ありふれぬ欲望の魔王はやはり世界最強   作:エルドラス

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第六十四話 シアとのデート

「ふんふんふふ~ん、ふんふふ~ん! いい天気ですねぇ~、絶好のデート日和ですよぉ~」

 

フューレンの街の表通りを、上機嫌のシアがスキップしそうな勢いで歩いている。

 

服装はいつも着ている丈夫で露出過多な冒険者風の服と異なり、可愛らしい乳白色のワンピースだ。肩紐は細めで胸元が大きく開いており、シアの豊かな胸が歩く度にぷるんっ! ぷるんっ! と震えている。腰には細めの黒いベルトが付いていて引き絞られており、シアのくびれの美しさを強調していた。豊かなヒップラインと合わせて何とも魅惑的な曲線を描いている。膝上十五センチの裾からスラリと伸びる細く引き締まった脚線美は、弾む双丘と同じくらい男共の視線を集めていた。

 

尤も、何より魅力的なのはその纏う雰囲気と笑顔だろう。

 

頬を染めて「楽しくて仕方ありません!」という感情が僅かにも隠される事無く全身から溢れている。亜人族であるとか、綺麗に装飾されているが一応首輪らしき物を付けている事とか、そんなのは些細な事だと言わんばかりに周囲の人々を尽く見惚れさせ、或いは微笑ましいものを見たという様にご年配方の頬を緩ませている。

 

そんなシアの後ろを、英字は苦笑いしながら歩いていた。よほど心が浮きだっているのか、少し前に進んではくるりとターンして英字に笑顔を向け追いつくのを待つという行為を繰り返すシアに、周囲の人々同様、英字も思わず頬が緩んでしまうのだ。

 

「……はしゃぎすぎだぞシア、前を見てないと転ぶぞ?」

「英字さんこそ前見てますか~? ふふふ、そんなヘマしませんよぉ~、ユエさんに鍛えられているんですからッ!?」

 

注意する英字に、再びターンしながら大丈夫だと言いつつ足を引っ掛けて転びそうになるシア。すかさず、英字が腰を抱いて支える。シアの身体能力なら特に問題なく立て直すだろうが、今日は丈の短いスカートなので念のためだ。シアを鼻息荒く凝視している男共にラッキースケベなど起こさせはしない。

 

「しゅ、しゅみません」

「ほら、浮かれているのはわかったから隣りを歩け」

 

腰を抱かれて恥ずかしげに身を縮めるシアは、英字の服の袖をちょこんと摘んだまま、今度は小さな歩幅でチマチマと隣りを歩き始めた。その頬を染めて恥らう愛らしい姿に、周囲の男達はほぼ全員ノックアウトされたようだ。若干名、隣を歩く恋人の拳が原因のようだが。

 

そんな英字とシアの二人は周囲の視線を集めつつ、遂に観光区に入った。観光区には、実に様々な娯楽施設が存在する。例えば、劇場や大道芸通り、サーカス、音楽ホール、水族館、闘技場、ゲームスタジオ、展望台、色とりどりの花畑や巨大な花壇迷路、美しい建築物や広場などである。

 

「英字さん、英字さん! まずはメアシュタットに行きましょう! 私、一度も生きている海の生き物って見たことないんです!」

 

ガイドブックを片手に、ウサミミを「早く! 早く!」と言う様にぴょこぴょこ動かすシア。ハルツィナ樹海出身なので海の生物というのを見たことがないらしく、メアシュタットというフューレン観光区でも有名な水族館に見に行きたいらしい。

 

因みに樹海にも大きな湖や川はあるので、淡水魚なら見慣れているらしいのだが、海の生き物とは例えフォルムが同じ魚でも感じるものは違うらしい。

 

「うーむ、内陸で海洋生物とは……かなりの気合いの入れようだな管理・維持・輸送と費用もバカにならないだろうに……」

 

王としての癖かついつい運営する側の視点で見てしまう英字だったが、断る理由もないので了承する。それにシアが嬉しそうにニコニコしながら英字の手を握って先導した。

 

途中の大道芸通りで、人間の限界に挑戦する様なアクロバティックな妙技に目を奪われつつ、辿り着いたメアシュタットはかなり大きな施設だった。海をイメージしているのか全体的に青みがかった建物となっており、多くの人で賑わっている。

 

中の様子は地球の水族館に極めてよく似ていた。ただ、地球程大質量の水の圧力に耐える透明の水槽を作る技術が無い様で、格子状の金属製の柵に分厚いガラスがタイルの様に埋め込まれており、若干の見難さはあった。

 

だがシアはその程度の事は全く気にならない様で、初めて見る海の生き物の泳いでいる姿に瞳をキラキラさせて、頻りに指を差しながら英字に話しかけた。

 

すぐ隣で同じく瞳をキラキラさせている家族連れの幼女と仕草が同じだ。不意に幼女の父親と思しき人と視線が合い、その目に生暖かさが含まれている気がして英字は何となく愛想笑いをしながらシアを促し、手を掴んでその場を離れた。

 

シアが英字の行動に驚きつつも手を握られたのが嬉しくて、頬を染めながら手をにぎにぎし返したのは言うまでもない。

 

そんなこんなで一時間程水族館を楽しんでいると、突然シアがギョッとした様にとある水槽を二度見し、更に凝視し始めた。

 

そこにいたのは……シーマ○だった。英字が妻から聞いて試しに遊んでみた某ゲームの人面魚そっくりだった。

 

英字は水槽の傍に貼り付けられている解説に目をやった。

 

それによると、このシー○ンは水棲系の魔物であるらしく、固有魔法〝念話〟が使えるようだ。滅多に話すことはないらしいがきちんと会話が成立するらしく、確認されている中では唯一意思疎通の出来る魔物として有名らしい。

 

ただ、物凄い面倒くさがりのようで、仮に会話出来たとしても、やる気の欠片もない返答しかなく、話している内に相手の人間まで無気力になっていくという副作用?みたいなものまであるので注意が必要とのことだ。あと、お酒が大好きらしく、飲むと饒舌になるらしい。但し、一方的に説教臭いことを話し続けるだけで会話は成立しなくなるらしいが……ちなみに、名称はリーマンだった。

 

英字は、一筋の汗を流しながら未だ見つめ合っているのか睨み合っているのか判らないシアを放置して話しかけてみた。ただ、普通に会話しても滅多に返してくれないらしいので同じく“念話”を使ってみる。

 

『貴様、念話が使えるらしいな。本当に話せるのか? 言葉の意味を理解できるか?』

 

突然の念話に、リーマンの目元が一瞬ピクリと反応する。そして、シアから視線を外すと、ゆっくり英字を見返した。シアが、何故か勝った! みたいな表情をしているが無視だ。

 

『……チッ、初対面だろ。まず名乗れよ。それが礼儀ってもんだろうが。全く、これだから最近の若者は……』

 

おっさん顔の魚に礼儀を説かれてしまった。痛恨のミスである。英字は頬を引き攣らせながら再度会話を試みる。

 

『……それは済まなかったな、私は七葉英字だ。リーマンとは一体なんなのだ?』

『……お前さん。人間ってのは何なんだ?と聞かれてどう答える気だ?そんなもんわかるわけないだろうが。まぁ、敢えて言うなら俺は俺だ。それ以上でもそれ以下でもねぇ。あと名はねぇから好きに呼んでくれ』

 

英字は、内心『これが妻が前に言っていた『イケおじ』と言う者なのか?』と。

 

英字が遠くを見る目をしていると、今度はリーマンの方から質問が来た。

 

『こっちも一つ聞きてぇ。お前さん、なぜ念話が出来る?人間の魔法を使っている気配もねぇのに……まるで俺と同じみてぇだ』

 

当然といえば当然の疑問だろう。何せ、人間が固有魔法として〝念話〟を使っているのだ。なぜ自分と同じことを平然と出来ているのか気になるところだ。普段は、滅多に会話しないリーマンが英字との会話に応じているのも、その辺りが原因なのだろう。

 

そして英字は、自身の『出世』と自身が人間ではない事と、ここに来るまでの人生(人ではないが)を簡潔に説明した。因みに年齢に関しては伏せている。年齢を教えて下手に出られても面倒なだけだからだ。

 

『……アンタも苦労してんだな。よし、聞きてぇことがあるなら言ってみな。おっちゃんが分かることなら教えてやるよ』

 

同情されてしまった。恐らくは『出世』に関してのことだろうがぶっちゃけ英字は、昔ならともかく今はそこまで気にしてないのでここまで同情されたのは久しぶりなので少し困惑していた。

 

何とか気を取り直しつつ、リーマンに色々聞いてみる。例えば、魔物には明確な意思があるのか、魔物はどうやって生まれるのか、他にも意思疎通できる魔物はいるのか……リーマン曰く、ほとんどの魔物は本能的で明確な意思はないらしい。言語を理解して意思疎通できる魔物など自分の種族しか知らないようだ。また、魔物が生まれる方法も知らないらしい。

 

他にも色々話しているとそれなりの時間が経ち、傍目には若い男とおっさん顔の人面魚が見つめ合っているという果てしなくシュールな光景なので、人目につき始める。シアが、それにそわそわし始め英字の服の裾をちょいちょい引っ張るので、英字は会話を切り上げた。

 

英字は、最後にリーマンが何故こんなところにいるのか聞いてみた。そして、返ってきた答えは……

 

〝ん?いやな、さっきも話した通り、自由気ままな旅をしていたんだが……少し前に地下水脈を泳いでいたらいきなり地上に噴き飛ばされてな……気がついたら地上の泉の傍の草むらにいたんだよ。別に、水中じゃなくても死にはしないが、流石に身動きは取れなくてな。念話で助けを求めたら……まぁ、ここに連れてこられたってわけだ〟

 

英字はそこまで聞いたところで先程のお詫びも兼ねて一つ提案をする。

 

『リーマン、ここから出たいか?』

『?そりゃあ、出てぇよ。俺にゃあ、宛もない気ままな旅が性に合ってる。生き物ってのは自然に生まれて自然に還るのが一番なんだ。こんな檻の中じゃなく、大海の中で死にてぇてもんだよ』

 

英字は、話をしていてリーマンのことを少しばかり気に入っていたのでその願いを聞き入れることにした。

 

『なら、私が近くの川にでも飛ばしてやろう。突然景色が変わるから混乱するかもしれないが、まぁそこは我慢してくれ』

 

そして英字達が水槽から動いた途端、その中からリーマンがいなくなっているという珍事が発生した。リーマンの隠された能力かとフューレンの行政も巻き込んだ大騒ぎになるのだが……それはどうでもいい話だ。

 

 

 

 

 

一方その頃……

 

ユエとティオは買い出しの為商業区を歩いていた。といっても、英字のアイテムボックスには必要な物が大量に入っているので、旅の中で消費した分を少し補充する程度の事だ。従って、それ程食料品関係を買い漁る必要はなく、二人は商業区をぶらぶらと散策しながら各種専門店を冷やかしていた。

 

「ふむ。それにしても、ユエよ。本当に良かったのか?」

「? ……シアの事?」

「うむ。もしかすると今頃、色々進展しているかもしれんよ? ユエが思う以上にの?」

 

服飾店の展示品を品定めしているユエに、ティオがそんな質問をする。声音には少し面白がる様な響きが含まれていた。「余裕ぶっていていいのか? 足元を掬われるかもしれないぞ?」と。

 

まだ英字達の旅に加わって日の浅い新参者のティオとしては、三人の不思議な関係に興味があった。これから共に旅をする以上、一度腹を割って話してみたかったのだ。

 

それに対して、ユエは動揺の欠片もなくティオをチラリと見ると肩を竦めた。本当に何の危機感も持っていない様だ。

 

「……それなら嬉しい」

「嬉しいじゃと? 惚れた男が他の女と親密になるというのに?」

「……他の女じゃない。シアだから」

 

 首を傾げるにティオにユエは、店を見て回りながら話を続ける。

 

「……最初は、英字様にベタベタするし……色々下心も透けて見えたから煩わしかった……でも、あの子を見ていて分かった」

「分かった?」

「……ん、あの子はいつも全力。一生懸命。大切なもののために、好きなもののために。良くも悪くも真っ直ぐ」

「ふむ、それは見ていてわかる気がするの。……だから絆されたと?」

 

ティオは短い付き合いながらも、今までのシアを脳裏に浮かべて頬を緩めた。亜人族にあるまじき難儀な体質でありながら、笑顔が絶えないムードメーカーなウサミミ少女に自然と頬が綻ぶのだ。

 

まだ若いが故に色々残念な所や空回る所はあるが、ティオもいつだって一生懸命なシアの事は気に入っている。しかし、唯一無二の想い人とデートさせる理由としては些か弱い気がして、ティオは改めて、結局は気に入ったからという理由だけなのかと確認を取った。

 

「……半分は」

「半分? ふむ、ではもう半分は何じゃ?」

 

ティオの疑問顔に、ユエは初めて口元に笑みを浮かべて答えた。

 

「……シアは、私の事も好き。英字様と同じくらい。意味は違っても大きさは同じ……可愛いでしょ?」

「……成程のぅ。あの子には、ご主人様もユエもどちらも必要という事なんじゃな。……混じり気の無い好意を邪険に出来る者は少ない。あの子の人徳というものかの。ふむ、ユエのシアへの想いは分かった。……じゃが、ご主人様の方はどうじゃ? 心奪われるとは思わんのか? あの子の魅力は重々承知なのじゃろう?」

 

ユエは、それこそ馬鹿馬鹿しいと肩を竦めると、今度は落胆する様な表情を見せた。

 

「……それで釣れる様な人なら苦労しない。英字様は、側にいる事は許してくれても、隣に立つのは許してくれない。一度も振り返ってくれない……だから私が知る限り、英字様が望んで側においたのは、ティオが初めて」

 

言外に「お前が羨ましい」と言い放ちジト目を向けるユエに、ティオは普段の無表情とのギャップも相まって言い知れぬ迫力を感じ一歩後退った。

 

無意識の後退だった様で、ティオはそんな自分に驚いた表情をすると、苦笑いしながら両手を上げて降参の意を示した。

 

「まぁ……喧嘩を売る気はない。妾は、ご主人様に罵ってもらえれば十分じゃしの」

「……変態」

 

呆れた表情でティオを見るユエに、本人はカラカラと快活に笑うだけだった。

 

ユエはティオが態々この様な話を始めたのも、自分達との関係を良好なものにする為だろうと察していた。なので、憧れの竜人族のブレない変態ぶりに深い溜息を吐きつつも、上手くやっていけそうだと苦笑いするのだった。

 

とそんな風に、少しユエとティオの距離が縮まり、穏やかな雰囲気で二人が歩き出した直後、

 

 ドゴォォンッ!!

 

「ぐへっ!!」

「ぷぎゃあ!!」

 

すぐ近くの建物の壁が破壊され、そこから二人の男が顔面で地面を削りながら悲鳴を上げて転がり出てきた。更に、同じ建物の窓を割りながら数人の男が同じように悲鳴を上げながらピンボールのように吹き飛ばされてくる。その建物の中からは壮絶な破壊音が響き渡っており、その度に建物が激震し外壁がひび割れ砕け落ちていく。

 

そして十数人の男が手足を奇怪な方向に曲げたままビクンビクンと痙攣して表通りに並ぶ頃、遂に、建物自体が度重なるダメージに耐えられなくなったようで、轟音と共に崩壊した。

 

野次馬が悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように距離を取る中、ユエとティオは聞きなれた声と気配に、その場に留まり呆れた表情を粉塵の中へと向けた。

 

「ああ、やっぱり二人の気配だったか……」

「あれ? ユエさんとティオさん? どうしてこんな所に?」

「……それはこっちのセリフ……デートにしては過激すぎ」

「全くじゃのぉ~、で? ご主人様よ。今度は、どんなトラブルに巻き込まれたのじゃ?」

 

ユエとティオが感知していた通り、粉塵をかき分けて現れたのは英字とシアだった。二人はデートに出かけた時の格好そのままに、それぞれお馴染みの武器を携えてユエ達のもとへ寄って来た。可愛らしい服を着ていながら、肩に凶悪な戦鎚を担ぐシアの姿はとてもシュールだ。

 

「あはは。私もこんなデートは想定していなかったんですが、成り行きで……。ちょっと人身売買している組織の関連施設を潰し回っていまして……」

「……成り行きで裏の組織と喧嘩?」

 

呆れた表情のユエにシアが乾いた笑いをする。ティオがどういう事かと英字に事情説明を求めて視線を向けた。

 

「まぁ、丁度人手が足りなかったところだ。説明するから手伝ってくれないか?」

 

地面に転がる男達を通行の邪魔だとでも言うように瓦礫の上に放り投げていく英字。積み重なっていく男達を尻目に、英字は、ユエとティオに何があったのか事情を説明し始めた。




次回は遂に『あの子』が登場。

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