死亡代行サービス   作:ダイヤモンドリリー

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5849字。

最終回です。
詰め込んじゃったけど許して。


普通の人生

2032年5月25日

 

俺は真っ白な部屋に寝ていることに気づいた。ここに来たのは何回ぐらいだろう。大体800回以上は来ただろうか。親の顔より見た...訳ではないな。うん。

 

「さっさと行こう」

 

俺は扉を開けて何もない空間を歩く。急ぐ気持ちが、無意識に歩みを早めていき、気づけば早歩きになっていた。

 

さて、もうそろそろイシュタムのところに着くはずだ。

 

「狭間の世界へようこそ、戸崎和人」

 

イシュタムの声が響く。気がつけば、いつものイシュタムの部屋についていた。今まで考えたことなかったけどこの空間どうなってんだろ。わけわからん。

 

「あなたは選ばれたにんげ...ん...えっ?女の子?あれなんで?」

 

イシュタムがいつもの定型文を言おうとして固まる。そして資料を急いでめくって確認していた。

 

「えっ、あれっなんでなんで?どういうこと訳がわからない」

 

とりあえずここは何も知らないふりをしておこう。

 

「えっと...戸崎和人って誰のことですかぁ?」

 

「え、えっと...ちょっと聞きたいんだけどあなたの名前って何?」

 

「私ですか?私の名前は富田沙優ですよ?」

 

「富田沙優...そんな子来る予定あったっけ...見当たらない...」

 

なるほど、やはり記憶を取り戻した俺が関与したことで未来が変わったのだろう。本来自殺するはずだった人が他殺になり、自殺しない人が自殺することになった。これある意味イシュタムの望んだことだよな...

 

「そもそもここどこなんです?私飛び降りて死んだんじゃ...」

 

「えっ、あっ、そうだ説明しないと...こほん!」

 

大きく咳払いをするイシュタム。あたふたしてるの見てて面白いな。めっちゃいじり倒したい。

 

「あっ忘れてたここ座りなさい。こほん!」

 

咳払い二回目。ほんと面白いなこの女神。

 

「ここは狭間の世界。現世とあの世との間にある世界よ」

 

いつもの定型文に戻った。つまらないな。適当に相槌打っておこう。その間にバレないようにスマホを取り出し、俺は電話をかける。この世界に来たなら繋がるはずだ。スピーカーフォンに切り替えておく。

 

「あなたにはね、とある仕事をしてもらうことになったの」

 

「仕事...ですか。それって、何度も何度も死ぬことですよね」

 

「…急にあなたは何を言っているの」

 

イシュタムに緊張が走る。

 

「何度も何度も、人に憑依しては死ぬ。30日間だけでなく、永遠に...ね」

 

「…どうしてそれを知っているのかしら」

 

「どうして?そりゃあ...全部覚えてるからだよクソ女神、イシュタムよぉ」

 

「私の名前...!さてはあなた!片桐陽介!」

 

「気づくのが遅ぇよ。舞い戻ってきたぜ」

 

「宝石を返しなさい!」

 

イシュタムが胸ぐらを掴んでくる。

 

「悪いけど、ここに宝石はない」

 

「ハァ⁉︎あんた捨ててきたというの⁉︎」

 

「へへっ、悪いねぇ...みんな!この部屋に集合だ!全員連れてこい!」

 

俺は口元にスマホを持ってくると、佐川へと号令を飛ばす。

 

「あなた!嘘ついてたのね!」

 

「そりゃそうだろ。仲間売るとかありえねーし」

 

外から、少しずつ大きな足音が近づいてくる。16年の間にどれだけ仲間が増えたのだろう。推定何万人もの足音がドンドンと響いてきていた。そしてバンッという扉の開く音がして、大勢の人が中に入ってくる。

 

「よぉ片桐。いや、今は富田だっけか?」

 

「久しぶり、佐川」

 

「いやぁ、安達さんから聞いてたけどまさか本当に女の子になってるなんてね」

 

「ほら言った通りでしょ」

 

「よく戻ってきました片桐さん」

 

「みんなおかえり。現実からこの地獄のような世界に舞い戻ってきたぜ」

 

部屋には十数人しか入ってこれなかったけど、外にはものすごい数の人がいることだろう。入口が人でいっぱいで外が見えない。

 

「何人くらいいるの?」

 

「ざっとだいたい四千万くらい?」

 

「四千万⁉︎増えすぎでしょ!」

 

「まだ今日始まったばかりだしこれでも全体の半分くらいしかいないよ。この世界にいる人のほぼ全てメンバー入りしてるから」

 

「…なるほど。俺がいない間よくがんばったよみんな」

 

「この世界全員を...⁉︎」

 

イシュタムが驚愕の声を上げる。

 

「で、でもこんな数だけ揃えたって無駄よ!全員この世界から消しとばしてやるんだから!」

 

「そんなことしたら逆効果だぜ。あの方法じゃあここに持ち込まれた物全てを消すことはできない。情報は残り続けて後から来た人にも真実が知れ渡ってしまう。それに減らしたら明日仕事をする人がいなくなっちまうだろ?お前はそれを避けるはずだ」

 

「ぐぬぬ...だったら半分に分けて一度やり直してもらおうかしら。もう宝石はないんだから記憶を引き継ぐことはできまい!」

 

「それだって意味がない。結局半分残った人が戻ってきたもう半分の人に記憶を引き継いで終わりだ」

 

「……くっ!」

 

「お前は何もできない。もう八方塞がりなんだよ!」

 

俺はイシュタムに向かって指をビシッと指す。

 

「………そうか、そうだわ。ふふふふふ」

 

「…何がおかしい」

 

「そうね、あなたの言う通りだわ。私には貴方達をどうもすることもできない」

 

「そうだな。それで?」

 

「私は貴方達に何もしない」

 

「なに⁉︎」

 

佐川が驚きの声を上げる。やはりそうくるよなお前は。

 

「結局、貴方達が何を知っていようと関係がない。日付が変われば仕事が始まり、死んで戻ってくる。いくら抵抗しても、仕事を動かしているのはこの私。止められる権利を持っているのもこの私!私が認めなければこの仕事は永遠に続けられる!」

 

「お、おいどうすんだよ片桐!」

 

「貴方達がいくら群れたところで神には逆らえない!人間は大人しく神の前にひざまづいていればいいのよ!」

 

「………」

 

俺は黙りこくる。まさか、俺が思った通りのことを言ってくれるだなんてな。

 

「何か言いなさいよ。黙ってちゃつまんないわ」

 

「そうだな、確かに俺たちじゃお前には敵わなかった」

 

笑うのを抑えながら、ゆっくりと話し始める。

 

「70年間、俺は記憶を消されながら何度も繰り返して真実に近づき、消された。そして10年間普通の人生を送り、記憶を取り戻して15年間現実世界で解決策を探った。そして2年間、今までと同じように一人で真実を探り続けた。やっと真実を手にした俺はその後記憶を失った」

 

今までを全て振り返る。こうして振り返ってみると、俺は無謀にも一人で抱え込み頑張ることが多かった。

 

「記憶を失った俺は、宝石を手にする前の本来の性格を取り戻して仲間を頼った。そのおかげで簡単に真実に辿り着くことができた。三度目の人生はすぐだった。やるべきことをやってすぐここに来た」

 

けれど、仲間に頼れば簡単だった。仲間がいたからこそ、過去の記憶を思い出せていなくても頑張ることができたし、ここまでイシュタムを追い詰めることができた。

 

「やるべきこと...?」

 

「最初は一人で、それでダメならと仲間を集めた。でも、人間にできることなんて高が知れている。そうだな改めて認めよう。俺たち()()じゃ神には抗えない」

 

「敗北宣言どうもー♪」

 

「けれど」

 

俺は不敵な笑みを浮かべながら言った。

 

「まだ手がなくなったわけじゃない」

 

「…何を言ってるのよ」

 

「人間が困難に直面したときはいつだって...神に頼ってきた」

 

「神に...あなたまさか⁉︎」

 

「そろそろ聞こえてくるはずだ。宝石の導きによって世界を渡ってくる、お前が憎んだ神の来る音がな!」

 

ピシッ

 

何かがひび割れるような音が聞こえ始める。

 

ピシッパキッ

 

「なんの音!」

 

イシュタムが音のする方へと振り向く。背後にある壁。そこに小さなヒビができていた。

 

ビシッガッバキッボキッ

 

少しずつ音が大きくなっていく。それと同時にヒビの大きさも大きくなってきていた。

 

バシッバキャァッガンッ!

 

ヒビがさらに大きくなっていく。よくみると、ヒビは壁ではなくその前にある空間に広がっていた。

 

「ほら、お出ましだぜイシュタム」

 

バキッビキィッバンッ!

 

空間に入ったヒビが限界まで広がり、一気に崩壊する。狭間の世界を構築していた物が全て破壊されていく。誰しもが崩壊によって生まれた謎の光によって一瞬だけ目を瞑った。

 

目を開けると、ヒビがあったところには一人の老人と戸崎和人が立っていた。

 

「お前が...どうしてお前がそこにいる!」

 

「イシュタム!お前のしでかしたことは全ての神に報告済みじゃ!もう続けることはできない!」

 

神がイシュタムに指を指すと、それだけで跡形もなく消え去ってしまった。

 

「勝った...イシュタムに勝ったんだ!」

 

少しの間、状況を飲み込めずにいたみんなであったが、誰かのその呟きによって少しずつ歓声が湧き出し、喜びの声が辺りに響きまくった。その大歓声はとても長い間続くこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そなたが手紙を残してくれた者か?」

 

歓声がおさまった頃、神が俺に近づいてきてそう尋ねた。

 

「はい、そうです。神様...呼びずらいな。名前はなんで言うんです?」

 

「私の名前はもうない。100年以上もの間誰も死人が来なかったので信仰を失って力がなくなってしまったのじゃ。名前まで消されてしまってあと一日遅ければ完全に死んでいるところだった。そなたには感謝してもしきれん」

 

意外とぎりぎりだったらしい。よかったよかった。

 

「ちょっと片桐。未だにちゃんと状況掴めてないんだけどこれどうなってるんだ?」

 

佐川が俺に聞いてくる。

 

「俺は本来なら自殺するはずの人間を殺した。それによって自殺した人間しか呼び寄せることのできないイシュタムの魔の手から逃れたんだ。誰も取り付いていないことは宝石を使って確認したしね」

 

「そうだ忘れてたお前よくも俺を殺してくれやがったな!」

 

神様の隣に立っていた戸崎が俺に詰めかかり胸ぐらを掴む。

 

「しょうがないだろ?何千万人もの人を助けるためだったんだから。それにあのままじゃ仕事をする羽目になったんだぞ?手紙にちゃんと書いといただろ読んでないのか?」

 

「それは...読んだけど」

 

「それにお前が後悔してたあれ、俺が乗り移ってたんだからな」

 

「…まじかよ」

 

「あん時は苦しかったなぁ...まぁごめんな、最後の日に本人と会わせられなくて」

 

「……いや、謝らなくていい。一応聞くけど俺が何もしなくても死んでたんだよなあいつ」

 

「そうだな。だから気にしなくていい。あれは事故...というか運命だったから」

 

戸崎は落ち着いたのか、胸ぐらを掴んでいた手を離す。

 

「話を戻そう。俺はこいつ、戸崎に手紙と宝石を渡した。死ねば多分本来死人が行くべきところに行くと思ったから、そこ宛に手紙を出したんだ。告発文だな。そして無事に神の元に手紙と宝石が届いた」

 

「手紙を受け取ったワシは他の神にそれを伝えると、宝石の力を使ってこの世界までやってきた。ほとんど消えかけじゃったが、この戸崎和人と手紙に込められた何千万人もの重みのおかげである程度力を取り戻せたからここに来ることができたのじゃ」

 

「な、なるほど...」

 

あんまり理解できてなさそうな顔してるなこいつ。

 

「この件では、うちのイシュタムのせいで多大な迷惑をかけてしまった。謝っても謝りきれぬ」

 

「いいんだよ別に。あんただって苦労したんだろ?」

 

「それはそうだが...これは私の責任でもある。償いをしなければならない。どうだ、好きな世界を言ってみるがいい。その世界に飛ばしてやろう」

 

「…それってどういう...」

 

「自分の望む世界に新しく生まれ変われるようにしてやろう。もちろん記憶は完全に消させてもらうがな」

 

「それって異世界転生ってやつ⁉︎まじかよ何にしよっかな!」

 

戸崎がはしゃぎ出す。そんな好きなのか異世界転生。

 

「やっぱり剣と魔法の世界だよな!そしてチート能力で...いやっほう!アイデアが止まんねぇ!」

 

一人でぶつぶつと言ってる。ちょっと怖い。

 

「それって全員ですか?」

 

「そうじゃ。全員、1人残らずそうするつもりじゃ」

 

「こんなチート能力で...いや、ゆっくりじっくり自分で成長するのもいいな...いやスローライフってのも...」

 

「自分の望む世界...か」

 

なんでも、自分の望む世界に行けるらしい。アニメで観たような世界にも行けるのだろう。

 

「神!俺決まった!」

 

戸崎が神に自分の望む世界を伝える。

 

「自分の望む世界...ねぇ」

 

けれど、俺が望む世界はアニメのような剣と魔法の世界だとか、超能力があるとか、そんなものではなかった。

 

「神様、俺決まったよ」

 

「ほう、なんじゃ?」

 

「普通の地球にしてくれ。もといた地球だ」

 

「…本当に良いのか?なんでも叶うのだぞ?」

 

「いいんだよ。俺たちは普通じゃない経験をした。何度も死んでいく経験をした。そんな中で俺たちは普通の生活を取り戻すために頑張ってきたんだ。普通に生まれて、普通に生きて、普通に死ぬ。たとえそれが老衰だろうが病死だろうが事故だろうが他殺だろうが自殺だろうが、流産で死のうが関係ない。普通の人生を送りたいんだ」

 

「…なるほど、そなたの願いは聞きいれた」

 

「じゃあ俺もそれでいいや」

 

佐川が俺に続いてそう言った。

 

「いいのか佐川。これは俺が勝手に思ってただけだぞ?」

 

「いいんだよ。俺たちは同じ仲間だ。見ている先も同じだったはずだよ?」

 

「私もそれで」

 

「俺も」

 

「わ、私も!」

 

後に続いて1人ずつ神様に普通の世界を望んでいく。

 

「なるほど、そなたらの決断を尊重しよう。覚悟ができたなら、あの先、黒い線の先に進むといい。その線を一歩出れば、もといた世界に着く」

 

神様の指差した方を見ると、いつのまにか黒い線が永遠と横に広がっていた。

 

「ありがとう神様。じゃあみんな行こうか」

 

みんなが少しずつ線に向かって走り出していく。そんな中、主要メンバーの俺たちはそれまで頑張ってきたこの十数年を噛み締めながら、一歩ずつ歩いていた。

 

「……みんなその選択をするのか、強いなぁ...神!」

 

戸崎が歩いている俺らを見て神に言った。

 

「俺もあいつらと同じにしてくれ!普通の世界に行く!さっき言ったことは次俺が神のところに行ったら頼むわ!」

 

「了解した。行くといい」

 

話を終えた戸崎がこちらに向かって走ってくる。そして追い越すとそのまま黒い線を超えて消えていった。

 

「ここを越えれば新しい世界...」

 

俺たちは線の一歩手前で並んだ。

 

「みんな、覚悟はいい?」

 

「もちのロンよ」

 

「オーケー 。じゃあ行こうか」

 

俺たちは一歩足を踏み出す。これは新しい人生を歩むための一歩。三度目の自殺の時とは別の、希望に染まった一歩。

 

できれば、新しい人生でも、みんなと会えたらいいな。

 

これくらいは望んでもいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX年XX月XX日

 

世界に、新たな産声が上がった。




これで死亡代行サービス完結です。

次回作については活動報告を上げたのでそちらをご覧ください。

それでは、ダイヤモンドリリーの次回作にご期待ください!
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