アリウス生徒の奮闘記   作:ハァン

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エデン条約編4章を見たら衝動的に書いてしまった。

アリウススクワッドの4人には幸せになって貰いたい。

追記: 不破レンゲ実装前に開始した作品のため主人公の名前に関してアンケートを実施中です


1章 〜ジュブナイルファミリー〜
出会いは銃撃戦


 

 

「ねぇ」

「……なに?」

「弾丸って美味しいかな?」

「……気になるなら食べてみれば?」

 

 薄汚れたスラムを歩く、二人の少女。

 一人は肩に届く程度の焦茶色の髪を揺らしながら瓦礫の中を漁っているものの、その表情はどこか不満気だった。頭上に輝く琥珀色のヘイローも、心なしか弱々しい。

 対するもう片方の少女は、長い黒髪の上に水色のヘイローを浮かべている。同じように瓦礫の中を漁っているが、茶髪の少女と違い動きに淀みない。

 

「お、みっけ」

 

 朽ち果てた机の上から薬莢を取り出すと、茶髪の少女はスンスンと匂いを嗅いでいる。

 それを見つめ、またいつも奇行が始まったとでも言わんばかりに呆れた様子で首を振る黒髪の少女。

 

「火薬くさい。多分美味しくないわ」

「当たり前でしょ。むしろ何を想像してたの?」

「なんというかこう……スパイスっぽい香りがするのかと」

「少なくとも『刺激的』じゃ済まない気がするけど」

「何事もリスクは付き物だよ……!」

「分かった、早くご飯見つけてあげるから口に入れようとしないで。ほら、ぺってして、ぺっ」

 

 いくら銃弾が直撃しても「痛い」で済むキヴォトスの住人でも、流石に鉄の塊を口にしようとは思わない。

 爪楊枝のように咥えている相方の口から薬莢を取り上げると、遠くへ放り投げた。流石に本気で食べるとは思っていなかったが、この相方ならやりかねない。

 

「お腹すいたなぁ……」

 

 可愛らしい鳴き声を上げるお腹を押さえながら、茶髪の少女が不満げに呟いた。

 

「荒れ果てた街の中、幼い子供が二人っきり。ご飯すら見つけられない悲しい現実に、思わず涙が出ちゃいそうだよ……」

「…………」

「そもそもこんなところにご飯なんて無いと思うなぁ」

「…………」

 

 相方の愚痴を努めて冷静に無視する黒髪の少女。

 しかし構ってくれない事に不満なのか、反応を見せない彼女にもたれかかるように、茶髪の少女は小柄な背中に抱きついた。

 

「ねぇもうご飯食べちゃおうよ。もうこれ以上我慢するとどうにかなりそうだよー」

「…………」

「こうなったらサオリを先に食べちゃおっかなぁ。この世は弱肉強食! サオリちゃんも美味しそうだねぇ」

「…………ッ」

「ねぇ何か言ってよー。サオリー! サオリ姉さーん! サオリの姉御──」

「──ああもう! 集中できないでしょうが! 少しは静かにしててよレンゲ!」

「いたァ!?」

 

 サオリと呼ばれた黒髪の少女はダル絡みしてくる茶髪の少女──レンゲを自分から引き剥がし、ゲンコツを落とす。

 頭を抱えてうずくまるレンゲを見下ろしながら、サオリは深いため息を吐いた。

 

「言ったよね? もう食料が残り少ないんだから出来る限り節約するって。人は一日ぐらい何も食べなくても死なないの」

「うぅ……サオリのケチ」

「ッ! 元はと言えば! レンゲがあの時、食料ごと家を爆破したからでしょ!」

「いひゃい! ほっへひっはららいでー」

 

 無駄にモチモチする頬を伸ばしてやると、間抜けな顔を晒しながら目に涙を浮かべるレンゲ。

 「うなぁ……」と猫のような謎のうめき声を上げる彼女を見つめながら、サオリはこの少女と行動を共にする自分の判断を段々と後悔し始めた。

 

──どうしてこうなった。

 

 頭を抱えるサオリが思い返すのは、ほんの数日前に起こった出来事。

 きっかけはまったくの偶然で、交通事故のように唐突に始まった二人の関係。

 

 しかし残念ながら、それはサオリとレンゲを否が応でも引き合わせてしまった。

 

 

 

 

──この世に地獄があるとすれば、私は今まさに地獄の中にいる。

 

 震える手で水筒を口に運びながら、サオリは漠然と周囲を見回した。

 

 朽ち果てたボロボロの小屋の中には家具らしいものは存在せず、片隅に擦り切れた数枚の布が申し訳程度に積まれているだけ。窓は割れ、外の冷たい空気が素肌を撫でる。辛うじて屋根が残っているのが唯一の救いか。

 

「……お腹すいた」

 

 もう一度水筒を傾け、空っぽの胃の中に申し訳程度に水を流し込む。

 

 最後に何かを食べたのはいつだろうか。

 食糧も見つからず、探しに行く元気すら最早ない。本来ならこの幼い少女の世話をするはずの(おとな)も、サオリの記憶の片隅にすら残っていない。膝を抱え、ただ自分がこの小屋のように朽ち果てるのをじっと待つだけだった。

 

 しかし、こんなスラムで自分のような子供に手を差し向ける人間などいない。

 

 弱肉強食。

 食べ物を見つけられる者が生きて、見つけられない者が死ぬ。

 そんなシンプルな生存競争に、彼女は負けたのだ。

 

「……はは」

 

 乾いた笑みを浮かべながら、彼女は割れた窓から月を見上げた。

 

 虫の鳴き声一つと聞こえない、どこか心地良ささえ感じる静かな夜。

 果てるには、ちょうど良いのかもしれない──。

 

「……?」

 

 その時、遠くから響く()()の音が、朧げだった彼女の意識を引き戻した。

 

『──!!』

 

 誰かが叫ぶ声と、続け様に響くいくつかの発砲音。

 治安などの概念が無いスラムでは決して珍しくない喧騒だが、真夜中となっては流石に目立つ。

 

 気がつけば、サオリは懐に置いていた自身のハンドガンを握りしめていた。

 幼い子供には似つかわしくないそれは、黒い光沢を放ちながらゆっくりとスライドが引かれ、チャンバーに弾丸が装填される。

 

『ま──れ──!』

『だれが──バ──!』

 

 警戒するサオリを他所に、その声と発砲音は徐々に近づいてきている。

 いや、むしろそれは彼女がいる部屋へ真っ直ぐ近づいてくるような──。

 

「うぉぉ開いてた! 助かったー!」

「ひッ!?」

 

 次の瞬間、目の前で扉が凄まじい勢いで開け放たれ、思わず小さな悲鳴を上げてしまう。

 

 続け様に無数の弾丸が曝け出された夜のスラムから飛び込んできて、サオリは咄嗟に身を屈めながら壁際まで退避した。

 

 静かな夜が一瞬にしてぶち壊される。

 

「いッ!? いってぇなクソが、あんなバンバン打ちやがって! いくらなんでも怒りすぎでしょ! 幼気な幼女を虐めて楽しいか!」

 

 小屋に飛び込んできた人物は口汚く悪態吐きながらも慌てて扉を閉め、同様に身を低くしながら壁際まで後退する。

 

 肩に届く程度の焦茶色の髪に、琥珀色のヘイロー。

 背中に大きなカバンを背負った少女の手には、サオリのそれと似たハンドガンが握られていた。

 

 少女は銀色の光沢を放つ無骨なハンドガンを震える両手で握りながら、銃口を扉へ向けている。

 

「へへ、こっちへ来てみな。一発で眉間をぶち抜いてあげるよ……! 9ミリの味をたっぷりと堪能しながらあの世で──」

 

 そこでようやく少女は自身に向けられた視線に気づいたのか、隣で目を見開きながら自分を見つめる少女と目が合った。

 

「…………」

「…………」

 

 交差する視線。

 時間が止まったような静寂。

 

 いつの間にか外からの銃撃も止まっていて、小屋の中の二人の間でなんとも言えない無言が続く。

 

「……へい大将。この宿やってる?」

「この状況でよくふざけられるね!?」

 

 真夜中のスラムに、空腹も忘れた一人の少女の全力の叫びが木霊した。

 

「勝手に人の家に飛び込んできてどういうつもり!? しかもヤバそうな人も連れてきてるし!」

「えへへ……これにはすごーーーく深い事情があってね。あれはついさっきの出来事だった。私は──」

「銃を置いて手を上げて。撃たれたくなかったら私の質問にだけ答えて」

「おっと。まぁ落ち着きなって、そんな物騒なもの向けられたらビビって話もできやしない。ここはひとまず穏便に──」

 

 少女の言葉を遮るようにサオリの銃口が火を吹き、一発の銃弾が少女の頬を掠めた。

 何が起こったのか一瞬理解出来なかった少女はじんわりと痛む自分の頬をさすっている。

 

「ふぇ!?」

 

 ようやく撃たれたという事実を理解したのか、慌てて自分が持つ拳銃を放り投げて両手を上げた。

 その無駄にキレのある動きで自分を制圧しようとしないのか、とサオリは内心困惑しながらも、顔には一切出さずに銃口を向けている。

 

「待って! 撃たないで! なんでも言うこと聞くから許して!」

「えぇ……」

 

 「従順すぎる」や「もう少し抵抗しないのか」など言いたい事は沢山あったものの、ここで聞いたら面倒臭くなりそうだと直感したサオリはそれらをなんとか心の中に押し込む。

 

「と、とりあえず名前は?」

荻野(おぎの)レンゲ! このへんを適当にふらついてるただの子供です!」

「外の奴は?」

「私がちょっと喧嘩売ったらめちゃくちゃその喧嘩買ってきたチンピラ!」

 

 チンピラ、という言葉にサオリは首を傾げた。

 スラムでは自分のような身寄りのない子供以外にもチンピラと呼べるような年上たちもいるが、大体は自分と同じハンドガンを装備している。とてもでは無いが今外にいる人物のようにフルオートでライフル弾を叩き込めるような装備なんて持っているはずがない。

 自身のハンドガンの銃口はレンゲと名乗った少女に向けながら、サオリは穴だらけになった窓から外の様子を覗いた。

 

 月明かりに照らされて、一人の人物が夜のスラムに浮かび上がる。

 

 グレーのコートを身に纏い、顔は無機質なガスマスクによって覆われている。手に持っているアサルトライフルに新しくマガジンを装填させながらも、視線は真っ直ぐサオリたちのいる小屋へ向けている。

 明らかにチンピラの類ではない。

 

「なに、あいつ……?」

「ねっ! 見るからにヤバそうでしょ! 私よりもまず先にあの不審者をどうにかした方がいいと思うよ!」

「私からすればあなたも十分不審者なんだけど」

「くっ、正論すぎて言い返せない……!」

「自覚はあったんだね……」

 

 一人勝手に項垂れるレンゲを一旦無視し、サオリは再度視線をガスマスクの女へ向けた。

 洗練された動きでアサルトライフルをリロードしている姿は、素人とは程遠い、明らかに訓練を受けた類の戦闘員。

 

「そういえば……」

 

 彼女の脳裏に過ぎるのは、他のスラムの子供から聞いた噂話。

 

──曰く、彼女たちが住む『アリウス自治区』は内戦状態にある。

 

──曰く、衝突中の勢力はどちらも自身こそが本物の『アリウス分校』であると主張している。

 

 そして、その戦闘員たちは全員()()()()()を着用している。

 

「まさかあの人、アリウス分校の生徒……?」

 

 チンピラどころの話では無い。

 あのガスマスクの女は歴とした戦場で戦う兵士だ。

 

「一応聞きたいんだけど、さっき言ってた『ちょっと喧嘩売った』って具体的にどういうこと……?」

 

 嫌な予感がする。

 恐る恐る聞くと、レンゲはケロっとした顔で言い放った。

 

「ん? あぁ、あの人が郊外で食料輸送車を運転してるのを見てね。チャンス!って思ってこっそり食料根こそぎ全部盗んできちゃった」

「ちょっとどころか思いっきり喧嘩売ってる!? しかも普通にバレてるし! もうちょっとやりようあったでしょ!」

「無かったからこうなってるんでしょうが!」

「逆ギレするな!」

 

 とんだ貰い事故だった。

 しかも、よりによってサオリが身を潜めていた小屋に犯人(レンゲ)が飛び込んできたせいで、あのアリウス生徒からしたらサオリも共犯者だ。子供(サオリ)の言い分も聞くとは思えない。

 相手は小銃を装備し、対するこちらは速度も口径も劣るハンドガンのみ。

 

 勝てる要素など、どこにもない。

 

「……潮時かぁ」

 

 どうせなら終わりかけていた自分の命、ヘイローが壊されるか餓死するかなんて些細な違いでしかない。

 その時、諦めにも似た感情で乾いた笑みを浮かべるサオリの顔を何者かの両手がパシリと挟み込んだ。

 急な衝撃に目を見開くサオリを他所に、その人物の声が小さな小屋に響く。

 

「そんなことないよ!」

 

 次いで視界に映り込んでくる、頭上に浮かぶヘイローと同じ二つの琥珀色の瞳。

 

 綺麗だ、と思わず零しそうになった。

 

「あんな奴、私たちでボコボコにできるよ! いや、むしろ負ける要素が無い! だって一人ならまだしも、今は私たち二人が揃ってるんだから!」

 

 人懐っこい笑みを浮かべながら、レンゲはあっけらかんにそう告げた。

 

「……私たち初対面なんだよ? お互い信頼もしてなければ、連携だってしたことない。それなのにどうして──」

「わかんない! でも、()()()()()私と君が一緒なら勝てる気がするの。それに自分で言うのもアレだけど、私って結構強いんだよ?」

 

 あまりにも曖昧な返答に、サオリは思わず言葉を失ってしまう。

 なぜそんなに自信満々なの? なぜ初対面でここまで馴れ馴れしいの? なぜそこまで自分を信頼しているの?

 

──どうして敵が怖くないの?

 

 サオリは今まで、隠れながら生きてきた。

 年上からは身を隠し、同年代の子供すらも避けながら。無我夢中で食料を探し、その日その日を食い繋ぐ。手に持っているハンドガンも、そんな日々の中でたまたま拾ったもので、誰かに向けて撃ったのも数える程度の回数しかない。

 

 誰かと正面から戦うなんて、考えたことも無かった。

 

「はは……なにそれ」

 

 しかしレンゲの言葉を聞き、サオリはその全てがバカバカしくなった。

 いつの間にか向けていた銃も下ろしていて、呆れたように小さく笑い声を漏らしてしまう。

 

「えへへ、大丈夫。私を信じて」

 

 そんなレンゲも釣られるように笑うと、二人は笑顔のまま見つめ合う。

 

「レンゲって信用されるような事したっけ?」

「もう! こういう時は素直に頷いてよ! 人の心を抉るような正論をぶつけないで!」

「ごめんね、あまりにも可笑しくてつい。でも、うん……今は外のあいつをどうにかしないといけないね」

「じゃあ──」

「ただし!」

 

 歓喜に目を輝かせたレンゲを遮るように、彼女はビシッと人差し指を向ける。

 

「あの人から盗んだ食料の半分は貰うから。私は勝手に巻き込まれたんだし、それぐらいいいでしょ?」

 

 先程まで空腹で動けず思考も鈍っていたとは思えないほど、スラスラと言葉が出てくる。

 我ながら無茶な要求はしていると言った直後で後悔したが、レンゲはそんなサオリの言葉に一瞬の躊躇いもなく満面の笑みで頷いた。

 

「そんなの幾らでもオッケーだよ。なんなら終わってから君がお腹いっぱいにまるまでご飯をご馳走してあげる!」

 

 二人の少女はそのままゆっくりと閉じられたドアへ向かって歩み寄る。既に銃弾で蜂の巣にされているソレのドアノブにサオリが手を伸ばす寸前、レンゲがサオリの手を掴んで止めた。

 首を傾げるサオリに向かって、先程までとは打って変わってモジモジと恥じらうようにレンゲは呟いた。

 

「名前、教えてくれると嬉しいかな」

「……錠前サオリ」

 

 そういえば名乗っていなかったな、と今更ながら気づいたサオリは特に気にすることなく自身の名前を告げた。

 レンゲはそんな彼女の名前を噛み締めるように数回ほど呟くと、満面の笑みを浮かべながらサオリへ拳を突き出した

 

「サオリかぁ……よろしくね、相棒!」

 

 意味が分からず目を点にしながらその手を見つめたサオリだが、その意味を理解した瞬間再び笑みを浮かべた。

 

「相棒って……今回だけでしょ……」

 

──変な気分だ。

 

 目の前のこの焦茶色の髪の少女とは今日初めて会うというのに、その突き出された拳に悪い気はしなかった。

 これから初めて正面から敵と戦うというのに、今の自分には恐怖心が全然感じられなかった。むしろ、安心感さえ感じられる。

 

 誰かと一緒に戦える──誰かと一緒にいる。

 そのたった一つの事実が彼女の足を進めた。

 

「まぁ……短い間だと思うけど宜しくね」

 

 目の前に突き出された小さな拳に自分の拳を合わせる。

 

 それを合図に、レンゲはボロボロの扉を蹴り飛ばし、二人の少女が夜のスラムへ駆け出した。

 

 

 





幼女でも当たり前のように銃を持ってる世界、キヴォトス

・レンゲ
今作の主人公。頭が残念。知能に行くべき部分が全部身体能力に持っていかれたタイプ。

・サオリ
苦労人枠。まだヴァニヴァニ言ってない。普段の無骨な口調と幼少期の女の子っぽい口調のギャップに俺先生はやられた。しかもミサキとヒヨリから姉さんって呼ばれてるのも尊すぎるしアツコからさっちゃん呼びされてるの見て先生の脳内は完全に(ry

主人公の名前どうする?

  • 変更なし
  • 改名するべき
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