ありふれぬ欲望の魔王はやはり世界最強   作:エルドラス

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今回はユエとの出会いと解放までです。
バトルは次のお話で書きます。


第十話 吸血姫との出会い

英字は上階へと続く道を探していたのだが。

 

「ここも行き止まりか」

 

あれからも魔物を見つけては積極的に殺して食っていたのだが、飽きてきたので前に見つけた別れ道を全て探索したのだが全然見つからないのである。

 

否、何も見つからないというのは語弊がある。正確には『上階」への道であり、『階下』への道なら二日前に発見している。ここが迷宮で階層状になっているのなら上階への道も必ずあるはずなのだが、どうしても見つからないのだ。

 

「戻るか」

 

そう呟くと英字は階段のある場所へと戻った。

 

階段というより凸凹した坂道と言った方が正しいかもしれない。そしてその先は、緑光石がないのか真っ暗な闇に閉ざされ、不気味な雰囲気を醸し出していた。まるで、巨大な怪物の口内のようだ。

 

「さてさて、この先には何が待ち構えているのやら」

 

この時英字は少しだけワクワクしていた。

 

しばらくある歩いていて分かったが、この通路には上の階層にあった、緑光石が存在しないらしい。そのためこの階下はかなり暗かった。

 

地下迷宮である以上それが当たり前なのだが、今まで潜った事のある階層は全て緑光石が存在し、薄暗くとも先を視認出来ない程ではなかった。

 

まぁ『暗視』が使える英字にとってこの程度の暗さはあまり気にはならないが。

 

しばらく進んでいると、通路の奥に気配を感じて視線を向ける。

 

そこには体長二メートル程の灰色のトカゲが壁に張り付いており、金色の瞳で英字を睨んでいた。

 

すると、その金眼が一瞬光を帯びた。

次の瞬間、

 

「何なのだ、いったい?」

 

特に体に異常などは見られなかったが気になったので目の前にいる蜥蜴に『鑑定』を使う。

 

「なるほど、石化の邪眼を持っていたのか」

 

普通ならば全身が石に変えられていたかもしれないが、英字には『状態異常無効化』のスキルがあるため石化はしなかったのである。

 

そして英字は右手を石化蜥蜴もといバジリスクに向ける。

 

するとその直後、バジリスクの頭が何かに押し潰された。

その後英字は残ったバジリスクの死体をアイテムボックスの中に入れておいた。

 

「腹も減ったしここいらで休憩するか」

 

その後しばらく、出会った魔物を仕留めながら進んでいた英字だったが、空腹感を覚え休憩を取る事にした。

 

英字はその場で座り込みアイテムボックスから『神結晶』を取り出した。

実は起床後もしもの時のために液溜りの神水と一緒に回収したのだ。

 

英字は、リュックから容器に入れた(容器は万物錬成で作成)肉を取り出す。そして頭から電撃をで出してこんがり焼き始めた。

本日のメニューは、バジリスクの丸焼きと、羽を散弾銃のように飛ばしてくるフクロウの丸焼きと、六本足の猫の丸焼きである。調味料はない。

 

「いただきます…………む、来たか」

 

 黙々と喰っていると次第に体に不快感を覚える。つまり、体が強化されているという事だ。

だとすると、上階の狼を覗いてここの魔物は爪熊と同等以上の強さを持っているのだろう。だがそれより気になるのは…

 

「…やっぱりクソ不味いな」

どうにも味は不味いのだ。

 

そう言ってステータスプレートを取り出す英字。英字の現状は……

 

七葉 英字 2159歳 男 レベル:40

天職:欲望の魔王/仮面ライダーグリード

筋力:測定不能

体力:測定不能

耐性:測定不能

敏捷:測定不能

魔力:測定不能

魔耐:測定不能

 

予想通り上昇していた。英字それを確認した後すぐに探索を再開した。まだ一階層しか降りていないのだ。この奈落がどこまで続いているのか見当もつかない。

英字は孤独な奈落の底で一歩一歩踏み締めつつ、偶然始まった迷宮攻略に精を出すのだった。

 

そして、遂に階下への階段を見つける。英字は躊躇いなく踏み込んだ。

 

その階層は、地面がどこもかしこもタールのように粘着く泥沼のような場所だった。

 

普通に歩けば足を取られ凄まじく動きにくいだろう。

 

それを察した英字背中から赤い六枚の羽を出して空を飛びながら進んで行く。

 

途中で鉱石を採取しながら進むと三叉路に出た。近くの壁にチェックを入れセオリー通りに左の通路から探索しようと足を踏み出した。

 

次の瞬間英字は上へと飛翔した。

 

途端、鋭い歯が無数に並んだ巨大な顎門を開いて、鮫の様な魔物がタールの中から飛び出してきた。

 

英字の頭部を狙った顎門はガチンッと歯と歯を打ち鳴らしながら閉じられる。英字を喰い損ねた鮫はドボンと音を立てながら再びタールの中に潜ろうとする。

 

「逃しはしない」

 

しかしそうはさせまいと、英字は飛翔と同時にアイテムボックスからオーインバスター50を取り出しすぐさまガンモードに切り替え鮫に向かってエネルギー弾を放つ。

 

その一撃は正確に鮫の頭を射抜き、事切れた鮫は飛沫を上げながらタールの床に横たわった。

 

「やれやれ、不意打ちをするなら少しくらいは殺気を隠せ」

 

そう言いながら英字は鮫を解体して宝物庫に入れ先に進み、遂に階下への階段を発見した。

 

先ほどのタールザメの階層から更に五十階層は進んだ。英字に時間の感覚は既にないので、どれくらいの日数が過ぎたのかはわからない。それでも、驚異的な速度で進んできたのは間違いない。

 

その間にも、様々な魔物を仕留め腹に収めてきた。

 

例えば迷宮全体が薄い毒霧で覆われた階層では、毒の痰を吐き出す二メートルの虹色の蛙や、麻痺の鱗粉を撒き散らす蛾に襲われた。

どちらもやはり不味かった事は変わらない

(因みに、蛾の方が蛙よりマシな味だった)

 

また、地下迷宮なのに密林の様な階層に出た事もあった。物凄く蒸し暑く鬱蒼としていて今までで一番不快な場所だった。この階層の魔物は巨大な百足と樹だ。

 

密林を歩いていると、突然巨大な百足が木の上から降ってきた時は、流石の英字も一瞬固まった。余りにも気持ち悪かったのである。

しかもこの百足、体の節ごとに分離して襲ってきたのだ。

 

誰がどう見てもGである。

 

そして樹の魔物は、所謂トレントに酷似していた。木の根を地中に潜らせ突いてきたり、ツルを鞭の様にしならせて襲ってきたり。

 

しかし、このトレントモドキの最大の特徴はそんな些細な攻撃ではない。この魔物、ピンチなると頭部をわっさわっさと振り赤い果物を投げつけてくるのだ。これには全く攻撃力は無く、英字は試しに食べてみた。

 

滅茶苦茶美味かった。

甘く瑞々しいその赤い果物は、例えるならスイカだった。もはやリンゴではない。

 

そんな感じで階層を突き進み、気がつけば五十層。未だ終わりが見える気配はない。ちなみに、現在の英字のステータスはこうである。

 

七葉 英字 2159歳 男 レベル:51

天職:欲望の魔王/仮面ライダーグリード

筋力:測定不能

体力:測定不能

耐性:測定不能

敏捷:測定不能

魔力:測定不能

魔耐:測定不能

 

そして英字は、この五十層にて明らかに異質な場所を発見した。

 

それは、なんとも不気味な空間だった。

 

脇道の突き当りにある空けた場所には高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれる様に鎮座していたのだ。

 

それを見た英字は少し立ち止まり準備をする。

 

この異様な空気この扉の先には何かがあるのだろう。

一応のことを考えて、『オストデルハンマー50』を手に持っておく。

 

 

扉の部屋にやってきた英字は、油断無く歩みを進める。特に何事も無く扉の前にまでやって来た。近くで見れば益々、見事な装飾が施されていると分かる。そして、中央に二つの窪みのある魔法陣が描かれているのが分かった。

 

「ふむ……この魔法陣は図書館のどの本や文献にも載っていなかったな」

 

国に居た頃は、訓練に参加しなかった事もあって座学に力を入れていた。勿論、全ての書物に目を通した訳ではないが、それでも魔法陣の式を全く読み取れないというのは些かおかしい。

 

扉を調べるが特に何かが分かるという事もなかった。いかにも曰くありげなのでトラップを警戒して調べてみたが、トラップは無いという事が分かったのみだ。

 

「仕方ない、少しばかり手荒にいくとするかな」

 

一応、扉に手をかけて押したり引いたりしたがビクともしない。なので、扉を破壊して無理矢理通ろうとする。英字は右手を扉に触れさせその手を発光させる。

しかしその途端、

 

 バチィイ!

 

「何だ……」

扉から赤い放電が走り英字の手を弾き飛ばした。英字の手にダメージ等は無いが、煙が吹き上がっている。直後に異変が起きた。

 

 

――オォォオオオオオオ!!

 

英字はバックステップで扉から距離をとり、オストデルハンマー50を構える。

 

「なんともまぁ、ありきたりと言うかベタと言うか」

 

苦笑いしながら呟く英字の前で、扉の両側に彫られていた二体の一つ目巨人が周囲の壁をバラバラと砕きつつ現れた。いつの間にか壁と同化していた灰色の肌は暗緑色に変色している。

 

一つ目巨人の容貌はまるっきりファンタジー常連のサイクロプスだ。手にはどこから出したのか四メートルはありそうな大剣を持っている。未だ埋まっている半身を強引に抜き出し無粋な侵入者を排除しようと英字の方に視線を向けた。

 

その瞬間。

 

『レッツイタダキ』『ブレード!イタダキ!』『スラッシュ印!オストデルクラッシュ!』

 

英字は持っていた剣にオストデルハンマー50を押し付けて、剣を大量に複製した。

そして複製された大量の剣が右のサイクロプスに向かって飛んで行きその体をバラバラに切り裂いた。

 

左のサイクロプスがキョトンとした様子で隣のサイクロプスを見る。右のサイクロプスは、バラバラになってその場で崩れ落ちた。

 

「うむ、これもなかなかいい武器だな。狩崎にはまたお礼の品を送っておこう」

 

色んな意味で酷い攻撃だった。あまりにサイクロプス(右)が哀れだった。

 

おそらく、この扉を守るガーディアンとして封印か何かされていたのだろう。こんな奈落の底の更に底のような場所に訪れる者など皆無と言っていいはずだ。

 

ようやく来た役目を果たすとき。もしかしたら彼(?)の胸中は歓喜で満たされていたのかもしれない。満を持しての登場だったのに相手を見るまでもなく大事な一つ目ごとバラバラに切り刻まれる。これを哀れと言わずしてなんと言うのか。

 

サイクロプス(左)が戦慄の表情を浮かべ英字に視線を転じる。その目は「コイツなんてことしやがる!」と言っているような気がしないこともない。

 

まぁそれは英字に相方と同じ様にバラバラにされた後の話だが。

 

 

 恐らく何をされたか理解できないまま、サイクロプス(左)の意識は暗闇に沈む。それに遅れて、バラバラになった彼の体が土煙を上げながら地面に落ちた。

 

「まぁ、いいか。肉は後で取るとして……」

 

そして、バラバラになったサイクロプスの体内から魔石を取り出した。血濡れを気にするでもなく二つの拳大の魔石を扉まで持って行き、それを窪みに合わせてみる。

 

ピッタリとはまり込んだ。直後、魔石から赤黒い魔力光が迸ほとばしり魔法陣に魔力が注ぎ込まれていく。そして、パキャンという何かが割れるような音が響き、光が収まった。同時に部屋全体に魔力が行き渡っているのか周囲の壁が発光し、久しく見なかった程の明かりに満たされる。

 

英字は少し目を瞬かせ、警戒しながら、そっと扉を開いた。

 

扉の奥は光一つなく真っ暗闇で、大きな空間が広がっている様だ。

それでも英字の『暗視』の前に意味を成さず、手前の部屋の明りにも照らされて少しずつ全容が見えてきていたが。

 

中は、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。

 

その立方体を注視していた英字は、何か光るものが立方体の前面の中央辺りから生えているのに気がついた。

 

その正体を探ろうと英字が近づこうとした瞬間、それは動いた。

 

「……誰?」

 

 掠れた、弱々しい少女の声だ。尚も英字が進み続けると、先程の"生えている何か"がユラユラと動き出した。差し込んだ光がその正体を暴く。それを見て英字は呟いた。

「人……なのか?」

 "生えていた何か"は、人だった。

 

上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が某ホラー映画の女幽霊の様に垂れ下がっていた。

 

そしてその髪の隙間から、低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗いている。年の頃は十二、三歳位だろう。

 

随分窶れているし垂れ下がった髪で分かりづらいが、それでも美しい容姿をしている事がよく分かる。

 

 生えていたのが人体だったのは一目見て分かっていたが、凡そ生命反応らしきものが無かった為に、生きていた事に少し驚きつつも英字は尚近づいていく。

 

そして……空いている手にオーインバスター50アックスモードに手を掛けた。

 

 

それに金髪紅眼の少女は慌てた。即座に命乞いを始める。尤も、その声はもう何年も出していなかった様に掠れて呟きの様だったが。

 

「ま、待って! ……お願い! ……助けて……」

「何故だ?」

 

英字は聞く耳持たんとばかりに剣を抜く。

 

「ど、どうして……なんでもする……だから……!」

 

少女は必死だ。首から上しか動かないが、それでも必死に顔を上げ懇願する。

 

「あのな、こんな奈落の底の更に底で、明らかに封印されているような存在、どう考えても厄災の類だ。その様な者を解放するわけないだろう? そして、どうやら自力では戒めを解けない状態だ。ならば滅する為に武器を取るというのは何も間違ったことは言っていないだろう?」

 

全くもって正論だった。

 

すげなく断られた少女だが、もう泣きそうな表情で必死に声を張り上げる。

 

「ちがう! ケホッ……私、悪くない! ……待って! 私……」

 

聞く気はないと言わんばかりに英字は振りかぶり、少女目掛けてオーインバスター50を振り下ろして……

 

「裏切られただけ!」

 

少女の首を両断する寸前で止められた。

 

十秒、二十秒と過ぎ、英字はオーインバスター50をアイテムボックスにしまい問い質す様に口を開く。

 

「裏切られたと言ったな? だがそれは、お前が封印された理由になっていない。その話が本当だとして、裏切った奴はどうしてお前をここに封印したんだ?」

 

英字の質問が聞こえてないのか、呆然としている少女。ジッと、豊かだが薄汚れた金髪の間から覗く紅眼で英字を見つめる。

何も答えない少女に英字が

 

「おい、聞いているのか。貴様の来歴を話せ。話せないのなら…」

と言いながら再び剣に手を掛ける。

 

すると少女はハッと我を取り戻し、慌てて口を開いた。

 

「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」

 

枯れた喉で必死にポツリポツリと語る女の子。話を聞きながら英字は呻いた。

なんとまぁ波乱万丈な境遇か。しかし、ところどころ気になるワードがあるので、湧き上がるなんとも言えない複雑な気持ちを抑えながら、英字は尋ねた。

 

「貴様、王族だったのか?」

 

 少女は頷く。

 

「殺せないとはなんだ?」

「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

「先程の"凄い力"とはそれか?」

「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」

そこまで聞き、英字は「なるほどな」と納得を見せる。

 

 

この世界トータスにおける魔法は、体内の魔力を詠唱により魔法陣に注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔法が発動するというプロセスを経る。魔力を直接操作する事は出来ず、どの様な効果の魔法を使うかによって正しく魔法陣を構築しなければならない。

 

しかし、この少女は周りが詠唱やら魔法陣やら準備している間に一瞬で魔法を撃てるのだから、正直この世界の術師では勝負にならない。しかも不死身。恐らく英字と違い絶対的なものではないだろうが、それでも勇者すら凌駕しそうなチートである。

 

「……、たすけて……」

 

英字が一人で納得しているのをジッと眺めながら、ポツリと少女が懇願する。

 

英字は「はぁ」とため息をついた。

 

(まぁここまで話を聞いておいて今更殺すのも後味が悪いというものだしな)

 

少し考えた後英字は少女を捕える立方体に手を置いた。

 

直後、少女の周りの立方体が塵になった様に崩れていき、彼女の枷を一瞬で解いていく。

 

それなりに膨らんだ胸部が露わになり、次いで腰、両腕、太ももと彼女を包んでいた立方体が流れ出す。一糸纏わぬ彼女の裸体はやせ衰えていたが、それでもどこか神秘性を感じさせるほど美しかった。そのまま、体の全てが解き放たれ、女の子は地面にペタリと女の子座りで座り込んだ。どうやら立ち上がる力がないらしい。

 

そして、震える声で小さく、しかしはっきりと女の子は告げる。

 

「……ありがとう」

 

そのお礼に対し英字は、

 

「気にするな。私が自分で望んでやったことだ」と返した。

 

英字は少女を立ち上がらせようと手を伸ばす。その手を女の子がギュッと握った。弱々しい、力の無い手だ。小さくて、ふるふると震えている。

英字が視線を向けると少女は真っ直ぐに英字を見つめている。顔は無表情だが、その奥にある紅眼には彼女の気持ちが溢れんばかりに宿っていた。

 

繋がった手はギュッと握られたままだ。いったいどれだけの間、ここにいたのだろうか。少なくとも英字の知識にある吸血鬼族は数百年前に滅んだはずだ。この世界の歴史を学んでいる時にそう記載されていたと記憶している。

 

話している間も彼女の表情は動かなかった。それはつまり、声の出し方、表情の出し方を忘れるほど長い間、たった一人、この暗闇で孤独な時間を過ごしたということだ。

 

しかも、話しぶりからして信頼していた相手に裏切られて。よく発狂しなかったものである。もしかすると先ほど言っていた自動再生的な力のせいかもしれない。だとすれば、それは逆に拷問だっただろう。狂うことすら許されなかったということなのだから。

 

「……名前、なに?」

 

少女が囁く様な声で英字に尋ねる。そういえばお互い名乗っていなかった事を思いだした。が、今彼には二つの名前がある。どちらを名乗るべきなのか少しばかり考える。

 

そして自身の本当の名は自分が信頼できるものにだけ明かすことにした。

 

そのため、英字は人間としての名を名乗りつつ少女にも訊き返した。

 

「七葉英字だ。貴様は?」

 

 女の子は「英字、英字」と、さも大事なものを内に刻み込むように繰り返し呟いた。そして、問われた名前を答えようとして、思い直したように英字にお願いをした。

 

「……名前、付けて」

「は? 付けてとはどう言うことだ何だ。まさか忘れたのか?」

 

 長い間幽閉されていたのならあり得ると聞いてみる英字だったが、女の子はふるふると首を振る。

 

「もう、前の名前はいらない。……英字の付けた名前がいい」

「……ふむ、そうは言われてもなぁ」

 

仕方ないという様に彼女の新しい名前を告げた。

 

「『ユエ』というのはどうだ? ネーミングセンスなど無いから気に入らなければまた考えるが……」

「ユエ? ……ユエ、ユエ」

「あぁ。ユエと言うのはな、私の国のある地域で"月"の事をそう呼ぶらしい。最初、この部屋に入った時にその金色の髪や紅い眼が夜に浮かぶ月の様に見えたんでな、……どうだ?」

 

思いのほかきちんとした理由があることに驚いたのか、女の子がパチパチと瞬きする。そして、相変わらず無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせた。

 

「……んっ。今日からユエ。ありがとう」

「あぁ。まぁ取り敢えず……」

「?」

 

礼を言う少女改めユエの握っていた手を解き、英字は宝物庫から適当な外套を取り出す。何も無い所から突然物を出した英字に目を丸くするユエに、英字はその外套を被せた。

 

「それでも着ておけ。いつまでもそのままでは風邪をひくぞ」

 

そう言われて差し出された服を反射的に受け取りながら自分を見下ろすユエ。確かに、大事な所とか丸見えである。ユエは一瞬で真っ赤になると英字の外套をギュッと抱き寄せ上目遣いでポツリと呟いた。

 

「英字のエッチ」

 

 その瞬間、英字のデコピンがユエを襲った。

 

「あうっ」

「800年早い」

 

そう言う英字は呆れた様な目を向ける。それに対してユエは頬を膨らませて反論しようとして……

 

突如英字に抱きかかえられた。

 

「…っ! 英字…!?」

驚愕するユエを抱えたまま、英字は羽を出してその場から飛び退いた。

続いて、直前までいた場所にズドンッと地響きを立てながら一体の魔物が姿を現した。

 

その魔物は体長五メートル程、四本の長い腕に巨大な鋏を持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。

 

一番分かりやすい例えをするなら蠍だろう。二本の尻尾は毒持ちと考えた方が賢明だ。

 

目の前の蠍はつい数瞬前まで、英字の『探知』に引っ掛からなかったという事は少なくとも、この蠍擬きはユエの封印を解いた後に出てきたという事だ。つまり、ユエを逃がさない為の最後の仕掛けなのだろう。

 

英字は腕の中のユエをチラリと見る。彼女は、蠍擬きになど目もくれず一心に英字を見ていた。凪いだ水面の様に静かな、覚悟を決めた瞳。その瞳が何よりも雄弁に彼女の意思を伝えていた。ユエは自分の運命を英字に委ねたのだ。

 

その瞳を見た瞬間、英字の腹は決まった。

 

 酷い裏切りを受けたこの少女が、今一度、その身を託すというのだ。これに答えられなければ男が廃る。何より……

 

「曲がりなりにも『仮面ライダー』を名乗っているしな」

 

「……?」

 ポツリと呟いたその一言に、ユエは不思議そうな顔をする。それに「何でもない」と返しつつ、英字はユエを降ろした。

 

「英字?」

「少し待っていろ。直ぐに終わらせる」

 

英字はそう言いながら、ユエの額に触れる。すると衰え切った体に活力が戻ってくる感覚を覚え、ユエは驚いた様に目を見開いた。魔法の気配もなく、しかも魔法陣や詠唱を使用していない。つまり英字が自分と同じく、魔力を直接操作する術を持っているという事にユエは気がついたのである。

 

自分と『同じ』そして何故かこの奈落にいる。ユエはそんな場合ではないと分かっていながら、蠍擬きよりも英字を意識せずにはいられなかった。

 

一方、英字はユエの回復を終えると彼女から少し離れ、蠍擬きを正面に見据える。

そしてオストデルハンマー50のヘッドを90度動かし立て、同時に内側から剣先を展開するし、

『オーインバスターのスロット』と『ハンマーのバイスタンプ読み取り装置』、「バスターの先端」と「ハンマーのコネクタ」をそれぞれに接続することで、『リバイススラッシャー』となる。

 

そして、すぐにアイテムボックスから『ボルケーノバイスタンプ』を取り出すとそれをリバイススラッシャーに押し当てる。

 

『スタンプバイ!』『Here We Go!Let's Go!Here We Go!Let's Go!』 『リバイバイスラッシュ!』

 

そして炎を纏った刀身で蠍擬きに向かって振り下ろす。

 

次の瞬間、部屋全体を灼かんばかりの光と炎が溢れ、轟音と共に凄まじい熱線が蠍擬きに放たれた。

 

「……!」

 

 余りの眩しさにユエは腕で顔を覆う。圧倒的な熱がユエの肌をチリチリと焼いていく。

ユエは痛みを感じつつ、英字の圧倒的な力に驚愕する。

それと同時に、ユエは肝を冷やした。

何せ、その力がつい数分前まで自分に向けられていたのだ。いくら不死身でも、あれを受ければ確実に無事では済まない。九死に一生の気分だ。そんな事を考えていると、

 

「うーむ、少しやりすぎてしまった」

 

英字のそんな言葉が聞こえ、ユエの思考は中断される。ふと見れば、熱線はいつの間にか止んでいる。

 

そして絶句した。英字の正面に居たはずの蠍擬きが溶けている。

蠍擬きがいた位置の遥か後方、つまりこの部屋の扉まで。その射線上には、英字の言葉通り塵一つ残っていなかった。

 

「終わったぞ」

 

そう言って英字は剣を鞘に納め振り返る。ついでに軽く手を振ると、無表情ながらどことなく嬉しそうな眼差しで女の子座りしながら英字を見つめているユエがいた。

 

迷宮攻略がいつ終わるのか分からないが、どうやら可愛らしい同行者ができたらしい。

 

パンドラの箱には厄災と一握りの希望が入っていたという。この部屋に入る前に出したその例えは、中々どうして的を射ていたらしい。そんな事を思いながら、英字はゆっくりと彼女のもとへ歩き出した。




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