ありふれぬ欲望の魔王はやはり世界最強   作:エルドラス

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今回のお話は、後半からオリジナル展開です。


第八十二話 修道女と謎の存在

時刻は、夕方。

 

鮮やかな橙色をその日一日の置き土産に、太陽が地平の彼方へと沈む頃、愛子は一人誰もいない廊下を歩いていた。廊下に面した窓から差し込む夕日が、反対側の壁と床に見事なコントラストを描いている。

 

夕日の美しさに目を奪われながら夕食に向かう愛子だったが、ふと何者かの気配を感じて足を止めた。前方を見れば、ちょうど影になっている部分に女性らしき姿が見える。廊下のど真ん中で、背筋をスっと伸ばし足を揃えて優雅に佇んでいる。服装は、聖教教会の修道服のようだ。

 

その女性が、美しい、しかしどこか機械的な冷たさのある声音で愛子に話しかけた。

 

「はじめまして、畑山愛子。あなたを迎えに来ました」

 

愛子は、その声に何故だか背筋を悪寒で震わせながらも、初対面の相手に失礼は出来ないと平静を装う。

 

「えっと、はじめまして。迎えに来たというのは……これから生徒達と夕食なのですが」

「いいえ、あなたの行き先は本山です」

「えっ?」

 

有無を言わせぬ物言いに、思わず愛子が問い返す。と、そこで、女性が影から夕日の当たる場所へ進み出てきた。その人物を見て、愛子は息を呑む。同性の愛子から見ても、思わず見蕩れてしまうくらい美しい女性だったからだ。

 

夕日に反射してキラキラと輝く銀髪に、大きく切れ長の碧眼、少女にも大人の女にも見える不思議で神秘的な顔立ち、全てのパーツが完璧な位置で整っている。身長は、女性にしては高い方で百七十センチくらいあり、愛子では、軽く見上げなければならい。白磁のようになめらかで白い肌に、スラリと伸びた手足。胸は大きすぎず小さすぎず、全体のバランスを考えれば、まさに絶妙な大きさ。

 

ただ、残念なのは表情が全くないことだ。無表情というより、能面という表現がしっくりくる。著名な美術作家による最高傑作の彫像だと言われても、誰も疑わないだろう。それくらい、人間味のない美術品めいた美しさをもった女だった。

 

その女は、息を呑む愛子に、にこりともせず淡々と言葉を続けた。

 

「あなたが今からしようとしていることを、主は不都合だと感じております。あなたの生徒がしようとしていることの方が〝面白そうだ〟と。なので、時が来るまで、あなたには一時的に、退場していただきます」

「な、なにを言って……」

 

ゆっくり足音も立てずに近寄ってくる美貌の修道女に、愛子は無意識に後退る。その時、修道女の碧眼が一瞬、輝いたように見えた。途端、愛子は頭に霞がかかったように感じた。思わず、魔法を使うときのように集中すると、弾かれた様にモヤが霧散した。

 

「……なるほど。流石は、主を差し置いて〝神〟を名乗るだけはあります。私の〝魅了〟を弾くとは。仕方ありません。物理的に連れて行くことにしましょう」

「こ、来ないで! も、求めるはっ……うっ!?」

 

 得体の知れない威圧感に、愛子は咄嗟に魔法を使おうとする。しかし、詠唱を唱え終わるより早く、一瞬で距離を詰めてきた修道女によって鳩尾に強烈な拳を叩き込まれてしまった。崩れ落ちる愛子は、意識が闇に飲まれていくのを感じながら、修道女のつぶやきを聞いた。

 

「ご安心を。殺しはしません。あなたは優秀な駒です。あのイレギュラーを排除するのにも役立つかもしれません」

 

 愛子の脳裏に、白髪の少年が思い浮かぶ。そして、届かないと知りながら、完全に意識が落ちる一瞬前に心の中で彼の名を叫んだ。

 

―――― 七葉君!

 

 

 

 

「?」

 

愛子を、まるで重さを感じさせないように担いだ修道女は、ふと廊下の先に意識を向けて探るように視線を這わせた。しばらく、じっと観察していた修道女は、おもむろに廊下の先にある客室の扉を開く。

 

そして、中に入り部屋全体を見回すと、やはり足音を感じさせずにクローゼットに近寄り、勢いよく扉を開けた。しかし、中には何もなく、修道女は首を傾げると再び周囲を見渡し、あちこち見て回った。やがて、何もないと結論づけたのか愛子を担ぎなおすと、踵を返して部屋を出て行った。

 

静寂の戻った部屋の中で、震える声がポツリと呟く。

 

「……知らせないと……誰かに」

 

部屋の中には誰もいない。しかし、何処かに遠ざかる足音がほんの僅かに響き、やがて、完全に静寂を取り戻した。

 

 

 

 

???side

 

(へー、面白そうじゃん)

 

廊下の柱に身を隠し、完全に気配を消していた男は、今目の前で起きている事について、興味深そうに観察していた。

 

そして、修道女が部屋を出て、暫く歩いていると、突然話しかけられる。

 

「よっ、元気♪」

「っ!」

 

突然聞こえた声に修道女は愛子を抱えたまま警戒する。すると、柱の影から一人の男が出てきた。

 

「そう警戒すんなよ、話がしたいだけだ」

 

そう言って出てきた男は、髪は青と黒が混じったようなストレートヘアで、着ている服は、黒を基調とし、青い線が入っている海賊ジャケットだ。

 

急に出てきて話がしたいと言う男に修道女は、更に警戒心を強めた。

 

「……やれやれ」

 

男はそう言うと、修道女『だけ』を威圧した。殺気を当てられた修道女は、理解する。『勝てない』と。

 

男は、修道女を見て、自分に勝てない事を理解したと察すると、話しを続けた。

 

「分かってくれたようだな。なーに、別に殺す気はないんだぜ。ただちょーっと警告してやろうかと思ってな」

「……警告、ですか」

「あぁ、その通り……お前、七葉英字を始末しようとしてるんだろ。お前じゃ勝てない、やめとけ」

「っ!」

「…何故してるんだって顔してんな」

「……勝てないとはどう言う事ですか」

 

修道女が、話に食い付いたと分かると、男はニヤリと笑みを浮かべながら話を続ける。

 

「そのままの意味さ、お前じゃアイツには絶対勝てない」

「……何故分かるのです」

「んなもん決まってんだろ。さっきお前に当てた殺気で、俺の実力は少しは分かったろ。アイツは俺と『同等』の力を持っている。この意味が分かるな」

「……」

 

修道女は男の言いたい事は理解した。先程の殺気で、自分がこの男に勝てない事は分かった。それと同等の力を持つ男に挑んでも、勝てないだろう。

 

そんな事を考えていると、男は修道女にある『提案』をした。

 

「そこで提案だ。……俺が今直ぐにお前を強くしてやるよ」

「っ!……可能なのですか」

「あぁ、勿論可能だ」

「……何故、ここまで手を貸そうとするのです」 

 

修道女の疑問は尤もだろう。今修道女は、豊穣の女神と言われている愛子を気絶させ、連れて行こうとしているのだ。

 

すると、男は再びニヤリと笑みを浮かべながら言う。

 

「そんなの、『面白いから』に決まってるだろ」

「……面白い?」

「そうさ!面白い!だから力をやる。それ以上でもそれ以下でもねぇよ」

 

その男の発言に、修道女は考え込むが、直ぐに答えを出した。

 

「分かりました。貴方の提案を受けましょう。それが我が主の為ならば」

「ふふふ、オッケー」

 

男はそう言うと、修道女の頭に手をかざすのだった。




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