死亡代行サービス   作:ダイヤモンドリリー

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4172字。

2日分です。


説教/30日目

2016年10月28日

 

いったい目の前にいるこの女性は何者なんだろう。なんかめっちゃ睨まれてるしすっごい怖い。

 

「説教です説教。今日こそはっきりと言ってやりますよ」

 

「ちょっと待って、ちょっと待ってくださいよ!なんで説教?ってかあなた誰なんですか!」

 

知らないやつに説教される筋合いはない。

 

「へ?あなた覚えてないの?私のこと」

 

「あなたみたいな人一度見たら忘れませんよ。あなたのことなんか知りません誰なんですか」

 

ほんとに知らない。こんな綺麗な人知り合いにはいなかったはずだ。というか質問に答えてほしい。

 

「はぁ...説教の前に説明が必要かしら。どこから話せばいいのよ...まず、あなたは今の状況をわかっているの?」

 

「いやまったく。ここがどこなのかもわかりませんよ」

 

「そこもか...死に続けている自覚はある?」

 

「っ⁉︎ありますあります!」

 

なんでそんなことを知っているんだろう。不思議だが、自分の境遇を知っている人がいるってだけで安心できた。

 

「でもなんで死に続けることになったのか見当もつかなくて...」

 

「なるほど。そこから説明する必要がありそうね」

 

俺が死に続けることになった理由がわかるのか。理由なんて考えたことなかったからちょっと興味が出てきた。

 

「あなたがこんなことになったのは...ただの偶然よ」

 

「…は?」

 

冗談はやめてくれ。

 

「ごめんなさい。言葉が足りなかったわね。あなたは厳正なる抽選の結果選ばれた人なのよ」

 

…まだ言葉が足りないと思うのは俺だけか?

 

「まずこの場所から説明しましょうか。ここはあなたたちの住むいわゆるこの世と、天国や地獄などのあの世との間にある世界と言ったところかしら」

 

「なんかすっごい現実味のない話になってきましたね」

 

「何度も死ぬ経験をした上でその発言できるだなんて逆にすごいわね...この世界ではこの世で死んだ人の中から選ばれた人たちがある仕事をしているの」

 

「仕事って?」

 

「あなたも経験したでしょう。その日に死ぬことが確定している人の意識を乗っ取って死ぬことよ」

 

「どうしてそんなことする必要があるんですか」

 

「どうしてってあなたも死んでみてわかったでしょう?死ぬことは途轍もない苦しみを味わうこと。だから代わりにその苦しみを引き受けて、本人は苦しむことなくあの世に行けるようにしているのよ」

 

確かに死ぬとつらい。でも俺がそんなことをする義理もない。

 

「その仕事ってのはまさか永遠にやらないといけないわけじゃねぇよな。ってか俺たちになんのメリットもないじゃないか」

 

「メリットならあるわよ」

 

「…一体どんなメリットがあるってんだ」

 

「2日に1日のペースで15日分死ねば仕事はそれで終わり。仕事が終わったら、その人が死んだ日を最初からやり直させる。それがメリットよ」

 

「死んだ日をやり直せるだって?」

 

病気などで死んだ人ならともかく、俺みたいに事故で死んだ人ならその日の最初からやり直せれば死を回避できるだろう。確かにそれは大きなメリットだ。

 

「あなたの場合あと1日分で仕事は終わり。明日仕事をしたらそのまま死んだ日に直帰になるわ」

 

俺は俺自身の死を除いて14回死んだ。あと一回で終わりなのだ。

 

「この仕事についてはあなたがここにきたときに説明したんだけどねぇ。どうして何も覚えていないんだ。こんなの初めてだよ」

 

「ところでなんで俺は説教されそうになってたんです?」

 

「ああ忘れてた。でも仕事のことを覚えていなかったんだったらしょうがないわよね」

 

そう言うってことは仕事でタブーを知らず知らずのうちに犯してしまったのだろうか。

 

「本来の死因からずれてしまうようなことをあなたがしてしまっていたからね。その日死ぬことが確定している以上死なないなんてことはないけれど、不自然な死になってしまうからね。事前に決められた死をなぞらなければいけないのさ」

 

確かに俺は生き延びようとしてその人なら絶対にしないようなことをした。人1人の少しの行動の違いで未来が変わってしまうのだろう。

 

「まぁ次気をつければいいよ。これ以上深く説明しても無駄だしね」

 

確かに次仕事をすれば死んだ日に戻ることになるから説明はいらないな。

 

「ああ、あとこれは言っておかないといけないか。死んだ日に戻る時、ここでの記憶は消させてもらうよ」

 

「え?そうしたらまた同じ死を繰り返しちゃうんじゃないですか?」

 

「大丈夫さ。記憶はなくとも虫の知らせのような形で自然に回避できるようになっている。何度も死んだ記憶なんて残さないほうがいいだろう?」

 

…確かに死んだ記憶を持ってたら精神を病みそうな気がする。

 

「これで説明は終わりだ。何か質問はあるかい?」

 

「んーそうだな...この仕事っていつからやってるんです?」

 

「ざっと100年と少しぐらい前だな。日本だと明治時代くらいか」

 

「へー結構前からやってるんですね。あっ質問はもうないです」

 

「そうか。じゃあこれを渡しておこう」

 

紙束を手渡される。

 

「これは?」

 

「あなたの次の仕事相手よ。自室でちゃんと読み込んでおきなさい...ああ部屋の場所も覚えていないか。そこらへんにいる人に聞けば部屋まで連れてってくれると思うわ」

 

俺は資料を持って部屋を出る。すごい広い場所に出た。人も多い。

 

「誰でもいいのかな。すみませんちょっといいですか?」

 

「ん?なんだい?」

 

近くにいた男に話しかける。

 

「自室ってどこにあるんですか?」

 

「何言ってるんだよ片桐。自室の場所も忘れちまったのか?」

 

どうやら付き合いのあった人らしい。

 

「ごめんな。ちょっと記憶を失っちゃってな」

 

「記憶を?そっか俺のことも忘れちまったのか。自己紹介したほうがいいか?俺は佐川だ。着いてこい。部屋まで連れてってやるよ」

 

そう言う佐川のあとをついていく。

 

「お前確か明日で終わりなんだっけか。俺は明後日と4日後で終わりなんだ。今日は2時には上がることができてなぁ。楽な仕事だったよ」

 

仕事が終わった瞬間にここに戻ってこれるらしい。まぁ次で終わりな以上関係ないけど。

 

「ここがお前の部屋さ。今日は久しぶりに話せてよかったよ」

 

「久しぶり?」

 

「お前ほとんどの間部屋に閉じこもってたからなぁ。話すのなんて久々さ。それじゃあな、最後の仕事頑張ろうぜ」

 

佐川は俺の部屋の隣の部屋に入っていった。隣なのか。俺も部屋に入る。

 

「部屋は結構綺麗なんだな。ベッドと椅子と机しかないけど。そっか死んでるから食べる必要ないのか。寝る必要もない気がするけど...」

 

とりあえずさっきもらった資料を読み始める。

 

「次の仕事は...17時27分に溺死か。自宅のお風呂で寝てしまって死亡?どうやって死ぬのか事細かに書いてやがる。どんな人だったのかも書いてあるのか。今までの俺の努力はなんだったんだ」

 

いちいち記憶を覗いて頑張って再現しようとしたというのに。こんなに簡単にできることを知ると今までの努力が馬鹿らしく感じる。

 

「…うん。多分大丈夫そうだな」

 

机に資料を置く。ん?この机棚がついてるんだな。何入ってるんだろ。ちょっと気になったので開けてみる。

 

「これは...血のついた服?あっ、俺が死んだ時に着てた服じゃん」

 

今俺が着ている服は多分ここの制服なんだろう。佐川も着ていたし他の人も着てた。

 

「他にもなんか入ってるな。死んだ時に持ってた物は持ち込めるってことかな。まぁ車に轢かれた時にほとんど吹き飛ばされたからあんまり残ってないけど」

 

ポッケに入れてた携帯ぐらいだな残ってるの。うわ壊れてて使えないじゃん。

 

「ずっと部屋に閉じこもってたって何やってんだ俺。暇潰しの道具もないじゃないか」

 

一体ずっと何をして過ごしていたんだろう。まさかずっとぼーっとしてたわけじゃないだろうな。

 

「やることないしなぁ。もう寝ちゃうか。日付変わる瞬間から仕事開始らしいしそれまで寝てよう」

 

もう次で終わりなのだから誰かとコミュニケーションを取る必要もない。さっさと寝て仕事をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2016年10月29日

 

「おお資料通りだ」

 

朝起きて、真っ先に身の回りを確認する。72歳独身で年金暮らし。趣味の楽器で時間を潰しているおじいちゃん。ギターとか置いてあるし資料に書いていたまんまだ。

 

「今日は一日外に出ないで過ごすんだったよな。そして5時ちょいにお風呂に入って溺死か。それまで暇だな。ギターでも弾いてみるか」

 

今は午前5時だ。死ぬまであと半日ほど時間がある。趣味楽器のおかげで色々あるから時間は潰せそうだ。

 

「あれ結構難しいな。まぁやったことないし当然か。記憶読も」

 

本人の人となりは資料を読めば把握できるが、こういう技量の再現は記憶を読まないとできないらしい。使い分けが大事なわけだ。

 

「よしやってみよう」

 

ギターを弾いてみると、全く弾けなかった先ほどよりも何十倍も上手くなっていた。記憶を読むだけでここまで変わるのか。

 

「これなら半日ぐらい余裕で時間潰せるな。せっかくだから楽しんでしまおう」

 

俺は半日の間、ご飯とトイレの時間以外はずっと楽器を演奏していた。今まで楽器なんてリコーダーとか鍵盤ハーモニカとかしか触ったことなかったが、結構楽しかった。

 

「ふわぁ...ずっとやってたから疲れたな。眠くなってきた」

 

今お風呂に入ったら間違いなく寝てしまうだろう。まぁそれでいいんだけど。

 

「じゃあお風呂入るか...やべ沸かすの忘れてた」

 

お湯沸かしてなかったら溺死できない。まだ時間あるし今からでも間に合うだろう。急いでお湯を張る。

 

「焦ってちょっと眠気飛んだな。まぁこの疲れならまた眠くなるでしょ」

 

軽く目を閉じて眠気を誘う。と言っても寝てしまってはいけないので半目くらいだ。しばらくしてお湯が沸いた合図の音が聞こえて来る。

 

「沸いたか。さっさと入って寝ちゃおう」

 

パパッと服を脱いでいってお風呂に入る。

 

「はぁ〜あったか〜極楽極楽...この人はこの後ほんとに極楽に行くんだろうな」

 

極楽とまではいかなくても天国には行けるだろう。前科どころか悪いことしたことないらしいし。

 

(うわ急に眠くなってきた。ここで寝たら多分死ぬんだろうな。そしたら俺はあの日をやり直せる...か。記憶は引き継げないらしいけど過去の俺には頑張ってもらわないとな。頑張って生きてくれ)

 

そんなことを考えながら俺は目を閉じた。そしてそのまま深い眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで仕事は終わり。

 

もう一度あの日をやり直そう。




急に色々詰め込ませちゃったけど理解してくれたかな。
死んだ日をやり直せるだってやったね片桐くん()
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