ありふれぬ欲望の魔王はやはり世界最強   作:エルドラス

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第十六話 真の歴史と旅立ち〜反逆者の住処にて

ユエは、体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。随分と懐かしい感触だ。頭と背中を優しく受け止めるクッションと、体を包む羽毛の柔らかさを感じ、ユエの微睡む意識は混乱する。

 

(……何で、ベッドに……)

 

まだ覚醒しきらない意識のまま手探りをしようとする。しかし、その意思に反して身体は動かない。すると、不意にユエは自分の頭が触られている感覚を覚えた。

 

嫌な感じはしない。注意深く意識すれば、頭を撫でられていると分かる。ボーっとしながらも、ユエは徐々に目を開ける。そこには……

 

「……英字様?」

「起きたか」

 

英字がベットに座り、背を向けながらユエの頭を撫でていた。

ユエはゆっくりと体を起こす。ユエは自分が本当にベッドで寝ている事に気がついた。

 

純白のシーツに豪奢な天蓋付きの高級感溢れるベッドである。場所は、吹き抜けのテラスの様な場所で一段高い石畳の上にいる様だ。爽やかな風が天蓋とユエの頬、英字の髪を撫でる。周りは太い柱と薄いカーテンに囲まれている。

 さっきまで暗い迷宮の中にいた筈なのに、とユエが混乱する。

 

「……英字様、あの後一体何が……」

「あぁ、実はな──」

 

直ぐに英字に疑問をぶつけるユエに、英字は説明を始める。

 

 

あの後、泣き疲れて眠ったユエを移動させようと背負った瞬間、奥の扉が独りでに開いた。新手を警戒した英字だが少し待ってみても特に何も無く、英字はそのままユエを背負って扉を潜った。

そして、踏み込んだ扉の奥は……

 

「成程、ここが反逆者の住処か」

 

広大な空間に住み心地の良さそうな住居があった。危険がない事を確認してベッドエリアを発見した英字は、ユエをベッドに寝かせたのだ。

 

英字が説明を終えると、ユエはよじよじと這って近づき英字に自身の頭をグリグリと押し付けた。英字は一瞬驚くも、「やれやれ」と呟きながら直ぐに微笑みを浮かべてユエの好きな様にさせた。

 

その後、気が済んで落ち着いたユエを伴って英字は周囲の探索を始めた。

 

先ず目に入ったのは太陽だ。勿論ここは地下迷宮であり本物ではない。頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのである。

 

僅かに温かみを感じる上、蛍光灯の様な無機質さを感じないため、思わず『太陽』と称したのである。

 

「……因みに夜になると月みたいになるぞ」

「凄い……」

 

次に、注目するのは耳に心地良い水の音。扉の奥のこの部屋はちょっとした球場くらいの大きさがあるのだが、その部屋の奥の壁は一面が滝になっていた。

 

天井近くの壁から大量の水が流れ落ち、川に合流して奥の洞窟へと流れ込んでいく。滝の傍特有のマイナスイオン溢れる清涼な風が心地いい。よく見れば魚も泳いでいるようだ。もしかすると地上の川から魚も一緒に流れ込んでいるのかもしれない。

 

川から少し離れたところには大きな畑もあるようである。今は何も植えられていないようだが……その周囲に広がっているのは、もしかしなくても家畜小屋である。

 

動物の気配はしないのだが、水、魚、肉、野菜と素があれば、ここだけでなんでも自炊できそうだ。緑も豊かで、あちこちに様々な種類の樹が生えている。

 

英字達は川や畑とは逆方向、ベッドエリアに隣接した建築物の方へ歩を勧めた。建築したというより岩壁をそのまま加工して住居にした感じだ。

 

「入った時は素通りしてきたからな、まだ調べていない。ユエ、油断せずに行くぞ」

「ん……」

 

石造りの住居は全体的に白く石灰のような手触りだ。全体的に清潔感があり、エントランスには、温かみのある光球が天井から突き出す台座の先端に灯っていた。薄暗いところに長くいた英字達には少し眩しいくらいだ。どうやら三階建てらしく、上まで吹き抜けになっている。

 

取り敢えず一階から見て回る。暖炉や柔らかな絨毯、ソファのあるリビングらしき場所、台所、トイレを発見した。どれも長年放置されていたような気配はない。

 

人の気配は感じないのだが……言ってみれば旅行から帰った時の家の様と言えばわかるだろうか。しばらく人が使っていなかったんだなとわかる、あの空気だ。まるで、人は住んでいないが管理維持だけはしているみたいな……

 

英字とユエは、より警戒しながら進む。更に奥へ行くと再び外に出た。そこには大きな円状の穴があり、その淵にはライオンぽい動物の彫刻が口を開いた状態で鎮座している。彫刻の隣には魔法陣が刻まれている。試しに魔力を注いでみると、ライオン擬きの口から勢いよく温水が飛び出した。どこの世界でも水を吐くのはライオンというのがお約束らしい。

 

「ここはどうやら浴場みたいだな」

「……入る? 一緒に……」

「……断る」

「むぅ……」

 

素足でパシャパシャと温水を蹴るユエの姿に、一緒に入ったらくつろぎとは無縁になるだろうと断る英字。ユエは唇が尖らせて不満顔だ。

 

それから二階で、書斎や工房らしき部屋を発見した。しかし、書棚も工房の中の扉も封印がされているらしく開ける事は出来なかった。仕方なく諦め、探索を続ける。

 

二人は三階の奥の部屋に向かった。三階は一部屋しかないようだ。奥の扉を開けると、そこには直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。いっそ一つの芸術といってもいいほど見事な幾何学模様である。

 

しかし、それよりも注目すべきなのは、その魔法陣の向こう側。豪奢な椅子に座った人影である。

 

人影は骸だった。既に白骨化しており、黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている。薄汚れた印象は無く、お化け屋敷等にあるそういうオブジェと言われれば納得してしまいそうだ。

 

「……怪しい……どうする?」

 

ユエもこの骸に疑問を抱いたようだ。おそらく反逆者と言われる者達の一人なのだろうが、苦しんだ様子もなく座ったまま果てたその姿は、まるで誰かを待っているようである。

 

「地上への道を調べるには、この部屋が鍵だからな。下の部屋を開けるヒントである可能性が多分にある以上、調べるしかない」

「ん……行こう」

 

英字はそう言うと、ユエと共に魔法陣へ向けて踏み出した。そして英字が魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。

 

眩しさに目を閉じる二人。直後、何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯の様にこの世界に来てからの事が駆け巡った。

やがて光が収まり、目を開けた英字とユエの目の前には、黒衣の青年が立っていた。

 

魔法陣が淡く輝き、部屋を神秘的な光で満たす。

 

中央に立つ英字の眼前に立つ青年は、よく見れば後ろの骸と同じローブを着ており、その事も相まって自然と青年の正体がわかってくる。

 

『試練を乗り越えよく辿り着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?』

 

 話し始めた彼は、オスカー・オルクスというらしい。【オルクス大迷宮】の創造者の様だ。英字はやはりと思いながら話に耳を傾ける。

 

『ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像の様なものでね、生憎と君の質問には答えられない。だが、この場所に辿り着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何の為に戦ったのか……メッセージを残したくてね。この様な形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないという事を』

 

そうして始まったオスカーの話は、英字が聖教教会で教わった歴史やユエに聞かされた反逆者の話とは大きく異なったものだった。

 

それは狂った神とその子孫達の戦いの物語。

 

神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。争う理由は様々だ。領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は『神敵』だから。

 

今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。

 

だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。それが当時、『解放者』と呼ばれた集団である。

 

彼らには共通する繋がりがあった。それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということだ。そのためか『解放者』のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。何と神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。『解放者』のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり志を同じくするものを集めたのだ。

 

 彼等は、『神域』と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止めた。〝解放者〟のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に、彼等は神々に戦いを挑んだ。

 

 しかし、その目論見は戦う前に破綻してしまう。何と、神は人々を巧みに操り、『解放者』達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのである。

 

その過程にも紆余曲折はあったのだが、結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした〝反逆者〟のレッテルを貼られ『解放者』達は討たれていった。

 

最後まで残ったのは中心の七人だけだった。世界を敵に回し、彼等は、もはや自分達では神を討つことはできないと判断した。そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだ。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。

 

長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。

 

『君が何者で何の目的でここに辿り着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何の為に立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どの様に使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たす為には振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが、自由な意志の下にあらん事を』

 

そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。同時に、英字とユエの脳裏に何かが侵入してくる。不快感を覚えるが、それがとある魔法を刷り込んでいる為と理解できたので大人しく耐えた。

 

「英字様……大丈夫?」

「ああ、平気だ……それにしても、面倒なことに巻き巻き込まれた様だな」

「……ん……どうするの?」

 

ユエがオスカーの話を聞いてどうするのかと尋ねる。

「ふーむ、まぁ取り敢えず……」

 

英字はそう言うと、オスカーの骸の前で手を合わせる。

 

(オスカー・オルクス。お前の無念と願い、確とこの王が聞き届けた。安心して眠れ)

 

この場にいない者に伝えるかの様に力強く心の中で呟いた英字は、次にユエに言葉を向ける。

 

「さて、先ずは他の大迷宮の探索でもしようか」

「……私も一緒に?」

「勿論、ユエも一緒にだ」

 

そう言って英字が頭を撫でると、ユエは相好を崩す。

 

それはさておき、と英字は話を変える。

 

「それでユエ、先程の現象だが……」

「……ん。神代魔法、覚えた」

「どうやらこの床の魔法陣が、神代魔法を使えるように頭を弄るらしいな。……まぁ、私にはあまり意味の無いものだったな」

「え?」

 

その言葉に信じられないといった表情のユエ。それも仕方ないだろう。何せ神代魔法とは文字通り、神代に使われていた現代では失伝した魔法だ。今回得たのは『生成魔法』

 

魔法を鉱物に付加して特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法、つまり神代においてアーティファクトを作る為の魔法だ。それを意味の無いとは、一体どういう事かユエが質問すると、

 

「私には既に『万物錬成』と言う技能があるからな。鉱石にしか作用しない『生成魔法』よりもこちらの方が私的には使いやすいんだ」

 

そんな返事が返って来た。ユエは驚愕するしかなかった。

 

その後英字の提案で形だけだがオスカーの墓を作り、骸の消えた後に遺された彼の指環を拾って英字とユエは封印されていた場所へ向かった。

 

その指輪には十字に円が重った文様が刻まれており、それが書斎や工房にあった封印の紋様と同じだったのだ。

 

まずは書斎だ。

 

一番の目的である地上への道を探らなければならない。英字とユエは書棚にかけられた封印を解き、めぼしいものを調べていく。すると、この住居の施設設計図らしきものを発見した。通常の青写真ほどしっかりしたものではないが、どこに何を作るのか、どのような構造にするのかということがメモのように綴つづられたものだ。

 

「ビンゴだ」

「んっ」

 

設計図によれば、どうやら先程の三階にある魔法陣がそのまま地上に施した魔法陣と繋がっているらしい。オルクスの指輪を持っていないと起動しない様だ。

 

 設計図によれば、どうやら先程の三階にある魔法陣がそのまま地上に施した魔法陣と繋がっているらしい。オルクスの指輪を持っていないと起動しない様だ。

 

更に設計図を調べていると、どうやら一定期間ごとに清掃をする自律型ゴーレムが工房の小部屋の一つにあったり、天上の球体が太陽光と同じ性質を持ち作物の育成が可能等という事もわかった。人の気配が無いのに清潔感があったのは清掃ゴーレムのお陰だった様だ。工房には、生前オスカーが作成したアーティファクトや素材類が保管されているらしい。

 

 

「英字様……これ」

「うん?」

 

英字が設計図をチェックしていると、他の資料を探っていたユエが一冊の本を持ってきた。どうやらオスカーの手記の様だ。かつての仲間、特に中心の七人との何気ない日常について書いた物の様である。

その内の一節に、他の六人の迷宮に関する事が書かれていた。

 

「やはり他の迷宮も攻略すると、創設者の神代魔法が手に入るらしい」

 

手記によれば、オスカーと同様に六人の『解放者』達も迷宮の最深部で攻略者に神代魔法を教授する用意をしているようだ。生憎とどんな魔法かまでは書かれていなかったが……

 

それから暫く探したが、正確な迷宮の場所を示す様な資料は発見できなかった。現在、確認されている【グリューエン大砂漠の大火山】【ハルツィナ樹海】、目星をつけられている【ライセン大峡谷】【シュネー雪原の氷雪洞窟】辺りから調べていくしかないだろう。

 

暫くして書斎を調べ尽くした二人は、工房へと移動した。

 

工房には小部屋が幾つもあり、その全てをオルクスの指輪で開く事ができた。中には、様々な鉱石や作業道具、理論書等が所狭しと保管されている。

 

英字は、それらを見ながら腕を組み少し思案する。そんな英字の様子を見て、ユエが首を傾げながら尋ねた。

 

「……どうしたの?」

 

英字はしばらく考え込んだ後、ユエに提案した。

 

「ユエ。明日一日ここに留まらないか? 他の迷宮攻略の事を考えても、ここで少し準備しておきたい、どうだ?」

 

ユエは三百年も地下深くに封印されていたのだから一秒でも早く外に出たいだろうと思ったのだが、英字の提案にキョトンとした後、直ぐに了承した。

 

「……英字様と一緒ならどこでもいい」

 

そう言ってユエは笑った。

 

その日の晩、天井の太陽が月に変わり淡い光を放つ様を、英字は風呂に浸かりながら眺めていた。風呂は心の洗濯とはよく言ったものだ。

 

「うむ、どの様な世界でもやはり風呂とは気持ちの良いものだな」

 

適度に力を抜いて湯舟を堪能していると、突如、ヒタヒタと足音が聞こえ始めた。英字はそっと音の方へ視線を向ける。

 

タプンと音を立てて湯船に入ってきたのはもちろん、

 

「んっ……気持ちいい……」

 

一糸まとわぬ姿で英字のすぐ隣に腰を下ろすユエである。

 

「おいユエ、私は一人で入ると言ったはずなのだが?」

「……知らない」

「おいこら」

「……」

「はぁ、分かった入るのは構わんからせめて前は隠せ、タオルはたくさんあったはずだろう」

「寧ろ見て」

「……」

「……私、好みじゃない?」

「…はぁ、取り敢えず一ついいか」

「?」

 

そう前置くと、英字は疑問に首を傾けるユエに伝える。

 

「お前には言ってなかったが私には既に妻がいて娘と息子もいる。そして私は妻以外の異性を抱く事は絶対にない」

 

その言葉と共に左手に填めた結婚指輪を見せると、ユエは衝撃を受けた様に固まった。

 

だが、その後もしつこく迫るユエに、流石にイラついた英字が浴場から追い出した。

 

そんな事もありつつ、三日後の朝になった。英字とユエは、三階の魔法陣の部屋に立つ。

 

昨日をまるっと一日修行に宛がい、二人の実力は大きく変容している。例えば、英字のステータスはこうだ。

 

七葉 英字 2159歳 男 レベル:測定不能

天職:欲望の魔王/仮面ライダーグリード

筋力:測定不能

体力:測定不能

耐性:測定不能

敏捷:測定不能

魔力:測定不能

魔耐:測定不能

 

レベルは100を成長限度とするその人物の現在の成長度合いを示す。しかし、グリードである彼のレベルは更に上がり1000まで表示されたが、それ以降は測定不能になってしまった。

 

因みに、後のベヒモス討伐辺りの勇者である光輝の限界は全ステータス1500といったところである。限界突破の技能で更に三倍に上昇させる事ができるが、それでも圧倒的な開きがある。しかも、英字は魔力の直接操作や技能、変身で現在のステータスの更なる上昇を図る事が可能であるから、如何にチートな存在かが分かるだろう。

 

一応比較すると、通常の人族の限界が100から200、天職持ちで300から400、魔人族や亜人族は種族特性から一部のステータスで300から600辺りが限度である。勇者がチートなら、英字は化物としか言い様がない。まぁそもそも本当の意味でも化け物なのであながち間違いでもないが……。

 

他には、英字は館の探索で様々なアーティファクトを発見した。

 

その最たる物が『宝物庫』という指環である。

 

これはオスカーが保管していた指輪型アーティファクトで、英字のアイテムボックスの様に異空間を作り出すのではなく、指輪に取り付けられている一センチ程の紅い宝石の中に創られた空間に物を保管して置けるという物だ。要は、勇者の道具袋の様な物である。

 

空間の大きさは、正確には分からないが相当な物だと推測している。これまで倒してきた魔物達の肉を全て詰め込んでも、まだまだ余裕がありそうだからだ。そして、この指輪に刻まれた魔法陣に魔力を流し込むだけで物の出し入れが可能だ。半径一メートル以内なら任意の場所に出す事が出来る。

 

物凄く便利なアーティファクトなのだが、英字にとっては必要の無い物である為、ユエに渡して使わせる事にした。

 

他にも英字は、神結晶の膨大な魔力を内包するという特性を利用し、一部を錬成でネックレスやイヤリング、指輪等のアクセサリーに加工し、それをユエに贈ったのだ。

 

ユエは強力な魔法を行使できるが最上級魔法等は魔力消費が激しく、一発で魔力枯渇に追い込まれる。しかし電池の様に外部に魔力をストックしておけば最上級魔法でも連発出来、且つ魔力枯渇で動けなくなるという事も無くなる。

 

そう思って、ユエに『魔晶石シリーズ』と名付けたアクセサリー一式を贈ったのだが、その時のユエの反応は……

 

「……プロポーズ?」

 

なんて答えが返って来た為、英字はまたデコピンを披露する羽目になった。

 

「ユエ……私達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」

「ん……」

「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

「ん……」

「教会や国だけならまだしも、傍迷惑な神々共とも敵対するかもしれん」

「ん……」

「それでも構わないか?」

「今更……」

 

ユエの言葉に思わず苦笑いする英字。真っ直ぐ自分を見つめてくるユエのふわふわな髪を優しく撫でる。気持ちよさそうに目を細めるユエに、英字は一呼吸を置くと、キラキラと輝く紅眼を見つめ返し、望みと覚悟を言葉にして魂に刻み込む。

 

「まぁ、それ程気負う事もないだろう。折角の旅だ、楽しんでいくぞ」

英字の言葉を、ユエはまるで抱きしめる様に両手を胸の前でギュッと握り締めた。そして、無表情を崩し花が咲く様な笑みを浮かべた。返事はいつもの通り、

「んっ!」




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