ありふれぬ欲望の魔王はやはり世界最強   作:エルドラス

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第六十三話 再びフューレンにて後編

現在、英字達は冒険者ギルドにある応接室に通されていた。

 

差し出された如何にも高級そうなお茶と茶菓子を他の三人に与えながら、英字はアイテムボックスから取り出した本を読みながら待つ事五分。部屋の扉を蹴破らん勢いで開け放ち飛び込んできたのは、英字達にウィル救出の依頼をしたイルワ・チャングだ。

 

「ウィル! 無事かい!? 怪我は無いかい!?」

 

以前の落ち着いた雰囲気などかなぐり捨てて、視界にウィルを収めると挨拶も無く安否を確認するイルワ。それだけ心配だったのだろう。

 

「イルワさん……すみません。私が無理を言ったせいで、色々迷惑を……」

「何を言うんだ……私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった……本当によく無事で……ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ……二人も随分心配していた。早く顔を見せて安心させてあげるといい。君の無事は既に連絡してある。数日前からフューレンに来ているんだ」

「父上とママが……わかりました。直ぐに会いに行きます」

 

イルワは、ウィルに両親が滞在している場所を伝えると会いに行く様に促す。

 

ウィルはイルワに改めて捜索に骨を折ってもらった事を感謝し、次いで英字達に改めて挨拶に行くと約束して部屋を出て行った。英字としてはこれっきりで良かったのだが、きちんと礼をしないと気が済まないらしい。

 

ウィルが出て行った後、改めてイルワと英字が向き合う。イルワは穏やかな表情で微笑むと、深々と英字に頭を下げた。

 

「七葉君、今回は本当にありがとう。まさか、本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ」

「まぁ、生き残っていたのはウィルの運が良かったからだろう。私はただ見つけただけに過ぎん」

「ふふ、そうかな? 確かに、それもあるだろうが……何万もの魔物の群れから守りきってくれたのは事実だろう? "女神の剣様”?」

 

にこやかに笑いながら、英字がウルの町で呼ばれている二つ名を呼ぶイルワ。英字の頬が「ほぅ…」と興味深げに歪む。どうやらギルド支部長には、英字の予想より早い情報伝達方法がある様だ。

 

「……随分情報が早いな」

「ギルドの幹部専用だけどね。長距離連絡用のアーティファクトがあるんだ。私の部下が君達に付いていたんだよ。といっても、あのとんでもない移動型アーティファクトのせいで常に後手に回っていたようだけど……彼の泣き言なんて初めて聞いたよ。諜報では随一の腕を持っているのだけどね」

 

そう言って苦笑いするイルワ。もしかしたら英字達を尾行して、序に秘密の一つでも知ろうと思ったのかもしれない。

 

それがイルワの指示か、それともその部下の独断かは知らないが、追随しようとした直後に置いて行かれたその部下の焦燥を思うと……。そして、恐らく何とかウルの町に到着した直後、数万の魔物VS一人という非常識極まりない戦場に遭遇し、更にその後もさっさと帰られてしまい、今も必死に馬を駆って戻って来ているだろう事を思うと……少々可哀想な気がしないでもない。

 

英字としてはそれが監視だろうが単なる通信用アーティファクトの配達だろうが特に関係無いので、特に咎める事も無かった。寧ろギルド支部長としては当然の措置なので、特に不快感を抱く事も無い英字。後ろ盾になり得るイルワの抜け目の無さに、少々感心した位である。

 

イルワが「こほんっ!」と咳払いして、部下の焦燥と困惑と精神的疲労を脇にポイして話を進めた。

 

「それにしても、大変だったね。まさか、北の山脈地帯の異変が大惨事の予兆だったとは……二重の意味で貴方に依頼して本当によかった。数万の大群を殲滅した力にも興味はあるのだけど……聞かせてくれるかい? 一体、何があったのか」

「あぁ、構わない。だがその前に、ユエとシアのステータスプレートだ。ティオは……」

「うむ、二人が貰うなら妾の分も頼めるかの」

「……という訳で、一人分追加で頼む」

「確かに、ステータスプレートを見た方が大群を退けたという話の信憑性も高まるか……分かったよ」

 

イルワはユエとシアの他に、新しく英字一行に加わっているティオについても"何か"あるのだと察して、若干表情を変えつつ職員を呼んで新しいステータスプレートを三枚持ってこさせた。

 

結果、ユエ達のステータスは以下の通りだった。

 

ユエ 323歳 女 レベル:75

天職:神子

筋力:120

体力:300

耐性:60

敏捷:120

魔力:6980

魔耐:7120

技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法

 

※想像構成

魔法陣をイメージのみによって構成する。

※血盟契約

唯一と定めた相手からの吸血による血力変換の効果が大幅に上昇する。

 

 

 

シア・ハウリア 16歳 女 レベル:40

天職:占術師

筋力:60[+最大6100]

体力:80[+最大6120]

耐性:60[+最大6100]

敏捷:85[+最大6125]

魔力:3020

魔耐:3180

技能:未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ] [+集中強化]・重力魔法

 

※変換効率上昇Ⅱ

魔力1に対して、身体能力のスペック値を2上昇させる。

 

 

 

ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89

天職:守護者

筋力:770  [+竜化状態4620]

体力:1100  [+竜化状態6600]

耐性:1100  [+竜化状態6600]

敏捷:580  [+竜化状態3480]

魔力:4590

魔耐:4220

技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法

 

※咆哮Ⅱ

竜化状態のブレスに加え、竜化前の状態でもブレスを使用可能。

※風纏

竜化時に風を纏い、飛翔の補助が可能。

※痛覚変換

それは甘美なる力。新たな扉を開いた証。「さぁさぁバッチ来い!」

 

 

 

英字には遠く及ばないものの、召喚されたチート集団ですら少人数では相手にならないレベルのステータスだ。全てのステータス値がという訳ではないが、勇者が“限界突破”を使っても及ばないレベルである。この世界の通常の戦闘系天職を持つ者と比べれば、正に異常な値。

 

何より、ユエ達の本質を示す固有魔法や技能が、冒険者ギルド最上級幹部であるイルワをしてその口をあんぐりと開けさせ絶句している。

 

無理もない話だ。何せ"血力変換"と"竜化"はとある種族しか持たない筈の特異な固有魔法であり、既にその種族は何百年も前に滅んだ筈なのだから。何百年経とうとも聖教教会を通して伝説の一つとして伝えられる、神敵たる種族の証なのだから。

 

加えてユエやティオ程のインパクトは無くとも、種族の常識を完全に無視しているシアについても驚くなという方がどうかしている。

 

「いやはや……何かあるとは思っていたけれど、これ程とは……」

 

冷や汗を流しながらいつもの微笑みが引き攣っているイルワに、英字はお構いなしに事の顛末を語って聞かせた。普通に聞いただけなら、そんな馬鹿なと一笑に付しそうな内容でも、先にステータスプレートで裏付ける様な数値や技能を見てしまっているので信じざるを得ない。

 

イルワは全ての話を聞き終えると、一気に十歳くらい年をとった様な疲れた表情でソファに深く座り直した。

 

「……道理でキャサリン先生の目に留まるわけだ。英字君が異世界人の一人だということは予想していたが……実際は、遥か斜め上をいったね……」

「……それでイルワよ。お前は私達をどうする? 危険分子だと教会にでも突き出すか?」

 

イルワは、英字の試す様な質問に非難する様な眼差しを向けると居住まいを正した。

 

「冗談がキツいよ。出来るわけないだろう? 君達を敵に回すようなこと、個人的にもギルド幹部としても有り得ない選択肢だよ……大体、見くびらないで欲しい。君達は私の恩人なんだ。そのことを私が忘れることは生涯ないよ」

「……そうか。それは良かった」

 

英字は口の端を歪めて、試して悪かったと視線で謝意を示した。イルワは目元を緩めて頷く。

 

「私としては、約束通り可能な限り君達の後ろ盾になろうと思う。ギルド幹部としても、個人としてもね。まぁ、あれだけの力を見せたんだ。当分は、上の方も議論が紛糾して君達に下手なことはしないと思うよ。一応、後ろ盾になりやすいように、君達の冒険者ランクを全員〝金〟にしておく。普通は、〝金〟を付けるには色々面倒な手続きがいるのだけど……事後承諾でも何とかなるよ。キャサリン先生と僕の推薦、それに〝女神の剣〟という名声があるからね」

 

イルワの大盤振る舞いにより、他にもフューレンにいる間はギルド直営の宿のVIPルームを使わせてくれたり、イルワの家紋入り手紙を用意してくれたりした。何でも、今回のお礼もあるがそれ以上に英字達とは友好関係を作っておきたいという事らしい。

 

「貴方達の旅路が、最高に厄介で素敵な冒険となる事を祈っているよ」

「はははは、そう願いたいものだな!」

 

イルワの最上級の送り言葉に、英字もそうなってほしいと思い大笑で返した。

 

そんな英字を見て、イルワもここ数年多忙に呑まれて見せる事の無かった、心からの快活な笑い声を上げたのだった。

 

その後、イルワと別れ、英字達はフューレンの中央区にあるギルド直営の宿のVIPルームでくつろいだ。途中、ウィルの両親であるグレイル・グレタ伯爵とサリア・グレタ夫人がウィルを伴って挨拶に来た。かつて、王宮で見た貴族とは異なり随分と筋の通った人のようだ。ウィルの人の良さというものが納得できる両親だった。

 

グレイル伯爵は、しきりに礼をしたいと家への招待や金品の支払いを提案したが、英字が固辞するので、困ったことがあればどんなことでも力になると言い残し去っていった。

 

広いリビングの他に個室が四部屋付いた部屋は、その全てに天蓋付きのベッドが備え付けられており、テラスからは観光区の方を一望できる。英字は、リビングの超大型ソファーにゴロンと寝転びながら、リラックスした様子で深く息を吐いた。

 

ユエがいつもの様に英字の膝に頭を預け、シアは隣に腰掛けた。ティオは部屋の探検を続行する様だ。

 

するとシアが英字に話しかける。

 

「あのぉ~、英字さん。約束……」

「あぁ、そうだったな。で、望みはなんだ」

 

シアは少し考えた後ににへ~っと笑い、ユエに笑みを浮かべて頷くと英字に視線を転じた。

 

「では、私の処女をもらっ───」

「よーし、この話は無かった事にす───」

「ああ冗談、冗談ですからっ! ……で、では……明日一緒に観光区をデート、というのは……?」

「まぁ、それぐらいなら構わない。取り敢えず今日はもう休むとしよう、明日はそれに加えて消費した食料の買い出しもせねばならないからな」

 

英字が髪を撫でながら了承すると、翌日の予定を口にする。そこに待ったを掛けたのはユエだった。

 

「……買い物は私とティオがしておく。だから英字様は、出来るだけシアといてあげて?」

「頼んでいいか?」

「ん……」

 

ユエの親心的な援護射撃によって、シアは明日一日英字を独占する事になった。

 

その後。和やかな空気のまま一同は眠りについた。




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