今回は3日分やります。
2016年10月15日
「交通事故かぁ。誰も巻き込まなくてよかった」
俺が朝起きて最初に言ったのはそんなことだった。ちょっと慣れてきたのか、飛び起きたり、驚いたりすることがなくなった気がする。あまり慣れなくはなかったけどいつまで続くのかわからないし慣れるしかない。
「さてさて、今度はどんな人に...「テメェ!何ぶつぶつ言ってやがるんだちょっと黙れよ!」え、あ、すいません」
今の状況をちょっと整理しよう。
1.なぜか両手を後ろ手に拘束されている
2.周りにも同じような人が十数人ほどいる
3.ここは...銀行っぽい
4.目の前には銃を持った人が5,6人くらい
あーつまり、だ。銀行強盗に巻き込まれてそのまま日を跨ぐことになった可哀想な人ってわけだこの人は。
(その割には口を塞いだりはしないんだな...騒がれてうるさいとか言うんだったらガムテで口塞げばいいのに)
まぁ周りの人は無言だし塞がれなくても黙るモンなんだろうけど。
(多分ここで死ぬってことなんかな。銀行強盗でただの一般人が死ぬことになる状況があまり思い浮かばないけど。あっ、人質にされてるわけだし○○しなきゃ1人ずつ殺すみたいなそういう要求を警察にしてるとかなんかな)
記憶を読み返すと、やはり昨晩から強盗が来てそのまま日を跨いだようだった。そしてこいつはただデートのために金を下ろしに来ただけの学生らしい。彼女持ちかよ羨ましい。
(こんな銀行強盗本当にあるんだなぁ。ニュースとかドラマでしか見たことないぞこんなの。まさかこんな経験をすることになるなんて...いや、それよりもすごい状況を経験してきたんだった俺)
まさか死んでは人に乗り移るのを繰り返している人は俺以外にいまい。そんな人が何人もいたらこの世界はファンタジーすぎる。
(足は縛られてないし俺は死ぬことが確定してるんだから死ぬ覚悟で犯人に飛びつくか?いやダメだな。1人倒せても他の仲間にめったうちにされる未来しか見えない)
俺は死んでもいいが、もし俺がそんなことをすれば奴らの警戒が強くなる。下手すれば周りの人質たちにも危害が加われるかもしれない。
(ひとまず、何か動きがあるまで静観しとくか)
そして1時間、2時間と時間が過ぎていった。
(なんかすごい眠いな。まぁそりゃそうか。昨日から寝てないはずだし眠いに決まってる)
周りの人質も眠そうだった...犯人も眠そうだな。いっそ寝てくれたらよかったのに。
(ふわぁ...やっぱり眠いな。もう寝ちまうか。どうせ死ぬんだから今寝たっていいだろ別に)
俺は眠ることにした。多分、起きたら次の人に乗り移っていることだろう。
「ふわぁ〜よく寝た、ってあれ?まだ生きてる?というかみんな寝てるしどうなってるんだ?」
人質どころか犯人まで寝てしまっていた。なんだこの状況。え、あっ警察が突入してきた。裏口から入ってきたのかな。
「犯人は全員沈黙。薬が効いてるようですね」
どうやら何かしらのガスのようなものを銀行内に入れていたようだ。だからあんなに眠かったのか。
「えっ助かったの俺?」
「もう起きたのか。大丈夫かい君?」
手首の拘束を解きながら声をかけてきた。咄嗟に「あっはい」と答える。助かったけど代わりにコミュ力が死んでた。
その後、犯人たちは無事逮捕され、少しの事情聴取の後解放されることになった。
「まさか生きて出られるとは思わなかった...ちょっと待て、ってことはこれからデートってこと⁉︎やったぜ」
今日のデートのために金を下ろそうとしていたのだ。無事に生きて出られた以上、今日一日の予定はそのままこなすべきだろう。決して他意はない。
「あれちょっと待てよ?だったら俺はどうやって死ぬんだ?まさか彼女さんに殺されるとかはないよなちょっと怖くなってきた」
以前海の中で彼女に殺されたことを思い出す。流石に2回目はやめてほしい本当に人を信じれなくなりそうだ。
「まぁとりあえず家に帰ろう。そしてちょっと寝よう」
今は真夜中だ。来たるデートのためにも、まずはこの眠気を覚ましたい。
「家どこだろ。それどころかここがどこすらわかってないんだよなぁ...ああそっちに家あるのね」
すぐさま記憶を読み取ると家に向かって歩き出す。記憶を読むのもだいぶ慣れてきた。
「それにしても星が綺麗だなぁ。星空を見上げるのなんて何年ぶりだろ」
学生の頃が最後だろうか。社会人になってからは星を見るほどの余裕はなかった。死を繰り返している時の方が余裕あるって変だな。
「ん〜やっぱり星はいいモンだなぁ〜...ん?なんか嫌な予感が...」
斜め前を向いていた俺は咄嗟に周りを見る。よそ見しすぎて事故に遭ったら大変だ。
「んー大丈夫そう?なんか変な気がしたんだけど気のせいだったのかな...いややっぱりなんかやばそうな気が...」
なんとなく空を見上げる。
「ん?星が見えな
星を遮っていたのは、空から落ちてきた人であった。もちろん気づいた頃にはもう遅く、落ちてきた人に直撃して意識を失った。
2016年10月17日
「あーもしかして投身自殺に巻き込まれたのか俺。もう何にも驚かなくなってきた」
死ぬことについてはもう覚悟すらいらないほど慣れてしまっているため後悔とかはないのだが、一つ気がかりがある。
「彼女さんちょっとかわいそうだよなぁ。彼氏が銀行強盗にあったと思ったら投身自殺に巻き込まれて死ぬんだもん。まぁ今となっては関係ないけど」
前は前、今は今だ。前のことなんてほっといて今の人生をどうするか考えた方がいい。さっそく記憶を見る。
「あーなんだ?ニュースキャスター?だからこんなに朝早かったのか」
起床時間は一時。朝のニュースに呼ばれてるなんてすごいな。まぁ地方だけど。
「急いで準備して出社しないとダメか。しないといけないことあるし時間ないな」
俺はサクッと朝ごはんを食べ身支度をし、家を出た。会社に着くまでの間に、記憶を覗く。ニュースキャスターとして仕事をしなければならない以上、以前と今日とでイントネーションや抑揚などが変化していたらまずいだろう。今まで以上にしっかりと記憶をよみ、自らの体に叩き込まなければならなかった。
(これに加えて台本も覚えないといけないんだろ?覚えきれるかなぁ)
正直、覚え切れる気がしなかったが『できない』じゃなくて『できなきゃならない』のだ。なんとかして数時間で覚えなければ。
(ああでも頑張れば真似自体は簡単そうだな。記憶を何度も読めば覚えなくても自然にできそうだな)
思い返せば、最初に憑依したとき料理経験のほとんどなかった俺でも簡単に料理ができるようになっていた。技術自体は簡単に模倣できるのだろう。
(あとは台本を覚えるだけ...思ってたよりも簡単だな)
テレビ局に着いたようだ。
(思ったけど俺これから生放送に出るのか。ちょっと緊張するな。緊張以上にわっくわっくしてるけど)
とりあえず仕事だ。ワクワクしてる暇はない。完璧になりきらなければならないのだ。自分という異物はないことにしなければいけない。俺はテレビ局へと入っていった。
(まさか...あの事件が取り上げられるなんてな)
台本を読んでいた時しっかりと読み込んでおいてよかった。もし本番の時に知ったらどんな反応をしていたかわからない。
(まぁそりゃそうか。別の世界に行ってるわけじゃないし繋がってるよな)
その事件とは、前回あった銀行強盗と投身自殺についてだった。あれから2日経つが、まだニュースになるらしい。前回の彼女さんのインタビューは見ていてとても辛かった。ワイプに映っていたから表情に出さないようにするのは大変だった。
(というか、事件ってどこでもどんな時にでも起こるんだな。不幸なニュースが多すぎる)
自分が毎回乗り移るたびに死んでいるのも含めて、この世界には死が多すぎるように思えた。それが事故死でも他殺でも自殺でも、毎日この地球のどこかで人は死んでいるのだろう。誰かが無駄に一日を過ごしている中でも誰かは死んでいる。
(もしかして今まで死んだときのもニュースになってたりしてんのかな?今度調べてみるか)
そんなことを考えながら、家へと向かっていた。今日の予定はもう何もない。あるとすれば死のみだ。
(ん?なんかずっとついてきてる人いるな。もしかしてストーカーか何か?)
入り組んだ道を何度も曲がっているのにずっとついてきてる。いや、まだ偶然かもしれない。マンション住みだし同じマンションなのかもしれない。
(いやでもなんか怖いな)
人通りの少ない道に入ってしまった。今この道を通っているのは俺とついてきてる誰かだけだ。
(あっわかった。殺されるやつだこれ)
突然背中に衝撃が走り熱くなる。
(前にもこんな感覚を感じたことあったな。あれは...息子に刺された時か。ナイフで刺されたのか俺)
倒れ込んでしまって犯人の顔は見えなかった。まぁ見る必要性も感じないが。
「金...金...チッ!全然持ってねぇじゃねえか」
(なんだよストーカーじゃなくて強盗じゃねぇか!ぐっ!何度も刺しやがって...)
どんどん命が抜け出ていくのを感じる。当然そのまま死ぬことになった。
2016年10月19日
「ナイフで刺されるのは2回目...か。もう慣れちまった」
慣れてしまったとはいえできれば痛くない方がいい。というか死なないことが最善なんだけど結局回避不能ってことでいいんだろうか。死なない努力をすることも大切な気がする。
「まぁ、めんどくさいからいいや」
めんどくさすぎてやめた。いつかやればいいのだ。今はなんかやる気が起きない。
「あっ、ちょっとニュース見てみよ。なんか載ってるかもしれない」
とりあえず、今まで乗り移ってきた人たちのことを調べてみる。その影響を知るために。俺が何ができたのかを知るために。
「えーとなになに。少女行方不明事件...ああ崖から落ちたやつか。まだ見つかってないのかあれ。まぁ山の中だししょうがないのかな」
誘拐という事実すら出回ってないらしい。後で警察に匿名で情報送っといてやろう。
「次は...カップル自殺事件か。確かに自殺しようとしてたけど男の方は他殺のようなモンだよなぁ。彼女さんが怖すぎる」
さすがに老人が喉にご飯詰まらせたりニートが死んだりといったことはニュースにはならないらしい。
「次はあの事故のやつだな。えーとなになに...えっ覚醒剤⁉︎ちょっと待てどういうことさ」
今明かされる衝撃の事実。まさか薬を盛られていたなんて思いもよらなかった。夫は捕まったらしい。そりゃそうだ。
「ちゃんと現実に起こってることなんだよなぁ。なんで今まで調べようとしなかったんだろ」
こんなこと考えたことなかった。ただその一日を過ごすことに精一杯で考える暇すらなかった。
「ってかやべ。朝起きてすぐに何やってるんだ俺。仕事とかやばくね」
急いで記憶を見る。もう9時を過ぎている。遅刻確定じゃね?
「なんだよ無職じゃんか。焦って損した」
無駄に焦った時間を返してほしい。でも無職で仕事ないならちょっと楽だ。調べ物に集中できる。
「…そうだ。掲示板に今までの経験を書き込んでみよう、そうしよう」
思いつきであったがなかなか面白そうだ。時間潰しにはいいかもしれない。信じてもらえなくても創作話として書き込めばいいし。
「よーし書き込んでみるか...あれ?投稿できない。なんで?」
とりあえずちょっと書いてみたのを投稿しようとしたがパソコンが固まってしまった。
「うわっパソコン落ちた!なんでさ」
さっきまでは問題なく使えていたのに急に動かなくなってしまった。
「…もしかして人に教えちゃダメなやつ?なんかで読んだことあるような話だな。口外禁止か」
どうやら人に話すことはいけないらしい。他にもできないことがないか試してみる。
「文字として書き残すこともできないのか...ボールペンのインクが出ないのはまだわかるけど、シャーペンでも鉛筆でも書けないのは異常だな。物理的におかしい」
人に見られるような媒体を残すこともできないらしい。相談することもできないのか。メンタルやられたらどうすりゃいいんだ。
「やっべお腹減った。ご飯食べよ」
考えるのをやめて冷蔵庫に飛びつく。
「嘘でしょなんも入ってない。なんかカップ麺でも置いてないのかな」
家のどこを探してもない。無職なのにやたら部屋が綺麗だから部屋に入るだけでないことがわかる。
「うわほんとに何もないじゃん。なんか外食でもするか」
一応記憶を読んでみたが食糧はないらしい。仕方ないので外食することにした。出前をとったり買い出しして自分で作るのにもいいがちょっと今のファミレスの味を確かめてみたかった。
「太陽が眩しい...いつから外に出てないんだこいつ」
ひたすらに目が痛い。暗い部屋の中にずっといたからだろうか。外に出て正解だったかもしれない。
「何食べようかな〜あっあそこ入ろ」
ファミレスの中に入った。
「メニュー多いな。ちょっと迷う」
席に着いた俺は早速メニューを取って選び始める。金の心配はしなくていい。なんか宝くじ当てたらしく金ならいくらでもあるようだ。だから無職なのかこいつ。
「あっ注文お願いしまーす。これと、これと、これお願いします」
「かしこまりましたー」
注文を終えた。ご飯が楽しみだ。早く来てほしい。窓の外の景色を見ながら料理が来るのを待つ。見える景色といっても駐車場だけだが、車を見ているだけでもちょっと楽しい。
「お待たせしましたーご注文の品をどうぞー」
「あっありがとうございます」
料理キター!!早速食べ始める。美味しい。2年前と少し味が変わってる気がするがより美味しくなってるように感じる。うまいうまい。
「これならもう少し頼んでもいいかも。あとで頼んどくか」
とりあえずは目の前の料理を完食しよう。自分で作るよりも美味しいし買い出しじゃなくて外食にしておいてよかった。
「流石に追加注文は無理だわ。胃の容量がちっちゃくてもう食べれない。すぐに注文しなくてよかった」
頼んどいて残すのは失礼だし無駄だ。食品ロスは無くさないとな。
「よし、あとはお会計...ぐっ⁉︎」
立ちあがろうとした瞬間、横から衝撃が来る。一瞬何が起こったかわからなかった。
(車が突っ込んできた...?なんでさ...)
俺はそのまま車に轢かれて潰されてしまった。しばらくは息をしていたが、それも長くは続かず息絶えることになった。
「あなたの仕事ぶり、見させてもらいました」
「数々の問題行為、今後はしないよう気をつけてください」
悲惨な目に遭い続ける片桐くん。
主人公の名前最初くらいしか出てないから忘れてる人多そうだな。