ありふれぬ欲望の魔王はやはり世界最強   作:エルドラス

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第八十三話 魔人族と謎の存在

荘厳な往生の広い廊下を、一人の男が歩いていた。カッ、カッ、と乱暴に踏み鳴らされる足音と男の険しい表情に、すれ違った者達はギョッとした表情をしている。

 

「フリード様っ!」

 

荒れ狂う内心を自覚無く垂れ流していた男に、張り詰めた様な声が掛かった。

 

「ミハイルか」

「フリード様っ! カトレアが……カトレアがやられたと! 任務から戻ったら、他の連中が話していて! ……嘘ですよね? カトレアが死んだなんて、そんなのある訳が無い! だって、アイツにはフリード様のアハトドだってついて───」

 

フリードと呼ばれた男は取り乱した様子の部下──ミハイルの肩に手を置いた。ぐっと、何かを堪える様な力強さで。それだけでミハイルは悟った。オルクス大迷宮への任務に旅立った大切な存在が、永遠に帰らぬ人になったという事を。

 

「何故……そんな。勇者は、それ程に強力だったのですか? あれ程の魔物を従えても歯が立たない程に? そんな事が……」

「落ち着けミハイル、事前の調査に間違いは無い。今の勇者にカトレアを退ける程の力は無い筈だ」

「ではっ、では何故っ!」

 

瞳に絶望を映し、フリードへ掴みかからんばかりの勢いで尋ねるミハイル。フリードは頭を振ると、徐に関係無さそうな、されど重大な問題を口にした。

 

「ウルの町での任務が、失敗に終わった」

「なっ。……それはやはり、対象が裏切らなかったと?」

「いや、そうではない。作戦は成功し、六万の魔物がウルの町ごと豊穣の女神を蹂躙する筈だった。だが──イレギュラーに潰されたのだ」

「イレ、ギュラー?」

 

何の事だと首を傾げるミハイルに、フリードはまるで見えない敵を睨みつけるが如く、虚空へ鋭い視線を向けた。

 

「たった一人に、魔物の軍勢を殲滅されたのだ。そして、それだけではなく、『あのお方』に貸し与えられた『ライダー』達も消息を絶った。おまけに、任務に当たっていたレイスも片腕を失った」

「馬鹿な、『ライダー』達やレイスまで……。それにフリード様の強化を受けていない魔物のとはいえ、その数をたった一人で? 有り得ない……、それは一体の冗談ですか?」

 

慄く様にふらついたミハイルへ、フリードは視線を戻す。

 

「冗談であれば良かったのだがな……。どうやらその怪物、ウルの町を去った後オルクス大迷宮に駆け込んだらしい。丁度、カトレアが勇者と接触する頃だ」

「っ! では、カトレアはソイツに……!」

 

ポタリと、廊下に真っ赤な水滴が落ちた。それは、ミハイルが握り締めた拳より流れ落ちたもの。湧き上がる憤怒の発露。

 

フリードはミハイルの肩に手を置きつつ、鋭い声音で口を開いた。

 

「敵は想像以上に強大だ。私はこれより、大火山に向かう。新たな神代魔法を手に入れ、更に力をつける。何としてもだ」

「フリード様……」

 

自分達が信頼する最強の将が、そこまで言う相手。戦慄を隠せないミハイルに、フリードは味方をして心胆寒からしめる眼差しを向けた。

 

「全ては我等が陛下の為、そして我等の信ずる神の為。留守を任せるぞミハイル、決戦の時は近い。私がいない間、憤怒を以て牙を研ぎ澄ませておけ」

「っ、了解です。カトレアの仇は必ず討ちます」

 

決然と頷くミハイルに頷き返したフリードは、サッと踵を返した。

 

背後でミハイルが敬礼するのを感じながら、相棒が待機している場所へと向かう。

 

部下の前故に、抑えられていた感情が徐々に溢れ出す。その表情は既に、狂気を感じさせる程に歪んでいる。

 

「我が神より賜った崇高な使命の悉くを潰してくれた代償──高くつくぞ、まだ見ぬ敵よ。私と相対したその時が、貴様等の終わりだ。異教徒共に、この世界で生きる資格は無い」

 

憎悪と憤怒に彩られたフリードは怨嗟にも似た呟きを残し、一刻後夥しい数の魔物を従えて国を後にしようとしたその時、『一人の男』が話しかけてきた。

 

「よう、フリード」

「っ!貴方様は」

 

フリードが振り返ると、そこには装甲は金と白、頭部にはバッタを思わせる金の触覚があり、下地のスーツは紺色をベースとした気品のある明るいカラーリングの鎧を纏っている男、『仮面ライダーゲイザー』がいた。

 

フリードはその男の存在に気づくと、頭を下げる。

 

「まさか、貴方様がこちらにおられるとは」

「まぁな……それより、俺がお前達に貸し与えたライダー共が全員やられたと言うのは本当か?」

「っ!……申し訳ございません。せっかくの戦力を……」

「……いや、いい。むしろよくやった。褒美として、これをやろう」

 

フリードは、驚いていた。大事な戦力が減って、てっきり罰を与えられるものだと思っていたのだが、罰を与えられるどころか、褒美を与えると言うのだ。

 

次の瞬間、男から与えられたのは、模様のように魔法陣が散りばめられていた、ボール型のアーティファクトだった。

 

「これは?」

「そいつは、最近『手に入れた』強力なアーティファクトだ。効果は……」

 

男は、フリードにアーティファクトの効果を説明する。その効果を教えられたフリードは、その凄まじい効果に驚愕した。

 

「このような素晴らしいアーティファクトを…本当に宜しいのですか?」

「あぁ構わん。お前には『期待』してるからな。頑張れよ、『神の使徒』フリード・バグアー」

「っ!…承知いたしました」

 

そう言うと、フリードはアーティファクトを片手に持ちながら、今度こそ魔物を従えて国を後にした。

 

 

 

 

そして、フリードが出立したのを確認すると、ゲイザーは、変身を解除する。

 

「ほんと、期待してるぜ。お前は大事な大事な、『オモチャ』だからな……それにしても、あの女も、魔人族も、ほんっと面白いなぁ」

 

男は不適な笑みを浮かべながら、この後起こるであろう『事件』に胸を躍らせるのだった。




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