ありふれぬ欲望の魔王はやはり世界最強   作:エルドラス

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今回は、前半は原作通りて後半からオリジナルです。


第五十五話 変わる結果

清水幸利にとって異世界召喚とは、まさに憧れであり夢であった。

 

ありえないと分かっていながら、その手の本やWeb小説を読んでは夢想する毎日。夢の中で何度世界を救い、ヒロインの女の子達とハッピーエンドを迎えたか分からない。

 

清水の部屋は壁が見えなくなる程に美少女のポスターで埋め尽くされており、壁の一面にあるガラス製のラックには、お気に入りの美少女フュギュアがあられもない姿で所狭しと並べられている。本棚は漫画やライトノベル、薄い本やエロゲーの類で埋め尽くされていて、入りきらない分が部屋のあちこちにタワーを築いていた。

 

そう、清水幸利は真性のオタクである。但し、その事実を知る者はクラスメイトの中にはいない。それは清水自身が徹底的に隠したからだ。理由は、言わずもがなだろう。あのクラスメイトの言動を間近で見て、オタクである事をオープンに出来る様な者はそうはいない。

 

クラスでの清水は、彼のよく知る言葉で表すなら正にモブだ。

 

特別親しい友人もおらず、いつも自分の席で大人しく本を読む。話しかけられればモソモソと最低限の受け答えはするが、自分から話す事は無い。元々性格的に控えめで大人しく、それが原因なのか中学時代はイジメに遭っていた。当然の流れか登校拒否となり自室に引きこもる毎日で、時間を潰す為に本やゲームなど創作物の類に手を出すのは必然の流れだった。

 

親はずっと心配していたが、日々オタクグッズで埋め尽くされていく部屋に兄や弟は煩わしかった様で、それを態度や言葉で表す様になると清水自身家の居心地が悪くなり居場所というものを失いつつあった。鬱屈した環境は、表には出さないが内心では他者を扱き下ろすという陰湿さを清水にもたらした。そして、益々創作物や妄想に傾倒していった。

 

そんな清水であるから、異世界召喚の事実を理解した時の脳内は正に「キターー!!」という状態だった。愛子がイシュタルに猛然と抗議している時も、光輝が人間族の勝利と元の世界への帰還を決意し息巻いている時も、清水の頭の中は何度も妄想した異世界で華々しく活躍する自分の姿一色だ。ありえないと思っていた妄想が現実化したことに舞い上がって、異世界召喚の後に主人公を理不尽が襲うパターンは頭から追いやられている。

 

そして実際、清水が期待したものと現実の異世界ライフには齟齬が生じていた。

 

先ず、清水は確かにチート的なスペックを秘めていたが、それは他のクラスメイトも同じであり、更に"勇者"は自分ではなく光輝である事、その為か女が寄って行くのは光輝ばかりで、自分は"その他大勢の一人"に過ぎなかった事だ。

 

これでは、日本にいた時と何も変わらない。念願が叶ったにもかかわらず、望んだ通りではない現実に陰湿さを増す清水は、内心で不満を募らせていった。

 

この世界に召喚されてから彼は、『何故か』今まで以上に不満が溜まるようになったのだ。

 

何故自分が勇者ではないのか。何故光輝ばかりが女に囲まれていい思いをするのか。何故自分ではなく光輝ばかり特別扱いするのか。自分が勇者ならもっと上手くやるのに。自分に言い寄るなら全員受け入れてやるのに……。そんな都合の悪い事は全て他者のせい、自分だけは特別という自己中心的な考えが清水の心を蝕んでいった。

 

そんな折だ。あのオルクス大迷宮への実戦訓練が催されたのは。

 

清水はチャンスだと思った。誰も気にしない、居ても居なくても同じ、そんな背景の様な扱いをしてきたクラスメイト達も、遂には自分の有能さに気がつくだろうと。そんな何処までもご都合主義な清水は……しかし、漸く気がつく事になる。

 

自分が決して特別な存在などではなく、ましてご都合主義な展開等もなく、ふと気を抜けば次の瞬間には確かに"死ぬ"存在なのだと。トラウムソルジャーに殺されかけて、遠くでより凶悪な怪物と戦う"勇者"を見て、抱いていた異世界への幻想がガラガラと音を立てて崩れた。

 

そして、奈落へと落ちて"死んだ"クラスメイトを目の当たりにし、心が折れた。自分に都合のいい解釈ばかりして、他者を内心で下に見る事で保ってきた心の耐久度は当然の如く強くはなかったのだ。

 

清水は、王宮に戻ると再び自室に引き篭る事になった。だが、日本の部屋の様に清水の心を慰めてくれる創作物はここにはない。当然の流れとして、清水は自分の天職"闇術師"に関する技能・魔法に関する本を読んで過ごす事になった。

 

 

トータスの闇系統の魔法は、相手の精神や意識に作用する系統の魔法で、実戦等では基本的に対象にバッドステータスを与える魔法と認識されている。清水の適性もそういったところにあり、相手の認識をズラしたり、幻覚を見せたり、魔法へのイメージ補完に干渉して行使しにくくしたり。更に極めれば、思い込みだけで身体に障害を発生させたりという事が出来る。

 

そして、浮かれた気分などすっかり吹き飛んだ陰鬱な心で読んだ本から、清水はふとある事を思いついた。

 

──闇系統魔法は、極めれば対象を洗脳支配出来るのではないか?

 

清水は興奮した。自分の考えが正しければ、誰でも好きな様に出来るのだ。そう、好きな様に。清水の心に暗く澱んだものが蔓延る。その日から一心不乱に修練に励んだ。

 

しかし、そう簡単に行く訳もなかった。先ず、人の様に強い自我のある者には十数時間という長時間に渡って術を施し続けなければ到底洗脳支配など出来ない。当然、無抵抗の場合の話だ。流石に術をかけられて反応しない者など普通はいない。それこそ強制的手段で眠らせるか何かする必要がある。人間相手に隠れて洗脳支配するのは環境的にも時間的にも厳しく、バレた時の事を考えると非常にリスクが高いと清水は断念せざるを得なかった。

 

肩を落とす清水だったが、ふと召喚の原因である魔人族による魔物の使役を思い出す。即ち、人とは比べるべくもなく本能的で自我の薄い魔物ならば洗脳支配出来るのではないか。

 

清水はそれを確かめる為に、夜な夜な王都外に出て雑魚魔物相手に実験を繰り返した。その結果、人に比べて遥かに容易に洗脳支配出来る事が実証できた。尤も、それは既に闇系統魔法に極めて高い才能を持っていたチートの一人である清水だから出来た事だ。以前イシュタルの言った様に、この世界の者では長い時間をかけてせいぜい一、二匹程度を操るのが限度である。

 

王都近郊での実験を終えた清水は、どうせ支配下に置くなら強い魔物がいいと考えた。ただ、光輝達について迷宮の最前線に行くのは気が引けた。そしてどうすべきかと悩んでいた時、愛子の護衛隊の話を耳にしたのだ。それに付いて行き遠出をすれば、丁度いい魔物とも遭遇出来るだろうと考えて。

 

結果、愛子達とウルの町に来る事になり、北の山脈地帯という丁度いい魔物達がいる場所で配下の魔物を集める為姿を眩ませたのだ。次に再会した時は、誰もが自分の成した偉業に畏怖と尊敬の念を抱いて、特別扱いする事を夢想して。

 

本来なら僅か二週間と少しという短い期間では、いくら清水が闇系統に特化した天才でも、そして群れのリーダーだけを洗脳するという効率的な方法をとったとしても、精々千に届くか否かという群れを従えるので限界だっただろう。それも、おそらく二つ目の山脈にいるブルタールレベルを従えるのが精々だ。

 

だが、ここでとある存在の助力と偶然支配できたティオの存在が、効率的に四つ目の山脈の魔物まで従える力を清水に与えた。と同時に、そのとある存在との契約と日々増強していく魔物の軍勢に、清水の心の箍は完全に外れてしまった。そして遂に、やはり自分は特別だったと悦に浸りながら、満を持して大群を町に差し向けたのだった。

 

そして、その結果は……

 

 

見るも無残な姿に成り果てて、愛子達の前に跪かされるというものだった。

 

因みに場所は町外れに移しており、この場にいるのは愛子と優花達の他、護衛隊の騎士達と町の重鎮達が幾人か、それにウィルとグリード達だけである。流石に、町中に今回の襲撃の首謀者を連れて行っては騒ぎが大きくなり過ぎるだろうし、そうなれば対話も難しいだろうという理由だ。町の残った重鎮達が、現在事後処理に東奔西走している。

 

未だ白目を向いて倒れている清水に、愛子が歩み寄った。黒いローブを着ている姿が、そして何より戦場から直接連行して来られたという事実が、動かぬ証拠として彼を襲撃の犯人だと示している。信じたくなかった事実に愛子は悲しそうに表情を歪めつつ、清水の目を覚まさせようと揺り動かした。

 

「愛子、危険だ!」

 

デビッド達が危険だと止めようとするが、愛子は首を振って拒否する。拘束も同様だ。それではきちんと清水と対話できないからと、ソウゴに頼んで外してもらってある。愛子はあくまで先生と生徒として話をするつもりなのだろう。

 

やがて、愛子の呼びかけに清水の意識が覚醒し始めた。ボーっとした目で周囲を見渡し、自分の置かれている状況を理解したのかハッとなって上体を起こす。咄嗟に距離を取ろうして立ち上がりかけたのだが、まだ蹴り飛ばされたダメージが残っているのか、ふらついて尻餅をつきそのままズリズリと後退りした。警戒心と卑屈さ、苛立ちがない交ぜになった表情で、目をギョロギョロと動かしている。

 

「清水君、落ち着いて下さい。誰もあなたに危害を加えるつもりはありません……先生は、清水君とお話がしたいのです。どうして、こんな事をしたのか……どんな事でも構いません。先生に、清水君の気持ちを聞かせてくれませんか?」

 

膝立ちで清水に視線を合わせる愛子に、清水のギョロ目が動きを止める。そして、視線を逸らして顔を俯かせるとボソボソと聞き取りにくい声で話、……というより悪態をつき始めた。

 

「何故? そんな事もわかんないのかよ。だからどいつもこいつも無能だっつうんだよ。馬鹿にしやがって……勇者、勇者うるさいんだよ。俺の方がずっと上手く出来るのに……気付きもしないで、モブ扱いしやがって……ホント、馬鹿ばっかりだ……だから俺の価値を示してやろうと思っただけだろうが……」

「てめぇ……自分の立場わかってんのかよ! 危うく、町がめちゃくちゃになるところだったんだぞ!」

「そうよ! 馬鹿なのはアンタの方でしょ!」

「愛ちゃん先生がどんだけ心配してたと思ってるのよ!」

 

反省どころか周囲への罵倒と不満を口にする清水に、淳史や奈々、昇が憤りを露わにして次々と反論する。その勢いに押されたのか、益々顔を俯かせだんまりを決め込む清水。

 

愛子は、そんな清水が気に食わないのか更にヒートアップする生徒達を抑えると、なるべく声に温かみが宿る様に意識しながら清水に質問する。

 

「そう、沢山不満があったのですね……でも清水君。皆を見返そうというのなら、尚更先生にはわかりません。どうして、町を襲おうとしたのですか? もしあのまま町が襲われて……多くの人々が亡くなっていたら……多くの魔物を従えるだけならともかく、それでは君の"価値"を示せません」

 

愛子の最もな質問に、清水は少し顔を上げると薄汚れて垂れ下がった前髪の隙間から陰鬱で暗く澱んだ瞳を愛子に向け、薄らと笑みを浮かべた。

 

「……示せるさ……魔人族になら」

「なっ!?」

 

清水の口から飛び出したまさかの言葉に愛子のみならず、グリード達を除いたその場の全員が驚愕を露わにする。清水はその様子に満足気な表情となり、聞き取りにくさは相変わらずだが、先程までよりは力の篭った声で話し始めた。

 

「魔物を捕まえに、一人で北の山脈地帯に行ったんだ。その時、俺は『二人の魔人族』と出会った。最初は勿論警戒したけどな……その魔人族達は、俺との話しを望んだ。そしてわかってくれたのさ、俺の本当の価値ってやつを。だから俺は、そいつらと……魔人族側と契約したんだよ」

「契約……ですか? それは、どの様な?」

 

戦争の相手である魔人族と繋がっていたという事実に愛子は動揺しながらも、きっとその魔人族二人が自分の生徒を誑かしたのだとフツフツと湧き上がる怒りを抑えながら聞き返す。

 

そんな愛子に、一体何がおかしいのかニヤニヤしながら清水が衝撃の言葉を口にする。

 

「……畑山先生……あんたを殺す事だよ」

「……え?」

 

愛子は一瞬、何を言われたのかわからなかった様で思わず間抜けな声を漏らした。周囲の者達も同様で、一瞬ポカンとするものの、愛子よりは早く意味を理解し激しい怒りを瞳に宿して清水を睨みつけた。

 

清水は、生徒達や護衛隊の騎士達のあまりに強烈な怒りが宿った眼光に射抜かれて一瞬身を竦めるものの、半ばヤケクソになっているのか視線を振り切る様に話を続けた。

 

「何だよ、その間抜面。自分が魔人族から目を付けられていないとでも思ったのか? ある意味、勇者より厄介な存在を魔人族が放っておく訳無いだろ。"豊穣の女神"……あんたを町の住人ごと殺せば、俺は、魔人族側の"勇者"として招かれる。そういう契約だった」

 

清水はその時の事を思い出す様に口元をひくつかせながら、次第に声高になりつつ続ける。

 

「そいつが言ったんだ、俺の能力は素晴らしいって。勇者の下で燻っているのは勿体無いってさぁ。やっぱり、分かる奴には分かるんだよ。実際、超強い魔物も貸してくれたし、それで想像以上の軍勢も作れたし……だから、だから絶対、あんたを殺せると思ったのに! 何だよ! 何なんだよっ! 何で、六万の軍勢が負けるんだよ! 何で異世界にあんな兵器があるんだよっ! お前は、お前は一体何なんだよっ!」

 

最初は嘲笑する様に生徒から放たれた"殺す"という言葉に呆然とする愛子を見ていた清水だったが、話している内に興奮してきたのか、グリードの方に視線を転じ喚き立て始めた。その眼は陰鬱さや卑屈さ以上に、思い通りにいかない現実への苛立ちと、邪魔したグリードへの憎しみ、そしてその力への嫉妬などがない交ぜになってドロドロとヘドロの様に濁っており、狂気を宿していた。

 

どうやら清水は、目の前の漆黒の鎧の人物をクラスメイトの七葉英字だとは気がついていないらしい。顔が隠れているので当たり前と言えば当たり前だが……。

 

清水は今にも襲いかからんばかりの形相でグリードを睨み罵倒を続け、グリードは変身を解いて生身を晒す。突然明かされた正体に清水は「お前……七葉、か?」と呟き、その後英字が自分に向ける視線が可哀想な者を見る物であったことに気づいた。その『憐れむ様な目』が更に清水を激昂させていた。

 

ソウゴに注意が向いたお陰か、衝撃から我を取り戻す時間が与えられた愛子は一つ深呼吸をすると、激昂しながらも立ち向かう勇気はない様でその場を動かない清水の片手を握り、静かに語りかけた。

「清水君。落ち着いて下さい」

「な、何だよっ! 離せよっ!」

 

突然触れられた事にビクッとして咄嗟に振り払おうとする清水だったが、愛子は決して離さないと云わんばかりに更に力を込めてギュッと握り締める。

 

「清水君……君の気持ちはよく分かりました。"特別"でありたい、そう思う君の気持ちは間違ってなどいません。人として自然な望みです。そして、君ならきっと"特別"になれます。だって方法は間違えたけれど、これだけの事が実際にできるのですから……でも、魔人族側には行ってはいけません。君の話してくれたその魔人族の方は、そんな君の思いを利用したのです。そんな人達に、先生は大事な生徒を預けるつもりは一切ありません!」

 

清水は愛子の真剣な眼差しと視線を合わせることが出来ないのか、徐々に落ち着きを取り戻しつつも再び俯き、前髪で表情を隠した。そんな清水へ、愛子は願いを込めて言葉を重ねる。

 

「……清水君、もう一度やり直しましょう? 皆には戦って欲しくはありませんが、清水君が望むなら、先生は応援します。君なら絶対、天之河君達とも肩を並べて戦えます。そしていつか、皆で日本に帰る方法を見つけ出して、一緒に帰りましょう?」

 

清水は愛子の話しを黙って聞きながら、いつしか肩を震わせていた。優花や淳史達も護衛隊の騎士達も、清水が愛子の言葉に心を震わせ泣いているのだと思った。実はクラス一涙脆いと評判の園部優花が、既に涙ぐんで二人の様子を見つめている。

 

が、そんなに簡単に行く程現実というのはいつだって甘くない。

 

肩を震わせ項垂れる清水の頭を優しい表情で撫でようと身を乗り出した愛子に対して、清水は突然握られていた手を逆に握り返しグッと引き寄せ、愛子の首に腕を回してキツく締め上げたのだ。

 

思わず呻き声を上げる愛子を後ろから羽交い絞めにし、何処に隠していたのか十センチ程の針を取り出すと、それを愛子の首筋に突きつけた。

 

「動くなぁ! ぶっ刺すぞぉ!」

 

裏返ったヒステリックな声でそう叫ぶ清水。その表情はピクピクと痙攣している様に引き攣り、眼はソウゴに向けていた時と同じ狂気を宿している。先程まで肩を震わせていたのは、どうやら嗤っていただけらしい。

 

愛子が、苦しそうに自分の喉に食い込む清水の腕を掴んでいるが引き離せない様だ。周囲の者達が、清水の警告を受けて飛び出しそうな体を必死に押し止める。清水の様子から、やると言ったら本気で殺るという事が分かったからだ。皆、口々に心配そうな、悔しそうな声音で愛子の名を呼び、清水を罵倒する。

 

因みに英字は、この時少し考え事をしていたので、いきなりの急展開に「おや? いつの間に…」という顔をしている。

 

「いいかぁ、この針は北の山脈の魔物から採った毒針だっ! 刺せば数分も持たずに苦しんで死ぬぞ! 分かったら全員、武器を捨てて手を上げろ!」

 

清水の狂気を宿した言葉に、周囲の者達が顔を蒼褪めさせる。完全に動きを止めた生徒達や護衛隊の騎士達にニヤニヤと笑う清水は、その視線を英字に向ける。

 

「おい、七葉! お前もだ! さっきから馬鹿にしやがって、クソが! これ以上ふざけた態度とる気なら、マジで殺すからなっ! 分かったら武器を寄越せ! お前の持ってるやつ全部だ!」

 

尚も憐れみの目をやめない英字に対して清水は、またもや馬鹿にされたと思い癇癪を起こす。そしてヒステリックに、英字の持つ武器群を渡せと要求した。

 

英字は、それを見て清水に話しかけた。

 

「武器、と言うと先程使ったメダガブリューなどのことか?」

「そうだっってんだろ!いいから早くよこせ!」

 

英字が話を始めると、それをとぼけていると受け取ったのか、更に癇癪を起こす清水。

 

そんな清水に英字は、

 

「やめておけ、お前では使いこなせない。そもそもこの武器は、私しか使えない様に改造してあるしな」

「う…うるさい、うるさい、うるさい! いいから黙って全部渡しやがれ! お前らみたいな馬鹿どもは俺の言う事聞いてればいいんだよぉ! そ、そうだ、へへ、おい、お前のその奴隷も貰ってやるよ。そいつに持ってこさせろ!」

 

更に喚き散らす清水。追い詰められすぎて、既に正常な判断が出来なくなっている様だ。その清水に目を付けられたシアは、全身をブルリと震わせて嫌悪感丸出しの表情を見せた。

 

「清水、その針を下せ。彼女を手にかけたらお前は、後悔することになるぞ」

「後悔?ふざけんな!俺の計画をぶち壊したお前がそれを言うのか!」

 

英字は、清水を説得しようとするが、清水は聞き入れようとはしなかった。

 

清水は虚ろな目で「俺が勇者だ、俺が特別なんだ、どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ、アイツ等が悪いんだ、問題ない、望んだ通り全部上手くいく、だって勇者だ、俺は特別だ」等とブツブツと呟き始め、そして突然何かが振り切れた様に奇声をあげて笑い出した。

 

「……し、清水君……どうか、話を……大丈夫……ですから……」

 

狂態を晒す清水に愛子は苦しそうにしながらもなお言葉を投げかけるが、その声を聞いた瞬間、清水はピタリと笑いを止めて更に愛子を締め上げた。

 

「……うっさいよ。いい人ぶりやがって、この偽善者が。お前は黙って、ここから脱出するための道具になっていればいいんだ」

 

暗く澱んだ声音でそう呟いた清水は、再び英字に視線を向けた。興奮も何も無く、負の感情を煮詰めた様なその眼で英字を睨みつけていた。

 

次の瞬間英字は、アイテムボックスから、オンインバスター50を取り出すと……それを清水の足元に投げた。

 

「それをやる。その代わり、私の話を聞け」

 

英字の行動に騎士達や優花達、それどころか、ユエやシアも驚いていた。

 

「話だと?」

「あぁそうだ。だが安心しろ直ぐに終わる」

 

英字は、そう言うとその場に胡座をかいて座り込み、話を始めた。

 

「最初に言っておくが、私はお前を殺す気はない。少なくとも私と先生は、な」

 

英字のまさかの発言に、ユエとシアは、驚愕した。あの英字が敵対したものに対して、殺さないと言ったのだ。今までの彼を見てきた、二人からすれば、驚愕するのも無理ないだろう。

 

「お前を、と言うよりは、クラスメイトを殺すことは、あまりしたくないと言うのが本音だ。お前はまだ、一人も人間を殺していない、先生の言う通り、まだ間に合う」

 

この場に居る全員が驚いていた。今の英字は、先程魔物を蹂躙した時の恐ろしい気配とは違う、優しさを感じていた。

 

だがそんな英字を見て清水は、罵声を浴びせる。

 

「ふざっ、ふざっけんな!何がまだ間に合うだ!俺のことなんて何も知らないくせに、俺が今までどんな思いでいたかなんて知らないくせに!」

 

だがそれでも英字は、話を続けた。

 

「分からないさ、私はお前ではないからな。お前の気持ちがわかるなど、気安く言う気はない。だが、お前がいい様に利用されていることはわかる」

「あ?何言って「ダメです! 避けて!」…!」

 

何を言っているんだと清水が言おうとした時、シアが咄嗟に愛子に飛びかかった。突然の事態に、清水が咄嗟に針を愛子に突き刺そうとする。

 

その後直ぐに英字が清水の後ろにバリアを貼るとそのバリアに、蒼色の水流が弾かれた。清水は、いきなり展開されたバリアの衝撃で倒れてしまった。

 

英字がバリアを展開したことで、愛子と清水が、蒼色の水流に貫かれる事態にはならなかった。

 

英字は、直ぐさま予備のオンインバスター50を取り出すと、先程の水流を放ったであろう、黒い服を来た耳の尖ったオールバックの男が、大型の鳥のような魔物に乗り込む姿が見えた。

 

ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ!

 

英字は、一瞬のタメの後、飛び立った魔物と人影に光弾を連射する。オールバックの男は、攻撃されることを予期していたように、英字の方を確認しつつ鳥型の魔物をバレルロールさせながら必死に回避行動を行った。中々の機動力をもってかわしていた魔物だが、全ては回避しきれなかったようで、鳥型の魔物の片足が吹き飛び、オールバックの男の片腕も吹き飛んだようだ。それでも、落ちるどころか速度すら緩めず一目散に遁走を図る。攻撃してからの一連の引き際はいっそ見事という他ない。

 

おそらく、あれが清水の言っていた魔人族の内の一人なのだろうと英字は推測した。既に低空で町を迂回し、町そのものを盾にするようにして視界から消えている。英字の攻撃手段を知っていたような逃走方法だったことから、魔人族側に英字達の情報が渡るだろうと苦い表情をする英字。逃走方向がウルディア湖の方だった事から、その手前にある林に逃げ込んだならタカカンドロイドなどによる追跡も難しいだろう。

 

英字は、直ぐさま先生の側に行くと、怪我がないかを確かめる。少し足を擦りむいてはいたが、命に別状のある怪我はない。

 

優花達は、少しばかりホッとしていた。

 

そして英字は、次に清水に近づくと、目を覗き込んだ。清水は勿論暴れたが、英字に頭を抑えられている為、ジタバタすることしかできなかった。

 

「ルクスリア」

 

英字がそう唱えると、先程から暴れていた清水が、急におとなしくなった。

 

「七葉君、清水君に何をしたのですか」

 

すると愛子が英字に話しかけてきた。愛子が不思議に思うのも仕方がないだろう。先程までヒステリック気味だった男が、急におとなしくなったのだから。

 

「掛けられていた魔法を解いただけだ」

「掛けられていた魔法?」

「あぁ、清水には、魔法が掛けられていた。『自身に眠る狂気を解放させる魔法』がな」

 

その言葉に全員がまたも驚愕した。

 

「……どう言うことですか」

 

愛子は、少しばかり怒り気味に英字に問いかけた。

 

「恐らく、先程の魔人族が、清水を上手く利用する為に掛けたのだろう。この魔法を掛けられた本人は、思考能力が鈍るからな」

 

そう言うと英字は、直ぐに清水の方に向き直ると言葉をかけた。

 

「分かったか清水。魔人族は、最初からお前を勇者にする気などなかった。恐らくこの作戦が成功しても、お前を殺していただろう」

 

だが、清水はそんな言葉に耳を貸していなかった。掛けられていた魔法を解かれ、冷静になった結果、自分のしでかしたことの大きさと、利用されたショックで、もう全てがどうでも良くなっていた。

 

「はっ、結局俺は、どこまで行ってもダメなやつなんだな、魔人族にいいように利用されて、挙げ句の果てに先生や町の人たちを殺そうとして、本当救いようがねぇな」

 

それは、自分に向けた罵声。先程まで英字に、向けていたものを、今度は自分に向けている。先程まで清水に対して、怒りを露わにしていた優花達だが、今の清水を見ては、何も言えない。

 

この場には暗い雰囲気が流れていた。が、それは突如として終わりを迎えた。

 

「!避けろ‼︎」

 

英字かそう叫ぶと足元に巨大な魔法陣が現れた。咄嗟のことで、ほとんどの者の動きが止まってしまったが、未来視の力で次に何が起こるのかを見たシアが先生と清水を抱えてジャンプした。

 

ユエもそれに続き、優花達や騎士達を重力魔法で浮かせて、離れる。

 

英字も全員が離れたのを見るとその魔法陣から離れる。

 

 

エクスプロージョン・ナーウ

 

 

次の瞬間先程まで英字達がいた場所から大きな爆発が起こった。その威力は地面を抉るほどのものだった。

 

「何に、これ」

 

優花達は、それに戦慄していた。と、その時聞き覚えのない声が聞こえた。

 

「これを察知するとは、流石は『欲望の魔王』と言われるだけの事はありますね」

 

その声の発信源を皆が見ると、そこには金色の鎧に漆黒のマントと帽子を被り、顔を仮面で隠した、それこそ英字が変身する『仮面ライダー』の様な姿の何者かが、小さく拍手をしていた。

 

「初めまして皆様。私の名は"仮面ライダーソーサラー“マスターの命により、豊穣の女神、貴女を殺しにきた」




つぎのお話は、オリジナルです。

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