「貴方が好きです」
「……白崎」
香織の表情には羞恥と、英字の答えを予想しているからこその不安と想いを告げる事が出来た喜びの全てが詰まっていた。そしてその全てをひっくるめた上で、一歩も引かないという不退転の決意が宿っていた。
覚悟と誠意の込められた眼差しに、英字もまた真剣さを瞳に宿して答える。
「私には愛する女性がいる。お前の想いには応えられない」
はっきり返答した英字に、香織は一瞬泣きそうになりながら唇を噛んで俯くものの、しかし一拍後には、零れ落ちそうだった涙を引っ込め目に力を宿して顔を上げた。そして、わかっているとでも言う様にコクリと頷いた。
香織の背後で、光輝達が唖然呆然阿鼻叫喚といった有様になっているが、そんな事はお構いなしに香織は想いを言葉にして紡いでいく。
「……うん、わかってる。ユエさんの事だよね?」
「いや、全然違うが?」
「………へ?」
英字の返答に、香織は目が点になる。香織だけでなく、雫含めた女子メンバーや永山達までもが驚いて言葉にならない。
驚愕に固まる香織に向けて、英字は、自身の首にかけていたロケットペンダントを首から外し、その中にある写真を見せた。
その写真には二人の人物が写っていた。一人は英字、そしてもう一人は、髪、肌、纏う衣服、全てが白い美少女だった。その美少女を見て、香織は声を震わせながら尋ねる。
「え、えっと……これは英字くん、と、……誰?」
「私の妻の『白織』だ」
英字の思いもよらない発言に、クラスメイト全員が雷が落ちた様な衝撃の表情で固まる。
「おっ…奥さん」
「あぁ、こうして結婚指輪もしっかりとはめているし、長い年月を共に過ごしているぞ」
その言葉に全員が「はぁ⁉︎」と驚愕の声を上げる。
当然だ。英字の見た目はどう考えても17歳くらいだ。にも関わらず、長い年月と言ったのだ。意味不明と思うのも当然と言えば当然だ。
「え、は、いや……ごめんなさいね七葉君、全然意味不明なのだけれど……?」
雫が頭を抱えながら質問すると、英字は、「まぁ、こうなるよな」と言う表情をしながら説明をする。
「まず最初に言っておくが、私はお前達とは同い年ではないぞ」
「そ、そうなの?」
「あぁ、外見では分からないだろうがな」
英字は、そう言うと懐にしまっていたステータスプレートを取り出すと、年齢の部分だけ見せる。
「……2159歳⁉︎」
その実年齢にクラスメイト全員が驚愕する。
「そうだ。それが私の実年齢だ。あ、一応言っておくが敬語はやめてくれよ。同級生に敬語使われるとムズムズするからな。」
「は、はぁ、分かりま……分かったわ」
一瞬敬語で会話しなければと思ったクラスメイト達だが、英字がそれを拒んだ。そして英字は更に驚愕の真実を口にする。
「それに私には、16歳の娘や14歳の息子がいるからな」
「もう一人娘が⁉︎しかも息子まで⁉︎」
驚く一同を尻目に、英字は香織に向かって結論を告げる。
「まぁそんな訳で、私が愛している異性は、今でも妻である白織ただ一人だけだ。だから、お前の気持ちには応えられない。だから、連れては行かない」
そう言葉を締めて踵を返そうとする英字の背に、香織の思わぬ反撃の言葉が返ってきた。
「……でも、それは傍にいられない理由にはならないと思うんだ」
「……何?」
「だって、ユエさんもシアさんも、少し微妙だけどティオさんも、英字くんの事好きだよね? 特に、ユエさんとシアさんはかなり真剣だと思う。違う?」
「……」
「英字くんに特別な人がいるのに、それでも諦めずに英字くんの傍にいて、英字くんもそれを許してる。なら、そこに私がいても問題無いよね? だって、英字くんを想う気持ちは……誰にも負けてないから」
そう言って、香織は炎すら宿っているのではと思う程強い眼差しをユエに向けた。そこには「私の想いは貴女にだって負けていない! もう嗤わせない!」と、香織の強い意志が見える。それは、紛れもない宣戦布告。たった一つの"特別の座"の争奪戦に、自分も参加するという決意表明だ。
香織の射抜く様な視線を真っ向から受け止めたユエは、珍しい事に口元を誰が見ても分かるくらい歪めて不敵な笑みを浮かべた。
「……なら付いて来るといい、そこで教えてあげる。私とお前の差を」
「お前じゃなくて、香織だよ」
「……なら、私はユエでいい。香織の挑戦、受けて立つ」
「ふふ、ユエ。負けても泣かないでね?」
「……ふ、ふふふふふ」
「あは、あははははは」
英字を置き去りに、二人の世界を作り出すユエと香織。告白を受けたのは自分なのに、いつの間にか蚊帳の外に置かれている挙句、香織のパーティ加入が決定しているという事に、英字は頭を押さえる。笑い合うユエと香織を見て、シアとミュウが傍らで抱き合いながらガクブルしていた。
「え、英字さん! 私の目、おかしくなったのでしょうか? ユエさんの背後に暗雲と雷を背負った龍が見えるのですがっ!」
「あぁ、いつの間に般若顔のスタ◯ドなんて覚えたんだろうなぁ……」
「パパぁ~! お姉ちゃん達こわいのぉ!」
「ハァハァ、二人共、中々……あの目を向けられたら……んっ、たまらん」
互いに、スタ○ド? を背後に出現させながら、仁王立ちで笑い合うユエと香織。英字は、お前達そんなキャラだったか? とツッコミを入れたかったが、やぶへびになりそうだったので、縋り付くミュウを宥めながら自然と収まるまで待つことにした。
だが、そんな香織の意志に異議を唱える者が一人。……勿論、"勇者"天之河光輝だ。
「ま、待て! 待ってくれ! 意味がわからない。香織が七葉を好き? 付いていく? えっ? どういう事なんだ? なんで、いきなりそんな話しになる? 七葉! お前、いったい香織に何をしたんだ!」
「……正気か?」
どうやら、光輝は、香織が英字に惚れているという現実を認めないらしい。いきなりではなく、単に光輝が気がついていなかっただけなのだが、光輝の目には、突然、香織が奇行に走り、その原因は英字にあるという風に見えたようだ。
本当にどこまでご都合主義な頭をしているのだと思わず正気を疑う英字。
完全に英字が香織に何かをしたのだと思い込み、半ば聖剣に手をかけながら憤然と歩み寄ってくる光輝に、雫が頭痛を堪える様な仕草をしながら光輝を諌めにかかった。
「光輝。七葉君が何かするわけないでしょ? 冷静に考えなさい。あんたは気がついてなかったみたいだけど、香織は、もうずっと前から彼を想っているのよ。それこそ、日本にいるときからね。どうして香織が、あんなに頻繁に話しかけていたと思うのよ」
「雫……何を言っているんだ……あれは、香織が優しいから、七葉が一人でいるのを可哀想に思ってしてたことだろ? 協調性もやる気もない、オタクな七葉を香織が好きになるわけないじゃないか」
光輝と雫の会話を聞きながら、頬と口角をピクピクさせる英字。協調性や、やる気がない様に見えたのは真実だし、オタクである事も事実だ。なんなら、休日に妻と一緒にアニメを見たり、ゲームをしたりするのが楽しみだったりする。だからこそオタクを否定される様な言い方をされるとイラッとくる。
そこへ、光輝達の騒動に気がついた香織が自らケジメを付けるべく光輝とその後ろの仲間達に語りかけた。
「光輝くん、皆、ごめんね。自分勝手だってわかってるけど……私、どうしても英字くんと行きたいの。だから、パーティは抜ける。本当にごめんなさい」
そう言って深々と頭を下げる香織に、鈴や恵里、辻や吉野等女性陣はキャーキャーと騒ぎながらエールを贈った。永山、遠藤、野村の三人も、香織の心情は察していたので気にするなと苦笑いしながら手を振った。
しかし当然、光輝は香織の言葉に納得出来ない。
「嘘だろ? だって、おかしいじゃないか。香織は、ずっと俺の傍にいたし……これからも同じだろ? 香織は、俺の幼馴染で……だから……俺と一緒にいるのが当然だ。そうだろ、香織」
「えっと……光輝くん。確かに私達は幼馴染だけど……だからってずっと一緒にいるわけじゃないよ? それこそ、当然だと思うのだけど……」
「そうよ、光輝。香織は、別にあんたのものじゃないんだから、何をどうしようと決めるのは香織自身よ。いい加減にしなさい」
幼馴染の二人にそう言われ、呆然とする光輝。その視線がスッと英字へと向く。
英字は、我関せずと言った感じで遠くを見ていた。その英字の周りには美女、美少女が侍っている。その光景を見て、光輝の目が次第に吊り上がり始めた。あの中に自分の・・・香織が入ると思うと、今まで感じた事の無い黒い感情が湧き上がってきたのだ。そして衝動のままに、ご都合解釈もフル稼働する。
「香織。行ってはダメだ。これは、香織の為に言っているんだ。見てくれ、あの男を。女の子を何人も侍らして、あんな小さな子まで……しかも兎人族の女の子は奴隷の首輪まで付けさせられている。黒髪の女性もさっき彼の事を『ご主人様』って呼んでいた。きっと、そう呼ぶ様に強制されたんだ。彼は、女性をコレクションか何かと勘違いしている。最低だ。人だって簡単に殺せるし、強力な武器を持っているのに、仲間である俺達に協力しようともしない。香織、あいつに付いて行っても不幸になるだけだ。だから、ここに残った方がいい。いや、残るんだ。例え恨まれても、君の為に俺は君を止めるぞ。絶対に行かせはしない!」
光輝の余りに突飛な物言いに、香織達が唖然とする。しかしヒートアップしている光輝はもう止まらない。説得の為に向けられていた香織への視線は、何を思ったのか英字の傍らのユエ達に転じられる。
「君達もだ。これ以上、その男の元にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう! 君達程の実力なら歓迎するよ。共に人々を救うんだ。シア、だったかな? 安心してくれ。俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放する。ティオも、もうご主人様なんて呼ばなくていいんだ」
そんな事を言って爽やかな笑顔を浮かべながら、ユエ達に手を差し伸べる光輝。雫は顔を手で覆いながら天を仰ぎ、香織は開いた口が塞がらない。そして、光輝に笑顔と共に誘いを受けたユエ達はというと……
「「「……」」」
もう、言葉も無かった。光輝から視線を逸らし、両手で腕を摩っている。よく見れば、ユエ達の素肌に鳥肌が立っていた。ある意味結構なダメージだったらしい、ティオでさえ「これはちょっと違うのじゃ……」と眉を八の字にして寒そうにしている。
そんなユエ達の様子に、手を差し出したまま笑顔が引き攣る光輝。視線を合わせてもらえないどころか、気持ち悪そうに英字の影にそそくさと退避する姿に、若干のショックを受ける。
そして、そのショックは怒りへと転化され行動で示された。無謀にも英字を睨みながら聖剣を引き抜いたのだ。光輝は、もう止まらないと言わんばかりに聖剣を地面に突き立てると英字に向けてビシッと指を差し宣言した。
「七葉英字! 俺と決闘しろ! 武器を捨てて素手で勝負だ! 俺が勝ったら、二度と香織には近寄らないでもらう! そして、そこの彼女達も全員解放してもらう!」
「……教室にいた頃からイタイ奴だと思っていたが、ここまでとは……もはや病気……これがユリウスやシュンと同じ"勇者“とは、世も末だな」
「何をごちゃごちゃ言っている! 怖気づいたか!」
聖剣を地面に突き立てて素手の勝負にしたのは、きっと剣を抜いた後で、同じように英字が武器を使ったら敵わないと考え直したからに違いない。意識的にか無意識的にかはわからないが……ユエ達も香織達も、流石に光輝の言動にドン引きしていた。
しかし、光輝は完全に自分の正義を信じ込んでおり、英字に不幸にされている女の子達や幼馴染を救ってみせると息巻き、周囲の空気に気がついていない。元々の思い込みの強さと猪突猛進さ、それに初めて感じた“嫉妬”が合わさり、完全に暴走している様だ。
英字の返事も聞かず、猛然と駆け出す光輝。英字は、溜息を吐きながら二歩、三歩と後退りした。それを見て、武器を使わない戦いに怖気づいたと考えた光輝は、より一層、力強く踏み込んだ。あと数歩で拳が届くという段階でも、英字は両手をだらんと下げたまま特に反応もしない。光輝は、英字が反応しきれていないのだと思い、勝利を確信した。
その瞬間、
ズボッ!
「ッ!?」
光輝の姿が消えた。
正確には、拳に力を乗せるため最後の一歩に最大限の力を込めて踏み込んだ瞬間、落ちたのだ。落とし穴に。英字は、最初に二、三歩下がった時に、錬成を行い地面の下に深さ四メートル程の穴を作って置いたのだ。
その落とし穴は、光輝を呑み込むと瞬時に元の石畳に戻った。そして、地面の下からくぐもった爆発音が響く。落とし穴を錬成した時、ついでとばかりに英字お手製閃光手榴弾や衝撃手榴弾、そして、催涙毒や麻痺毒をプレゼントする。
おそらく地面の下では、脱出しようとした光輝に爆発の衝撃が襲いかかり、閃光が視覚を潰し、催涙毒が目と鼻を虐め抜き、麻痺毒が悶えることも許さずに体を硬直させ始めていることだろう。
英字は無言で、再び錬成を行い、光輝の周囲を石で固めていった。一応、空気がなければ死ぬかもしれないので顔の周りは塞がずに、小さな空気穴だけ開けてやる。
この間、傍目には、英字は何もせず突っ立っているだけに見えるので、一人で憤り、一人で突っ込み、一人で落ちて姿を消した光輝は物凄く……滑稽だった。
「はぁ……八重樫。一応、生きてるから後で掘り出してやれ」
「……言いたいことは山ほどあるのだけど……了解したわ」
光輝に関する面倒事は八重樫雫に! という日本にいた時からの暗黙の了解のまま、雫に面倒事を押し付ける英字に、手で目元を覆いながら溜息をつく雫。ようやく、邪魔者はいなくなった。
……と思ったら、今度は檜山達が騒ぎ出す。曰く、香織の抜ける穴が大きすぎる。今回の事もあるし、香織が抜けたら今度こそ死人が出るかもしれない。だから、どうか残ってくれと説得を繰り返す。
特に、檜山の異議訴えが激しい。まるで長年望んでいたものが、もう直ぐ手に入るという段階で手の中から零れ落ちる事に焦っている様な……そんな様子だ。
檜山達四人は香織の決意が固く説得が困難だと知ると、今度は英字を残留させようと説得をし始めた。過去の事は謝るので、これからは仲良くしようと等とふざけた事を平気で言い募る。
そんな事微塵も思っていないだろうに、馴れ馴れしく笑みを浮かべながら英字の機嫌を覗う彼等に、英字だけでなく雫達も不愉快そうな表情をしている。そんな中、英字は再会してから初めて檜山の眼を至近距離から見た。その眼は、香織が出て行く事も影響してか、狂的な光を放ち始めている様に英字には思えた。
雫達が檜山達を諌めようと再び争論になりそうな段階で、英字は、せっかくなので、檜山に話しかけてみることにした。
「なぁ、檜山。火属性魔法の腕は上がったか?」
「……え?」
突然、投げかけられた質問に檜山がポカンとする。しかし、質問の意図に気がついたのか徐々に顔色を青ざめさせていった。
「な、なに言ってんだ。俺は前衛だし……一番適性あるのは風属性だ」
「ほぅ、てっきり火属性だと思っていたよ」
「か、勘違いだろ? いきなり、何言い出して……」
「では、好きなんだな。特に火球とか。思わず使ってしまうくらいになぁ?」
「……」
今や、檜山の顔色は青を通り越して白へと変化していた。英字は、あの時魔法を自分に向けて放ったのが檜山であることは、分かっていた。香織の状態を見るに襲われてはいない様だ。「どうやらメルドは、言いつけを守った様だな」と、思いながら香織をチラリと見やった。
英字は、黙り込んだ檜山から離れると近藤達も含めて容赦なく告げた。
「私が今回お前達を助けたのは、目覚めが悪くなるから、それだけだ。お前達の仲間に戻る気などさらさらない。わかったらさっさと散れ! 鬱陶しい!」
英字の物言いに怒りをあらわにする近藤達だったが、「檜山。お前ならわかるよなぁ?」と英字が檜山に言うと、ビクリと体を震わせた檜山は無言で頷き、近藤達にもう止めるよう言い出した。檜山もまた、英字が自分のしたことに気がついていると知り、言外に含まれた意図を悟って、英字に合わせたのだ。
ようやく、本当にようやく、英字達は出発を妨げる邪魔者がいなくなった。
香織が宿に預けてある自身の荷物を取りに行っている僅かな間(檜山達が付いていこうとしたが、英字の視線で止められた)、龍太郎達が光輝を担いでいるのを尻目に、雫が英字に話しかけた。
「何というか……いろいろごめんなさい。それと、改めて礼をいうわ。ありがとう。助けてくれたことも、生きて香織に会いに来てくれたことも……」
迷惑をかけた事への謝罪と救出や香織の事でお礼を言う雫に、英字は、思わず失笑した。突然、吹き出した英字に訝しそうな表情をする雫。視線で「一体なに?」と問いかけている。
「いや、すまない。相変わらずの苦労人なんだと思ったら、ついな。日本にいた時も、こっそり謝罪と礼を言いに来たな。異世界でも相変わらずか……ほどほどにしないと眉間の皺が取れなくなるぞ?」
「……大きなお世話よ。そっちは随分と変わったわね。あんなに女の子侍らせて、おまけに娘まで……日本にいた頃の貴方からは想像出来ないわ……」
「侍らせると言う言い方はやめてくれ、と言うか結婚してると散々言ってるんだがなぁ。あと言っておくが、こっちが私の素だ。日本にいた頃は猫をかぶっていただけだ」
「そ、そうなのね。……え、えーと……、私が言える義理じゃないし、勝手な言い分だとは分かっているけど……出来るだけ、香織の事も見てあげて。お願いよ」
「……まぁ、ついてくる以上は気に掛けるつもりだ」
「ええ、それでも十分よ」
一応見守るつもりだという旨を雫に伝える。それに雫が頭を下げようとすると、ふと英字が何か思い出した様に苦笑を浮かべたのが目に入る。
「ど、どうしたのよ?」
「何、お前自身とは関係は無いんだがな……」
「気になるじゃない、話してよ」
「……私の友人に、お前と同じ様な苦労人が居たことを思い出してな」
「へぇ、なんて人?」
「メラゾフィスと言ってな、共に酒を交わす仲だった」
そんなとりとめもなく、先程とは一転した穏やかな時間が二人の間に流れた。
英字が滅多に見ない様な穏やかさで話しているのをユエ達が驚いて見ていると、香織がパタパタと足音を鳴らして戻ってきた。そして、雫と楽しそうに談笑する英字を見て目を丸くする。
雫の事が気になって、詳細を聞きに来たユエと香織が情報を交換する。ユエは、どうにも気心知れた様なやり取りをした上に英字と微笑みあう雫に「むぅ~」と唸り、香織は「そう言えば二人でこっそり話している事がよくあった様な……」と英字と雫の二人を交互に見やる。そして二人は結論を出した。
もしかして、雫も強敵? と。
名状しがたい表情のユエと香織を気にしつつ、いよいよ出発する英字達。雫や鈴など女性陣と永山のパーティー、それに報告を済ませて駆けつけたメルドが見送りのためホルアドの入口に集まった。そして、英字が取り出したライドベンダー(O)に、もはや驚きを通り越して呆れた視線を向ける。
雫と香織が、お互いに手を取り合いしばしのお別れを惜しんでいると、英字が、〝アイテムボックス〟から黒塗りの鞘に入った剣を取り出し雫に手渡した。
「これは?」
「八重樫、得物失っていただろう?それをやる。回復薬が抜ける詫びと、日本にいたとき色々世話になった礼だ」
雫が英字に手渡された剣を受け取り鞘からゆっくり抜刀すると、まるで光を吸収する様な漆黒の刀身が現れた。刃紋と共に確りとした反りが入っており、完全に片刃として造られた日本刀だ。
「この世界で一番硬い鉱石を圧縮して作られているから、頑丈さは折り紙付き、切れ味は素人が適当に振っても鋼鉄を切り裂けるレベルだ。扱いは……八重樫にいうことじゃないだろうが、気を付けてくれ」
「……こんなすごいもの……流石、錬成師というわけね。ありがとう。遠慮なく受け取っておくわ」
「……言っておくが、それは私が作ったものではないぞ」
「えっ、じゃあ誰が?」
「そうだな……『イラ』出てこい」
英字がそう言い指を鳴らすと、英字の影から人が出てきた。その人物はオルクス大迷宮で雫達を助けてくれた青年だった。
「紹介しよう。私の配下の一人、『イラ』だ。今日からコイツをお前の護衛としてつける」
「護衛、何故?」
「……少し、気になることがあるからな……詮索は不要だ」
詮索は不要。と言われたので雫はこれ以上聞かないことにした。
「そう、分かったわ……それと、イラさん。この前は私たちを助けようとしてくれてありがとうございました。それに、こんなに綺麗な剣までくれて、なんとお礼を言ったら良いか分からないけど、このご恩はいつか返します」
「いえいえ、八重樫様、そんなに畏まらないでください。私は当然のことをしたまで、気持ちだけで十分です」
「いいえ、返すわ、必ず。でないと私の気がおさまらないもの」
「そうですか……ではせめて、さん付けをやめていただけると助かるのですが……」
「……分かったわ、これから宜しくね、イラくん」
「っ!はい!」
因みに二人を見ていた英字は、何かを察したのだった。
雫達や、イラが見送る中、英字達は宿場町ホルアドを後にした。
天気は快晴、目指すはグリューエン大砂漠にある七大迷宮の一つグリューエン大火山。奇跡の様な再会の果てに新たな仲間を加え、英字達は西へと進路を取った。
アンケートですが、次回で終わろうと思います。やっぱり主人公の設定は必要ですよね。
感想や評価、お気に入り登録、そしてリクエストなどがありましたら是非是非よろしくお願いします。
主人公の設定は、必要か。
-
必要
-
不要