ありふれぬ欲望の魔王はやはり世界最強   作:エルドラス

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第二十七話 ブルックの町にて 門

遠くに町が見える。周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町だ。街道に面した場所に木製の門があり、その傍には小屋もある。恐らく門番の詰所だろう。小規模といっても、門番を配置する程度の規模はある様だ。それなりに充実した買い物が出来そうだと英字は頬を緩めた。

 

「……機嫌がいいのなら、いい加減、この首輪取ってくれませんか?」

 

街の方を見て微笑む英字に、シアが憮然とした様子で頼み込む。シアの首にはめられている黒を基調とした首輪は、小さな水晶のようなものも目立たないが付けられている、かなりしっかりした作りのもので、シアの失言の罰として英字が無理やり取り付けたものだ。何故か外れないため、シアが外してくれるよう頼んでいるのだが英字はスルーしている。

 

そろそろ、町の方からも英字達を視認できそうなので、ライドベンダーをアイテムボックスにしまい、徒歩に切り替える英字達。流石に、漆黒のバイクで乗り付けては大騒ぎになるだろう。

 

道中、シアがブチブチと文句を垂れていたが、やはりスルーして遂に町の門までたどり着いた。案の定、門の脇の小屋は門番の詰所だったらしく、武装した男が出てきた。格好は、革鎧に長剣を腰に身につけているだけで、兵士というより冒険者に見える。その冒険者風の男が英字達を呼び止めた。

 

「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」

 

規定通りの質問なのだろう。どことなくやる気なさげである。英字は、門番の質問に答えながらステータスプレートを取り出した。

 

「食料の補給がメインだ。旅の途中でな」

 

ふ~んと気のない声で相槌を打ちながら門番の男が英字のステータスプレートをチェックする。

 

英字のプレートの表記は、英字の手によって偽装工作が成されている。

 

ステータスプレートには、ステータスの数値と技能欄を隠蔽する機能があるのだ。冒険者や傭兵においては、戦闘能力の情報漏洩は致命傷になりかねないからである。そこから更に、英字は年齢と天職、レベルにも偽装を施している。双方共に、バレると騒ぎになるからだ。

 

「ほぉ~、その歳で傭兵か。しかもレベルも高い。……そっちの二人は?」

 

門番がユエとシアにもステータスプレートの提出を求めようとして、二人に視線を向ける。そして硬直した。みるみると顔を真っ赤に染め上げると、ボーと焦点の合わない目でユエとシアを交互に見ている。

 

ユエは言わずもがな、精巧なビスクドールと見紛う程の美少女だ。そして、シアも喋らなければ神秘性溢れる美少女である。つまり、門番の男は二人に見惚れて正気を失っているのだ。

 

「実は魔物の襲撃のせいでこっちの子のは失くしてしまったんだ。こっちの兎人族は……わかるな」

 

その言葉だけで門番は納得したのか、なるほどと頷いてステータスプレートを英字に返す。

 

「それにしても随分な綺麗どころを手に入れたな。白髪の兎人族なんて相当レアなんじゃないか? あんたって意外に金持ち?」

 

未だチラチラと二人を見ながら、羨望と嫉妬の入り交じった表情で門番が英字に尋ねる。英字は肩をすくめるだけで何も答えなかった。

 

「まぁいい。通っていいぞ」

「ああ、どうも。……おっとそうだ、素材の換金場所は何処にある?」

「あん? それなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むなら、ギルドで場所を聞け。簡単な町の地図をくれるから」

「親切な事だ、感謝する」

 

門番から情報を得て、英字達は門をくぐり町へと入っていく。門のところで確認したがこの町の名前はブルックというらしい。町中は、それなりに活気があった。かつて見たオルクス近郊の町ホルアドほどではないが露店も結構出ており、呼び込みの声や、白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。

 

こういう騒がしさは訳もなく気分を高揚させるものだ。英字だけでなく、ユエも楽しげに目元を和らげている。しかし、シアだけは先程からぷるぷると震えて、涙目で英字を睨んでいた。

 

怒鳴る事も無く、ただジッと涙目で見てくるので、流石に気になって声を掛ける英字。

 

「どうしたんだ、折角の町だぞ?」

「これです! この首輪! これのせいで奴隷だと思われるじゃないですか! 英字さん、分かっていて付けたんですね! うぅ、酷いですよぉ~、私達仲間じゃなかったんですかぁ~」

 

シアが怒っているのはそういう事らしい。旅の仲間だと思っていたのに、意図して奴隷扱いを受けさせられた事が相当ショックだった様だ。勿論英字が付けた首輪は本来の奴隷用の首輪ではなく、シアを拘束する様な力はない。それはシアもわかっている。だがだとしても、やはりショックなものはショックなのだ。

 

そんなシアの様子に英字はカリカリと頭を掻きながら目を合わせる。

 

「考えてもみろ、奴隷でもない亜人族、それも愛玩用として人気の高い兎人族が普通に町を歩ける訳無いだろう? まして、お前は白髪の兎人族で物珍しい上に容姿もスタイルも抜群。断言するが、誰かの奴隷だと示してなかったら、町に入って十分も経たず目をつけられるぞ。後は絶え間無い人攫いの嵐だろうよ。面倒事になるのは目に見え……って何クネクネしてるんだ?」

 

言い訳あるなら言ってみろやゴラァ! という感じで英字を睨んでいたシアだが、話を聞いている内に照れたように頬を赤らめイヤンイヤンし始めた。ユエが冷めた表情でシアを見ている。

 

「も、もう、英字さん。こんな公衆の面前で、いきなり何言い出すんですかぁ。そんな、容姿もスタイルも性格も抜群で、世界一可愛くて魅力的だなんてぇ、もうっ! 恥かしいでっぶげら!?」

 

調子に乗って話を盛るシアの頬に、ユエの黄金の右ストレートが突き刺さる。可愛げの欠片もない悲鳴を上げて倒れるシア。身体強化していなかったので、別の意味で赤くなった頬をさすりながら起き上がる。

 

「……調子に乗っちゃだめ」

「……ずびばぜん、ユエざん」

 

冷めたユエの声に、ぶるりと体を震わせるシア。そんな様子に呆れた視線を向けながら、英字は話を続ける。

 

「つまりだ。人間族のテリトリーでは、寧ろ奴隷という身分がお前を守っているんだ。それ無しでは、トラブルの元だからなお前は」

「それは……わかりますけど……」

 

 理屈も有用性もわかる。だがやはり納得し難いようで不満そうな表情のシア。仲間というものに強い憧れを持っていただけに、そう簡単に割り切れないのだろう。そんなシアに、今度はユエが声をかけた。

 

「……有象無象の評価なんてどうでもいい」

「ユエさん?」

「……大切な事は、大切な人が知っていてくれれば十分。……違う?」

「………………そう、そうですね。そうですよね」

「……ん、不本意だけど……シアは私が認めた相手……小さい事気にしちゃダメ」

「……ユエさん……えへへ。ありがとうございますぅ」

 

かつて大衆の声を聞き、大衆のために力を振るった吸血姫。裏切りの果てに至った新たな答えは、例え言葉少なでも確かな重みがあった。だからこそ、その言葉はシアの心にストンと落ちる。自分が英字とユエの大切な仲間であるということは、ハウリア族のみなも、英字やユエも分かっている。いらぬトラブルを招き寄せてまで万人に理解してもらう必要はない。もちろん、それが出来るならそれに越したことはないが……

 

シアは、ユエの言葉に照れたように微笑みながらチラッチラッと英字を見る。何かの言葉を期待するように。

 

英字は仕方ないという様に肩を竦めて言葉を紡ぐ。

 

「まぁ、奴隷じゃないとばれて襲われても見捨てたりはしないさ」

「街中の人が敵になってもですか?」

「既に帝国兵とだって殺りあっただろう?」

「じゃあ、国が相手でもですね! ふふ」

「今更だ。世界だろうと神だろうと変わらない、敵対するなら戦うだけだ」

「くふふ、聞きました? ユエさん。英字さんったらこんな事言ってますよ? よっぽど私達が大事なんですねぇ~」

「……英字様が大事なのは私だけ」

「ちょっ、空気読んで下さいよ! そこは、何時も通り『…ん』て素直に返事するところですよ!」

「……いや、だから結婚してるんだって」

 

文句を言いながらも嬉しげで楽しげな表情をするシア。いざとなれば、自分のために世界とだって戦ってくれるという言葉は、やはり一人の女として嬉しいものだ。まして、それが惚れた相手なら尚更。

 

英字は、じゃれあっている(ように見える)二人を尻目に、シアの首輪について話し始める。

 

「その首輪だが、念話石と特定石が組み込んである。必要なら使え。直接魔力を注げば使える」

「念話石と特定石ですか?」

 

特定石は、生成魔法により〝気配感知+特定感知〟を付与したものだ。特定感知を使うと、多くの気配の中から特定の気配だけ色濃く捉えて他の気配と識別しやすくなる。それを利用して、魔力を流し込むことでビーコンのような役割を果たすことが出来るようにしたのだ。ビーコンの強さは注ぎ込まれた魔力量に比例する。

 

英字の説明に、感心の声を上げるシア。

 

「ちなみに、その首輪、特定量の魔力を流すことで、ちゃんと外せるようになっている」

「なるほどぉ~、つまりこれは……いつでも私の声が聞きたい、居場所が知りたいという英字さんの気持ちというわけですね? もうっ、そんなに私の事が好きなんですかぁ? 流石にぃ、ちょっと気持ちが重いっていうかぁ、あっ、でも別に嫌ってわけじゃなくッバベルンッ!?」

「……調子にのるな」

「ぐすっ、ずみまぜん」

 

美しい曲線を描いて飛来したユエの蹴りが後頭部に決まり、奇怪な悲鳴を上げながら倒れるシア。ユエから、冷ややかな声がかけられる。近接戦苦手だったんじゃ……と言いたくなるくらい見事なハイキックを披露するユエに、シアは涙目で謝る。旅の同行は許しても、英字へのアプローチはそうそう許してもらえないらしい。もっとも、シアの言動がアプローチになっているかは甚だ疑問ではあるが。

 

そんな風に仲良く? メインストリートを歩いていき、一本の大剣が描かれた看板を発見する。かつてホルアドの町でも見た冒険者ギルドの看板だ。規模は、ホルアドに比べて二回りほど小さい。

 

英字は看板を確認すると重厚そうな扉を開き中に踏み込んだ。




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