ありふれぬ欲望の魔王はやはり世界最強   作:エルドラス

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第二十六話 大樹の秘密

雑談しながら進むこと十五分。一行は遂に大樹の下へたどり着いた。

大樹を見た英字の第一声は、

 

「……なんだこれは」

 

という驚き半分、疑問半分といった感じのものだった。ユエも、予想が外れたのか微妙な表情だ。二人は、大樹についてフェアベルゲンで見た木々のスケールが大きいバージョンを想像していたのである。

 

しかし、実際の大樹は……見事に枯れていたのだ。

 

大きさに関しては想像通り途轍もない。直径は目算では測りづらいほど大きいが直径五十メートルはあるのではないだろうか。明らかに周囲の木々とは異なる異様だ。周りの木々が青々とした葉を盛大に広げているのにもかかわらず、大樹だけが枯れ木となっているのである。

 

「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……」

 

英字とユエの疑問顔にカムが解説を入れる。それを聞きながら英字は大樹の根元まで歩み寄った。そこには、アルフレリックが言っていた通り石板が建てられていた。

 

「これは……オルクスの扉の……」

「……ん、同じ文様」

 

石版には七角形とその頂点の位置に七つの文様が刻まれていた。オルクスの部屋の扉に刻まれていたものと全く同じものだ。英字は確認のため、オルクスの指輪を取り出す。指輪の文様と石版に刻まれた文様の一つはやはり同じものだった。

 

「やはり、ここが大迷宮の入口みたいだな。……だが、ここからどうすればいいんだ?」

 

英字は大樹に近寄ってその幹を軽く叩いてみたりするが、当然変化などあるはずもなく、カム達に何か知らないか聞くが返答はNOだ。アルフレリックにも口伝は聞いているが、入口に関する口伝はなかった。隠していた可能性もないわけではないから、これは早速貸しを取り立てるべきか? と悩み始める英字。

 

その時、石板を観察していたユエが声を上げる。

 

「英字様……これ見て」

「何かあったか?」

 

ユエが注目していたのは石板の裏側だった。そこには、表の七つの文様に対応する様に小さな窪みが開いていた。

 

「これは……」

 

英字が、手に持っているオルクスの指輪を表のオルクスの文様に対応している窪みに嵌めてみる。

 

すると……石板が淡く輝きだした。

 

何事かと、周囲を見張っていたハウリア族も集まってきた。しばらく、輝く石板を見ていると、次第に光が収まり、代わりに何やら文字が浮き出始める。そこにはこう書かれていた。

 

〝四つの証〟

〝再生の力〟

〝紡がれた絆の道標〟

〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟

 

「……どういう意味だ?」

「……四つの証は……たぶん、他の迷宮の証?」

「……再生の力と紡がれた絆の道標は?」

 

頭を捻る英字にシアが答える。

 

「う~ん、紡がれた絆の道標は、あれじゃないですか? 亜人の案内人を得られるかどうか。亜人は基本的に樹海から出ませんし、英字さん達みたいに、亜人に樹海を案内して貰える事なんて例外中の例外ですし」

「……成程、それらしいな」

「……あとは再生……私?」

 

ユエが自分の固有魔法〝自動再生〟を連想し自分を指差す。試しにと、薄く指を切って〝自動再生〟を発動しながら石板や大樹に触ってみるが……特に変化はない。

 

「むぅ……違うみたい」

「……。枯れ木に、再生の力、最低四つの証……。もしや四つの証、つまり七大迷宮の半分を攻略した上で、再生に関する神代魔術を手に入れなければならないという事か?」

 

目の前の枯れている樹を再生する必要があるのでは? と推測する英字。ユエも、そうかもと納得顔をする。

 

「要するに、今すぐ攻略は無理という事か……。面倒だが他の迷宮から当たるしかないな……」

「ん……」

 

ここまで来て後回しにしなければならない事に、英字は嘆息する。ユエも残念そうだ。しかし大迷宮への入り方が見当もつかない上で明確に決められている以上、ぐだぐだと悩んでいても仕方ない。急いでいる訳でも無いので、気持ちを切り替えて先に三つの証を手に入れる事にする。

 

英字はハウリア族に号令をかけた。

 

「今聞いた通り、私達は先に他の大迷宮の攻略を目指す事にする。大樹の下へ案内するまで守るという約束もこれで完了した。貴様達なら、もうフェアベルゲンの庇護がなくてもこの樹海で十分に生きていけるだろう。よって、只今を以てここで別れる」

 

そして、チラリとシアを見る。その瞳には、別れの言葉を残すなら今しておけという意図が含まれているのを、シアは正確に読み取った。いずれ戻ってくるとしても、三つもの大迷宮の攻略となれば、それなりに時間がかかるだろう。当分は家族とも会えなくなる。

 

シアは頷き、カム達に話しかけようと一歩前に出た。

 

「父さ「陛下! お話があります!」……あれぇ、父様? 今は私のターンでは…」

 

シアの呼びかけをさらりと無視してカムが一歩前に出た。ビシッと直立不動の姿勢だ。横で「父様? ちょっと、父様?」とシアが声をかけるが、まるでイギリス近衛兵のように真っ直ぐ前を向いたまま見向きもしない。

 

「ん、何だ?」

 

取り敢えず父様? 父様? と呼びかけているシアは無視する方向で、英字はカムに聞き返した。カムは、シアの姿など見えていないと言う様に無視しながら、意を決してハウリア族の総意を伝える。

 

「陛下、我々も陛下のお供に付いていかせて下さい!」

「えっ! 父様達もソウゴさんに付いて行くんですか!?」

 

カムの言葉に驚愕を表にするシア。四ヶ月前の話し合いでは、自分を送り出す雰囲気だったのにどうしたのです!? と声を上げる。

 

「我々は最早ハウリアであってハウリアで無し! 陛下の部下であります! 是非お供に! これは一族の総意であります!」

「ちょっと、父様! 私、そんなの聞いてませんよ! ていうか、これで許可されちゃったら私の苦労は何だったのかと……」

「ぶっちゃけ、シアが羨ましいであります!」

「ぶっちゃけちゃった! ぶっちゃけちゃいましたよ! ホント、この四ヶ月間の間に何があったんですかっ!」

 

カムが一族の総意を声高に叫び、シアがツッコミつつ話しかけるが無視される。スペルディア、余計なことを吹き込んだな。と思いつつ、英字はきっちり返答した。

 

「却下だ」

「なぜです!?」

 

英字の実にあっさりした返答に身を乗り出して理由を問い詰めるカム。他のハウリア族もジリジリと英字に迫る。

 

「今のお前達の実力では私達の旅にはついてこれないからだ」

「しかしっ!」

「だからこそお前達はここで鍛錬し、さらに強くなれ。次に樹海に来た時に、使えるようだったら部下として迎え入れる」

「……そのお言葉に偽りはありませんか?」

「私が嘘をつくとでも?」

「いえいえ、滅相もございません」

「では、頼んだぞ。お前はハウリア族の族長なのだからな」

 

英字の言葉を受け、カム達は涙を拭いながら膝をついて受け入れた。

 

『我等ハウリア族一同、陛下の名に恥じぬ種族になって見せます!!!!!』

 

その宣言と共に、樹海にハウリア達の歓喜の雄叫びが響き渡った。

 

「ぐすっ、誰も見向きもしてくれない……旅立ちの日なのに……」

 

傍でシアが地面にのの字を書いていじけているが、やはり誰も気にしなかった。

 

 

 

 

 

樹海の境界でカム達の見送りを受けた英字、ユエ、シアは再びライドベンダーに乗り込んで平原を疾走していた。位置取りはユエ、英字、シアの順番である。以前、ライセン大峡谷の谷底で乗せた時よりシアの密着度が増している気がするが、特に気にせず運転する英字。

 

肩越しにシアが質問する。

 

「英字さん。そう言えば聞いていませんでしたが目的地は何処ですか?」

「言ってなかったか?」

「聞いてませんよ!」

「……私は知っている」

 

得意気なユエに、むっと唸り抗議の声を上げるシア。

 

「わ、私だって仲間なんですから、そういうことは教えて下さいよ! コミュニケーションは大事ですよ!」

「悪かった。次の目的地はライセン大峡谷だ」

「ライセン大峡谷?」

 

英字の告げた目的地に疑問の表情を浮かべるシア。現在、確認されている七大迷宮は、【ハルツィナ樹海】を除けば、【グリューエン大砂漠の大火山】と【シュネー雪原の氷雪洞窟】である。確実を期すなら、次の目的地はそのどちらかにするべきでは? と思ったのだ。その疑問を察したのか英字が意図を話す。

 

「一応、ライセンも七大迷宮があると言われているからな。シュネー雪原は魔人国の領土だから面倒な事になるかもしれないし、取り敢えず大火山を目指すのが良いんだろうが、どうせ西大陸に行くなら東西に伸びるライセンを通りながら行けば、途中で迷宮が見つかるかもしれないだろ?」

「つ、ついででライセン大峡谷を渡るのですか……」

 

思わず、頬が引き攣るシア。ライセン大峡谷は地獄にして処刑場というのが一般的な認識であり、つい最近、一族が全滅しかけた場所でもあるため、そんな場所を唯の街道と一緒くたに考えている事に内心動揺する。

 

英字は、密着しているせいかシアの動揺が手に取るようにわかり、呆れた表情をした。

 

「まったく、少しは自分の力を自覚しろ。今のお前なら谷底の魔物もその辺の魔物も変わらないだろう。ライセンは、放出された魔力を分解する場所だぞ? 身体強化に特化したお前なら何の影響も受けずに十全に動けるんだ。むしろ独壇場のはずだ」

「……師として情けない」

「うぅ~、面目ないですぅ」

 

ユエにも呆れた視線を向けられ目を泳がせるシア。話題を逸らそうとする。

 

「で、では、ライセン大峡谷に行くとして、今日は野営ですか? それともこのまま、近場の村か町に行きますか?」

「出来れば、食料とか調味料関係を揃えたり、今後のためにも素材を換金しておきたいから町がいいな。前に見た地図通りなら、この方角に町があった筈だからな」

 

英字としてはそろそろ、魔物の肉ではない普通の料理を食べたいと思っていたところだ。それに、今後、町で買い物なり宿泊なりするなら金銭が必要になる。素材だけなら腐る程持っているので換金してお金に替えておきたかった。それにもう一つ、ライセン大峡谷に入る前に落ち着いた場所で、やっておきたいこともあったのだ。

 

「はぁ~そうですか……よかったです」

 

英字の言葉に、何故か安堵の表情を見せるシア。英字が訝しそうに「どうした?」と聞き返す。

 

「いやぁ~英字さんの事だから、ライセン大峡谷でも魔物の肉をバリボリ食べて満足しちゃうんじゃないかと思ってまして……ユエさんは英字さんが持ってる魔物の血があれば問題ありませんし……どうやって私用の食料を調達してもらえる様に説得するか考えていたんですよぉ~、杞憂でよかったです。英字さんも真面な料理食べるんですね!」

「誰が好き好んで魔物なんて食べる……シア、お前は私を何だと思ってるんだ?」

「プレデターという名の新種の魔物?」

「そうか、ならお前から食べるとしよう。兎の捌き方なら心得ているからな」

「ちょ、やめぇ、どっから出したんですかっ、その首輪! ホントやめてぇ~そんなの付けないでぇ~、ユエさん見てないで助けてぇ!」

「……自業自得」

 

数時間程走り、そろそろ日が暮れるという頃、前方に町が見えてきた。奈落から出て空を見上げた時の様な、"戻ってきた"という気持ちが湧き出したのか、懐のユエがどこかワクワクした様子。僅かに振り返ったユエと目が合い、英字は思わず微笑みを浮かべた。

 

「あのぉ~、いい雰囲気のところ申し訳ないですが、この首輪、取ってくれませんか? 何故か、自分では外せないのですが……あの、聞いてます? 英字さん? ユエさん? ちょっと、無視しないで下さいよぉ~、泣きますよ! それは、もう鬱陶しいくらい泣きますよぉ!」




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