ありふれぬ欲望の魔王はやはり世界最強   作:エルドラス

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第七十一話 懐かしきホルアド

「ヒャッハー! ですぅ!」

 

左手側のライセン大峡谷と右手側の雄大な草原に挟まれながら、ライドベンダーとライドベンダーアウトタイプが太陽を背に西へと疾走する。

 

(此処から先はアウトタイプはライドベンダー(O)と記載します)

 

街道の砂埃を巻き上げながらそれでも道に沿って進むライドベンダー(O)と異なり、ライドベンダーの方は峡谷側の荒地や草原を行ったり来たりしながらご機嫌な様子で爆走していた。

 

「シア、えらくご機嫌だな。何処ぞの世紀末ヤンキーの様な雄叫びなんて上て」

「……むぅ。ちょっとやってみたいかも」

 

ライドベンダー(O)の運転席でハンドルを握る英字が、呆れた様な表情で呟いた。

 

英字の言葉通り、今シアはライドベンダー(O)の方には乗っていない。一人でライドベンダーを運転しているのである。

 

元々シアは、ライドベンダーの風を切って走る感じがとても気に入っていたのだが、最近人数が多くなり、すっかりライドベンダー(O)での移動が主流になっていた為少々不満に思っていたのだ。

 

窓から顔を出して風を感じる事は出来るが、やはり何とも物足りないし、ライドベンダー(O)の車内では英字の隣はユエの指定席なので、ライドベンダーの時の様に英字にくっつく事も出来ない。それならば、運転の仕方を教わり自分でライドベンダーを走らせてみたいと英字に懇願したのである。

 

元々ライドベンダーは(ライドベンダー(O)などの特殊な物を除けば)量産可能で特別な技術や操作が必要ではない為シアにとっては大して難しいものでもなく、あっという間に乗りこなしてしまった。そして、その魅力に取り憑かれたのである。

 

今も奇声を発しながら右に左にと走り回り、ドリフトしてみたりウィリーしてみたり、その他ジャックナイフやバックライドなどプロのエクストリームバイクスタント顔負けの技を披露している。

 

シアのウサミミが「ヘイヘイ、どうだい私のテクは?」とでも言う様にちょっと生意気な感じで時折英字の方を向くのが、微笑ましいが地味にイラっとくる。偶に乗り物に乗ると性格が豹変する人種がいるが、シアもその類なのかもしれない。

 

英字の傍らで同じ様にシアの様子を見ていたユエが、ちょっと自分もやりたそうにしている。ユエにもライドベンダーを渡しておくか……とぼんやり考える英字。

 

そんな英字に、ユエの更に隣で窓から顔を出して気持ちよさそうにしていた三、四歳くらいの幼女──ミュウがいそいそとユエの膝の上に攀じ登ると、そのまま大きな瞳をキラキラさせた。そしてハンドルを握りながら逆立ちし始めたシアを指差し、英字におねだりを始める。

 

「パパ! パパ! ミュウもあれやりたいの!」

「ミュウ。やりたいという気持ちは大事だ。が、あれを真似してはダメだ」

 

ミュウがユエの膝の上に座りながら、やんわり自分のお願いを否定して頭を撫でる英字に「やーなの! ミュウもやるの!」と全力で駄々をこねる。暴れるミュウが座席から転げ落ちない様、ユエが後ろから抱きしめて「……暴れちゃメッ!」と叱りつけた。「うぅ~」と可愛らしい唸り声を上げながらしょぼくれるミュウに、英字は「そう落胆するな」と微笑みかける。

 

「後で私が乗せてやるから、それまでは我慢だ」

「……いいの?」

「あぁ。だが、シアと乗るのは絶対に駄目だぞ?」

「シアお姉ちゃんはダメなの?」

「駄目だ。いいか? 特に理由も無くバイクの上なのに妙なポーズで曲技運転する奴は危ないからな」

 

ライドベンダーのハンドルの上に立ち、右手の五指を広げた状態で顔を隠しながら左手を下げ僅かに肩を上げるという奇妙なポーズでアメリカンな笑い声を上げるシア。

 

そんなジョ○ョ的な香ばしいポーズをとる彼女にジト目を向けながら、英字はミュウに釘を刺す。見てないところでシアに乗せてもらったりするなよ? と。

 

「えーっと確か、ライドベンダーバイワゲインタイプがあった筈だが、最後に乗ったのは何時だったか。と言うか最後にメンテナンスを行なったのは……」

「ユエお姉ちゃん。パパがブツブツ言ってるの。変なの」

「……英字パパは、ミュウが心配……意外に過保護」

「フフ、ご主人様は意外に子煩悩なのかの? ふむ、このギャップはなかなか……ハァハァ」

「ユエお姉ちゃん。ティオお姉ちゃんがハァハァしてるの」

「……不治の病だから気にしちゃダメ」

 

膝の上から自分を見上げてくるミュウの頭をいい子いい子しながら、ユエがミュウの話し相手を務める。

 

ユエは、ミュウが英字にべったりなので中々二人っきりで、若干欲求不満気味だったが、やはり懐いてくれるミュウが可愛いので仕方ないかと割り切っている。

 

座席の後ろで、何やら妄想に熱が入り始めたのかハァハァという息遣いが煩くなってきたティオに魔術を撃ち込んで黙らせつつ、ユエは教育に悪いのでミュウの耳を塞ぐ。そして、「車内で撃つな、散らかるだろ」と英字に軽く注意されつつ、遂にライドベンダーに乗る事すら無く、走らせたライドベンダーの後部に捕まって地面を直接滑り始めたシアを見ながら「私がしっかりしなきゃ!」とちょっと虚しい決意をするのだった。

 

そのままライドベンダー(O)とライドベンダーが街道を並走しつつ少し経つと、英字達は宿場町ホルアドに到着した。

 

本来なら素通りしてもよかったのだが、フューレンのイルワから頼まれ事をされたので、それを果たす為に寄り道したのだ。と言っても、元々グリューエン大砂漠へ行く途中で通る事になるので大した手間ではない。

 

英字は懐かしげに目を細めて、ホルアドのギルドを目指して町のメインストリートを歩いた。英字に肩車してもらっているミュウが、そんな英字の様子に気が付いた様で、不思議そうな表情をしながら英字のおでこを紅葉の様な小さな掌でペシペシと叩く。

 

「パパ? どうしたの?」

「ん? いや、前に来た事があってな」

 

ミュウの疑問に簡潔に答える英字。

 

そのまま人通りの多い道を歩いていると、最早お馴染みの羨望と嫉妬の視線が突き刺さる。町に行く度に美女や美少女に囲まれている英字にそれらの視線が飛ぶのはいつもの事なので、英字も一々気にしない。

 

英字達は周囲の人々の視線を無視しながら、冒険者ギルドのホルアド支部に到着した。

 

相変わらずミュウを肩車したまま、英字はギルドの扉を開ける。他の町のギルドと違って、ホルアド支部の扉は金属製だった。重苦しい音が響き、それが人の入ってきた合図になっている様だ。

 

前回英字がホルアドに来た時は、冒険者ギルドに行く必要も無かったので中に入るのは今回が初めてだ。ホルアド支部の内装や雰囲気は、最初英字が連想していた冒険者ギルドそのままだった。

 

壁や床は所々壊れていたり大雑把に修復した跡があり、泥や何かの染みがあちこちに付いていて不衛生な印象を持つ。内部の作り自体は他の支部と同じで入って正面がカウンター、左手側に食事処がある。しかし他の支部と異なり、普通に酒も出している様で昼間から飲んだくれた野郎達が屯していた。

 

二階部分にも座席がある様で、手すり越しに階下を見下ろしている冒険者らしき者達もいる。二階にいる者は総じて強者の雰囲気を出しており、そういう制度なのか暗黙の了解かはわからないが、高ランク冒険者は基本的に二階を使う様だ。

 

冒険者自体の雰囲気も他の町とは違う様だ。誰も彼も目がギラついていて、ブルックの様な仄々した雰囲気は皆無だった。冒険者や傭兵など、魔物との戦闘を専門とする戦闘者達が自ら望んで迷宮に潜りに来ているのだから、気概に満ちているのは当然といえば当然なのだろう。

 

しかし、それを差し引いてもギルドの雰囲気はピリピリしており、尋常ではない様子だった。明らかに、歴戦の冒険者をして深刻な表情をさせる何かが起きている様だ。

 

英字達がギルドに足を踏み入れた瞬間、冒険者達の視線が一斉に英字達を捉えた。

 

その眼光のあまりの鋭さに、英字に肩車されるミュウが「ひぅ!」と悲鳴を上げ、ヒシ! と英字の頭にしがみついた。

 

冒険者達は、美女・美少女に囲まれた挙句幼女を肩車して現れた英字に、色んな意味を込めて殺気を叩きつけ始める。

 

益々震えるミュウを肩から降ろし、英字は片腕抱っこに切り替えた。ミュウは英字の胸元に顔を埋め、外界のあれこれを完全シャットアウトした。

 

血気盛んな、或いは酔った勢いで席を立ち始める一部の冒険者達。彼等の視線は、「ふざけたガキをぶちのめす」と何より雄弁に物語っており、このギルドを包む異様な雰囲気からくる鬱憤を晴らす八つ当たりと、単純なやっかみ混じりの嫌がらせである事は明らかだ。

 

英字達は単なる依頼者であるという可能性もあるのだが……既に彼等の中にその様な考えは無いらしい。取り敢えず話はぶちのめしてからだという、荒くれ者そのものの考え方で英字の方へ踏み出そうとした。

 

だがしかし、超が付くほど過保護で親バカな英字が、娘を怯えさせられて黙っているわけがなかった。既に、英字の額には青筋が深く深~く浮き上がっており、ミュウをなだめる手つきの優しさとは裏腹にその眼は凶悪に釣り上がっていた。

 

そして……

 

ドンッ!!

 

そんな音が聞こえてきそうなほど濃密にして巨大かつ凶悪なプレッシャーが、英字達を睨みつけていた冒険者達に情け容赦一切なく叩きつけられた。先程、冒険者達から送られた殺気が、まるで子供の癇癪に思えるほど絶大な圧力。既に物理的な力すらもっていそうなそれは、未熟な冒険者達の意識を瞬時に刈り取り、立ち上がっていた冒険者達の全てを触れることなく再び座席につかせる。

 

英字のスペルディアを受けながら意識を辛うじて失っていない者も、大半がガクガクと震えながら必死に意識と体を支え、滝のような汗を流して顔を青ざめさせている。

 

と、永遠に続くかと思われた威圧がふとその圧力を弱めた。その隙に止まり掛けていた呼吸を必死に行う冒険者達。中には失禁したり吐いたりしている者もいるが……そんな彼等に英字が話しかけた。

 

「おい、今、こちらを睨んだやつら」

「「「「「「「!」」」」」」」

 

英字の声にビクッと体を震わせる冒険者達。おそるおそるといった感じで英字の方を見るその眼には、化け物を見たような恐怖が張り付いていた。だが、そんな事はお構いなしに、英字は彼等に向かって要求……もとい命令をする。

 

「顔を反対側に向けろ」

「「「「「「「え?」」」」」」」

 

いきなりの命令に戸惑う冒険者達。英字が、更に言葉を続ける。

 

「聞こえなかったのか?反対側を向けと言ったんだ。お前達のせいで私の娘が怖がっているじゃないか。だから、こちらに顔を向けるな。もしミュウの視界に顔が映り込んでまた怖がらせたなら……顔の皮を剥ぐ」

 

だったら、そもそもこんな場所に幼子を連れてくるなよ! と全力でツッコミたい冒険者達だったが、化け物じみた相手にそんな事言えるはずもなく、戸惑っている内に英字の眼光が鋭くなってきたので、急いで英字達とは反対の方を向く。

 

それを見た英字は、溜息を吐きつつ、顔を埋めるミュウにもう大丈夫だと声を掛ける。それでミュウも安心したのか、再び肩車を強請って英字の首に跨る。英字もそれを快く了承し、カウンターへと歩いて行った。

 

英字達が、カウンターに向かった瞬間、ドサドサと崩れ落ちる音があちこちから響いたがサクッと無視して、たどり着いたカウンターの受付嬢に要件を伝える。

 

因みに、受付嬢は可愛かった。英字と同じ年くらいの明るそうな娘だ。テンプレはここにあったらしい。尤も、普段は魅力的であろう受付嬢の表情は緊張でめちゃくちゃ強張っていたが。

 

「支部長はいるか? フューレンのイルワから手紙を預かっているんだが……本人に直接渡せと言われてな」

 

英字はそう言いながら自分のステータスプレートを受付嬢に差し出す。受付嬢は、緊張しながらもプロらしく居住まいを正してステータスプレートを受け取った。

 

「は、はい! お預かりします。え、えっと……イルワ様、というと……フューレン支部のギルド支部長様からの依頼……ですか?」

 

普通、一介の冒険者がギルド支部長から依頼を受けるなどという事はありえないので、少し訝しそうな表情になる受付嬢。しかし、渡されたステータスプレートに表示されている情報を見て目を見開いた。

 

「き、"金"ランク!?」

 

冒険者において、"金"のランクを持つ者は全体の一割に満たない。そして"金"のランク認定を受けた者についてはギルド職員に対して伝えられるので、当然この受付嬢も全ての"金"ランク冒険者を把握しているのだが、英字の事など知らなかったので思わず驚愕の声を漏らしてしまった。

 

その声に、ギルド内の冒険者も職員も含めた全ての人が、受付嬢と同じように驚愕に目を見開いて英字を凝視する。建物内がにわかに騒がしくなった。

 

受付嬢は、自分が個人情報を大声で晒してしまった事に気がついてサッと表情を蒼褪めさせる。そして、ものすごい勢いで頭を下げ始めた。

 

「も、申し訳ありません! 本当に、申し訳ありません!」

「いや、構わない。取り敢えず、ここの支部長に取り次いでくれ」

「は、はい! 少々お待ちください!」

 

放っておけばいつまでも謝り続けそうな受付嬢に、英字は苦笑いをする。ウルの町で軽く蹂躙し、フューレンで複数の裏組織を壊滅させるなど大暴れしてきた以上、身分の秘匿など今更だと思ったのだ。

 

子連れで美女・美少女ハーレムを持つ、見た目青年の"金"ランク冒険者にギルド内の注目がこれでもかと集まるが、注目されるのは普段の事なので割り切って受付嬢を待つ英字達。

 

注目される事に慣れていないミュウが、居心地悪そうなので全員であやす。ティオのあやし方が情操教育的に悪そうだったのでデコピンをお見舞いしておく。その事で更に騒がしくなったが、やはり無視だ。

 

やがて、と言っても五分も経たない内。ギルドの奥からズダダダッ! と何者かが猛ダッシュしてくる音が聞こえだした。

 

何事だと英字達が音の方を注目していると、カウンター横の通路から全身黒装束の少年がズザザザザザーッと床を滑りながら猛烈な勢いで飛び出てきて、誰かを探す様にキョロキョロと辺りを見渡し始めた。

 

英字はその人物に見覚えがあり、こんな所で見かけるとは思わなかったので少し驚いた様に呟いた。

 

「……遠藤?」




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