荘厳な往生の広い廊下を、一人の男が歩いていた。カッ、カッ、と乱暴に踏み鳴らされる足音と男の険しい表情に、すれ違った者達はギョッとした表情をしている。
「フリード様っ!」
荒れ狂う内心を自覚無く垂れ流していた男に、張り詰めた様な声が掛かった。
「ミハイルか」
「フリード様っ! カトレアが……カトレアがやられたと! 任務から戻ったら、他の連中が話していて! ……嘘ですよね? カトレアが死んだなんて、そんなのある訳が無い! だって、アイツにはフリード様のアハトドだってついて───」
フリードと呼ばれた男は取り乱した様子の部下──ミハイルの肩に手を置いた。ぐっと、何かを堪える様な力強さで。それだけでミハイルは悟った。オルクス大迷宮への任務に旅立った大切な存在が、永遠に帰らぬ人になったという事を。
「何故……そんな。勇者は、それ程に強力だったのですか? あれ程の魔物を従えても歯が立たない程に? そんな事が……」
「落ち着けミハイル、事前の調査に間違いは無い。今の勇者にカトレアを退ける程の力は無い筈だ」
「ではっ、では何故っ!」
瞳に絶望を映し、フリードへ掴みかからんばかりの勢いで尋ねるミハイル。フリードは頭を振ると、徐に関係無さそうな、されど重大な問題を口にした。
「ウルの町での任務が、失敗に終わった」
「なっ。……それはやはり、対象が裏切らなかったと?」
「いや、そうではない。作戦は成功し、六万の魔物がウルの町ごと豊穣の女神を蹂躙する筈だった。だが──イレギュラーに潰されたのだ」
「イレ、ギュラー?」
何の事だと首を傾げるミハイルに、フリードはまるで見えない敵を睨みつけるが如く、虚空へ鋭い視線を向けた。
「たった一人に、魔物の軍勢を殲滅されたのだ。そして、それだけではなく、『あのお方』に貸し与えられた『ライダー』達も消息を絶った。おまけに、任務に当たっていたレイスも片腕を失った」
「馬鹿な、『ライダー』達やレイスまで……。それにフリード様の強化を受けていない魔物のとはいえ、その数をたった一人で? 有り得ない……、それは一体の冗談ですか?」
慄く様にふらついたミハイルへ、フリードは視線を戻す。
「冗談であれば良かったのだがな……。どうやらその怪物、ウルの町を去った後オルクス大迷宮に駆け込んだらしい。丁度、カトレアが勇者と接触する頃だ」
「っ! では、カトレアはソイツに……!」
ポタリと、廊下に真っ赤な水滴が落ちた。それは、ミハイルが握り締めた拳より流れ落ちたもの。湧き上がる憤怒の発露。
フリードはミハイルの肩に手を置きつつ、鋭い声音で口を開いた。
「敵は想像以上に強大だ。私はこれより、大火山に向かう。新たな神代魔法を手に入れ、更に力をつける。何としてもだ」
「フリード様……」
自分達が信頼する最強の将が、そこまで言う相手。戦慄を隠せないミハイルに、フリードは味方をして心胆寒からしめる眼差しを向けた。
「全ては我等が陛下の為、そして我等の信ずる神の為。留守を任せるぞミハイル、決戦の時は近い。私がいない間、憤怒を以て牙を研ぎ澄ませておけ」
「っ、了解です。カトレアの仇は必ず討ちます」
決然と頷くミハイルに頷き返したフリードは、サッと踵を返した。
背後でミハイルが敬礼するのを感じながら、相棒が待機している場所へと向かう。
部下の前故に、抑えられていた感情が徐々に溢れ出す。その表情は既に、狂気を感じさせる程に歪んでいる。
「我が神より賜った崇高な使命の悉くを潰してくれた代償──高くつくぞ、まだ見ぬ敵よ。私と相対したその時が、貴様等の終わりだ。異教徒共に、この世界で生きる資格は無い」
憎悪と憤怒に彩られたフリードは怨嗟にも似た呟きを残し、一刻後夥しい数の魔物を従えて国を後にしようとしたその時、『一人の男』が話しかけてきた。
「よう、フリード」
「っ!貴方様は」
フリードが振り返ると、そこには装甲は金と白、頭部にはバッタを思わせる金の触覚があり、下地のスーツは紺色をベースとした気品のある明るいカラーリングの鎧を纏っている男、『仮面ライダーゲイザー』がいた。
フリードはその男の存在に気づくと、頭を下げる。
「まさか、貴方様がこちらにおられるとは」
「まぁな……それより、俺がお前達に貸し与えたライダー共が全員やられたと言うのは本当か?」
「っ!……申し訳ございません。せっかくの戦力を……」
「……いや、いい。むしろよくやった。褒美として、これをやろう」
フリードは、驚いていた。大事な戦力が減って、てっきり罰を与えられるものだと思っていたのだが、罰を与えられるどころか、褒美を与えると言うのだ。
次の瞬間、男から与えられたのは、模様のように魔法陣が散りばめられていた、ボール型のアーティファクトだった。
「これは?」
「そいつは、最近『手に入れた』強力なアーティファクトだ。効果は……」
男は、フリードにアーティファクトの効果を説明する。その効果を教えられたフリードは、その凄まじい効果に驚愕した。
「このような素晴らしいアーティファクトを…本当に宜しいのですか?」
「あぁ構わん。お前には『期待』してるからな。頑張れよ、『神の使徒』フリード・バグアー」
「っ!…承知いたしました」
そう言うと、フリードはアーティファクトを片手に持ちながら、今度こそ魔物を従えて国を後にした。
そして、フリードが出立したのを確認すると、ゲイザーは、変身を解除する。
「ほんと、期待してるぜ。お前は大事な大事な、『オモチャ』だからな……それにしても、あの女も、魔人族も、ほんっと面白いなぁ」
男は不適な笑みを浮かべながら、この後起こるであろう『事件』に胸を躍らせるのだった。
感想や評価、お気に入り登録、そしてリクエストなどがありましたら是非是非よろしくお願いします。