ完全に慣れきって何も感じなくなっている。なんか精神の性別が曖昧になってる感じがする。まぁ本来の人格の三分の二は男だしどっちかっていうと男よりなのだが、女も混ざっているためほんとに両性化してしまっている。
「そんなことはどうでもいいんだ。今の狭間の世界について教えてくれ」
「ああ、そういえばそれで呼ばれたんだっけ。えっとねぇ...」
安達曰く、抵抗戦線は完璧に残っている。そして、イシュタムの部屋にしかけて盗聴した音声データと、俺とイシュタムの話している音声データが複数のパソコン間でコピーを繰り返すことで16年間残すことに成功していて、情報を絶やさないようにしながら俺が帰ってくるのを待っているらしい。俺が帰ってくるまで、各々イシュタムに一泡吹かせようと努力しているが、未だ成功していないそうだ。
「よかった、みんな俺がいなくても頑張ってるみたいで」
「そうそう、みんな頑張ってんだよ。だからあんたも早く戻ってきなさいよ」
「俺はまだ戻らないよ。少なくとも、イシュタムの野望を止められるようになるまでは...ね」
「へぇ。でもどうやってやるのさ。何か方法があるの?」
「今はまだ...だけどなんとなくやり方はわかってきた。成功するかまではわからないけどね。そのためにちょっと教えてほしいことが...」
「なになに?」
俺はこれからやろうとしていることを安達さんに話す。そして頼みたいことをお願いした。
「…結構えげつないことしようとしてるね...私が言えることじゃないけど。りょーかい、戻ったら調べてみるね。わかったらブログに書いておくから」
「ありがとう。あっそうだ。こっちのSNSのアカウント教えるからそっちに直接お願い」
「り。私そろそろ死ぬ時間だからじゃあーねー」
お金を置いて安達さんは行ってしまった。なんかちょっと多いな。そうだ俺何も注文してないじゃん。だからか、気が効くなぁ。
「あっ店員さーん注文お願いしまーす」
適当にココア注文して飲んで俺は家に帰った。
2032年5月16日
「よし今日も生きれる」
朝起きていつもの確認をする。
「おっ安達さんからメッセージ来た!えっとなになに...なるほどなるほど。よし、裏付けちゃんととれた。じゃあ探すか」
俺はSNSを立ち上げる。探すのは自殺志願者。ネット上にて自殺を仄めかしている人だ。日本では毎日90人ほど自殺している人がいるという。その中にはネットで自殺すると宣言する人もいる。実際、前に狭間の世界に伝言を頼んだあの男も、後々調べてみたら書き込んでたみたいだし。俺はそういう人にコンタクトを取ろうとしている。
「安達さんの話だとここ数年新しく入ってくる人が増えてってるらしいし、ということは自殺者が増えてるってことだよね。今日中には見つけたいな。明日死ぬかもしれんし」
それっぽいキーワードを打ち込んで探し回る。何人かそれらしい人は見つかるが、大半が冗談で書かれているようなもので、本物っぽいものもここから遠すぎて会いにいけそうにない。できればこの近く、千葉県内で自殺したいものがいてほしい。
「………これどうだろ。なんとなくだけど本物臭がする。どこ住みかなー」
過去の投稿などを見てどこ住みかを特定する。数少ない情報でも、俺は仕事で世界中を渡り歩いてきたからどんなところだって特定できる。
「ってかこいつどこかで見たことあるような...」
十数年前の投稿に自撮り写真があったのでそこに写っている背景から特定しようとしていたのだが、写っている顔にほんの少しだが見覚えがあった。どこで見たんだっけこの顔...
「…そうだこいつ銀行の時のあいつだ。飲み会誘ってきた同僚!なんか見覚えあると思ったらそういうことか!」
あれは確か2016年10月21日だったはずだ。酒に弱い銀行員に憑依してた時に飲み会誘ってきたやつ。宝石のおかげで全ての記憶を完璧に思い出してとどめられるようになっていたから覚えていた。
「あの銀行千葉だったよな...そうだ確か佐倉の方だ。連絡とるか」
DM機能が開放されていたので直接連絡を取る。適当に自分も自殺したいので一緒にやりましょうとでも送っておく。
「返事待つのめんどくせぇな。場所わかってるしもう行くか」
俺は親が用意したご飯をさっと食べると歯磨きもせずに家を出た。
佐倉に着く前に返信が来た。急な連絡だったし知らない人だから警戒しているのだろう。最初は突き放すような感じのメッセージが飛んできたが、根気よく何度も送り続けたおかげでなんとか了承してくれた。
「ここの屋上で待ち合わせって話だったよな」
俺はとあるマンションにやってきた。あの銀行員はここに住んでいて、ここの屋上から飛び降りて死のうと思っているらしい。エレベーターで最上階まで登ってから、鍵の壊されている屋上への扉を開けて屋上に出る。そこには既にあの銀行員が立っていた。
「君が連絡を取ってくれた人...なの?高校生?」
「高校生が自殺考えちゃ悪いんですか?」
「…いや、そうだね。ごめん」
確認取るように聞いてきた。多分だけど警察が自殺志願者を装って連絡してきたと思ってたのかな。それなら警戒してた理由も納得できる。
「どうして君は自殺を?」
「えっとねぇ...」
ヤッベ考えてなかった。適当に誤魔化しておこう。
「両親がね...仕事ばっかで干渉してこないし、学校も辛いことばっかで...」
結構それっぽいこと言えた気がする。
「大変だったね...」
「そういうあなたはなんでなんです?」
「僕?僕はね、後悔したから...かな」
「後悔?」
「だいたい16年くらい前のことなんだけどね...酒に弱いって話を聞いてたのに同僚を飲み会に誘っちゃったんだ。いつも誘っても断られるけど上司に言われて仕方なくね。その日はなぜか了承してくれたんだけど、まさかあそこまで酒に弱かっただなんて知らなくて...」
…そんな裏話があるだなんて知らなかった。そして16年間後悔していたのいうのかこいつは。
「今までずっと後悔してたんだ。ずっと罪の意識に苛まれてて...それで...」
後悔していたのは本当だろう。罪の意識に苛まれていたのも本当だろう。でも、16年は遅すぎる。まぁ俺は気にしないけど。
「なるほどなるほど。それは辛かったねぇ...」
「わかってくれるのかい?」
「まぁね」
だって当事者だし。
「あっそうだ。やらないといけないことがあったんだった。ちょっとこれ持ってもらえる?」
俺は宝石と、ジップロックに入れた一枚の手紙を見せる。
「なんだいこれは?」
「大丈夫大丈夫。これ持って死ぬだけでいいから。遺書...みたいなものかな」
「君が持てばいいんじゃない?」
「あなたに持ってほしいの。持ってるだけでいいから、ね」
「そこまで言うならいいけど...」
宝石と手紙の入ったジップロックを手渡す。男はそれをポケットに押し込んだ。宝石に触れて何もならないことを確認する。
「死んでから最初にあった人にそれを渡してね」
「天国が本当にあったらね」
そう言って男は屋上のフェンスを乗り越え、縁に立つ。
「君も来なよ」
「後から行くから。見届けてあげる」
「そっか」
男は深呼吸をすると、意を結したようにこう言った。
「じゃあね。話を聞いてくれてありがとう」
男は掴んでいたフェンスから手を離し、飛び降りようとする。
「こちらこそありがとう。目的のための犠牲となってくれて...ね」
男が手を離した瞬間に背中をドンッと突き飛ばす。
男は絶叫しながら地面へと落ちていき、地面と激突して派手に血飛沫を上げながらその命を散らした。
「……よし、これで...終わりだ」
これで俺がこの現実世界でやれることは全てやり終えた。あとは、最後まで見届けるだけだ。
俺もフェンスをよじ登り、縁に立つ。
「ごめん。娘が死んで悲しいだろうけど、これは何千万人もの人を救うためなんだ。わかってくれ」
両親への懺悔を呟く。
「もう一万回以上死んだんだ。今更死ぬことを恐れるな」
フェンスを掴む手が震えているのを、無理やり自分に言い聞かせて押しとどめる。
「さぁ、みんな待ってる。今からそっちに行くよ」
俺はフェンスから手を離し、一歩、足を踏み出した。
一瞬の浮遊感ののち、重力に従って落下し出す。けれど、そこに恐怖はない。だんだんと近づいてくる地面に恐怖なんてない。なぜならそこは、希望への入り口だからだ。
地面に激突して死ぬ瞬間すら、俺は希望に満ち溢れていた。
さぁ、全てを終わらせる時が来た。
自分の手では解決できないけれど、託すことはできる。
次回最終回です。