「やほ~、はじめまして~、皆大好きミレディ・ライセンだよぉ~」
凶悪な装備と全身甲冑に身を固めた眼光鋭い巨体ゴーレムから、やたらと軽い挨拶をされた。何を言っているか分からないだろうが、英字にもわからない。頭がどうにかなる前に現実逃避しそうだった。ユエとシアもポカンと口を開けている。
そんな硬直する三人に、巨体ゴーレムは不機嫌そうな声を出した。声質は女性のものだ。
「あのねぇ~、挨拶したんだから何か返そうよ。最低限の礼儀だよ? 全く、これだから最近の若者は……もっと常識的になりたまえよ」
実にイラっとする話し方である。しかも、巨体ゴーレムは、燃え盛る右手と刺付き鉄球を付けた左手を肩まで待ち上げると、やたらと人間臭い動きで「やれやれだぜ」と言う様に肩を竦める仕草までした。
「…はは!」
その時高らかな笑い声がこの空間に響き渡った。
「はっはははははははははははははは!!」
その笑い声にミレディだけではなく、ユエやシアまでも困惑していた。
「えぇ~……? 何いきなり、どうしたの君? って君! さっき私の突撃軌道を捻じ曲げたよね!? 何やったのさ!」
「ふははっ、いやいや。まさかこの大迷宮を創造した本人が現れるとは思わなくてな、その姿…自身の魂を鎧に移したのか?」
「いや無視すんなし。……ん~? ミレディさんは初めからゴーレムさんですよぉ~何を持って人間だなんて……」
「いや、それはないな。オスカー・オルクスの手記にお前の事も少し書いてあった。きちんと人間の女性として出てきてたぞ?それと言いたい事があるなら手短に話せ。」
「お、おおう……久しぶりの会話に内心狂喜乱舞している私に何たる言い様。っていうかオスカーって言った? もしかして、オーちゃんの迷宮の攻略者?」
「ああ、オスカー・オルクスの迷宮なら攻略した。話は終わりか? 戦闘に入るぞ? 私達の目的は会話ではなく神代魔法なのでな」
英字が懐にあるグリードドライバーとグリードバイスタンプに手をかけ視線を巨体ゴーレムに向ける。ユエはすまし顔だが、シアの方は「うわ~、戦闘狂……」と感心半分呆れ半分で英字を見ていた。
「……神代魔法ねぇ、それってやっぱり、神殺しのためかな? あのクソ野郎共を滅殺してくれるのかな? オーちゃんの迷宮攻略者なら事情は理解してるよね?」
「まだ話は終わらないのか。なるべく早くしてくれないか?」
「こいつぅ~ホントに偉そうだなぁ~、まぁ、いいけどぉ~、えっと何だっけ……ああ、私の正体だったね。うぅ~ん」
「語るなら簡潔に頼むぞ。オスカーの様な細かい説明ならやめてくれよ」
「あはは。確かにオーちゃんは話が長かったねぇ~、理屈屋だったしねぇ~」
巨体ゴーレムは懐かしんでいるのか、遠い目をするかの様に天を仰いだ。本当に人間臭い動きをするゴーレムである。ユエは相変わらず無表情で巨体ゴーレムを眺め、シアはその威容に気が引けているのかそわそわしている。
「うん、要望通りに簡潔に言うとその通り。私は確かにミレディ・ライセンで、ゴーレムの身体に魂を移したのさ。もっと詳しく知りたければ見事、私を倒してみよ! って感じかな」
「…時間を取らせた割には説明になってないな」
「……君さぁ、せっかちってよく言われない?」
今度は巨大なゴーレムの指で顔を掻き、訝し気な仕草をするミレディ・ゴーレム。
そしてその中身については、凡そ英字の推測通りだった。英字はそれで話が終わったと判断してグリードドライバーを腰につけようとしたが、その前に最後の最後で戦士としての礼として、いきなり斬りかかる前に声を掛ける。
「それで、話は終わりか? ならとっとと始め「その前に、今度はこっちの質問に答えなよ」…なんだ?」
その瞬間、いきなり声音が変わった。今までの軽薄な雰囲気が鳴りを潜め、真剣さを帯びる。その雰囲気の変化に少し驚く英字達。
「目的は何? 何の為に神代魔法を求める?」
嘘偽りは許さないという意思が込められた声音で、ふざけた雰囲気など微塵もなく問いかけるミレディ。もしかすると、本来の彼女はこちらの方なのかもしれない。思えば、彼女も大衆のために神に挑んだ者。自らが託した魔法で何を為す気なのか知らないわけにはいかないのだろう。オスカーが記録映像を遺言として残したのと違い、何百年もの間、意思を持った状態で迷宮の奥深くで挑戦者を待ち続けるというのは、ある意味拷問ではないだろうか。軽薄な態度はブラフで、本当の彼女は凄まじい程の忍耐と意志、そして責任感を持っている人なのかもしれない。
ユエも同じ事を思ったのか、先程までとは違う眼差しでミレディ・ゴーレムを見ている。深い闇の底でたった一人という苦しみはユエもよく知っている。だからこそ、ミレディが意思を残したまま闇の底に留まったという決断に共感以上の何かを感じた様だ。
その真剣さを察した英字は、ミレディ・ゴーレムの眼光を真っ直ぐに見返しながら嘘偽りない言葉を返した。
「私が神代魔法を求める理由は……欲しいと思ったからだ」
「……どういう事?」
「どういう事も何も私は欲望の魔王、欲しいと思った物は必ず手に入れると、決めているんだ。少なくとも……」
「少なくとも?」
「この世界の神を殺すなどと言う『くだらない』事などに微塵も興味などない」
英字の言葉に、ミレディ・ゴーレムは暫く呆気にとられた様に黙る。それはミレディだけでなくユエとシアも同じだ。何故ならその言葉は…。
ミレディはジッと英字を見つめた後、また別の雰囲気を纏いだした。それは……
怒りだった。英字への激しい怒りだ。オスカーの言葉を聞いた上で、その無念を聞いた上で。自分達が生涯をかけて目指した理想を"くだらない“と切り捨てた英字への、燃え盛る様な怒り。
それを肌で感じ取り、ユエとシアは背中に粟立つものを感じながらも戦闘態勢に入る。それを英字が手で制した。
「……!」
「ちょっ、英字さ───、ひっ!?」
抗議しようとして、二人はミレディ以上の圧を英字から感じ取った。
「すまないな二人共、今回は手出し無用だ。たまには私も暴れてみたいのでな」
今の英字の表情はギラつく程の笑みを湛えている。これから繰り広げられる、ミレディとの戦いを心底から楽しもうとしている顔だ。
実は先程の言葉、殆どはミレディに全力全霊を出させる為の挑発だった。時に怒りは、本人が持ちうる実力以上の力を発揮させる事がある。どうせ打ち倒すならば、それは強い方が良い。挑発に乗ってこない可能性もあったが、それは限りなく低いと英字は考えていた。
先程の会話で感じた事だが、ミレディは存外仲間想いで使命に燃えるタイプだと推測した。ならばその仲間との共通目的を軽んじてやれば、たとえ挑発だと分かっていても乗って来ると思っていた。
英字自身もこの世界の神のことは『気に入らない』と思っている。が、それとこれとは別の話だ。今の目的は神代魔法であり神云々については、『今』はどうでもいいのだ。
「っふ、そう来なくてはな」
そう言いながら英字はグリードドライバーを腰に巻きつけた。敵であるミレディは勿論シアもその行為を不思議に思っていた。
……ただ一人ユエだけはこの後何が起こるのかを察した。
次に英字は懐からグリードバイスタンプを取り出し天面のスイッチを押した。
グリード
そしてグリードバイスタンプをグリードドライバーに装填した。すると、英字の背後には七体の悪魔の幻影が浮かび上がっていた。
憤怒・怠惰・嫉妬・傲慢・暴食・色欲・強欲
『変身』
その言葉を口にした後すぐさまグリードドライバーを操作する。次の瞬間背後にいた悪魔達は、英字を包み込むように抱きついた。
スクランブル
全てを欲して!
全てを奪え!
仮面ライダーグリード‼︎
Lump of desire
英字にまとわりついていた悪魔はそのまま鎧に変わった。
その鎧の色は黒を基調とし所々に赤いラインが組み込まれておりその見た目も悪魔を思わせる禍々しい角や羽、そしてその胸には七つの紋章が組み込まれていた。
「さぁ刮目せよ」
英字。…いや、『仮面ライダーグリード』が再びこの地にその姿を現した。
「……なんなのさ、それ」
ミレディからすればその言葉は至極当然のものと言えるだろう。今話していた敵は、自分達の生涯を賭けてまで果たそうとした神殺しを『くだらない』の一言で済ませた。
それが許せず、ミレディは怒りのままに戦おうとした。だが彼が懐から奇妙な形をした何かを取り出し腰に着け、これまた同じように奇妙な形をした何かを先ほどの何かにつけて操作すると、彼の背後には七体の悪魔が現れて彼を包み込むと、次の瞬間からは鎧を纏っていた。その鎧は禍々しく怒りで我を忘れそうになっていたミレディを冷静に戻すには十分すぎるほどだった。
無論驚愕したのはミレディだけではない。シアも彼女と同じように驚愕していた。だが、それと同じくらい彼の後ろにいる事に『安心』していた。
しかし二人が呆気に取られていたのも束の間、英字すぐさまに言葉を発した。
「さぁ来いミレディ・ライセン!先程の不敬な言葉の謝礼として本気を出してやろう!」
ライセン大迷宮にて、魔王と神代の最強ゴーレムとの戦いが始まった。
今回は、仮面ライダーグリードの変身バンクなどにこだわってみました。
次回は、遂に第二章最終回です。そろそろやりたいことができそうです。
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