展開が動きます。
2014年10月2日
「はぁ...今日も今日でブラックだ」
普段と何も変わらない1日。朝起きて、毎朝やること全て済まして、出社して、仕事して、深夜になって帰宅する毎日。
俺、片桐陽介は会社から出て駅へと向かう。もうすでに深夜だ。早く家に帰って少しでも長く寝なければいけない。
「でも俺よりもひどい人たちもいるだろうし...ここで潰れてたらダメだよなぁ」
お前よりもひどい状況の人が世界には何人もいるんだと何度も何度も言われる。そう言われるたびに無理矢理自分を納得させて仕事をこなしていくのだ。
「明日は金曜日。明日さえ終われば休みが...来るわけないよなぁどうせ休日出勤だよなぁ」
すでに何連勤しているのかは覚えていない。覚えていたらそれはそれで気が滅入ってしまいそうだ。
「何かこう...劇的に何かが変わってくれればいいんだけど」
自分では動こうとせず、周りに変わってもらうことを考えている今のままでは何も変わらないのは明白である。無意識に考えている以上改善は難しい。
「いや、いっそ転職をいやだめだ辞めさせてくれると思えない」
一人でぶつぶつと呟く。周りに人がいなくてよかった。誰かいたら変な人だと思われたかもしれない。
「ってあれ?いつのまに青信号に...渡らないと」
俯いていたため青信号に変わっていたことに気づいていなかった。それは幸運だったのだろう。
「うわっ!なんだ今の車!危ねぇなおい!」
信号無視で爆速で目の前を車が走っていった。もう少し早く横断歩道を渡り始めていたら轢かれていたかもしれない。
「死ぬところだった...なんだったんだよ今の車通報してやりてぇ」
左右確認をしっかりしながら横断歩道を渡る。流石にさっきのような車は何度も来るわけがなく、危なげなく横断歩道を渡り切る。
「早く帰って寝ないとなぁ、どれくらい寝れるかなぁ」
寝れたとしても1時間くらいだろうか。会社で寝泊まりした方が長く寝れるかもしれない。
「ううっ工事の音がうるさい...深夜なのになんで工事してるんだよ...」
こんな深夜にもマンション建設の工事をしているらしい。俺よりも大変そうな人がいることを実感する。肉体労働に深夜労働とかすごいなこの人たち。
「でもうるさい...深夜なんだから工事やめればいいのに」
眠い頭に響きまくって頭がすごい痛くなってくる。
「はぁ、真横通りたくないなぁ」
耳を両手で塞ぎながら工事している横を通り始める。耳を塞いでいるがほとんど意味がなかった。音はほとんど貫通して聴こえてくる。
「んな⁉︎おいお前!早くそこから逃げろ!」
…なんか工事の音にまぎれて何か声が聞こえた気がする。
「危ないから早く逃げて!」
誰に言っているんだ?
「そこのお前だ!上危ない!」
「へ?」
上を見ると、何かがこちらに降ってきていた。鉄骨だろうか。とてももう避けられそうにない。走馬灯なんて見る暇もなく、あっさりと鉄骨で潰されて、俺は意識を落とした。
2016年10月30日
「っ!...あれ俺どうなったんだ?ここどこ?」
目が覚めると俺は知らない部屋で寝ていた。
「何があったんだっけ...思い出せ」
何が起こったのか思い出そうとする。たしか工事現場の前を通ってそれで...
「そうだ俺鉄骨で死んで...死んでないのか?夢だった?」
リアルすぎる夢だったのだろうか。とりあえず起き上がる。
「うわ服血だらけだどうなってるんだこれ?やっぱり現実?ってことはここは死後の世界だったり?」
何が何だかわからないがとりあえず落ちていた自分の鞄を拾う。鞄もぼこぼこになっていた。
「ここはどこなんだろう...とりあえず出てみるか」
部屋にはドアしかなかったので、とりあえず開けてみる。その先には何もなく、白い空間がひたすら広がっていた。いつのまにかさっきまであったドアも消えていた。
「ここは...」
「狭間の世界へようこそ、片桐陽介」
白い、何もない空間を歩いていると、いつのまにか何かの部屋に行き着いていた。そして目の前には、金髪の美女が立っていた。
「狭間の世界...?」
「あなたは選ばれた人間です。とりあえずここに座りなさい。この世界について説明するわ」
何が何だかわからなかったが、とりあえず指示に従って席に座る。
「ここは狭間の世界。現世とあの世との間にある世界よ」
「は、はぁ...つまり俺は死んだってことですか?」
「そうね。鉄骨に潰されて死んだわ。けれど、あなたは選ばれた人間。その日をやり直すチャンスが与えられる」
「その日をやり直す...?生き返れるってことですか?」
「まぁそう捉えてもらって構わないわ」
そんな生き返れるなんてこと現実に起こることなんだなぁ。いや現実かって言われると微妙だけど。
「ってことは今から生き返れるんですか?」
「いいえ。あなたにはこれからとある仕事をしてもらうの。それの報酬が生き返れることなの」
「仕事ってどんな?」
死んでからも仕事をしないといけないなんて嫌だ。死んだんだからゆっくりさせてほしい。
「死ぬことよ。何度もね」
「…は?」
「これからあなたには、2日に一回、その日に死ぬことが確定している人に憑依してもらう。そして憑依したまま死ぬ。これを15回してもらえれば仕事完了よ」
「なんでそんなことする必要があるんだよ」
「あなたも一回死んでみてわかったでしょう?死ぬのは誰だって辛い。だからその日に死ぬ人の意識を乗っ取って死の恐怖や痛みから逃れさせる。一度死んだんだからもう15回くらい余裕でしょう?」
そんなわけあるか。何度も死ぬなんて経験したくない。
「まぁあなたがなんと言おうとやるしかないんだけどね。選ばれた以上仕事をするのは確定事項。あなただって突然の死に戸惑っているでしょう?現実として受け入れられていない。ならやり直せるチャンスが与えられているのはいいことでしょう?」
「あぁもうわかったよ!やりゃあいいんだろやれば」
「よろしい。明日から仕事よ。あなたの担当はもともとあなたの世界だから安心しなさい」
「あなたの世界ってまるで別の世界があるみたいだな」
「そりゃあるわよ。あなたたちの言うような異世界なんて無数にあるわ。ほんの少し違うだけの並行世界にシステムが丸ごと違う世界だってある。まぁこっちの都合で勝手に決めてしまったからあなたには関係ない話だけれど」
うわちょっと気になる。どうせならそっちがよかったな。
「一応言っておくけど異世界の方がより辛い死になると思うわよ。世界にもよるけど、いわゆる魔物に食い殺されるとか嫌でしょ?」
…確かに嫌だな。
「あっそうそうまた言い忘れてた。やり直すとき、ここでの記憶は消させてもらう。何回も死んだ記憶なんてあったら嫌でしょ?」
確かに死んだ記憶を持ってたら精神を病みそうな気がする...また?
「そうだ、何か質問はある?」
「んーそうだな...この仕事っていつからやってるんだ?」
「ざっと100年と少しぐらい前だね。日本だと明治時代くらいか」
「へー結構前からやってるんだな。あっ質問はもうない」
「そう。この資料を自室で読み込んでおきなさい。部屋の場所は一番上の紙に書いてあるからそれみて自分で行ってね。仕事の日になった瞬間に憑依開始で死んだ瞬間にここに戻ってこれる。仕事の前日になったら自室のポストに次の資料を入れておくからそれを見て仕事をすること。話は終わりよ。行きなさい」
資料を受け取って部屋を出る。とてつもなく広い部屋に出た。とても多くの人がいた。
「えっと...まずは自分の部屋に行かないとな」
資料にある地図に従って移動をする。人が多くて移動しづらかったが、うまくすり抜けていく。
「ここが俺の部屋か」
中に入る。部屋の中にはベッドと机と椅子しかなかった。簡素な部屋だったが飲み食いが必要ないためこれで十分なのだろう。
「机の中に制服が入ってるんだよな。今着てる服血だらけだし早く着替えよ」
ささっと制服に着替える。
「とりあえず資料を読んでみるか」
持っていた鞄を机の横に置き、椅子に座って資料を読み始める。
「ふーん。個人情報に死亡時刻、死亡方法にその日の行動まで事細かに書かれてるんだな。前日のうちに全部わかってるんだな。これから先の未来も全て決まってるのか?」
もし憑依してその日の行動を俺がしないといけないのなら、周りの人に不信がられないように決められた行動からずれないようにすべきだろう。しっかりと読み込んで覚えていく。
「なんかスルスルと頭に入ってくるな。変な感じだ...慣れてる?」
要領が悪くて会社でも苦労したというのにこんなに物覚えがよかっただろうか?得意だったのかなこういうの。
「暇だしちょっと探索してみるか」
自室から出る。鍵とかはないらしい。不用心だな。まぁ盗みに入る人なんていないだろうけど。
「ほんとに人多いな。まぁ1日に死ぬ人よりも多くないといけないしな。別の世界も含まれているなら尚更だし。しかも2日に一回ってことは今ここにいる人の2倍くらいいるんでしょ?どれだけの人が必要なんだ」
俺は死んでから2年経ってからここに呼ばれた。ってことはこの人たちも別の時代から来てる人もいそうだな。明治時代から来ている人もいるのかな。偉人とかも混じってたりして。
「…なにか変だな。なにか、違和感が...」
何かがおかしいような感じがする。でもその何かがわからない。
「一回部屋に戻るか。違和感が何か考えたい」
ここだと人が多すぎてうるさい。部屋で1人で考えるとしよう。
「何が変なんだろうなぁ。あっそうだスマホって使えるのかな」
スマホを鞄から取り出す。部屋に戻ったはいいものの早速気が散ってしまっていた。
「お!使えるじゃん...ってWi-Fi繋がってないし。そりゃ当然か」
これじゃあほとんど何もできない。充電も出来ないからなんの意味のないただのガラクタと化している。
「とりあえず今わかってることをメモにとってみるか。鞄の中に確かメモ帳とペン入ってたよなぁ...っ!頭が...痛い!」
頭が割れるように痛い。こんな痛みは初めてだ。
「っ!思い...出した!」
急に記憶が流れ込んでくる。16回死んだ記憶。忘れていた記憶。消されたはずの記憶。それを急に思い出した。
「なんで俺はまたこんなところに...あの日をやり直したはずなのに別の方法で死んだ...?なるほど違和感の理由はそれか!」
よくよく考えてみると、100年ほど前からこの仕事が行われてきたのだとしたら俺が俺の意識を保ったまま死ぬこと自体がおかしい。俺が死ぬ時にも誰かが乗り移って意識を乗っ取っていなければおかしいのだ。
「俺たちは騙されていたんだ、あの女神に。死んだ日をやり直せるだなんて言って何度も俺たちは仕事をさせられてきたんだ。ここにいる人たちは何度も何度も繰り返してきたんだ。記憶を何度も消されながら、何度も!」
そうでなければこんなに人がいるのがおかしい。およそ一ヶ月で解雇されるのならこの人数を保つことなど到底できないだろう。
「なんであいつはこんなことを俺らにさせてるんだ?やつの言っていたことそのままなわけないはずだ。一体何が目的なんだ?」
こんなことをする目的がわからない。まず探らなければならないのはそれだろう。
「まず行動するにしても仲間が欲しいな。1人じゃ何もできない。誰か仲間を...佐川だ。あいつならまだここにいるはず。俺のことも覚えてるはずだ!」
俺は部屋を飛び出して隣の佐川の部屋のドアを叩く。
「出てこない...そっか今日は佐川の仕事の日だ。終わるまで待つか」
十分ごとに扉を叩きながら待つ。いつ帰ってくるのかわからないため何度も叩きながら待つ。
そして2時間ほど経った。
「手痛くなってきた...早く帰ってきてくれよぉ」
「はいはい今出ますよー」
扉が開く。中から佐川が出てきた。
「ん?君誰?ああ隣に住むことになった人か。よろしく」
「ちょっと待てよ佐川。俺のこと忘れたのか?」
「…なんで俺の名前知ってるんだ?」
なんで佐川が俺のことを忘れてやがるんだ?
「あーごめん。仕事終わって疲れてるんだ。ちょっと寝かせてくれ」
「ちょっと待ってくれ!」
佐川が扉を閉めようとしたのでその腕を掴む。
「っ!あっお前片桐!お前もう仕事終わったんじゃ...」
「思い出したか!話がある。ちょっと話に付き合ってくれ!」
佐川の部屋に入る。そして俺は思い出したこと、推測したことを佐川に話した。
「何度も繰り返している...か。確かにそう言われたらそんな気がしてきたな。ってかなんで俺お前のこと忘れてたんだろ」
「多分一度解雇された人に関する記憶は全て消されるんじゃないか?そうじゃないとバレるからな」
「なるほどな。じゃあ次俺が仕事を終わらしたら、お前は俺のことを忘れて、俺もお前のことを忘れてまたここに仕事しに来ることになるのかな」
「多分そうなると思う」
「ところでなんでお前記憶を取り戻せたんだろうな」
「さぁ...だけどこれはチャンスだ。次は俺も思い出せないかもしれない。今回のうちになんとかするぞ!」
この狭間の世界に、小さな反抗勢力が生まれ始めた。
自由な命を取り戻すため、俺たちは動き始める。
急展開ついてきてくれたかな。
頑張って面白くするぞー。