ありふれぬ欲望の魔王はやはり世界最強   作:エルドラス

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第三十三話 罠に負けるな

リン鉱石の照らす通路はずっと奥まで続いている。特に枝分かれの通路がある訳でも無く、見える範囲では只管真っ直ぐだ。今までのミレディの罠の配置からして、捻りの無さは逆に怪しい。

 

警戒しつつ、道なりに先へと進む英字達。数百メートル進んだだろうか、代り映えのしない規則正しい石造りの通路は微妙に距離感を狂わせる。同じ場所をずっと歩き続けている様な錯覚に陥るのだ。

 

何となく気分が悪くなりそうなソウゴ達だったが、まるでそんな心情を見越した様に変化が現れた。前方に大部屋が見えたのだ。何かありそうだと思いつつも、英字達は躊躇わず部屋へと飛び込んだ。…直後、ガコンッともうお馴染みになってしまった音が響く。

 

「さて今度は……天井か」

「……シアっ!」

「は、はいですぅ!」

「いや待て」

 

全員が頭上に注意を向けた瞬間、英字の言葉通り天井が降って来た。何とも古典的なトラップであるが、魔力行使が著しく難しいこの領域で範囲型のトラップは反則だ。

 

 

もし通路から部屋を見ていた者がいたのなら、きっとズシャッ! という音と共に部屋が消えて通路が突然壁に覆われた様に見えただろう。通路の入口を完全に塞ぐ形で天井が落ちて来たのだ。後に残ったのは、傍から見れば一瞬で行き止まりとなった通路のみ。

 

一見すれば、部屋全体を押し潰した天井により中にいた英字達も圧殺されたとしか思えない状況だ。静寂がそれを後押ししている。

 

だが英字達が入って来たのとは反対側の壁に面する通路。そこにはいつの間にか三人の姿があった。

 

「ふう、今のは少し焦ったな」

「……ん、潰されるのは困る」

「いやいや、困るとかそんなレベルの話じゃないですからね? 普通に死ぬところでしたからね?」

 

逃げ場は無く、奥の通路までは距離がありすぎて普通に走れば英字以外は間に合いそうにない。だから英字は、咄嗟にユエとシアを抱えて反対側の通路へテレポートの魔法を使って移動したのだ。

 

安堵した表情で冷や汗を拭うユエとシアを立ち上がらせつつ、作り置きしてあった干し肉を取り出して簡易的なエネルギー補給をする英字達。そうして気合を入れ直し前を向いた。

 

……そして再び、と言うか何時ものウザイ文を発見した。

 

"ぷぷー、焦ってやんの~、ダサ~い"

 

どうやらこのウザイ文は、全てのトラップの場所に設置されているらしい。ミレディ・ライセン……嫌がらせに努力を惜しまないヤツである。

 

「あ、焦ってませんよ! 断じて焦ってなどいません! ださくないですぅ!」

 

英字の視線を辿り、ウザイ文を見つけたシアが「ガルルゥ!」という唸り声が聞こえそうな様子で文字に向かって反論する。シアのミレディに対する敵愾心は天元突破しているらしい。ウザイ文が見つかる度に一々反応している。もしミレディが生きていたら「いいカモが来た!」とほくそ笑んでいる事だろう。

 

「いいから、行くぞ。いちいち気にする必要は無い」

「……思うツボ」

「うぅ、はいですぅ」

 

その後も進む通路、辿り着く部屋の尽くで罠が待ち受けていた。突如全方位から飛来する毒矢、硫酸らしき物を溶かす液体がたっぷり入った落とし穴、アリジゴクの様に床が砂状化しその中央にワーム型の魔物が待ち受ける部屋、そしてウザイ文。その悉くを英字が無効化するが、ユエとシアのストレスはマッハだった。

 

その後も暫く歩き、この迷宮に入って一番大きな通路に出た。幅は六、七メートルといったところだろう。結構急なスロープ状の通路で緩やかに右に曲がっている。恐らく螺旋状に下っていく通路なのだろう。

 

英字達は警戒する。こんな如何にもな通路で何のトラップも作動しないなど有り得ない。

 

そして、その考えは正しかった。もう嫌というほど聞いてきた「ガコンッ!」という何かが作動する音が響く。既に、スイッチを押そうが押すまいが関係なく発動している気がする。なら、スイッチはつくる必要はなかったのでは? と思う英字だったが、きっとそんな思いもミレディ・ライセンは織り込み済みなのだと捉える。

 

今度はどんなトラップだ? と周囲を警戒する英字達の耳にそれは聞こえてきた。

 

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 

明らかに何か重たいものが転がってくる音である。

 

「「「……」」」

 

三人が無言で顔を見合わせ、同時に頭上を見上げた。スロープの上方はカーブになっているため見えない。異音は次第に大きくなり、そして……カーブの奥から通路と同じ大きさの巨大な大岩が転がって来た。岩で出来た大玉である。全くもって定番のトラップだ。きっと、必死に逃げた先には、またあのウザイ文があるに違いない。

 

ユエとシアが踵を返し脱兎の如く逃げ出そうとする。しかし、少し進んで直ぐに立ち止まった。英字が付いて来ないからだ。

 

「……ん、英字様?」

「英字さん!? 早くしないと潰されますよ!」

 

二人の呼びかけに、しかし英字は答えず、それどころかその場で腰を軽く落として左手を真っ直ぐに前方に伸ばした。掌は大玉を照準する様に掲げられている。そして、右腕は軽く引き絞られ、禍々しいオーラが出ている状態となっている。

 

英字は轟音を響かせながら迫ってくる大玉を真っ直ぐに見つめ、しかし意識は背後にいるシアに向ける。

 

「シア、よく見ておけ」

 

そして……

 

ゴガァアアン!!!

 

凄まじい破壊音を響かせながら大玉が木端微塵に弾け飛ぶ。英字は拳を突き出した状態で残心し、やがてフッと気を抜くと体勢を立て直し、ユエとシアの方へ振り返った。

 

「シア、いずれはこれくらいはできるようになってもらうぞ」

 

今回英字は、大玉を殴る時、拳に『貫通属性』を付与して殴ったのだ。貫通属性は相手の防御上昇を無視して相手にダメージを与えることができると言う物だ。

 

近接戦主体のシアにはいつか、これを覚えてもらうつもりである。

 

「英字さ~ん! 流石ですぅ! カッコイイですぅ! すっごくスッキリしましたぁ!」

「……ん、すっきり」

「……聞いてないな」

 

言葉を聞かずに燥ぐ二人に苦笑いする英字。それだけストレスが溜まっていたのだと解釈して好きな様にさせようとした英字だが、その耳は新たな脅威を察知する。

 

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……

 

という聞き覚えのある音によって。溜息を吐く英字。笑顔で固まるシアと無表情ながら頬が引き攣っているユエ。締め切りを迫られる小説家の様に背後を振り向いたユエ達の目に映ったのは……

 

───黒光りする金属製の大玉だった。

 

 

「……はぁ」

 

英字は先程より深く溜息を吐いた。

 

「あ、あの英字さん。気のせいでなければ……アレ、何か変な液体撒き散らしながら転がってくる様な……」

「……溶けてる」

 

そう。事もあろうに金属製の大玉は、表面に空いた無数の小さな穴から液体を撒き散らしながら迫ってきており、その液体が付着した場所がシュワーという実にヤバイ音を響かせながら溶けている様なのである。

 

英字はそれを確認し一度「面倒な」と呟くと、無言で大玉に向けて右手を突き出し、そこから冷気を放出し酸と大玉を凍らせて止めた。

 

英字はそのまま振り返り、何事も無かった様に「行くぞ」と声を掛けて歩き出した。そんな英字に釣られた様に、ユエもシアも無表情になって歩き出した。

 

 

 

 

その後先程の蠍の間の様な広間に出たが、同じく英字によって浮遊状態を付与されて楽に超えて反対側の部屋に辿り着く三人。

 

その部屋は長方形型の奥行きがある大きな部屋だった。壁の両サイドには無数の窪みがあり、騎士甲冑を纏い大剣と盾を装備した身長二メートル程の像が並び立っている。部屋の一番奥には大きな階段があり、その先には祭壇の様な場所と奥の壁に荘厳な扉があった。祭壇の上には菱形の黄色い水晶の様な物が設置されている。

 

英字は周囲を見渡しながら話しかける。

 

「如何にもな扉だな。ミレディの住処に到着か? それなら少々拍子抜けだが……この周りの騎士甲冑が飾りでない事を願おう」

「……大丈夫、お約束は守られる」

「それって襲われるって事ですよね? 全然大丈夫じゃないですよ?」

 

そんなことを話しながら英字達が部屋の中央まで進んだとき、確かにお約束は守られた。

 

毎度お馴染みのあの音である。

 

ガコン!

 

ピタリと立ち止まる英字達。内心「やっぱりなぁ~」と思うユエとシア、そして笑みを浮かべる英字。周囲を見ると、騎士達の兜の隙間から見えている眼の部分がギンッと光り輝いた。そしてガシャガシャと金属の擦れ合う音を立てながら、窪みから騎士達が抜け出てきた。その数、総勢五十体。

 

騎士達はスっと腰を落とすと、盾を前面に掲げつつ大剣を突きの型で構えた。窪みの位置的に現れた時点で既に包囲が完成している。

 

「ははは、期待通りだな。ユエ、シア。やるぞ」

「んっ」

「か、数多くないですか? いや、やりますけども……」

 

そう言うと英字は腰に下げていたオンインバスター50をガンモードにして構える。ここまで数々のトラップを処理してきた英字だが、やはり彼の本領は相対者のいる戦闘である。だからこそ、やっと戦える事に少しばかりの喜びを感じている。

 

ユエは英字の言葉に気合に満ちた返事を返した。この迷宮内では、自分が一番火力不足である事を理解している。だが足手纏いになるつもりは毛頭ない。英字のパートナー(英字は認めていない)たるもの、この程度の悪環境如きで後れを取る訳にはいかないのだ。まして今は、もしかしたら或いは、万に一つの可能性で恋敵になるやもしれない相手もいるのだから余計無様は見せられない。

 

一方シアは、少々腰が引け気味だ。この環境で影響無く力を発揮出来るとは言え、実質的な戦闘経験はかなり不足している。真面な魔物戦は谷底の魔物だけで、僅か半日程度の事だ。ユエとの模擬戦を合わせても半年にも満たない戦闘経験しかない。元々ハウリア族という温厚な部族出身だった事からも、戦闘に対して及び腰になるのも無理はない。寧ろ、気丈にドリュッケンを構えて立ち向かおうと踏ん張っている時点でかなり根性があると言えるだろう。

 

「シア」

「は、はいぃ! な、何でしょう英字さん」

 

緊張に声が裏返っているシアに、英字は声をかける。それは、どことなく普段より柔らかい声音だった……シアの気のせいかもしれないが。

 

「お前は強い、私達が保証してやる。こんなゴーレム如きに負けはしない。だから下手な事は考えず好きに暴れろ、危ない時は援護する」

「……ん、弟子の面倒は見る」

 

シアは英字とユエの言葉に思わず涙目になった。単純に嬉しかったのだ。色々と扱いが雑だったので「ひょっとして付いて来た事も迷惑に思っているんじゃ…」とちょっぴり不安になったりもしたのだが……杞憂だった様だ。ならば、未熟者は未熟者なりに出来ることを精一杯やらねばならない。シアは全身に身体強化を施し、力強く地面を踏みしめた。

 

「ふふ、英字さんが少しデレてくれました。やる気が湧いてきましたよ! ユエさん、下克上する日も近いかもしれません」

「「……調子に乗るな」」

 

英字とユエの両方に呆れた眼差しを向けられるも、テンションの上がってきたシアは聞いていない。真っ直ぐ前に顔を向けて騎士達を睨みつける。

 

「かかってこいやぁ! ですぅ!」

「まぁ、やる気が出たのなら良いとするか……」

「……だぁ~」

「……お前はもう少し真面目にやれ」

 

五十体のゴーレム騎士を前に戦う前から何処か疲れた表情をする英字。そんな英字の状態を知ってか知らずか……ゴーレム騎士達は一斉に侵入者達を切り裂かんと襲いかかった。




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