「はい。もしもしどうした?」
『…少し会えないか?』
それはバイトしている最中だった。アヤから電話が来て出てみると、いつもと違い何やら重い空気になっていた。心なしか声色も低くなっている。俺はバイトが終わったら会いに行くと伝えて電話を切った。
「ふ〜、潮時だな」
「うん?何が潮時なんだい?」
「あ、実は店長、俺今月いっぱいでバイトを辞めて店を出そうと思ってまして」
「本当かい!?そっか〜、前々から自分で店を開きたって言ってたもんね。ついに夢が叶うんだね!頑張って!」
「ありがとうございます。開店したら遊びに来てくださいね」
「もちろんだよ。そんだ!皆んなに知らせてお祝いしないと!」
そう言って店長は嬉しそうにして皆んなに伝えに行った。そして、バイト先のみんなで俺をお祝いしてくれた。そして、オレはアヤの家へ向かい玄関のチャイムを鳴らす。そして、玄関のドアが開けられた。
「…本当悪い冗談だ」
「……」
オレを出迎えたアヤは鋭い目つきで睨みつける。オレの今の姿は怪盗の時の俺だ。そして、俺は部屋に招き入れられた。
薄暗い部屋を進むと美味しそうなご馳走が置いてあった。きっとアヤが一生懸命作ったのだろう。普段苦手で料理をしない彼女が俺のために作ってくれたものであろう。
「レン貴様はやっぱり。あのアルセーヌなんだな」
「…あぁ」
そう言うとアヤは机をひっくり返して料理をぶち撒けて、俺に銃をつけつける。俺は何も動じることなくその場を動かない。
「騙してたのか!この私を!」
「…あぁ」
「ッ!バカみたいだ。こんな半年のお祝いって言って!初めて料理をして!うかれて!私を利用した男に、愛してるなんて言って、本当バカみたいだ」
「……」
俺が元々彼女に近づいた理由は、犯罪者リストの機密情報だ。俺はどうにか彼女に近づいて恋人になった。それから彼女のいないうちにパソコンから情報を抜き取り。証拠が見つからず罪を逃れていた犯罪者達を片っ端から証拠を盗みそれを元に保安や世間に酷評して罪を償わせていた。
次々と証拠を盗み出して、俺の活動は活発化していった。そして、彼女はあることに気づいた。盗まれる証拠はどれもこれも自分が追っている犯罪者だ。そして、アルセーヌの活動が活発化したのはちょうど俺とアヤが付き合い始めた時からだ。そして、アヤは俺を呼び出して問い詰めたと言うわけだ。
「全部嘘だったんだな!あの優しさも!この肌に触れてくれた温もりの手も!こんな私を愛してるって言ってくれたあの声も!全部嘘だっただな!」
「アヤ。俺は…」
「うるさい!もう何も聞きたくない。お前の優しい声は全部嘘だった!私を惑わし狂わす悪い声だ!お前は良い奴なんかじゃない!」
そして、アヤは騙された怒りに、銃を両手で強く握りしめて、俺に照準を合わせる。そして、いつも凛々しくって美しい顔がボロボロと涙が出て泣きじゃくっていた。
俺はその悲しそうな彼女を見つめることしかできなかった。泣きじゃくる彼女を優しく抱きしめることもできない。彼女と俺はもう恋人ではない。被害者と加害者だ。共犯者にすることはできない。
そして、彼女は己の正義と恋心が葛藤していた。いくら騙されたと言え彼を本気で愛していたのだから。
「うっ、っ…」
アヤは結局俺を撃つことはできなかった。銃を落として弱々しく膝から崩れ落ちて泣いた。そんな彼女に思わず近づいてしまった。
「来ないで!」
「アヤ。俺は…」
「来ないでって!お願いだから出て行って…」
「……」
俺は何も言い返すことなくアヤの横を通り過ぎて、窓から出て行った。その夜彼女の啜り泣く声は誰にも届くことはなかった。
そして、彼女は翌日怪盗アルセーヌの捜査隊から降りた。