成人後同棲if。
付き合い始めてから何故か喜多ちゃんのファッションがいかつくなってしまったことに困惑するぼっちが奮闘するお話。

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ぼ「喜多ちゃんがいかつくなっちゃった……」

 人を愛するようになること。それは今までの自分を捨て去ることに似ているのかもしれない。

 誰かの為に全部を変えて、こだわりも思い出さないようにして。周りからの反応だって前とは全然違って。

 それでも同じ人だと、変わらないものがあると言えるなら。

 きっとそれが愛というものなのだろう。

 

 

 

 私、後藤ひとりは大人気バンド、結束バンドのリードギターだ。

 そう、大人気。有り難いことにガールズバンド結束バンドは数年の歳月を経て、音楽番組に出演できる程の売れ線ロックバンドへと昇格した。……代わりに、もうガールズって歳じゃなくなったけれど。

 ライブに取材と毎日大忙し。今日この日も、インタビューへ向かうための待ち合わせをしていた。

 

「ひとりちゃーん!」

「あ、喜多ちゃん」

 

 駅前、目立たないよう柱の後ろで俯いていると、明るい声が私の名前を呼んでくれた。澄んだ声の主は我らが結束バンドのフロントマン、喜多ちゃんだ。

 喜多ちゃんはいつだって分かりにくいところにいる私を見つけてくれる。わざわざいらぬ苦労をかけてしまい申し訳なく思うけど、目立つところはやっぱ無理。陰キャには日陰が似合ってる……。

 

「待たせちゃってゴメンね?」

「あっ大丈夫です。むしろ迎えに来てくれてありがとうございます」

 

 それは本音だった。何しろ今日の待ち合わせは、完全に私の都合に付き合ってもらったのだから。

 本来、私と喜多ちゃんは待ち合わせる必要もない。何故なら一緒に暮らしているからだ。つまり同棲。

 私たちはお付き合いしていた。馴れ初めは、今はいいだろう。

 成人してから一緒に暮らしている私たちがわざわざ外で待ち合わせしたのは、私が実家に顔を出していたからだ。

 

「ううん! 私もこっちで買いたい物があったから」

「あっそうですか」

 

 勿論、喜多ちゃんと喧嘩して実家に帰ります! ……などと宣言をしたとかではない。それは私がされる側だろう。そうではなく単に家族の誕生日だったので、水入らずでお祝いしていただけだ。夜のお祝いだったし久々の実家ということで喜多ちゃんに許可を取って泊まり、そして翌日のインタビューへ二人で行くために最寄り駅で待ち合わせをしていたのだ。

 別に実家の最寄り駅である必要はない。喜多ちゃんにとってはただの遠回りだ。買い物があったと彼女は言うが、それはきっと方便だろう。

 だから私も待ち合わせは向こうでいいと言ったのだけれど、喜多ちゃんは頑として譲らなかった。……確かにもっと人の多いところで待つよりかは精神的負担が小さいけれど、それは完全に私の都合だ。喜多ちゃんが無駄な労力を割く理由にはならない。彼女は私のことを慮って、自分より私のことを優先してくれたのだ。

 

「あっじゃあもう行きましょう。ここにいたら、ちょっと……」

 

 優しい喜多ちゃん。大好きな喜多ちゃん。

 だけど、最近はちょっと……

 

「……目立ちますし」

 

 小首を傾げる彼女の耳元で、克ち合ったピアスが高い音を鳴らした。

 

 ……いかつい。

 大分。

 

 

 

 喜多ちゃんは元から顔が良い。お洒落のセンスも抜群だし、幅広いジャンルを着こなせる器量の持ち主だ。

 背も私より高い。昔はほとんど変わらない背丈だったけど、高校卒業後ぐらいから離された。急成長を遂げた喜多ちゃんと成長の止まった私とじゃ、今では拳一つ分くらいの差がある。着こなせる幅は、前より広がっただろう。

 そんな喜多ちゃんの、今の格好を述べよう。

 

 黒い革ジャンに、ダメージ加工のTシャツ。

 同じくダメージ加工のジーンズに、リベットの打たれたブーツ。

 首や腕にはジャラジャラとシルバーアクセを着けている。

 極めつけは、掻き上げた髪。昔は可愛らしいサイドテールにしていた赤毛は長さこそ変わらないものの、今は耳を露出するように結い上げられ、その耳には十字架やピックやボールなど複数のピアスがぶら下がっていた。

 

 はい。

 どこからどうみてもやんちゃなロッカーです。

 

 ……正直、かっこいいと思う。

 少なくとも私の好みド直球だ。手足もほっそりしているし私よりも上背があるし、同じ格好を私がするより遥かに似合っている。ジャラジャラとアクセを着けてるのも好きだ。正直キュンとくる。

 しかし昔よくしていた彼女の格好とはあまりにかけ離れていた。

 メイクもそれっぽくしているのか、目付きが鋭く感じられる。私は怖いと微塵も思わないが、端から見たらビクッとしてしまうのではないだろうか。

 現に道行く人たちの中には避けるようにしている人もいた。

 

「ひとりちゃん、久しぶりのお家はどうだった?」

「あっはい。楽しかったですよ。ジミヘンの孫たちも初めて生で見れましたし」

「あの子たちね! 写真で見せてもらったけど可愛いわよね~。今住んでるマンションがペットOKなら是非とも引き取るのに!」

 

 構内を歩きながら他愛のない会話に華を咲かせる私たち。その口調は昔ながらの喜多ちゃんという感じで、変わったりなんてしていない。明るく元気で、気遣いのできる陽キャの鏡のような性格そのままだ。

 本当に、本当に格好だけだ。いかついのは。

 なんでだろう。

 

「人が多くなってきたから、離れないでね」

 

 ホームに近づくにつれ増えてきた人を見て、喜多ちゃんは私の手を取った。あまりに自然な動作で抵抗する間もなく(する訳ないけど)、私は先導する彼女に手を引かれ導かれていく。その頼もしさに顔をちょっとだけ赤らめながら、手を繋いでいないもう片方で持っている荷物を落とさないよう抱え直す。

 それを繋いだ手越しに感じ取ったのか、喜多ちゃんは不思議そうな顔で振り返る。

 

「あれ? なんか荷物、行きよりも増えてる?」

「あっついでに部屋に置いていた私物を持ってきただけです」

「ふーん。一度置きに家に戻る?」

「いえ、軽い物ばかりなので。このまま行きましょう」

 

 あまり触れられたくない話題から気を逸らすため、私は彼女の手を握り返して急かす。

 今はまだナイショだ。

 だってこれは、秘密兵器なのだから。

 

 

 ※

 

 

 インタビューは無事に終わった。

 いや、私が無難にこなせたという訳ではない。いつも通り人見知りを発揮しテンパった挙げ句、喜多ちゃんに手厚いフォローをされてどうにか乗り切ったという意味での無事だ。残念ながら今でもこれが常。人はそう簡単には変われない。

 昔はインタビューに颯爽と答える自分とか夢想していた筈なんだけどな……とトホホな気分になりながら、私たちは我が家へ到着した。

 

「あっただいまー」

「はい、おかえり。……私も、ただいま!」

「あっおかえりなさい」

 

 そんなことを二人で言い合って私たちは玄関を上がった。

 二人でお金を出し合って買ったマンションは結構広めだ。幸いなことにそれなりに稼げているから。今でもお金に困ってるのはリョウさんくらい。変な投資に全額投じて破産し、素寒貧になって虹夏ちゃんちに転がり込んでいたのは記憶に新しい……。

 

「お風呂入れてくるねー」

「あっはい」

 

 喜多ちゃんがお風呂を入れてくれるようなので、私は荷物を自分の部屋に置きに行く。写真や音楽関係以外何もない殺風景な防音室に、トサリと軽いとも重いともつかない音を立てて着地するバッグ。ジッパーを開くと、そこには折りたたまれた服が収まっていた。

 ……これが私の秘密兵器。これを使って、私はとある作戦を立てていた。

 題して『喜多ちゃんを元の姿に解放しよう大作戦』。

 ……作詞担当としてこのネーミングセンスは如何な物かと、自分でも思ったけれど。

 

 喜多ちゃんがああいう格好をするようになったのは、私の所為じゃないかと思う。

 何故なら私はあんな格好が好きだと公言しているからだ。チェーンやシルバーに憧れはあるし、かっこいいロゴの入ったTシャツだって何着も持っている。……それなのに未だに基本ジャージなのは、毎日コーデを考えるのが疲れるから。あとアクセは重いし。

 故に喜多ちゃんは、そんな私の好みに応えようとしていかつくなったんじゃないかと推測したのだ。

 

 恋人が理想通りに着飾ってくれる。

 それはなんとも甘美な響きだが、それで本人のやりたいことを抑制していてはいただけない。喜多ちゃんはきっと、もっと色んな服を着たい筈なのだ。それを私の好みに合わせるために抑えてしまっているのだとしたら、それほど辛いことはない。私だって、喜多ちゃんには自由で幸せでいてほしいのだ。

 

「よし……!」

 

 カレンダーを見る。明日は完全オフ。そして前から決めていたデートの日だ。

 その時に、この服を着る。ああそうだ。どうせなら今日みたいに待ち合わせにしよう。そしたら第一印象の破壊力が増すはずだ。

 

「ふへへ……」

 

 あまりに良いアイデアに笑みがこぼれる。拳を握り締め、私は気合いを入れた。

 決行は明日! 絶対に喜多ちゃんを自由にするぞ! おー!

 

「ひとりちゃーん、お風呂入ったわよー」

「あっはーい」

 

 まぁ、まずはお風呂だ。

 喜多ちゃん、甘えたら一緒に入ってくれるかなぁ。

 

 

 ※

 

 

「お、思ったより準備に時間かかっちゃった」

 

 翌日。私は待ち合わせ場所へ急いでいた。

 前日に考えた作戦通りに、喜多ちゃんには先に出ていてもらっている。

 一緒に暮らしている恋人がデートの日には敢えて待ち合わせる……如何にも乙女チックな思いつきだ。なのでロマントストな喜多ちゃんも賛成してくれるかと思ったのだけど……。

 

『うーん、やっぱり一緒に行かない?』

 

 と、意外にも渋られてしまった。難色を示されたことに私は焦ったが、ごね倒してどうにか頷いてもらった。本当は一方的にお願いをするのってあまり好きじゃないんだけど、ここで躓いたら折角立てた作戦が破綻してしまう。ごめんなさい、喜多ちゃんの為なんです!

 あんまり待たせないでね。寄り道しちゃ駄目よ。そんな風に念を押して先に出た喜多ちゃんを追い、今私は待ち合わせ場所に急いでいる。慣れない服と髪型のセットに時間がかかってしまった。ロインはしたけど、だからといって遅れていいわけでもない。

 

 髪型が崩れない程度に走りつつ、ようやく待ち合わせの銅像前に辿り着く。喜多ちゃんは……いた。デートだからか昨日より気合いが入っている、でも概ねの印象は同じいかつい格好。目立つので見つけるのに苦はなかった。私と違って堂々と立ってるし。

 

「はぁ、はぁ、喜多ちゃん!」

 

 体力のなさから荒い息をつく私の声に気付き、喜多ちゃんはスマホから顔を上げる。

 

「あっひとりちゃん。よかった、無事に……――」

 

 パッと華やぐ笑顔。だけどそれは、私を見た瞬間に硬直してしまった。

 あ、あれ? 変だったかな。

 

 今の私の格好は、俗に言う量産型という奴だった。

 フリルがふんだんについたピンク色のワンピースに、ヘッドドレス。ガーリーなブーツにあまり慣れない小さめのポーチまで身につけている。髪型にも珍しく気合いを入れ、動画と喜多ちゃんの化粧道具を参考に緩やかなウェーブがかかっていた。

 甘い甘い、少女の夢が詰め込まれたようなファッション。それが今の私の格好だった。

 

 はい。私の趣味じゃありません。

 この服はお母さんが買ってきたものの、私が着なかった所為でタンスの肥やしになっていた奴だ。

 そういうのは大体処分されたり、年月を得てふたりの物になったり、喜多ちゃんにあげたりしていたのだけど、これは奇跡的に残っていた代物だ。そのまま忘れられて朽ち果てる筈だったこの服を、今回必要に駆られて探しだし持ってきた。高校の頃と身長は変わってないから、問題なく着られるし。……二十ウン歳で着るのはキツくないかと言われたら、まぁ、はい。

 

 正直私の好みとは正反対。だけどそれがいい。そういう作戦だ。

 喜多ちゃんは私の好きなファッションをするようになってしまった。つまりそこから脱却するには、私自身の好みが変わったと思わせればいい! そうすれば喜多ちゃんも昔みたいに色んなお洒落をするようになる。我ながら完璧な発想だ。

 

「き、喜多ちゃん? 似合ってない、でしょうか」

 

 だけど喜多ちゃんの反応が芳しくない。あれ? 昔はこういう格好すると黄色い悲鳴を上げて喜んでくれたのに……。今の喜多ちゃんは目を見開いて固まってしまっている。

 髪型を間違えてしまっただろうか。それともやっぱり私に似合ってない!? も、もしかして愛想を尽かれてしまうだろうか。いやそれどころか折角のデートにダサい服装で着た罪で捕まるかもしれない。そしたら破局の上に投獄だ。私と同じような失敗をした非リアたちと共に牢屋で怨嗟を上げる光景が浮かんでくる。ごめんなさいお母さん。『ファイト!』といって送り出してくれたのに私は前科者になってしまうようです……。

 リアクションのない喜多ちゃんの前で、私は頭を抱えてオロオロとすることしかできない。

 

 やがて喜多ちゃんはハッと我に返り、そして私の肩をガッと掴んだ。

 

「ひとりちゃん」

「ごごごご、ごめんなさい! せめて罰金で勘弁してください一生貢ぎますから!」

「何の話? いや、それより……その格好でここまで来たの?」

 

 あれ、喜多ちゃんの目がなんだか怖い……。いつもより鋭い眼差しに嘘などつける筈もなく、私は素直に頷いた。

 

「は、はい。家で髪をセットしてから出たので、遅れちゃって……あ、もしかしてそれで怒ってます……?」

 

 そうだ。シンプルに待ち合わせに遅れたこと。これに対して怒っている可能性は大いにあった。こういう時間に関することは、しっかり者の虹夏ちゃんの薫陶を受けてキッチリしているし。同じく色々言われた私とリョウさんはまったく身につかなかったけど。

 

「ううん。そうじゃない。そうじゃない、けど……」

 

 喜多ちゃんは首を横に振った。でも肩を握る力は強まる。そ、そろそろ痛い。

 

「……はぁ~~~」

 

 すると喜多ちゃんは大きな溜息をついた。わ、私は一体何をしでかしてしまったのだろうか。

 

「……ひとりちゃん。今私が何に憤っているのか分かる?」

「ふ、服が似合わないこと……?」

「そうじゃないわ。その服はすっごく可愛い。ひとりちゃんによく似合ってる。髪型も頑張ってて偉いわ。初めてひとりちゃんのファッションに花丸をあげたくなったくらいに」

「そ、そうですか。えへへ……え、初めて?」

 

 ちょっと引っかかるところはあったけど、喜多ちゃんは褒めてくれた。悪戦苦闘したし自分の無駄に長い髪を恨んだけど、頑張った甲斐はあった……!

 

「……でも、それがいけないのよ」

 

 そう言って喜多ちゃんはググッと私を引き寄せた。か、顔が近い。照れる。

 至近距離で真剣な眼差しが注がれる。

 

「ひとりちゃんは、自分の可愛さを全然分かってないから」

「へ……?」

 

 何を言われているのか。

 まるで理解出来ず、私は間抜けな声をあげてしまった。

 

「ひとりちゃん。自覚はないだろうけど、ひとりちゃんは昔と比べてずっと成長したのよ? 背筋を伸ばして歩くようになったし、すぐ誰かの後ろに隠れるようなこともない。前髪も全部じゃないけど半分くらいには短くなったし、人と目を合わせても簡単には逸らさなくなった。すごい成長よ」

「す、すごい勢いで承認欲求が満たされていく……! で、でもそれなら良いことじゃ……」

「良いことだけど良くない!」

「ぴぇっ」

 

 身体を揺さぶられる。圧が、圧がすごい……!

 

「つまりひとりちゃんはもう誰が見たって一目瞭然の美女ってことなの! いつもならそれでも芋臭いジャージで美少女オーラが隠されてる。でも今は違う。マイナス要素が軒並み廃されたなら、あとはすっごく顔が良い女の子が残るだけ! それなのに、それなのにそんな可愛い格好をしたら……!」

 

 クワッと喜多ちゃんの琥珀の瞳が見開かれた。

 

「悪い奴らに目を付けられちゃうじゃない……!」

「え……」

 

 呆然となる。

 え、そういう話なの?

 

「いい? ひとりちゃんは自分が思ってる以上にか弱いのよ? 勿論ギターを弾いてる時やあの時私を引き留めてくれた時みたいにかっこいいところがあるのは知ってる。でも押しには弱いし、知らないところに行ったら怯えちゃうし、怖い人を見たら竦んで動けなくなっちゃうでしょ!?」

「あっえっ、いや、それはそうかも、ですけど」

「でしょ!? だからそんな可愛い格好で一人きりにならないでって言ってるの!」

 

 力説する喜多ちゃん。目が、目がずっと怖い。でもそうか。喜多ちゃんは私が襲われることを心配してるんだ。家を出る時に念を押したのも、私が単独行動することが怖かったから。喜多ちゃんは私の事をずっと案じてくれたんだ。

 

「き、喜多ちゃん……」

 

 感動でじぃんと胸に温かいものが広がった。けど、それも次の瞬間に吹き飛ばされる。

 

「折角私が虫除けでこんな格好してるのに!」

「……へ?」

 

 喜多ちゃんから零れたその言葉に、今度は私が目を丸くした。

 そのいかついファッションが、虫除け。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。つまり喜多ちゃんがそういう、かっこいいけど怖い系のファッションをしているのは……」

「? そうよ? 片割れが強そうな格好をしていれば悪い虫も寄ってこないじゃない」

 

 わ、私の好みだからじゃなかったーー!!

 う、うわー。恥ずかしい! 勝手に私の好みを反映してくれたんだと勘違いして舞い上がって使命感に駆られて! 全部私の思い込みだった! やばい、久々に死にたいくらいやらかしてる!

 

「ひとりちゃん? 顔が赤いけどどうしたの?」

「な、何でもないです……ただただ自分の愚かしさの極まれりっぷりに絶望しているだけです……」

「?」

 

 でも、そうか。

 喜多ちゃんがいかつい服をしていたのはそういうことなのか。なんだそっか。私がわざわざこんな服を着る必要もなかったや。

 だったら……だったらどうすればいいんだ?

 いかついファッションが虫除けだと分かったところで、どうすればやめさせられるんだ?

 

「……まぁ、そんな訳だから。その格好はすごく可愛いけど、着ている間は私の傍を離れないでね」

 

 そう言って、ようやく肩から手が離される。

 

「いきなりケチ付けちゃってゴメンね? さ、デートを始めましょう!」

 

 謝って、喜多ちゃんは私の手を取った。きっと私の為に色々とデートプランを練ってきてくれたのだろう。でも、駄目だ。私には言わなきゃいけないことがある。

 

「き、喜多ちゃん!」

 

 引かれた手に、私は抵抗した。あっ普通に強くて負けそう。でもどうにか両脚を踏ん張って耐える。ギリギリの拮抗だけど、喜多ちゃんはつんのめってその場に留まってくれた。

 

「うわ、わ。ど、どうしたのひとりちゃん?」

「わ……私は喜多ちゃんに守ってほしいなんて思ってません!」

「え……」

 

 喜多ちゃんの目が驚愕に瞠られる。あっこれだと拒絶の言葉に聞こえる!? そうじゃなくて、そうじゃなくて……!

 

「喜多ちゃんが私の事を想ってくれてるのはす、すっごく嬉しいです。それに喜多ちゃんの言う通り、知らない人を前にしたらまだ萎縮しちゃいます……昨日のインタビューみたいに」

「で、でしょう? だったら……」

「それでも、私にとっては私より喜多ちゃんの方がずっと大事なんです」

 

 ない頭で考えた結果、そのまま想いを伝えることにした。

 どうせ私は口下手だ。それにいつだって変なことして空回りする。

 だったら、ありのまま伝えるしかない!

 

「え……」

「もし喜多ちゃんが私の為に無理してそういう格好をしているなら、や、やめてほしい、です。そんなことしてまで、守ってほしくない」

「ひとりちゃん……」

「私は華やかで、自由で、明るい喜多ちゃんにこそ憧れたんです。それを喜多ちゃんはよく普通なだけって卑下しちゃうけど……私はやっぱり、自然に笑ってるそんな喜多ちゃんが好きです」

 

 勿論、そうじゃない時の喜多ちゃんだって好きだ。でもやっぱり私が喜多ちゃんに焦がれたのは、そんな星のように眩しい笑顔だから。

 

「そんな喜多ちゃんの重荷になるくらいなら、い、いっそ……!」

「それは駄目よ!」

 

 聞きたくない言葉を遮るように、喜多ちゃんは勢いよく私の手を掴んだ。血の気が引いた氷の如く冷たい体温が伝わってくる。私を見つめるその眼差しは突き放されたように不安に揺れて、子犬めいて切実だった。

 

「それは……駄目……」

「……わ、私も嫌です。だから喜多ちゃんには私なんかに縛られず、自由にしてほしいんです。前みたいに色んな服を着たり、遊びに行ったり」

 

 寂しい時はある。陽の下を自然と歩けない自分にもどかしさを覚える時も。

 それでも彼女が太陽のように輝いてくれるなら。

 

「私は、私の隣にいる喜多ちゃんも好きですけど、世の中をキラキラ楽しんでる喜多ちゃんだって好きなんです」

 

 そっちの方が、絶対にいいから。

 

「あっ勿論その服も素敵なので、たまにはしてほしかったりしますけど……」

 

 未練が出て最後にもにょってしまう私。だってかっこいいし。

 

「……ぷっ、ふふっ!」

 

 そんな風に最後の最後で目を逸らしてしまった私を見て、張り詰めた顔をしていた喜多ちゃんが噴き出した。

 

「あははっ、そうよね。私、何を独りよがりになってたんだろう。ひとりちゃんだって、もうちゃんと大人なのにね」

 

 笑ってくれた。これでいいんだ。

 ホッとした私は更に付け加える。

 

「そ、そうですよ。それに、さっき喜多ちゃんが褒めてくれたのだって全部杞憂ですよ」

「えっ?」

「だって全然背筋曲げて歩きますし、目だって逸らします。そうじゃないのは結束バンドの前でくらいで、あとは昔通りの私ですよ」

「ひとりちゃん……それは自慢げに言えたことではないわ」

 

 一転して呆れた顔に変わる喜多ちゃん。

 え、だって喜多ちゃんはそれを心配してたんじゃ!? 安心させる為に言ったのに!

 

「でも、そうね。心配しすぎちゃってたわ。ひとりちゃんは昔からひとりちゃんだもの」

「あっはい。喜多ちゃんも、昔から喜多ちゃんです。私たち、案外前から変わってないのかもしれませんね」

 

 取り巻く環境も、姿も、昔とは大きく違う。けれども、変わらないところだって当然ある。

 きっとそれが私たちの関係だ。

 

 穏やかに笑った喜多ちゃんが言う。

 

「じゃ、今日は正反対コーデで楽しみましょうか」

「あっはい。私も今日限りはお姫さま……です」

 

 エスコートするように手を取った喜多ちゃんに、私はにへらと笑った。

 かっこいい王子さまに庇護されるお姫さま。頑張ったんだから今日くらい、うぬぼれてもいいよね。

 だけどそんな私のだらしない表情を見た喜多ちゃんがまた固まる。

 

「……喜多ちゃん?」

「あー……」

 

 何かを考えるように呻いた喜多ちゃんは、突然抱きしめるように私の身体を覆った。

 

「あっきっ、喜多ちゃん!?」

「……んっ」

「ひゃうっ」

 

 突然首筋に走る鋭い痛み。あまりに唐突なそれに声をあげる。

 ビクッと跳ねた私を余所に、喜多ちゃんはゆっくり離れて。

 

「――それでも嫉妬深い王子さまは、誰にも取られないよう印をつけてしまうのでした」

 

 悪戯げに笑いながら、人差し指を口に当てた。

 

「……あう」

 

 顔が熱くなる。

 だって手で隠した首筋には、きっとクッキリとした歯痕がついているだろうから。




普通にヘタレ攻めするぼっちに乙女な喜多ちゃんの組み合わせでもいいし、あまりのぼっちのか弱さにスパダリへの階梯を歩み始めた喜多ちゃんがいてもいい。
ぼ喜多には無限の可能性がある。

それはそれとしてこんなの(https://syosetu.org/novel/308894/)と同一の作者だったりします。
温度差注意。当然今作とはパラレルです。

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