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ドット秘書長と呼ばれた男は、片手の中指でクイッとメガネを押し上げると落ち着いた声音で英字に話しかけた。
「話は大体聞かせてもらいました。証人も大勢いる事ですし嘘はないのでしょうね。やり過ぎな気もしますが……まぁ、まだ死んでいませんし許容範囲としましょう。取り敢えず、彼らが目を覚まし一応の話を聞くまでは、フューレンに滞在はしてもらうとして、身元証明と連絡先を伺っておきたいのですが……それまで拒否されたりはしないでしょうね?」
言外にこれ以上譲歩はしませんよ? と伝えるドット秘書長に英字は肩を竦めて答えた。
「ああ、構わない。そっちのブタ貴族がまだ文句を言うようなら、むしろ連絡して欲しいくらいだ。今度はもう少し丁寧な説得を心掛けるようにしよう」
英字はそんな事をいい、ドットに呆れ顔をさせながらステータスプレートを差し出す。
「連絡先は、まだ滞在先が決まっていない故……そこのリシー嬢にでも聞いてくれ。彼女の薦める宿に泊まるだろうからな」
英字に視線を向けられたリシーはビクッとした後、「やっぱり私が案内するんですね」と諦めの表情で肩を落とした。
「ふむ、いいでしょう……〝青〟ですか。向こうで伸びている彼は〝黒〟なんですがね……そちらの方達のステータスプレートはどうしました?」
英字の偽装したステータスプレートに表示されている冒険者ランクが最低の"青"である事に僅かな驚きの表情を見せるドット。しかし二人の女性の方がレガニドを倒したと聞いていたので、彼女達の方が強いのかとユエとシアのステータスプレートの提出を求める。
「いや、ユエもシアも……こっちの彼女達もステータスプレートは紛失してな、再発行はまだしていない。高いからな」
さらりと嘘をつく英字。二人の異常とも言える強さを見せた後では意味が無いかもしれないが、それでも第三者にはっきりと詳細を把握されるのは出来れば避けたい。
「しかし、身元は明確にしてもらわないと。記録を取っておき、君達が頻繁にギルド内で問題を起こす様なら、加害者・被害者のどちらかに関係なくブラックリストに載せる事になりますからね。よければギルドで立て替えますが?」
ドットの口ぶりから、どうしても身元証明は必要らしい。しかし、ステータスプレートを作成されれば、隠蔽前の技能欄に確実に二人の固有魔法が表示されるだろう。それどころか今や、神代魔法も表示されるはずだ。大騒ぎになることは間違いない。騒ぎになったところで英字達を害そうとするのなら全部なぎ倒せばいいとも思えるが、それでは、もうまともに滞在はできないだろう。何だか色々面倒になってきた英字。その思考を読んだようにユエが英字に話しかけた。
「……英字様、手紙」
「? あぁ、あの手紙か」
ユエの言葉で、英字はブルックの町を出るときに、ブルック支部のキャサリンから手紙を貰ったことを思い出す。ギルド関連で揉めたときにお偉いさんに見せれば役立つかもしれないと言って渡された得体の知れない手紙だ。
ダメで元々、場合によってはさっさと都市から出ていこうと考え、英字は懐から手紙を取り出しドットに手渡した。
「身分証明の代わりになるかわからないが、知り合いのギルド職員に、困ったらギルドの上層部に渡せと言われてたものがある」
「? 知り合いのギルド職員ですか? ……拝見します」
英字達の服装の質から、それほど金に困っているように思えなかったので、ステータスプレート再発行を拒むような態度に疑問を覚えるドットだったが、代わりにと渡された手紙を開いて内容を流し読みする内にギョッとした表情を浮かべた。
そして、英字達の顔と手紙の間で視線を何度も彷徨わせながら手紙の内容をくり返し読み込む。目を皿のようにして手紙を読む姿から、どうも手紙の真贋を見極めているようだ。やがて、ドットは手紙を折りたたむと丁寧に便箋に入れ直し、英字達に視線を戻した。
「この手紙が本当なら確かな身分証明になりますが……この手紙が差出人本人のものか私一人では少々判断が付きかねます。支部長に確認を取りますから少し別室で待っていてもらえますか? そうお時間は取らせません。十分、十五分くらいで済みます」
ドットの反応に、「まだ待つのか」と退屈気な英字達。しかし十分程度なら許容範囲かと考え直す英字。
「まぁ、それ位なら構わない。分かった、待たせて貰おう」
「職員に案内させます。では後程」
ドットは傍の職員を呼ぶと別室への案内を言付けて、手紙を持ったまま颯爽とギルドの奥へと消えていった。指名された職員が、英字達を促す。英字達がそれに従い移動しようと歩き出したところで、困惑したような、しかし、どこか期待したような声がかかった。
「あの~、私はどうすれば?」
リシーだった。ギルドでお話があるならお役目御免ですよね? とその瞳が語っている。明らかに厄介の種である英字達とは早めにお別れしたいらしい。
英字は、当然だという表情で頷くと端的に答えた。
「待っていてくれ……逃げないでくれよ?」
「……はぃ」
ガックリと肩を落としてカフェの奥にある座席に向かうリシー。その背中には嫌な仕事でも受けねばならない社会人の哀感が漂っていた。
英字達が応接室に案内されてから、きっかり十分後、遂に、扉がノックされた。英字の返事から一拍置いて扉が開かれる。そこから現れたのは、金髪をオールバックにした鋭い目付きの三十代後半くらいの男性と先ほどのドットだった。
「初めまして、冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。英字君、ユエ君、シア君……でいいかな?」
簡潔な自己紹介の後、英字達の名を確認がてらに呼び握手を求める支部長イルワ。英字も握手を返しながら返事をする。
「ああ、構わない。名前は手紙に?」
「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。随分と目をかけられている……というより注目されている様だね。将来有望、ただしトラブル体質なので出来れば目をかけてやって欲しいという旨の内容だったよ」
「トラブル体質……か。確かにブルックではトラブル続きだったが。まぁそれはいい、肝心の身分証明の方はどうなんだ? それで問題ないか?」
「ああ、先生が問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせる程だし、この手紙を以て君達の身分証明とさせてもらうよ」
どうやらキャサリンの手紙は本当にギルドの上層部相手に役立に立った様だ。随分と信用がある。キャサリンを"先生"と呼んでいる事からかなり濃い付き合いがある様に思える。英字の隣に座っているシアは、キャサリンに特に懐いていた事からその辺りの話が気になる様で、おずおずとイルワに訪ねた。
「あの~、キャサリンさんって何者なのでしょう?」
「ん? 本人から聞いてないのかい? 彼女は王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。今各町に派遣されている支部長の五、六割は先生の教え子なんだ。私もその一人で、彼女には頭が上がらなくてね。その美しさと人柄の良さから、当時は僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんの様な存在だった。その後結婚して、ブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。子供を育てるにも田舎の方がいいって言ってね。彼女の結婚発表は青天の霹靂でね。荒れたよ。ギルドどころか、王都が」
「はぁ~そんなにすごい人だったんですね~」
「……キャサリンすごい」
「只者じゃないとは思っていたが……元とはいえ中枢の人間だったとはな」
聞かされたキャサリンの正体に感心する英字達。想像していたよりずっと大物だったらしい。尤も、英字はある程度予想していたのか軽く一笑する程度だったが。
「まぁそれはそれとして、問題が無いならもう行っていいか?」
元々、身分証明の為だけに来たので、用が終わった以上長居は無用だと英字がイルワに確認する。しかしイルワは瞳の奥を光らせると、「少し待ってくれるかい?」と英字達を留まらせる。
イルワは、隣に立っていたドットを促して一枚の依頼書を英字達の前に差し出した。
「実は、君達の腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っている。取り敢えず話を聞いて貰えないかな? 聞いてくれるなら、今回の件は不問とするのだが……」
「……まぁ、内容によるな」
それは言外に、話を聞かなければ今回の件について色々面倒な手続きをするぞ? ということだ。周囲の人間による証言で、英字達がプーム達にしたことに関し罪に問われることはないだろうが、いささか過剰防衛の傾向はあるので、正規の手続き通り、当事者双方の言い分を聞いてギルドが公正な判断をするという手順を踏むなら相応の時間が取られるだろう。
結果は、英字達に非がないということになるだろうが、逆に言えば、結果のわかりきった手続きをバカみたいに時間をかけて行わなければならないということだ。そして、この手続きから逃げると、めでたくブラックリストに乗るということだろう。今後、町でギルドを利用するのに面倒なことこの上ないことになるのだ。
〝依頼を引き受ければ〟ではなく〝話を聞けば〟と言っていることから話くらいで面倒事を回避できるならいいかと思い直し、座席に座り直した。
「聞いてくれるようだね。ありがとう」
「……流石に大都市のギルド支部長を務めるだけのことはあるな、本当にいい性格をしている」
「君も大概だと思うけどね。さて、今回の依頼内容だが、そこに書いてある通り、行方不明者の捜索だ。北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても戻ってこなかったため、冒険者の一人の実家が捜索願を出した、というものだ」
イルワの話を要約すると、つまりこういうことだ。
最近、北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せられ、ギルドに調査依頼がなされた。北の山脈地帯は、一つ山を超えるとほとんど未開の地域となっており、大迷宮の魔物程ではないがそれなりに強力な魔物が出没するので高ランクの冒険者がこれを引き受けた。ただ、この冒険者パーティーに本来のメンバー以外の人物がいささか強引に同行を申し込み、紆余曲折あって最終的に臨時パーティーを組むことになった。
この飛び入りが、クデタ伯爵家の三男ウィル・クデタという人物らしい。クデタ伯爵は、家出同然に冒険者になると飛び出していった息子の動向を密かに追っていたそうなのだが、今回の調査依頼に出た後、息子に付けていた連絡員も消息が不明となり、これはただ事ではないと慌てて捜索願を出したそうだ。
「伯爵は家の力で独自の捜索隊も出している様だけど、手数は多い方がいいとギルドにも捜索願を出した。つい昨日の事だ。……最初に調査依頼を引き受けたパーティはかなりの手練でね、彼等に対処できない何かがあったとすれば並みの冒険者じゃあ二次災害だ。相応以上の実力者に引き受けてもらわないといけない。だが、生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。そこへ君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているという訳だ」
「……前提として、私達にその相応以上の実力が無いと駄目だろう? 生憎私は"青"ランクだぞ?」
英字は言外に、イルワの観察眼を試す。その視線に、イルワは受けて立つとばかりに笑みを浮かべる。
「さっき"黒"のレガニドを瞬殺したばかりだろう? それに……ライセン大峡谷を余裕で探索出来る者を相応以上と言わずして何と言うのかな?」
「何故知って……手紙か? だが、彼女にそんな話は……」
英字達がライセン大峡谷を探索していた話は誰にもしていない。イルワがそれを知っているのは手紙に書かれていたという事以外には有り得ない。しかし、ならば何故キャサリンは、それを知っていたのかという疑問が出る。英字が頭を捻っていると、おずおずとシアが手を上げた。
英字が、シアに胡乱な眼差しを向ける。
「何だ?」
「え~と、つい話が弾みまして……てへ?」
「……後でお仕置きだ」
「!? ユ、ユエさんもいました!」
「……シア、裏切り者」
「二人共晩御飯抜きだ」
どうやら、原因はユエとシアの様だ。英字のお仕置き宣言に二人共平静を装いつつ冷や汗を掻いている。そんな様子を見て苦笑いしながら、イルワは話を続けた。
「生存は絶望的だが、可能性はゼロではない。伯爵は個人的にも友人でね、出来る限り早く捜索したいと考えている。どうかな、今は君達しかいないんだ。引き受けてはもらえないだろうか?」
懇願する様なイルワの態度には、単にギルドが引き受けた依頼という以上の感情が込められている様だ。伯爵と友人という事は、もしかするとその行方不明となったウィルとやらについても面識があるのかもしれない。個人的にも、安否を憂いているのだろう。
「報酬は弾ませてもらうよ? 依頼書の金額は勿論だが、私からも色をつけよう。ギルドランクの昇格もする。君達の実力なら一気に"黒"にしてもいい」
「生憎と金には困っていない、それにランクもどうでもいい」
「なら今後、ギルド関連で揉め事が起きた時は私が直接君達の後ろ盾になるというのはどうかな? フューレンのギルド支部長の後ろ盾だ、ギルド内でも相当の影響力はあると自負しているよ? 君達は揉め事とは仲が良さそうだからね。悪くない報酬ではないかな?」
「随分と大盤振る舞いだな。友人の息子相手にしては入れ込み過ぎじゃないか?」
英字の言葉に、イルワが初めて表情を崩す。後悔を多分に含んだ表情だ。
「彼に……ウィルにあの依頼を薦めたのは私なんだ。調査依頼を引き受けたパーティーにも私が話を通した。異変の調査といっても、確かな実力のあるパーティーが一緒なら問題ないと思った。実害もまだ出ていなかったしね。ウィルは、貴族は肌に合わないと昔から冒険者に憧れていてね……だが、その資質は無かった。だから強力な冒険者の傍で、そこそこ危険な場所へ行って、悟って欲しかった。冒険者は無理だと。昔から私には懐いてくれていて……だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのに……」
英字はイルワの独白を聞きながら、僅かに思案する。英字が思っていた以上に、イルワとウィルの繋がりは濃いらしい。すまし顔で話していたが、イルワの内心は正に藁にも縋る思いなのだろう。生存の可能性は、時間が経てば経つ程ゼロに近づいていく。無茶な報酬を提案したのも、イルワが相当焦っている証拠なのだろう。
英字としても、町に寄り付く度にユエとシアの身分証明について言い訳するのは面倒ではあるし、この先名のある権力者に対する伝手があるのは、町の施設利用という点で便利だ。何せ聖教教会や王国に迎合する気がゼロである以上、何時異端の誹りを受けるか判らない。その場合、町では極めて過ごしにくくなるだろう。個人的な繋がりでその辺をクリア出来るなら楽だ。
なので大都市のギルド支部長が後ろ盾になってくれるというなら、この際自分達の事情を教えて口止めしつつ、不都合が生じた時に利用させてもらおうと英字は考えた。クデタ伯爵とは随分懇意にしていた様だから、仮に生きて連れて帰ればそうそう不義理な事もできないだろう。
それに話を聞いて、英字も思うところがあった。
「……二つ条件がある」
「条件?」
「あぁ、そんなに難しい事じゃない。ユエとシアにステータスプレートを作って欲しい。そして、そこに表記された内容について他言無用を確約する事が一つ。ギルド関連に関わらず、お前の持つコネクションの全てを使って我々の要望に応え便宜を図る事。この二つだな」
「それはあまりに……」
「安心しろ、無茶な要求はしない。ただ私達は少々特異な存在故、確実に教会から目をつけられると思うが、その時伝手があった方が便利だと思っただけだ。面倒事が起きた時に味方になってくれればいい」
「ふむ、キャサリン先生が気に入っているくらいだから悪い人間ではないと思うが、個人的にも君達の秘密が気になって来たな。……そう言えば、そちらのシア君は怪力、ユエ君は見た事も無い魔法を使ったと報告があったな……その辺りが君達の秘密か…そして、それがいずれ教会に目を付けられる代物だと…大して隠していない事からすれば、最初から事を構えるのは覚悟の上という事か……そうなれば確かにどの町でも動きにくい……故に便宜をと……」
流石大都市のギルド支部長、頭の回転は早い。イルワは暫く考え込んだあと、意を決した様に英字に視線を合わせた。
「犯罪に加担する様な倫理に悖る行為・要望には絶対に応えられない。君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、私自身が判断する。だが、できる限り君達の味方になる事は約束しよう……これ以上は譲歩出来ない。どうかな?」
「まぁ、そんなところだろうな……それでいい。報酬は依頼が達成されてからで構わない」
英字としては、ユエとシアのステータスプレートを手に入れるのが一番の目的だ。この世界では何かと提示を求められるステータスプレートは持っていない方が不自然であり、この先、町による度に言い訳するのは面倒な事この上ない。
問題は、最初にステータスプレートを作成した者に騒がれない様にするにはどうすればいいかという事だったのだが、イルワの存在がその問題を解決した。ただ、条件として口約束をしてもやはり密告の疑いはある。いずれ英字達の特異性はバレるだろうが、積極的に手を回されるのは好ましくない。なので英字は、ステータスプレートの作成を依頼完了後にした。どんな形であれ、心を苛む出来事に答えをもたらした英字をイルワも悪いようにはしないだろうという打算だ。
イルワも英字の意図は察しているのだろう。苦笑いしながら、それでも捜索依頼の引き受け手が見つかった事に安堵している様だ。
「本当に、君達の秘密が気になってきたが……それは、依頼達成後の楽しみにしておこう。英字君、ユエ君、シア君……宜しく頼む」
イルワは最後に真剣な眼差しで英字達を見つめた後、ゆっくり頭を下げた。大都市のギルド支部長が一冒険者に頭を下げる、そうそう出来ることではない。キャサリンの教え子というだけあって、人の良さが滲み出ている。
そんなイルワの様子を見て、英字達は立ち上がると気負いなく答えた。
「引き受けた依頼だ。可能な限りは努力はする」
「……意外だな、思ったより真剣に取り組んでくれそうな雰囲気じゃないか。君はもう少し冷たい対応だと思っていたよ」
意外そうに言うイルワの言葉に、英字は目を伏せ呟く様に語る。
「……私にも16歳の娘と14歳の息子がいる。子供を心配する伯爵夫妻の気持ちは痛いほど分かる」
「ほぅ、娘さんと息子さんが……」
「驚いたか? これでもお前よりずっと年上だ」
「何と、それは失礼事をした」
その後、支度金や北の山脈地帯の麓にある湖畔の町への紹介状、件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を受け取り、英字達は部屋を出て行った。バタンと扉が締まる。その扉を暫く見つめていたイルワは、「ふぅ~」と大きく息を吐いた。部屋にいる間、一言も話さなかったドットが気づかわしげにイルワに声をかける。
「支部長……よかったのですか? あの様な報酬を……」
「……ウィルの命がかかっている。彼等以外に頼める者はいなかった、仕方ないよ。それに彼等に力を貸すか否かは私の判断で良いと彼等も承諾しただろう。問題ないさ。それより彼らの秘密……」
「ステータスプレートに表示される"不都合"ですか……」
「ふむ。ドット君、知っているかい? ハイリヒ王国の勇者一行は皆、とんでもないステータスらしいよ?」
ドットは、イルワの突然の話に細めの目を見開いた。
「! 支部長は、彼が召喚された者…〝神の使徒〟の一人であると? しかし、彼はまるで教会と敵対するような口ぶりでしたし、勇者一行は聖教教会が管理しているでしょう?」
「ああ、その通りだよ。でもね……およそ四ヶ月前、その内の一人がオルクスで亡くなったらしいんだよ。奈落の底に魔物と一緒に落ちたってね」
「……まさか、その者が生きていたと? 四ヶ月前と言えば、勇者一行もまだまだ未熟だったはずでしょう? オルクスの底がどうなっているのかは知りませんが、とても生き残るなんて……」
ドットは信じられないと首を振りながら、イルワの推測を否定する。しかし、イルワはどこか面白そうな表情で再び英字達が出て行った扉を見つめた。
「そうだね。でも、もし、そうなら……なぜ、彼は仲間と合流せず、旅なんてしているのだろうね? 彼は一体、闇の底で何を見て、何を得たのだろうね?」
「何を……ですか……」
「ああ、何であれ、きっとそれは、教会と敵対することも辞さないという決意をさせるに足るものだ。それは取りも直さず、世界と敵対する覚悟があるということだよ」
「世界と……」
「私としては、そんな特異な人間とは是非とも繋がりを持っておきたいね。例え、彼が教会や王国から追われる身となっても、ね。もしかすると、先生もその辺りを察して、わざわざ手紙なんて持たせたのかもしれないよ」
「支部長……どうか引き際は見誤らないで下さいよ?」
「勿論だとも」
スケールの大きな話に目眩を起こしそうになりながら、それでもイルワの秘書長として忠告は忘れないドット。しかしイルワは、何かを深く考え込みドットの忠告にも、半ば上の空で返すのだった。
次のお話で遂に愛ちゃん先生達と英字が再開します。
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