ありふれぬ欲望の魔王はやはり世界最強   作:エルドラス

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第四十一話 護衛の依頼

カラン、カラン

 

そんな音を立てて冒険者ギルドブルック支部の扉は開いた。入ってきたのは三人の人影。ここ数日ですっかり有名人となった英字、ユエ、シアである。ギルド内のカフェには、いつもの如く何組かの冒険者達が思い思いの時を過ごしており、英字達の姿に気がつくと片手を上げて挨拶してくる者もいる。男は相変わらずユエとシアに見蕩れ、ついで英字に羨望と嫉妬の視線を向けるが、そこに陰湿なものはない。

 

ブルックに滞在して一週間、その間にユエかシアを手に入れようと画策した者は今や一人もいない。嘗て"股間スマッシュ"という世にも恐ろしい所業をなしたユエ本人を直接口説く事は出来ないが、外堀を埋める様に英字から攻略してやろうという輩がそれなりにいたのである。

 

それに対して英字は、何を思ったのか決闘を申し込んできた冒険者を一堂に集め、その全員を一度に相手する事にしたのだ。勿論結果は言うまでも無く、英字の挨拶代わりの一撃目で沈んだのだが。

 

そんな訳でこの町では、"股間スマッシャー"たるユエと、そんな彼女が心底惚れており、数百人を一撃で沈めた実力を持った"無双拳闘士"たる英字のコンビは有名であり一目置かれる存在なのである。ギルドでパーティー名の申請等していないのに"ファイター・ラヴァーズ"というパーティ名が浸透しており、自分の二つ名と共にそれを知った英字が大笑いしたのは記憶に新しい。

 

因みに、自分の存在感が薄いとシアが涙したのは余談である。

 

英字達がカウンターに近づくといつも通りキャサリンがおり、先に声をかけた。キャサリンの声音に意外さが含まれているのは、この一週間でギルドにやって来たのは大抵、英字一人かシアとユエの二人組だからだ。

 

「ああ。明日にでも町を出る故、一応挨拶をとな。ついでに目的地関連で依頼があれば受けておこうと思うのだが……」

「そうかい、行っちまうのかい。そりゃあ寂しくなるねぇ、あんた達が戻ってから賑やかで良かったんだけどねぇ~」

「そう言ってもらえて嬉しいが、何分新しいものに目が無くてね。ここでの日々も楽しかったが、新たな出会いを求めに旅立つ事にしたよ」

 

そう笑う英字の表情に嘘は無い。その目は今日までを振り返り、主にユエとシアを巡って巻き込まれたアレコレを思い出している。

 

また、ブルックの町には三大派閥が出来ており、日々鎬を削っている。一つは「ユエちゃんに踏まれ隊」、もう一つは「シアちゃんの奴隷になり隊」最後が「お姉さまと姉妹になり隊」である。其々文字通りの願望を抱え、実現を果たした隊員数で優劣を競っているらしい。

 

あまりにぶっ飛んだネーミングと思考の集団にドン引きの二人と、愉快そうに笑う英字。町中でいきなり土下座すると、ユエに向かって「踏んで下さい!」とか絶叫するのだ。もはやギャグである。シアに至ってはどういう思考過程を経てそんな結論に至ったのか理解不能だ。亜人族は被差別種族じゃなかったのかとか、お前らが奴隷になってどうするとかツッコミどころは満載だが、深く考えるのが面倒だったので出会えば即刻排除している。最後は女性のみで結成された集団で、ユエとシアに付き纏うか、英字の排除行動が主だ。一度は、「お姉さまに寄生する害虫が! 玉取ったらぁああーー!!」とか叫びながらナイフを片手に突っ込んで来た少女もいる。

 

流石に町中で少女を殺害したとなると色々面倒そうなので、英字は、亀甲縛りをして一番高い建物に吊るし上げた挙句、〝次は衣服をひん剥きます〟と書かれた張り紙を貼って放置した。あまりの所業と淡々と書かれた張り紙の内容に、少女達の過激な行動がなりを潜めたのはいい事である。

 

「まぁ、楽しかったならなによりだよ。で、何処に行くんだい?」

「取り敢えずはフューレンに行くつもりだ」

 

そんな風に雑談しながらも、仕事はきっちりこなすキャサリン。早速、フューレン関連の依頼がないかを探し始める。

 

フューレンとは、中立商業都市のことだ。ハジメ達の次の目的地は【グリューエン大砂漠】にある七大迷宮の一つ【グリューエン大火山】である。その為、大陸の西に向かわなければならないのだが、その途中に【中立商業都市フューレン】があるので、大陸一の商業都市に一度は寄ってみようという話になったのである。

 

尚、【グリューエン大火山】の次は、大砂漠を超えた更に西にある海底に沈む大迷宮【メルジーネ海底遺跡】が目的地だ。

 

「う~ん……おや、いいのがあるよ。商隊の護衛依頼だね。丁度空きが後一人分あるよ、どうだい? 受けるかい?」

 

キャサリンにより差し出された依頼書を受け取り内容を確認する英字。確かに、依頼内容は商隊の護衛依頼の様だ。中規模な商隊の様で、十五人程の護衛を求めているらしい。ユエとシアは冒険者登録をしていないので、英字の分で丁度だ。

 

「連れの同伴は可能か?」

「ああ、問題ないよ。あんまり大人数だと苦情も出るだろうけど、荷物持ちを個人で雇ったり、奴隷を連れている冒険者もいるからね。まして、ユエちゃんシアちゃんも結構な実力者だ。一人分の料金でもう二人優秀な冒険者を雇える様なもんだ。断る理由も無いさね」

「そうか、まぁ決めるのは二人の返答次第だが」

 

英字は問いかける様にユエとシアの方を振り返った。

 

「……急ぐ旅じゃない」

「そうですねぇ~、偶には他の冒険者方と一緒というのも良いかもしれません。ベテラン冒険者のノウハウというのもあるかもしれませんよ?」

 

「…だそうだ、それを受けよう」

 

英字は二人の意見に頷くとキャサリンに依頼を受ける事を伝える。ユエの言う通り、七大迷宮の攻略には確固たる目的は無い。『急いて事を仕損じる』とも言う、シアの言う様に冒険者独自のノウハウがあれば今後の旅でも何か役に立つ事があるかもしれない。

 

「あいよ。先方には伝えとくから、明日の朝一で正面門に行っとくれ」

「了解した」

 

英字が依頼書を受け取るのを確認すると、キャサリンが英字の後ろのユエとシアに目を向けた。

 

「あんた達も体に気をつけて元気でおやりよ? この子に泣かされたら何時でも家においで。あたしがぶん殴ってやるからね」

「……ん、お世話になった。ありがとう」

「はい、キャサリンさん。良くしてくれて有難うございました!」

 

キャサリンの人情味あふれる言葉にユエとシアの頬も緩む。特にシアは嬉しそうだ。この町に来てからというもの自分が亜人族であるという事を忘れそうになる。

 

勿論、全員が全員シアに対して友好的という訳では無いが、それでもキャサリンを筆頭にソーナやクリスタベル、ちょっと引いてしまうがファンだという人達はシアを亜人族という点で差別的扱いをしない。土地柄か、それともそう言う人達が自然と流れ着く町なのか。それはわからないが、いずれにしろシアにとっては故郷の樹海に近いくらい温かい場所であった。

 

「あんたも、こんないい子達泣かせんじゃないよ? 精一杯大事にしないと罰が当たるからね?」

「生憎と私は既婚者でね。二人はただの連れだよ」

 

キャサリンの言葉に苦笑いで返す英字。そんな英字に、キャサリンが一通の手紙を差し出す。片眉を上げてそれを受け取る英字。

 

「これは?」

「あんた達、色々厄介なもの抱えてそうだからね。町の連中が迷惑かけた詫びの様なものだよ。他の町でギルドと揉めた時は、その手紙をお偉いさんに見せな。少しは役に立つかもしれないからね」

 

バッチリとウインクするキャサリンに、思わず再度苦笑する英字。手紙一つでお偉いさんに影響を及ぼせるアンタは一体何者だ? という疑問がありありと表情に浮かんでいる。

 

「おや、詮索は無しだよ? いい女に秘密はつきものさね」

「……違いない、詮索するのは野暮というものだな」

「素直でよろしい! 色々あるだろうけど、死なない様にね」

「心配せずともそう楽に死ねる様な生き方はしてはいない」

 

謎多き片田舎の町のギルド職員・キャサリン。英字達はそんな彼女の愛嬌のある魅力的な笑みと共に送り出された。

 

その後、英字達はクリスタベルの場所にも寄った。ユエとシアがどうしてもというので仕方なく付き添った。

 

最後の晩と聞き、遂には堂々と風呂場に乱入。そして部屋に突撃を敢行したソーナちゃんがブチギレた母親に、亀甲縛りをされて一晩中宿の正面に吊るされるという事件の話も割愛だ。何故母親が亀甲縛りを知っていたのかという話も割愛である。

 

 

 

 

そして翌日早朝。

 

そんな愉快なブルックの町民達を思い出にしながら、正面門にやって来た英字達を迎えたのは商隊の纏め役と他の護衛依頼を受けた冒険者達だった。どうやら英字達が最後の様で、纏め役らしき人物と十四人の冒険者が、やって来た英字達を見て一斉にざわついた。

 

「お、おい、まさか残りの三人って"ファイ・ラヴ"なのか!?」

「マジかよ! 嬉しさと恐怖が一緒くたに襲ってくるんですけど!」

「見ろよ、俺の手。さっきから震えが止まらないんだぜ?」

「いや、それはお前がアル中だからだろ?」

 

ユエとシアの登場に喜びを顕にする者、股間を両手で隠し涙目になる者、手の震えを英字達のせいにして仲間にツッコミを入れられる者など様々な反応だ。英字が楽し気な表情をしながら近寄ると、商隊の纏め役らしき人物が声をかけた。

 

「君達が最後の護衛かね?」

「ああ、これが依頼書だ」

 

英字は、懐から取り出した依頼書を見せる。それを確認して、纏め役の男は納得した様に頷き自己紹介を始めた。

 

「私の名はモットー・ユンケル。この商隊のリーダーをしている。君達のランクは未だ青だそうだが、キャサリンさんからは大変優秀な冒険者と聞いている。道中の護衛は期待させてもらうよ」

「……もっとユンケル? ……商隊の長も大変なのだな……」

 

日本の栄養ドリンクを思い出させる名前に、英字の眼が同情を帯びる。何故そんな眼を向けられるのか分からないモットーは首を傾げながら、「まぁ、大変だが慣れたものだよ」と苦笑い気味に返した。

 

「まぁ冗談はさておき、期待は裏切らないさ。私は英字、こっちはユエとシアだ」

「それは頼もしいな……ところで、この兎人族……売るつもりはないかね? それなりの値段を付けさせてもらうが」

 

モットーの視線が値踏みする様にシアを見た。兎人族で青みがかった白髪の超がつく美少女だ。商人の性として、珍しい商品に口を出さずにはいられないという事か。首輪から奴隷と判断し、即行で所有者たる英字に売買交渉を持ちかけるあたり、きっと優秀な商人なのだろう。

 

その視線を受けて、シアが「うっ」と嫌そうに唸り英字の背後にそそっと隠れる。ユエのモットーを見る視線が厳しい。だが、一般的な認識として樹海の外にいる亜人族とは即ち奴隷であり、珍しい奴隷の売買交渉を申し出るのは商人として当たり前の事だ。モットーが責められる謂れは無い。

 

「ほぉ、随分と懐かれていますな。…中々大事にされている様だ。ならば、私の方もそれなりに勉強させてもらいますが、如何です?」

「お前はそこそこ優秀な商人の様だが……、気は確かか?」

 

シアの様子を興味深そうに見ていたモットーが更に英字に交渉を持ちかけるが、英字の対応はあっさりしたものである。モットーも、実は英字が手放さないだろうとは感じていたが、それでもシアが生み出すであろう利益は魅力的だったので、何か交渉材料はないかと会話を引き伸ばそうとする。

 

だが、そんな意図も英字は読んでいたのだろう。やはりあっさりとした、それでいて当然の様に平坦な言葉をモットーに告げる。

 

「例え神が欲しても、触れる機会すら与えないさ。……理解してもらえたか?」

「…………えぇ、それはもう。仕方ありませんな。ここは引き下がりましょう。ですが、その気になったときは是非、我がユンケル商会をご贔屓に願いますよ。それと、もう間も無く出発です。護衛の詳細は、そちらのリーダーとお願いします」

 

英字の発言は相当危険なものだった。敬虔な者が聞いたならば、下手をすれば聖教教会から異端の烙印を押されかねない発言だ。至高の神すら自分より下に見ているなど、この世界ではまずあり得ない。正に神をも恐れぬ発言だ。それ故に、モットーは英字がシアを手放す事は無いと心底理解させられた。

 

英字がすごすごと商隊の方へ戻るモットーを見ていると、周囲が再びざわついている事に気がついた。

 

「すげぇ……女一人の為に、あそこまで言うか……痺れるぜ!」

「流石、無双拳闘士と言ったところか。自分の女に手を出す奴には容赦しない……ふっ、漢だぜ」

「いいわねぇ~、私も一度くらい言われてみたいわ」

「いや、お前男だろ? 誰がそんな事……ッあ、すまん、謝るからっやめっアッーー!!」

 

英字は愉快な護衛仲間の発言に道中暇はしなさそうだと笑みを浮かべた。やはりブルックの町の連中は退屈しない。そんな事を思っていると、背中に何やら"むにゅう"っと柔らかい感触を感じ、更に腕が背後から回され英字を抱きしめてくる。

 

英字が肩越しに振り返ると、肩に顎を乗せたシアの顔が至近距離に見えた。その顔は真っ赤に染まっており、実に嬉しそうに緩んでいる。

 

「何を喜んでいるんだ、私は当然の事を言っただけだぞ」

「うふふふ、分かってますよぉ~、うふふふ~」

 

単に許可も資格も無く部下を渡す事は無いという意味であって、周りで騒いでいる様に"自分の女"だからという意味ではないと暗に伝える英字だったが、シアにはまるで伝わっていなかった。惚れた男から"神にだって渡さない"と宣言されたのだ。どの様な意図で為された発言であれ、嬉しいものは嬉しいのだろう。

 

手っ取り早く交渉を打ち切る為の発言が色んな意味で"やりすぎ"だった事に、加減を間違えたかと首を捻る英字。ユエはトコトコと傍に寄って行くと、そんな英字の袖をクイクイと引っぱった。

 

「何だユエ?」

「ん……カッコよかったから大丈夫」

「ふん、ならば良いか」

 

英字の心情を察し慰めるユエに、英字は愉快そうに笑いながら優しく頬を撫でた。気持ちよさそうに目を細めるユエ。

 

早朝の正門前、多数の人間がいる中で、背中に幸せそうなウサミミ美少女をはりつけ、右手には金髪紅眼のこれまた美少女を纏わりつかせる男、七葉英字。

 

纏う雰囲気自体は姪を愛でる大人のそれだが、傍目には年若いハーレムである。商隊の女性陣は生暖かい眼差しで、男性陣は死んだ魚の様な眼差しでその光景を見つめる。英字に突き刺さる煩わしい視線や言葉は、きっと自業自得である。




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