ありふれぬ欲望の魔王はやはり世界最強   作:エルドラス

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皆様のおかげでUA10000超えたのに、投稿が遅れてしまい申し訳ございませんでした。

実はここ最近体調を崩してしまい、なかなか投稿できずにいました。
が、今は少し回復したので投稿させていただきました。

応援してくださる皆様本当にありがとうございます。


第二十八話 ブルックの町にて 冒険者ギルドと宿屋

ギルドは荒くれ者達の場所というイメージから、英字は、勝手に薄汚れた場所と考えていのだが、意外に清潔さが保たれた場所だった。入口正面にカウンターがあり、左手は飲食店になっているようだ。何人かの冒険者らしい者達が食事を取ったり雑談したりしている。誰ひとり酒を注文していないことからすると、元々、酒は置いていないのかもしれない。酔っ払いたいなら酒場に行けということだろう。

 

英字達がギルドに入ると、冒険者達が当然のように注目してくる。最初こそ、見慣れない三人組ということでささやかな注意を引いたに過ぎなかったが、彼等の視線がユエとシアに向くと、途端に瞳の奥の好奇心が増した。中には「ほぅ」と感心の声を上げる者や、門番同様、ボーと見惚れている者、恋人なのか女冒険者に殴られている者もいる。平手打ちでないところが冒険者らしい。

 

テンプレ宜しく、ちょっかいを掛けてくる者がいるかとも思ったが、意外に理性的で観察するに留めているようだ。足止めされなくて幸いと英字はカウンターへ向かう。

 

カウンターには恰幅がいい女性が座っていた。年の頃は四十代といったところか、ニコニコと人好きのする笑みを浮かべている。

 

彼女が此処の責任者かと思い、英字はそのまま話し掛ける。

 

「少しよろしいか」

「あらいらっしゃい。冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。両手にとびっきり綺麗な花を持って登場なんて、一体どこの坊ちゃんだい?」

「いやいやレディ、私はただの通りすがりだ。彼女達は旅のお供でね」

「あらレディなんて、口が上手いねアンタ。その歳で中々やるね」

「そちらこそ。私の主観だが、ここの冒険者達が大人しいのは貴方の腕によるものなのだろう。もしや此処の主人で?」

「いやいや、あたしはただの受付。キャサリンって者さ」

 

英字の言葉に気を良くしたのか、随分と言葉尻が軽くなるキャサリン。

 

「おっと、つい話が弾んじまった。ご用件は何かしら?」

「ああ、素材の買取をお願いしたい」

「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」

「? 買取にステータスプレートの提示が必要なのか?」

 

英字の疑問に「おや?」という表情をするキャサリン。

 

「あんた冒険者じゃなかったのかい? 確かに、買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ」

「そうだったのか」

 

キャサリンの言う通り、冒険者になれば様々な特典も付いてくる。生活に必要な魔石や回復薬を始めとした薬関係の素材は冒険者が取ってくるものが殆どだ。町の外はいつ魔物に襲われるかわからない以上、素人が自分で採取しに行く事は殆ど無い。危険に見合った特典が付いてくるのは当然だった。

 

「他にも、ギルドと提携している宿や店は一~二割程度は割り引いてくれるし、移動馬車を利用するときも高ランクなら無料で使えたりするね。どうする? 登録しておくかい? 登録には千ルタ必要だよ」

 

ルタとは、この世界トータスの北大陸共通の通貨だ。ザガルタ鉱石という特殊な鉱石に他の鉱物を混ぜることで異なった色の鉱石ができ、それに特殊な方法で刻印したものが使われている。青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の種類があり、左から一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万ルタとなっている。驚いたことに貨幣価値は日本と同じだ。

 

「成程。なら折角だ、登録しておくとしよう。悪いが、最近こちらに来たばかりで、こちらの通貨の持ち合わせがない。買取金額から引く形で頼めるだろうか? 勿論、最初の買取額はそのままでいい」

「ほ~ん、成程ねぇ。ならさっきのお世辞の礼も兼ねて上乗せさせてもらうよ」

 

英字は有り難く厚意を受け取っておく事にした。ステータスプレートを差し出す。

 

キャサリンはユエとシアの分も登録するかと聞いたが、それは断った。二人はそもそもプレートを持っていないので発行からしてもらう必要がある。しかし、そうなるとステータスの数値も技能欄も隠蔽されていない状態でキャサリンの目に付く事になる。

 

英字としては、二人のステータスを見てみたい気もしたが、おそらく技能欄にはばっちりと固有魔法なども記載されているだろうし、それを見られてしまうこと考えると、まだ三人の存在が公になっていない段階では知られない方が面倒が少なくて済むと今は諦めることにした。(最悪『万物鑑定』を使えば見る事はできる)

 

戻ってきたステータスプレートには、新たな情報が表記されていた。天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに〝冒険者〟と表記され、更にその横に青色の点が付いている。

 

青色の点は冒険者ランクだ。上昇するにつれ赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と変化する。……お気づきだろうか。そう、冒険者ランクは通貨の価値を示す色と同じなのである。

 

つまり、青色の冒険者とは「お前は一ルタ程度の価値しかねぇんだよ、ぺっ」と言われているのと一緒ということだ。切ない。きっと、この制度を作った初代ギルドマスターの性格は捻じ曲がっているに違いない。

 

ちなみに、戦闘系天職を持たない者で上がれる限界は黒だ。辛うじてではあるが四桁に入れるので、天職なしで黒に上がった者は拍手喝采を受けるらしい。天職ありで金に上がった者より称賛を受けるというのであるから、いかに冒険者達が色を気にしているかがわかるだろう。

 

「男なら頑張って黒を目指しなよ? お嬢さん達にカッコ悪いところ見せない様にね」

「ああ、そうさせてもらおう。それで、買取はここでよろしいか?」

「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」

 

キャサリンは受付だけでなく買取品の査定もできるらしい。優秀な人材だ。英字はあらかじめアイテムボックスから出してバックに入れ替えておいた素材を取り出す。品目は魔物の毛皮や爪、牙、そして魔石だ。カウンターの受け取り用の入れ物に入れられていく素材を見て、再びキャサリンが驚愕の表情をする。

 

「こ、これは!」

 

恐る恐る手に取り、隅から隅まで丹念に確かめる。息を詰めるような緊張感の中、漸く顔を上げたキャサリンは、溜息を吐き英字に視線を転じた。

 

「とんでもないものを持ってきたね。これは…………樹海の魔物だね?」

「あぁ、その通りだ」

 

当然の事だが、奈落の魔物の素材などこんな場所で出す訳が無い。そんな未知の素材を出されたら一発で大騒ぎだ。樹海の魔物の素材でも十分に珍しいだろう事は予想していたので少し迷ったが、他に適当な素材も無かったので買取に出した。キャサリンの反応を見る限り、やはり珍しい様だ。

 

「樹海の素材は良質な物が多いからね、売ってもらえるのは助かるよ」

「やはり珍しいか?」

「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからハイリスク。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね」

 

キャサリンはチラリとシアを見る。恐らく、シアの協力を得て樹海を探索したのだと推測したのだろう。樹海の素材を出してもシアのお陰で不審にまでは思われなかった様だ。

 

それからキャサリンは、全ての素材を査定し金額を提示した。買取額は四十八万七千ルタ。結構な額だ。

 

「これでいいかい? 中央ならもう少し高くなるだろうけどね。」

「いや、この額で構わない」

 

英字は五十一枚のルタ通貨を受け取る。この貨幣、鉱石の特性なのか異様に軽い上、薄いので五十枚を超えていても然程苦にならなかった。もっとも、例え邪魔でも、英字にはアイテムボックスがあるので問題はない。

 

「ところで、門番の彼にこの町の簡易な地図を貰えると聞いたんだが……」

「ああ、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」

 

手渡された地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。これが無料とは、ちょっと信じられないくらいの出来である。

 

「いいのか? こんな立派な地図を無料で。十分金が取れるレベルだと思うんだが……」

「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」

「そうか、では有難く頂戴しよう」

「いいって事さ。それより、金はあるんだから少しはいい所に泊りなよ。治安が悪い訳じゃあないけど、その二人ならそんなの関係無く暴走する男連中が出そうだからね」

 

キャサリンは最後までいい人で気配り上手だった。英字は苦笑いしながら「そうしよう」と返事をし、入口に向かって踵を返した。ユエとシアも頭を下げて追従する。食事処の冒険者の何人かがコソコソと話し合いながら、最後までユエとシアの二人を目で追っていた。

 

「ふむ、いろんな意味で面白そうな連中だね……」

 

後には、そんなキャサリンの楽しげな呟きが残された。

 

 

 

 

 

英字達が、最早地図というよりガイドブックと称すべきそれを見て決めたのは"マサカの宿"という宿屋だ。紹介文によれば料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるという。最後のが決め手だ。その分少し割高だが、金はあるので問題ない。若干、何が"まさか"なのか気になったというのもあるが……

 

宿の中は一階が食堂になっている様で、複数の人間が食事をとっていた。英字達が入ると、お約束の様にユエとシアに視線が集まる。それらを無視してカウンターらしき場所に行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。

 

「いらっしゃいませー、ようこそマサカの宿へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」

「宿泊だ。このガイドブックを見て来たんだが、記載されている通りでいいか?」

 

英字が見せたキャサリン特製地図を見て合点がいった様に頷く女の子。

 

「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」

「あぁ、一泊でいい。食事付きで、あと風呂も頼む」

「はい。お風呂は十五分で百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが」

 

女の子が時間帯表を見せる。なるべくゆっくり入りたいので、男女で分けるとして二時間は確保したい。その旨を伝えると「えっ、二時間も!?」と驚かれたが、英字としては譲れないところだ。

 

「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 二人部屋と三人部屋が空いてますが……」

 

ちょっと好奇心が含まれた目で英字達を見る女の子。そういうのが気になるお年頃だ。だが、周囲の食堂にいる客達まで聞き耳を立てるのは勘弁してもらいたいと思う英字。ユエもシアも美人とは思っていたが、想像以上に二人の容姿は目立つ様だ。出会い方が出会い方だったのと、美男美女を見慣れている英字の感覚が麻痺しているのだろう。

 

「ああ、三人部屋で頼む」

 

英字が躊躇いなく答える。周囲がザワッとなった。女の子も少し頬を赤らめている。だが、そんな英字の言葉に待ったをかけた人物がいた。

 

「……ダメ。二人部屋二つで」

 

ユエだ。周囲の客達、特に男連中が英字に向かって「ざまぁ!」という表情をしている。ユエの言葉を男女で分けろという意味で解釈したのだろう。だがそんな表情は、次のユエの言葉で絶望に変わる。

 

「……私と英字様で一部屋。シアは別室」

「ちょっ、何でですか! 私だけ仲間はずれとか嫌ですよぉ! 三人部屋でいいじゃないですかっ!」

 

猛然と抗議するシアに、ユエはさらりと言ってのけた。

 

「……シアがいると気が散る」

「気が散るって……何かするつもりなんですか?」

「……何って……ナニ?」

「ぶっ!? ちょっ、こんなとこで何言ってるんですか! お下品ですよ!」

 

ユエの言葉に絶望の表情を浮かべた男連中が、次第に英字に対して嫉妬の炎が宿った眼を向け始める。宿の女の子は既に顔を赤くしてチラチラと英字とユエを交互に見ていた。英字がこれ以上騒ぎが大きくなる前に止めに入ろうとするが、その目論見は少し遅かった。

 

「だ、だったら、ユエさんこそ別室に行って下さい! 英字さんと私で一部屋です!」

「……ほぅ、それで?」

 

指先を突きつけてくるシアに、冷気を漂わせた眼光で睨みつけるユエ。あまりの迫力に、シアは訓練を思い出したのかプルプルと震えだすが、「ええい、女は度胸!」と言わんばかりにキッと睨み返すと大声で宣言した。

 

「そ、それで、英字さんに私の処女を貰ってもらいますぅ!」

 

静寂が舞い降りた。誰一人、言葉を発することなく、物音一つ立てない。今や、宿の全員が英字達に注目、もとい凝視していた。厨房の奥から、女の子の両親と思しき女性と男性まで出てきて「あらあら、まあまあ」「若いっていいね」と言った感じで注目している。

 

ユエが瞳に絶対零度を宿してゆらりと動いた。

 

「……今日がお前の命日」

「うっ、ま、負けません! 今日こそユエさんを倒して正ヒロインの座を奪ってみせますぅ!」

「……師匠より強い弟子などいないことを教えてあげる」

「下克上ですぅ!」

 

ユエから尋常でないプレッシャーが迸り、震えながらもシアが背中に背負った大槌に手をかける。まさに修羅場、一触即発の雰囲気に誰もがゴクリと生唾を飲み込み緊張に身を強ばらせる。

 

そして……

 

ゴチンッ! ゴチンッ!

 

「ひぅ!?」

「はきゅ!?」

 

鉄拳が叩き込まれる音と二人の少女の悲鳴が響き渡った。ユエもシアも、涙目になって蹲り両手で頭を抱えている。二人にゲンコツを叩き込んだのは、勿論英字である。

 

「周りの迷惑を考えろ。第一、抱く気は無いと何時も言っているだろう」

「……うぅ、英字様の愛が痛い……」

「も、もう少し、もう少しだけ手加減を……身体強化すら貫く痛みが……」

「死んでない時点で十分手加減している」

 

英字は冷ややかな視線を二人に向けると、クルリと女の子に向き直る。女の子は英字の視線を受けてビシィと姿勢を正した。

 

「騒がせてすまないな。三人部屋で頼む」

「……こ、この状況で三人部屋……つ、つまり三人で? す、すごい……はっ、まさかお風呂を二時間も使うのはそういう事!? お互いの体で洗い合ったりするんだわ! それから……あ、あんな事やこんな事を……なんてアブノーマルなっ!」

 

女の子はトリップしていた。見かねた女将さんらしき人がズルズルと女の子を奥に引きずっていく。代わりに父親らしき男性が手早く宿泊手続きを行った。部屋の鍵を渡しながら「うちの娘がすみませんね」と謝罪するが、その眼には「男だもんね? わかってるよ?」という嬉しくない理解の色が宿っている。絶対、翌朝になれば「昨晩はお楽しみでしたね?」とか言うタイプだ。

 

何を言っても誤解が深まりそうなので、急な展開に呆然としている客達を尻目に、未だ蹲っているユエとシアを肩に担ぐと、英字はそのまま三階の部屋に駆ける様に向かった。暫くすると、止まった時が動き出したかの様に階下で喧騒が広がっていたが、何だか異様に疲れた気がするので無視する英字。部屋に入るとユエとシアをそれぞれのベッドにポイッと投げ捨てると、自らもベッドにダイブして意識をシャットダウンした。

 

数時間程眠ったのか、夕食の時間になった様でユエに起こされた英字は、ユエとシアを伴って階下の食堂に向かった。何故か、チェックインの時にいた客が全員まだ其処にいた。

 

英字は一瞬頬が引き攣りそうになるが、冷静を装って席に着く。すると、初っ端から滅茶苦茶顔を赤くした宿の女の子が「先程は失礼しました」と謝罪しながら給仕にやって来た。謝罪してはいるが瞳の奥の好奇心が隠せていない。注文した料理は確かに美味かったのだが、せっかく久しぶりに食べた真面な料理は、もう少し落ち着いて食べたかったとソウゴは内心溜息を吐くのだった。

 

風呂は風呂で、男女で時間を分けたのに結局ユエもシアも乱入してきたり、風呂場でまた修羅場になった挙句、英字に頭を掴まれ仲良く放り投げられたり、その様子をこっそり風呂場の陰から宿の女の子が覗いていたり、覗きがバレて女将さんに尻叩きされていたり……

 

夜寝る時も、当然の様にユエが英字のベッドに入り、定位置という様に右手に抱きつくと、シアが対抗して左腕に抱きついたり、そのまま火花を散らし始めたので英字に部屋を追い出されたり……。

 

翌朝、英字は次からは宿に泊まる時は一人部屋で寝ようかと思案した。

 




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