死亡代行サービス   作:ダイヤモンドリリー

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4149字。

今回も死にます。(ネタバレ)


8日目/10日目

2016年10月7日

 

「っ!」

 

体がびくんと跳ねる。夢の中で転んだときになる起き方だった。ちなみに入眠時ミオクローヌスというらしい。前に調べた記憶がある。

 

(今度は転落死か...痛みを感じる暇なく死んだな)

 

転落中はとても怖かったが、落ち切ってしまえばなんともなかった。いや死んではいるのだが。

 

(ところでここはどこだ?目が開かないし体も一切動かせないな)

 

呼吸すらも自発的に出来なかった。

 

(声も出ないしいったいどういう状態なんだ?)

 

考えても答えが出ない。頭の中を覗いてみようとするが、一切読むことができない。まるで脳の機能が止まってるかのようだった。

 

(脳の機能が止まってる...これってもしかして脳死ってやつ?呼吸できないってことは植物人間ではないだろうし)

 

何も出来ないし何も聞こえない。完全な暗闇の中で、俺はただ考えることしかできなかった。

 

(多分俺が乗り移ったからといって回復するわけでもないんだろうなぁ)

 

脳死は植物人間とは違い、回復する見込みはない。脳の機能全てが止まっているため、生命維持を続けていても次第に心臓が止まっていき死に至る。先程体が跳ねたのはきっと何かの偶然だろう。俺が覚醒した時に脳を通さずに脊髄反射が起きたんだと思う。多分。

 

(仕方ない、ただボーッとしてよう。どうせ今日中には死ぬんだろ。あと今日がどれだけあるのかもわからないけど)

 

流石に何回も憑依と死を繰り返していたらわかる。なぜか俺はその日のうちに死ぬことが確定している人物に乗り移るんだと思う。

 

最初の料理人のときは強盗が来たときか、妻を助けるときに死ぬ。妻を助けるとき、咄嗟に体が動いていた。俺がいなくても、どこかのタイミングで死んでいたのだろう。

 

老人のときは死に至そうな原因に心当たりがありすぎる。交通事故に熱中症、風呂で寝てしまって溺死など、俺が慎重になっていなければそのときに死んでいたのかもしれない。結局ご飯を喉に詰まらせて死んでしまったが、あれは俺が憑依してなくてもなっていただろう。

 

そして前回の子供のとき。俺がいなければ、遠足中に危険なところに行ってしまって死んでいたか、あの不審者を完全に拒絶して怒りを買ってしまい殺されるとかそんなことになってただろう。

 

まだ確定しているわけではないが、今度は余命幾許かの人に憑依したのだ。多分あってる。

 

(それにしても...何も感じられないって怖いな。何もすることができない退屈と暗闇への恐怖がすごい。もう既に死ぬことへの覚悟はできているからそれだけが救いな気がする)

 

多分今頃病院のどこかで家族の誰かと医者が話をしているに違いない。もうお宅の息子さんは助かりませんとか生命維持装置を切る選択を迫っていたりするのかな。いや息子と確定してるわけじゃないけど。

 

(本当にやることないな。もう寝ちゃうか。起きる頃には次の人に憑依してるだろ)

 

次なんてあるかわからない。でも、そんなことは一切考えずに意識の中で眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとあの子もかわいそうね。将来有望なアスリートだってのに交通事故で脳死だなんて」

 

「かわいそうだなんてレベルじゃないわよ」

 

2人の看護師が会話をしていた。

 

「だってあの子誰にもお見舞いに来てもらえてないのよ。競技に専念しすぎて友達もいなかったみたいだし。家族にも連絡したらしいけど見舞いには行かないって断られたんですって。家族全員に延命処置はしなくてもいいって言われたらしいし」

 

「なんて薄情な家族なのよ」

 

「なんかすごい資産家の末っ子らしくてね。しかも遺産相続争いの真っ最中らしいのよ。交通事故ってのも仕組まれたものだなんて噂も...」

 

「あーやだやだ遺産争いなんて。一般家庭でよかった」

 

とある病院の一室にて、1人の青年が眠っていた。

 

事故にあったが、外傷自体はほとんどない。けれど、脳へのダメージがとても大きく、脳死となった。

 

彼は何も悪いことはしていない。

 

だからといって、不幸にならないわけではないのだ。

 

彼はそのまま眠りながらその心肺活動を止め、死亡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2016年10月9日

 

「ふわぁよく寝た」

 

俺は起き上がる。椅子で寝ていたらしい。寝落ちでもしたのだろうか。

 

「やっぱりあの後死んだか。さて今度は何かな...ってなんだこの汚部屋!」

 

周囲を見渡すと足の踏み場のないほどゴミが辺りに散乱していた。

 

「なんでこんなにゴミ落ちてるんだよちゃんと掃除しろよなー」

 

落ちているゴミをあらかた片付けながら記憶を覗いていく。

 

「うわクソニートじゃん」

 

記憶によると、親の遺産で遊んで暮らしているニートらしい。しかも高学歴ニートとか呼ばれるやつだ。いい大学行ったんだったら社会の荒波にちゃんと揉まれてほしい。

 

「こいつも今日死ぬのかな。どうせ不摂生してて今から何しようと生活習慣病で死ぬんだろうな」

 

憑依した人間はその日のうちに死ぬ人間であるという仮説が正しければ、こいつは何をしようとも死ぬ。その死因が事故死だとか生活習慣病だとかの違いはあれど、死ぬという事実だけは揺らがない...はずだ。

 

「つまり、何をしても死ぬんだったら俺がこの体で何をしてもなんも問題ないよな。いよっしゃあ!不摂生してみたかったんだよ暴飲暴食してみたかったんだよ楽しみ〜」

 

いっそ楽しんでしまえ。俺は死ぬまでの1日を目一杯楽しむことにした。

 

「あ、そうだ。俺自身が死んでから二年近く経ってるんだよな。その間に何が起こったのか調べてみよ」

 

とりあえずパソコンを立ち上げる。知らない二年間の世界の出来事を知っていないとこの先苦労することがあるかも知れない。話が噛み合わないとかもしなったら大変だ。

 

「この二年だけで結構いろいろあったんだなぁ。大人になったら一年が短く感じるけど普通に考えたら長えよな」

 

俺の場合は社畜人生で常に仕事に追われていたためすごい一年が長く感じた。休日出勤許すまじ。

 

「お腹減ったな...出前でも頼もうかな。ピザだピザ、ピザ食べようそうしよう」

 

なんとなく不摂生な食べ物というとピザをイメージした。いつそのイメージが根付いたのだろう。ちょっと考えてみる。

 

「あ、あのニュース記事見たからか」

 

そのニュース記事はピザ屋が常連であった老人を助けたなんてものだった。数年間毎日ピザの注文をしていたその老人からの注文が数日間来ないことを不審に思い、店員が家に行くと老人が倒れているのを見つけたという話だ。

 

「不摂生というか偏食も行きすぎると逆に命が助かることもあるんだなぁ」

 

そんなことを重いながらもネット注文で何枚も購入する。この人はあまりピザの出前は頼んでないらしいからそんなことは起こらないはずだ。

 

「さーてなんか娯楽はないのかなぁ...」

 

ピザの注文を終えた俺は娯楽を求める。娯楽なんて社会人になってから一切なくなった気がする。あの会社はほんとに許せない。

 

「…お、アニメのサブスク登録済みじゃん見よ見よ」

 

社畜で時間がなくアニメを見ることが滅多になくなっていたので、この二年に出た人気のアニメを見ていく。

 

ピンポーン!

 

「はいはーい」

 

1話と2話の途中まで見たところで頼んだピザが来たので受け取り、すぐさまアニメを見るのに戻る。時間は有限なのだ。一分一秒のロスがあってはならない。人生一日RTAだ。

 

「ずいぶんと作画が良くなってるなぁ。時の流れは早いねぇ」

 

…なんか一度老人になったからか発言まで老人っぽくなってる気がする。

 

「とりあえず今日はアニメだけでいいかな。ゲームとか漫画とかも気になるけど時間がなさすぎる。流石にゲームしながらアニメ見るとかはしたくないな」

 

そうやってどんどんアニメを見ていく。ピザを食べたり、アニメを見たりをずっと座りながらしていた。飲み物は必要最低限しか飲んでない。トイレの時間すらもったいなくなっていた。

 

「結構アニメ見れたなぁ、今何時だ?...23時か結構見たな。起きたのが12時ちょいだから半日近くアニメ見てたのか。二クール分くらい見れたな」

 

あれだけ時間を切り詰めて見ていてもアニメ二個分しか見れないなんて...やっぱりアニメは最高だ!できればリアタイしたかった。

 

「てか昼起きるって生活サイクルが乱れすぎだな。せめてもっと早く起きてて欲しかったなぁもっとアニメ見てたかった。まぁ多分もうすぐ死ぬんだろうけど」

 

もう日付が変わるまで一時間もなかった。ちなみに死因はなんとなく検討がついていた。

 

「さて、立ったら多分死ぬんだろうな。発見してもらうために玄関の近くで倒れておくか」

 

まずは椅子から立ち上がる。そして玄関のほうに向かって歩き始める。

 

「ん、やっぱりすぐには死なないか。どれだけ時間かかるのか調べればよかったかな」

 

玄関のドアにかかっていたチェーンを外し、鍵を開ける。こうすれば、異変に気がついた周りの住人がドアを開けて気づいてくれるだろう。

 

(あーやばい苦しくなってきたやっぱりなると思ったよエコノミークラス症候群!)

 

長時間座っていて足を動かしていないと足の血管に血栓ができる。その状態で立ち上がるとそれが剥がれて肺に詰まることがある。それがエコノミークラス症候群だ。

 

(ああ、呼吸ができない...こいつもこいつで結構辛いな。ランキング更新かも)

 

ちなみに現在一位は最初の事故死だ。原点にして頂点。流石にインパクトで最初の死を越えることはできない。

 

(...まずい意識が朦朧としてきて変なことを考えてた。なんだよランキングって。あっ死ぬ)

 

そう最後に考えて、俺は死を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるアパートの一室で男性の死体が発見された。死因は肺塞栓であり、エコノミークラス症候群によるものだと予想される。

 

何度も部屋を訪れたことのある友人の話によると、今までチェーンを外したことは出前を受け取る時しかなく、隙間から見えた部屋の中はゴミで溢れていたそうだ。

 

しかし、発見当時扉にはチェーンも鍵もかかっておらず、また部屋も綺麗な状態だったという。

 

友人は「あいつが部屋を掃除するとかありえない。誰か別の人が部屋にいたのかもしれない」とコメントをしたが、現場には本人以外に人がいた痕跡がなく、なぜそのような状況で死に至ったのかは謎のままである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしその日死ぬとわかっていたら、普通の人ならどうするだろう。

 

そんな人に乗り移る俺は、その人のために何をすればいいのだろうか。




ちょっと文字数稼ぎが多すぎたかな。
次回から一話で3日間やります。
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