ありふれぬ欲望の魔王はやはり世界最強   作:エルドラス

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今回で遂に第二章が幕を閉じます。
まさか第一章より長くなってしまうとは思わなかった。

今回は、バトルの方がかなり難しかったので、温かい目で見てもらえたらと思います。




先生と黒竜と蜘蛛ライダー編
第三十八話 ミレディ・ゴーレム対グリード


ライセン大迷宮の主であるミレディ・ライセンと欲望の魔王と呼ばれし者、英字こと仮面ライダーグリードの戦いはユエやシアには、到底理解できる者ではなかった。

 

ミレディは、所持しているモーニングスターをグリードにぶつけようとするが、グリードはそれらを悉く躱している。

 

「どうした?さっきからただ振り回すだけで一回も当たってないぞ。もう少し真面目にやったらどうだ」

「いやいや!これでもまじに当てようとしてるから!むしろこのスピードで当てようとしてるのに全部躱せる君がおかしいからね!」

 

実際ミレディが振り回すモーニングスターのスピードはかなりの物で、シアが身体強化の魔法を使い動体視力を上げてもギリギリ見えると言うほどのスピードなのだが、グリードはかつて『平均ステータス九万超え』の化け物と戦っているので、この程度のスピードは彼に言わせれば、文字通り『ハエが止まるような』スピードなのである。

 

「おいおいまさかモーニングスターを振り回すだけがお前の戦い方なのか?それだけでは私には勝てんぞ」

「ッチ、だったらこれでどうだ‼︎」

 

ミレディがそう口にした瞬間、グリードの真下から唸りを上げてマグマの奔流が迫る。どこから現れたか判らないが、ミレディが操作しているのだろう。身体強化増し増しのシアでも躱し切れないであろう速度で迫る。

 

それを見たグリードは、その場から即座にテレポートでミレディの後ろに移動する。

 

「こっちだ」

「なっいつのまにっ!『ドガっ』グハッ」

 

ミレディの後ろにテレポートしたグリードは、そのまま拳を叩きつけ、鎧の一部を砕いてしまった。

 

「ウッソでしょ⁉︎世界で一番硬いアゼンチウム鉱石でできた私のボディをいとも簡単に壊すなんて、どんなパワーしてんだよ本当‼︎」

 

ミレディの言う通り彼女のボディに使われているアゼンチウム鉱石は、この世界で一番硬い鉱石であり、シアの武器であるドリュッケンにも使われているほどだ。

 

だが、グリードからすれば発泡スチロール並みの強度でしかないのだが。

 

「さぁどうした。私はまだ全然本気ではないぞ、他の技もあるなら出して見せろ!」

「クッソーヤケクソだ! ミレディちゃん怒りの赤熱鉄拳!!」

 

ミレディは、少しヤケクソになりながら燃える拳を放つが、グリードは、ソレを片手で受け止めた。

 

「ヤケクソで私を倒せると思っているのか?」

「なんだよ!全然効いてないじゃん!」

 

グリードが、あまりにも余裕を崩さないので、ミレディはかなりイラついていた。

 

すると、グリードはミレディに話しかける。

 

「ミレディ・ライセン。お前が使う神代魔法は、『重力操作』で、間違いないな。いや、正確には『星のエネルギーに干渉する魔法』と言うべきか?先程溶岩を噴火させたのも、その魔法の力と言う訳か」

「…君まさかとは思うけど心が読めるの?そう思っちゃうくらい当たってるんだけど」

 

まさかいきなり自身の神代魔法の効果を当てられるとは思わず、もう先程までグリードに感じていた怒りを忘れてしまった。

 

「いや、似たような技を見たことがあるだけだ。…それよりも、『今回は当たり』だな」

「?」

「いや、こちらの話だ。それよりも……」

 

『当たり』ミレディは、その言葉の意味が分からずにいたが、グリードには、そんなことは関係ない。

 

「そろそろ決着をつけようじゃないか。お前の神代魔法も分かったことだしな」

「決着って、今にでも私を倒せるって言いたいわけ」

「実際いつでも倒せたさ。だがお前の神代魔法を知るために時間を稼いでいたに過ぎない」

「……はっきり言ってくれるねぇ」

 

ミレディも薄々分かっていた。彼があの奇妙な鎧を纏った時には、自身が『詰んでいる』事を。そして、彼が神殺しを『くだらない』と言ったのも、ミレディに本気を出させるためだと言う事も。

 

「さぁ、これで終わりだ」

 

そう言うとグリードはベルトを『七回』操作する。

 

それと同時にグリードの右脚に血のような赤黒い炎が纏わりつきグリードはミレディの側に近づくと回し蹴りを叩き込んだ。

 

 

 

 

   アワリティア・ブレイク‼︎

 

 

 

 

グリードの繰り出した回し蹴りは、ミレディの核を胴体ごと削り取った。そして変身を解いた英字は、ユエとシアの側に近づく。

 

「終わったぞ」

 

いつもと変わりなく喋りかけてくる英字にユエとシアは、少しホッとしていた。

 

「英字様、大丈夫?」

「誰に言っている、心配せずともあの程度の敵など過去に何度も戦ってきたからな。もう慣れた」

「何度もって、英字さんはいったいどんな修羅場を潜ってきたんですか?」

「……お前たちでは耐えられない。と言っておく」

 

雑談をしていた三人だがそんな三人に、突如、声が掛けられた。

 

「あのぉ~、そろそろヤバいんで、ちょっといいかなぁ~?」

 

物凄く聞き覚えのある声。英字達がミレディ・ゴーレムを見ると、消えたはずの眼の光がいつの間にか戻っていることに気がついた。咄嗟に、飛び退り距離を置くユエとシア。確かに核は砕いたはずなのにと警戒心もあらわに身構える。

 

「ちょっと、ちょっと、大丈夫だってぇ~。試練はクリア! あんたたちの勝ち! 核の欠片に残った力で少しだけ話す時間をとっただけだよぉ~、もう数分も持たないから」

 

ユエとシアが少し警戒心を解き英字がミレディ・ゴーレムに話しかける。

 

「何だ、まだ言い残したことがあるのか?」

 

何となく苦笑いめいた雰囲気を出すミレディ・ゴーレム。

 

「まぁそうだね。……必ず私達全員の神代魔法を手に入れること……きっと必要になるから……」

 

ミレディの力が尽きかけているのか、次第に言葉が不鮮明に、途切れ途切れになってゆく。だが、そんなことは気にした様子もなく英字が疑問を口にする。

 

「全部か……なら他の迷宮の場所を教えてくれ。失伝していて、ほとんどわかっていないんだ」

「あぁ、そうなんだ……そっか、迷宮の場所がわからなくなるほど……長い時が経ったんだね……うん、場所……場所はね……」

 

いよいよ、ミレディ・ゴーレムの声が力を失い始める。どこか感傷的な響きすら含まれた声に、ユエやシアが神妙な表情をする。長い時を、使命、あるいは願いのために意志が宿る器を入れ替えてまで生きた者への敬意を瞳に宿した。

 

ミレディは、ポツリポツリと残りの七大迷宮の所在を語っていく。中には驚くような場所にあるようだ。

 

「以上だよ……頑張ってね」

「……随分としおらしいじゃないか。あのウザったい口調やらセリフはどうした?」

 

英字の言う通り、今のミレディは迷宮内のウザイ文を用意したり、あの人の神経を逆なでする口調とは無縁の誠実さや真面目さを感じさせた。

 

戦闘前に英字の目的を聞いたときに垣間見せた、おそらく彼女の素顔が出ているのだろう。消滅を前にして取り繕う必要がなくなったということなのかもしれない。

 

「あはは、ごめんね~。でもさ……あのクソ野郎共って……ホントに嫌なヤツらでさ……嫌らしいことばっかりしてくるんだよね……だから、少しでも……慣れておいて欲しくてね……まぁ君には……必要無かったかもね」

「ふっまぁ、神への信仰心など最初から無いに等しいからな」

「ふふっ……それは良かった」

 

そんな話し合いをしていると、いつしかミレディ・ゴーレムの体は燐光のような青白い光に包まれていた。その光が蛍火の如く、淡い小さな光となって天へと登っていく。死した魂が天へと召されていくようだ。とても、とても神秘的な光景である。

 

その時、おもむろにユエがミレディ・ゴーレムの傍へと寄って行った。既に、ほとんど光を失っている眼をジッと見つめる。

 

「何かな?」

 

囁くようなミレディの声。それに同じく、囁くようにユエが一言、消えゆく偉大な〝解放者〟に言葉を贈った。

 

「……お疲れ様。よく頑張りました」

「……」

 

それは労いの言葉。たった一人、深い闇の底で希望を待ち続けた偉大な存在への、今を生きる者からのささやかな贈り物。本来なら、遥かに年下の者からの言葉としては不適切かもしれない。だが、やはり、これ以外の言葉を、ユエは思いつかなかった。

 

ミレディにとっても意外な言葉だったのだろう。言葉もなく呆然とした雰囲気を漂わせている。やがて、穏やかな声でミレディがポツリと呟く。

 

「……ありがとね」

「……ん」

「……さて、時間の……ようだね……君達のこれからが……自由な意志の下に……あらんことを……」

 

オスカーと同じ言葉を英字達に贈り、〝解放者〟の一人、ミレディは淡い光となって天へと消えていった。

 

辺りを静寂が包み、余韻に浸るようにユエとシアが光の軌跡を追って天を見上げる。

 

「……最初は、性根が捻じ曲がった最悪の人だと思っていたんですけどね。ただ、一生懸命なだけだったんですね」

「……ん」

 

どこかしんみりとした雰囲気で言葉を交わすユエとシア。だが、そんなな空気の中、英字は二人に話しかけた。

 

「さっさと先に行くぞ」

「ちょっと英字さん、そんな死人に鞭打つ様な事を! 戦闘中も思いましたが、あれはあんまりですよ!」

「……英字様、鬼畜?」

「……はぁ、その言葉も後で引っ込むと思うぞ」

「「?」」

 

そんな雑談をしていると、いつの間にか壁の一角が光を放っていることに気がついた英字達。

 

気を取り直して、その場所に向かう。上方の壁にあるので浮遊ブロックを足場に跳んでいこうと、ブロックの一つに三人で跳び乗った。と、その途端、足場の浮遊ブロックがスィーと動き出し、光る壁まで英字達を運んでいく。

 

「……」

「わわっ、勝手に動いてますよ、これ。便利ですねぇ」

「……サービス?」

 

勝手に英字達を運んでくれる浮遊ブロックにシアは驚き、ユエは首をかしげる。十秒もかからず光る壁の前まで進むと、その手前五メートル程の場所でピタリと動きを止めた。すると、光る壁は、まるで見計らったようなタイミングで発光を薄れさせていき、スっと音も立てずに発光部分の壁だけが手前に抜き取られた。奥には光沢のある白い壁で出来た通路が続いている。

 

英字達の乗る浮遊ブロックは、そのまま通路を滑るように移動していく。どうやら、ミレディ・ライセンの住処まで乗せて行ってくれるようだ。そうして進んだ先には、オルクス大迷宮にあったオスカーの住処へと続く扉に刻まれていた七つの文様と同じものが描かれた壁があった。英字達が近づくと、やはりタイミングよく壁が横にスライドし奥へと誘う。浮遊ブロックは止まることなく壁の向こう側へと進んでいった。

 

くぐり抜けた壁の向こうには……

 

「やっほー、さっきぶり! ミレディちゃんだよ!」

 

ちっこいミレディ・ゴーレムがいた。

 

「「……」」

「まぁ、こんなことだとは、思っていたが」

 

言葉もないユエとシア。英字の方は予想がついていたようだ。英字が、この状況を予想できたのは、単にふざけたミレディも真面目なミレディもどっちも彼女であることに変わりはないということを看破していたからだ。

 

ウザイ文のウザさやトラップの嫌らしさは、本当に真面目な人間には発想できないレベルだった。また、ミレディは、意思を残して自ら挑戦者を選定する方法をとっている。だとしたら、一度の挑戦者が現れ撃破されたらそれっきり等という事は有り得ない。それでは、一度のクリアで最終試練がなくなってしまうからだ。

 

なので、英字は、ミレディ・ゴーレムを破壊してもミレディ自身は消滅しないと予想していた。それは浮遊ブロックが英字達を乗せて案内するように動き出した時点で確信に変わっていた。浮遊ブロックを意図的に動かせるのはミレディだけだからだ。

 

黙り込んで顔を俯かせるユエとシアに、ミレディが非常に軽い感じで話しかける。

 

「あれぇ? あれぇ? テンション低いよぉ~? もっと驚いてもいいんだよぉ~? あっ、それとも驚きすぎても言葉が出ないとか? だったら、ドッキリ大成功ぉ~だね☆」

 

ちっこいミレディ・ゴーレムは、巨体版と異なり人間らしいデザインだ。華奢なボディに乳白色の長いローブを身に纏い、白い仮面を付けている。ニコちゃんマークなところが微妙に腹立たしい。そんなミニ・ミレディは、語尾にキラッ! と星が瞬かせながら、英字達の眼前までやってくる。未だユエとシアの表情は俯き、垂れ下がった髪に隠れてわからない。もっとも、先の展開は読めるので、英字は一歩距離をとった。

 

ユエとシアがぼそりと呟くように質問する。

 

「……さっきのは?」

「ん~? さっき? あぁ、もしかして消えちゃったと思った? ないな~い! そんなことあるわけないよぉ~!」

「でも、光が昇って消えていきましたよね?」

「ふふふ、中々よかったでしょう? あの〝演出〟! やだ、ミレディちゃん役者の才能まであるなんて! 恐ろしい子!」

 

テンション上がりまくりのミニ・ミレディ。比例してウザさまでうなぎ上りだ。そんなミニ・ミレディを前にして、ユエは手を前に突き出し、シアはドリュッケンを構えた。流石に、あれ? やりすぎた? と動きを止めるミニ・ミレディ。

 

「え、え~と……」

 

ゆらゆら揺れながら迫ってくるユエとシアに、ミニ・ミレディは頭をカクカクと動かし言葉に迷う素振りを見せると意を決したように言った。

 

「テヘ、ペロ☆」

「……死ね」

「死んで下さい」

「ま、待って! ちょっと待って! このボディは貧弱なのぉ! これ壊れたら本気でマズイからぁ! 落ち着いてぇ! 謝るからぁ!」

 

しばらくの間ドタバタ、ドカンバキッ、いやぁーなど悲鳴やら破壊音が聞こえていたが、英字は部屋の観察に努めた。部屋自体は全てが白く、中央の床に刻まれた魔法陣以外には何もなかった。唯一、壁の一部に扉らしきものがあり、おそらくそこがミニ・ミレディの住処になっているのだろうと英字は推測する。

 

英字は、おもむろに魔法陣に歩み寄ると勝手に調べ始めた。それを見たミニ・ミレディが慌てて英字のもとへやって来る。後ろからは、無表情の吸血姫とウサミミがドドドドッと音を立てながら迫って来ている。

 

「君ぃ~勝手にいじっちゃダメよぉ。ていうか、お仲間でしょ! 無視してないで止めようよぉ!」

 

そんな文句を言いながらミニ・ミレディは英字の背後に回り、二人の悪鬼に対する盾にしようとする。

 

「……英字様どいて、そいつ殺せない」

「退いて下さい。英字さん。そいつは殺ります。今、ここで」

「全く。二人ともやめておけ、もしここで彼女を破壊したら、神代魔法を受け取れないかもしれないだろう。少し落ち着け」

 

英字は、若干呆れた表情でユエとシアに軽い注意をする。背後のミニ・ミレディが「そうだ、そうだ、真面目にやれぇ!」とか言ってはやし立てたのでこちらも少し注意しておく。

 

「お前は、おちょくるのを少し控えたらどうだ。私が止めなければこの二人は本気でお前を破壊する気だぞ」

「うぅ、…すみませんでした」

 

英字に注意されたことで少し落ち込んでいるミニ・ミレディを見て、ユエとシアも落ち着きを取り戻し、これ以上ふざけると本気で壊されかねないと理解したのかミニ・ミレディもようやく魔法陣を起動させ始めた。

 

魔法陣の中に入る英字達。今回は、試練をクリアしたことをミレディ本人が知っているので、オルクス大迷宮の時のような記憶を探るプロセスは無く、直接脳に神代魔法の知識や使用方法が刻まれていく。英字とユエは経験済みなので無反応だったが、シアは初めての経験にビクンッと体を跳ねさせた。

 

「やはり重力操作の魔法か、私の持つ物より高性能だな。これなら私の重力操作のレベルを上げることができるな」

「やけに詳しいと思ったら、同じような魔法を持ってたんだ。そりゃ分かるよね。後、ウサギちゃんは適性無いねぇ~もうびっくりするレベルで無いね!」

「……あ、私ですか!? はい……えっと?」

 

ミレディの言う通り、シアは重力魔法の知識等を刻まれても真面に使える気がしなかった。ユエが生成魔法をきちんと使えないのと同じく、適性が無いのだろう。

 

「まぁ、ウサギちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。金髪ちゃんは適性ばっちりだね。修練すれば十全に使いこなせるようになるよ。君は……適性は金髪ちゃんより上だね。ほんと化け物スペックだよね」

 

ミニ・ミレディの幾分真面目な解説に英字は肩を竦め、ユエは頷き、シアは打ちひしがれた。せっかくの神代魔法を適性なしと断じられ、使えたとしても体重を増減出来るだけ。ガッカリ感が凄まじい。また。重くするなど論外だが、軽くできるのも問題だ。油断すると体型がやばい事になりそうである。むしろデメリットを背負ったんじゃ……とシアは意気消沈した。

 

落ち込むシアを尻目に、英字はミニ・ミレディに話しかける。

 

「ミレディ・ライセン、次は解放者の証をくれないか」

「はいはい、分かったよぉ」

 

ミニ・ミレディは、ごそごそと懐を探ると一つの指輪を取り出し、それを英字に向かって放り投げた。パシッと音をさせて受け取る英字。ライセンの指輪は、上下の楕円を一本の杭が貫いているデザインだ。

 

ミニ・ミレディは、更に虚空に大量の鉱石類を出現させる。おそらく〝宝物庫〟を持っているのだろう。そこから保管していた鉱石類を取り出したようだ。やけに素直に取り出したところを見ると、元々渡す気だったのかもしれない。何故か、ミレディは英字が狂った神連中と戦うことを確信しているようであるし、このくらいの協力は惜しまないつもりだったのだろう。

 

「ふむ、しかと受け取った。では私たちはそろそろ帰らせてもらうが構わないな」

「うん、じゃあ迷宮攻略頑張ってね」

「まぁ、気楽にやるさ」

 

英字は、そう言うとユエとシアを連れてテレポートを使って迷宮を後にした。

 

 

 

 

町と町、あるいは村々をつなぐ街道を一台の馬車と数頭の馬がパッカパッカとリズミカルな足音と共にのんびりと進んでいた。もちろん、その馬上には人が乗っている。冒険者風の出で立ちをした男が三人と女が一人だ。馬車の方には、御者台に十五、六歳の女の子と化け物……もとい巨漢の漢女が乗っていた。

 

「ソーナちゃぁ~ん、もうすぐ泉があるから其処で少し休憩にするわよぉ~」

「了解です、クリスタベルさん。」

 

クリスタベルと呼ばれた漢女は、何を隠そうブルックの町でユエとシアが世話になった服飾店の店長である。そして、そのクリスタベルと隣に座る少女は、〝マサカの宿〟の看板娘ソーナ・マサカである。何やら常に驚愕してそうな名前だが、ちょっと好奇心と脳内の桃色成分が多いだけの普通の少女だ。

 

この二人、現在、冒険者の護衛を付けながら、隣町からブルックへの帰還中なのである。クリスタベルは、その巨漢からも分かる通り鬼強いので、服飾関係の素材を自分で取りに行く事が多い。今回も仕入れ等のために一時、町を出たのだ。それに便乗したのがソーナである。隣町の親戚が大怪我を負ったと聞き、宿を離れられない両親に代わって見舞いの品を届けに行ったのだ。冒険者達は元々ブルックの町の冒険者で任務帰りなので、ついでに護衛しているのである。

 

ブルックの町まであと一日といったところ。クリスタベル達は、街道の傍にある泉でお昼休憩を取ることにした。

 

泉に到着したクリスタベル達が、馬に水を飲ませながら自分達も泉の畔で昼食の準備をする。ソーナが水を汲みに泉の傍までやって来た。そして、いざ水を汲もうと入れ物を泉に浸けたその瞬間、

 

 

「……迷宮の出口に設定したはずだが、ここは何処だ?」

 

 

突如今まで居なかった、なのに聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。

 

「きゃあ!」

「ソーナちゃん!」

 

悲鳴を上げて尻餅をつくソーナに、クリスタベルが一瞬で駆け寄り庇う様に抱き上げ他の冒険者達の下へ戻る。それが目に入ったのか、突如現れた人物──英字が声をかける。

 

「ん?お前は、宿屋の娘の…確か、ソーナだったか」

「わっわっ、何!? ……って、アブノーマルなお客さん!?」

 

いきなり現れたのが英字達である事に初めに気付いたのは、妄想過多な宿の看板娘ソーナちゃん。そして「あら? 貴女達確か……」と体をくねらせながらユエとシアを記憶から呼び起こすクリスタベル。そして、「何だ何だ?」と野次馬の様に集って来る冒険者達だった。

 

「どうやら思ったより賑やかな場に出てきた様だな」

「……ん、ちょっとビックリ」

「しかも、何だか見た顔の人達もいますよぉ」

 

そんな事を話していると、クリスタベルが英字達の下へやって来た。英字は近寄ってくる人物に見覚えが無い為首を傾げたが、隣でシアが「あっ、店長さん」と知り合いらしい振る舞いを見せるので「二人が世話になったか」と思い話に応じる事にする。

 

結果、自分達のいる場所がブルックの町から一日程の場所にあると判明し、英字達も町に寄って行く事にした。クリスタベルの馬車に便乗させてくれるというので、その厚意に甘えることにする。道中色々話をしながら、暖かな日差しの中を馬の足音をBGMに進んでいく。

 

 

新たな仲間と共に、二つ目の大迷宮の攻略を成し遂げた英字。馬車の荷台に寝転び燦々と輝く太陽を眩しげに見つめながら、英字は、これからも色々あるだろう旅を思い薄らと口元に笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「君こそ、真の勇者に相応しい」

 

半月が煌々と山間を照らし、時期に限らない万年の紅葉が妖しく輝く中、その言葉はやけに明瞭に響いた。告げた男は、誘う様に片手を差し出し細めた目を真っ直ぐに向けている。

 

「っ、お、俺は……」

 

対して、そんな言葉を送られた者はゴクリと喉を鳴らしながら生唾と共に言葉を飲み込んだ。自分が今、人生の岐路に立っている事を明確に理解し、その危うさと誘惑の強さに心が激しく揺れているのを自覚する。

 

周囲を見渡せば、そこには自分の従えた魔物共の姿がある。ハイリヒ王国の王都から離れた【湖畔の町ウル】の北に聳え立つ【北の山脈地帯】へ、仲間を置いて一人でやって来たのは、どうしようもない自分の現状を変えたかったから。異世界召喚という妄想の中にしかなかった素晴らしい出来事の当事者に選ばれ、その上反則じみた才能を授かったというのに、自分の"脇役モブキャラ"という位置付けに納得が出来なかったから。

 

何より、自分を差し置いて物語の勇者そのものを体現しているかの様なあの男が許せなかったから。だから、こうして強力な魔物を従えて周囲の連中に自分を認めさせようとしている。

 

だが、それも限界に感じていた。時間をかければ、自分の望みは叶うかもしれない。しかし時間をかければ成長するのは他の者も同じだ。特に、最前線で成長し続けているであろう勇者一行は、今この瞬間も自分を引き離しているかもしれない。見返してやりたい、認めさせてやりたいと思いながら、それでも恐怖に負けて大迷宮から逃げ出した自分では、追いつけないかもしれない。やり方次第だと自分に言い聞かせて、見つけた方法ならば"きっと"と信じているが、それでも不安と焦燥と、所詮自分と勇者達とでは生まれ持ったものが違うのだという諦観が胸中に幾度となく過るのを止められなかった。

 

だから突然眼前に現れ「君こそ特別だ」と、そんな事を言って自分を勧誘する男の言葉に、心は激しく揺れる。

 

 

……たとえその代償が、取り返しのつかない事だとしても。

 

 

「ほ……本当に、俺を勇者にしてくれるのか? 後で裏切る気じゃないだろうな?」

「えぇ。君が今までの全てを切り捨て、我が主の下へ来てくれるというのなら、その証を。あの町の住人と“豊穣の女神”相手に示してくれるというのなら、我等は君を信じ勇者として迎えましょう。裏切るなどありえない、他の誰でもない“特別な”君だからこそ、我等の陣営に来て欲しいと願っているのです」

「……俺が、勇者に……物語の主人公に……」

 

再び男の言葉を受けたその人物は、ゴクリと生唾を飲み込んだ。その瞳には、野望の黒い炎がチロチロと燻り始めている。欲望が、鬱屈した心が、決壊した堤防から噴き出る水の様に彼の深奥を染めていく。静かな興奮を隠しもせずに、その人物は舌舐りしながら頷いた。

 

「……いいだろう。俺が、アンタ達の勇者になってやるよ」

 

その表情は、誰がどう見ても"勇気ある者"という称号には相応しくない、醜く歪んだものだった。

 

「それは良かった、これからよろしくお願いしますよ……我等が勇者殿」

 

誘いをかけた男は柔和に笑いながら、心の中で嗤う。これから起こるであろう凄惨な蹂躙劇を想い、それが敵自身の招いた結果という皮肉を浮かべて。

 

そしてその後ろには、同じくフードを被ったもう一人の男がいた。

 

(全く、何が勇者に向かい入れるだ、そんな気さらさら無いくせによ。しかも俺が貸した『魔道具』まで使って、まぁこいつの能力は使い物にはなるし、利用しない手は無いか。…それよりも)

 

「まさかお前がこの世界にいるとはなぁ……"セブギル”」

 

その男は、空を見上げながら微かに笑みを浮かべていた。




はい、それでは第二章も終わりを迎えたので、やりたい事、厳密には発表したい事があるので、発表します。

この度私エルドラスは……リクエストを開始いたします!

私の作品に対するリクエストなどがあれば、活動報告の欄にコメントを書いていってください。

リクエスト以外にも、重大発表がある場合は、そちらで報告していくので、是非是非覗いてみてください。

感想や評価など是非是非お願い致します。
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