ゴーレム騎士達の動きは、その巨体に似合わず俊敏だった。ガシャンガシャンと騒音を立てながら急速に迫るその姿は、装備している武器や眼光と相まって凄まじい迫力である。まるで四方八方から壁が迫って来たと錯覚すらしそうだ。
そんなゴーレム騎士達に向けて先手を取ったのは英字だ。その手に握りしめたオンインバスター50から放たれる光弾を次々とゴーレム騎士達に撃ち込んでいく。
ドパン! ドパン!
二条の光弾が狙い違わず二体のゴーレム騎士の頭部、正確には目の部分を撃ち抜く。衝撃で頭部が仰け反り後方へ倒れる騎士達、
それを踏み越えて後続の騎士達が英字達へと迫る。英字はそれを蹴飛ばしてスクラップに変え、かかって来いと後続に手招きする。
そんな英字に次々と鉄屑にされながら、遂に英字達の目前へと迫った数体の騎士。
だがそこは、青みがかった白髪を靡かせ超重量の大槌を大上段に構えたまま飛び上がっていたシア・ハウリアのキルゾーンだ。限界まで強化したその身体能力を以て遠慮容赦の一切を排した問答無用の一撃を繰り出す。
「でぇやぁああ!!」
ドォガアアア!!
気合一発。打ち下ろされた大槌ドリュッケンは、凄まじい衝撃音を響かせながら一体のゴーレム騎士をペシャンコに押しつぶした。一応、騎士も頭上に盾を構えていたのだが、その防御ごと押しつぶされたのだ。
地面にまで亀裂を生じさせめり込んでいるドリュッケン。渾身の一撃を放ち、死に体となっていると判断したのか、盾を構えて衝撃に耐えていた傍らの騎士が大きく大剣を振りかぶりシアを両断せんと踏み込む。
シアはそれをしっかり横目で確認していた。柄を捻り、ドリュッケンの頭の角度を調整すると、柄に付いているトリガーを引く。
ドガンッ!!
そんな破裂音を響かせながら地面にめり込んでいたドリュッケンが跳ね上がった。シアの脇を排莢されたショットシェルが舞う。跳ね上がったドリュッケンの勢いを殺さず、シアはその場で一回転すると遠心力をたっぷり乗せた一撃を、今まさに大剣を振り下ろそうとしている騎士の脇腹部分に叩きつけた。
「りゃぁあ!!」
そのまま気迫を込めて一気に振り抜く。直撃を受けた騎士は、体をくの字に折り曲げて、まるで高速で突っ込んできたトラックに轢かれたかのようにぶっ飛んでいき、後ろから迫って来ていた騎士達を盛大に巻き込んで地面に叩きつけられた。騎士の胴体は、原型を止めないほどひしゃげており身動きが取れなくなっているようだ。
ヒュンヒュン
そんな風切り音がシアのウサミミに入る。チラリと上空を見ると、先程のゴーレム騎士が振り上げていた大剣が、シアに吹き飛ばされた際に手放なされたようで上空から回転しながら落下してくるところだった。シアは、落ちてきた大剣を跳躍しながら掴み取ると、そのまま全力で、迫り来るゴーレム騎士に投げつけた。
大剣は豪速で飛翔し、ゴーレム騎士が構えた盾に衝突して大きく弾く。シアは、その隙を逃さず踏み込み、下段からカチ上げるようにドリュッケンを振るった。腹部に衝撃を受けた騎士の巨体が宙に浮く。苦し紛れに大剣を振るうが、シアはカチ上げたドリュッケンの勢いを利用してくるりと回転し、大剣をかわしながら再度、今度は浅い角度で未だ宙に浮く騎士にドリュッケンを叩きつけた。
先のゴーレム騎士と同様、砲弾と化してぶっ飛んだゴーレム騎士は後続の騎士達を巻き込みひしゃげた巨体を地面に横たわらせた。
シアの口元に笑みが浮かぶ。戦いに快楽を覚えたからではない。自分がきちんと戦えていることに喜びを覚えているのだ。自分はちゃんとハジメ達の旅に付いて行けるのだと実感しているのだ。その瞬間、ほんの少しだけ気が抜ける。
戦場で、その緩みは致命的だった。気がつけば視界いっぱいに騎士の盾が迫っていた。何と、ゴーレム騎士の一体が自分の盾をシアに向かって投げつけたのである。流石ゴーレムというべきか。途轍もない勢いで飛ばされたそれは、身体強化中のシアにとって致命傷になるようなものではないが、脳震盪くらいは確実に起こす威力だ。そうなれば、一気に畳み込まれるだろうことは容易に想像できる。
しまった! と思う余裕もない。せめて襲い来るであろう衝撃に耐えるべく覚悟を決める。と、盾がシアに衝突する寸前でレーザーの如き水流が飛来し盾に衝突。その軌道を捻じ曲げた。盾はシアの頭部のすぐ脇を通過し、背後のゴーレム騎士に激突して転倒させる。
「……油断大敵。お仕置き三倍」
「ふぇ!? 今のユエさんが? す、すみません、ありがとうございます! ってお仕置き三倍!?」
「ん……気を抜いちゃダメ」
「うっ、はい! 頑張りますぅ!」
ユエに「メッ!」という感じで叱られてしまい、自分が少し浮かれて油断してしまったことを自覚するシア。反省しながら気を引き締めなおす。改めて、迫って来たゴーレム騎士を倒そうとして、後方から飛んできた細いレーザーのような水流が、密かにシアの背後を取ろうとしていたゴーレム騎士をスッパリと両断したのを確認した。
ユエが、自分の背中を守ってくれていると理解し心の内が温かくなるシア。師匠の前で無様は見せられないと、より一層気合を入れた。
その後も、暴れるシアの死角に回ろうとする騎士がいれば同じように水流が飛び、その辺の刃物よりよほど鋭利に切断していく。ユエが行使しているのは水系の中級魔法〝破断〟である。空気中の水分を超圧縮して撃ち放つウォーターカッターだ。
ユエは両手に金属で出来た大型の水筒を持っていた。肩紐で更に二つ同じ水筒を下げている。これらは、ハジメの〝宝物庫〟から取り出してもらった物だ。ユエが、その水筒をかざして魔法名を呟く度にウォーターカッターが水筒より飛び出し敵を切り裂いていく。
ユエは、魔法で空気中の水分を集めるよりも、最初からある水分を圧縮してやる方が魔力消費が少なくて済むと考えたのだ、また、照準は水筒の出口を向けることで付けており、飛び出たウォーターカッター自体は魔力を含まないものなので分解作用により消されることもない。
シアの爆発的な近接攻撃力と、その死角を補うように放たれるユエの水刃。騎士達は、二人のコンビネーションを破ることができず、いいように翻弄されながら次々と駆逐されていった。
そんな素晴らしい連携を披露するユエとシアを横目に英字は呟く。
「シアの初陣は良好、ユエも初めて使う割には上手くやっている」
そんな風に分析しながら、ゴーレム騎士達を片付けていく英字。
騎士の振り下ろした大剣を叩き壊し、オンインバスター50をアックスモードに切り替えて振るう。盾ごと両断される騎士には目もくれず、そのまま振り向かずに背後の騎士を貫く。横凪に振るわれた大剣を防御姿勢を取るでもなく身体で受け止め、砕け散る大剣には目もくれず騎士達を切り裂く。
素の技量のみで放たれた斬撃が、まるで素振りの様に盾も鎧も滑らかに切り裂いていく。そうやって、まるで子供が持て余した傘で道端の草花を斬り飛ばす様な気軽さで次々とゴーレム騎士達を屠っていった。
「まぁ、こんなものか」
「……ん、終わり」
「や、やっと終わりました」
実はこの部屋の床、及びゴーレム騎士は"感応石"という鉱石で作られており、その性質故の再生能力がある。
だがそれに気づいた英字は、自身の技能の一つ『アワリティア』の力で再生する『権利』を奪われてしまったため、再生能力が無効化されたのだ。
実は、シアのドリュッケンにも強欲の効果を付与していたので、シアがスクラップにしたゴーレム騎士も再生しなかったのである。
英字以外はそんな事は、知る由もなく三人は祭壇を超え扉に辿り着く。
「ユエさん、扉は?」
「ん……やっぱり封印されてる」
「あぅ、やっぱりですか」
見るからに怪しい祭壇と扉なのだ。封印は想定内。
「封印の解除はユエに任せる。出来るな?」
「ん……任せて」
ユエは、二つ返事で了承し祭壇に置かれている黄色の水晶を手に取った。その水晶は正双四角錐をしており、よく見れば幾つもの小さな立体ブロックが組み合わさって出来ている様だ。
ユエは背後の扉を振り返る。其処には三つの窪みがあった。ユエは少し考える素振りを見せると、正双四角錐を分解し始めた。分解し各ブロックを組み立て直す事で、扉の窪みにハマる新たな立方体を作ろうと考えたのだ。
分解しながら、ユエは扉の窪みを観察する。そして、よく観察しなければ見つからないくらい薄く文字が彫ってある事に気がついた。
それは……
〝とっけるかなぁ~、とっけるかなぁ~〟
〝早くしないと死んじゃうよぉ~〟
〝まぁ、解けなくても仕方ないよぉ! 私と違って君は凡人なんだから!〟
〝大丈夫! 頭が悪くても生きて……いけないねぇ! ざんねぇ~ん! プギャアー!〟
何時ものウザイ文だった。めちゃくちゃイラっとするユエ。いつも以上に無表情となり、扉を殴りつけたい衝動を堪えながらパズルの解読に集中する。
それから五分程して、
「……開いた」
「早かったな、進むぞ」
「はいっ!」
部屋の中は、遠目に確認した通り何もない四角い部屋だった。てっきり、ミレディ・ライセンの部屋とまではいかなくとも、何かしらの手掛かりがあるのでは? と考えていたので少し拍子抜けする。
「これは、あれか? これみよがしに封印しておいて、実は何もありませんでしたっていうオチか?」
「……ありえる」
「うぅ、ミレディめぇ。何処までもバカにしてぇ!」
三人が一番あり得る可能性を浮かべていると、突如もううんざりする程聞いているあの音が響き渡った。
ガコン!
「「「!?」」」
仕掛けが作動する音と共に部屋全体がガタンッと揺れ動いた。そして、英字達の体に横向きのGがかかる。
「この部屋自体が移動してるのか?」
「……そうみたッ!?」
「うきゃ!?」
英字が推測を口にすると同時に、今度は真上からGがかかる。急激な変化に、ユエが舌を噛んだのか涙目で口を抑えてぷるぷるしている。シアは転倒してカエルの様なポーズで這いつくばっている。
「仕方がない。久方振りに使うとするか……『未来視の邪眼』!」
瞬間、英字は頭を駆け巡った直感に従って未来視を発動する。数百年ぶりに使用したその視界は、数十秒後の自分達の姿を正確に映す。
映す。
「これは……流石に笑い事ではすまないな!」
英字は部屋の壁を殴り壊し、ユエとシアを小脇に抱えて飛び出した。
「……英字様?」
「ど、どうしたんですか!?」
「なに、少し質の悪い未来が視えたんでな」
英字は手短に話し、手近な通路に降り立った。そのまま二人を降ろすと、英字はすぐ傍の壁に手を置いた。
「ついでに、少しばかりお返しだ!」
その言葉と共に、二人は英字の魔力が途轍もなく広範囲に広がるのを感じ取った。
「……何したの?」
「大した事では無い。少し『剥奪』しただけだ」
それだけ言うと、英字は二人を立たせて先へ進んだ。
実は先程の部屋、双六(すごろく)で言うところの「振出しに戻る」系統のトラップであり、その先の壁には……
"ねぇ、今どんな気持ち?"
"苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時ってどんな気持ち?"
"ねぇねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇねぇ"
"あっ! 言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間毎に変化します"
"いつでも新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうという、ミレディちゃんの心遣いです"
"嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ! 好きでやってるだけだからぁ!"
"因みに、常に変化するのでマッピングは無駄です"
"ひょっとして作っちゃった? 苦労しちゃった? 残念! プギャァー!"
という文が彫られていたのだが、英字が未来視によって部屋を強引に脱出し、その上強欲の力を使ってダンジョンから変形する権利を奪った為に、この文こそが無駄になってしまったのだった。
強欲(アワリティア):相手から権利を奪う能力。例えば、相手から『生きる権利』を奪う事でその相手を仮死状態にする事が出来たり、『見る権利』を奪う事で盲目にすることができる。
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