torment難しすぎる…
銃弾が飛び交う街中をサオリと共に駆け抜ける。
もう帰り道なんて関係なくひたすらフルスロットルで走り続けているけど、女の子一人を抱えているせいであまり追っ手を引き離せずにいる。
普段ならこのままジリ貧になって捕まっちゃうけど、今回ばかりは違う。
なぜなら、隣に頼れる相棒がいるから。
「あはは! どこ狙ってるの君たち! そんなんじゃ虫も殺せねぇぞ!」
「煽ってる暇があったら走って!」
そんな
背中越しに銃を撃ちながら全力疾走する私に着いてきて、なおかついつも通り怒るなんて、サオリもなかなか侮れない。
今私はお姫様をお姫様抱っこしてるわけだけど、どこか儚い見た目通りこの子はかなり軽い。多分普段持ち歩いてるカバンの方がまだ重いぐらいだ。
もしかしてこの子、病弱とかだったりする……?
「ねぇお姫様、急に誘拐しちゃったけど大丈夫? どこか痛くない?」
「ううん。でも誘拐されるのって初めてだから、なんだかワクワクする」
「やだ、この子なんでテンション上がってるの……?」
まぁ、流石に自分から「病弱です」って言う変な人なんていないか。
腕の中でキラキラした視線を送ってくるお姫様は一旦置いておいて、早急に逃走経路を確保しなければいけない。
「ねぇサオリ、まだグレネード残ってないの?」
「持ってきた分は最初の爆発で全部使っちゃった。もう銃弾しか残ってないよ」
「なんで残しとかなかったのさ!? これじゃあ追ってくる奴らを倒せないじゃん!」
「だ、だって……派手にやった方が良いと思ったから……」
「たまにこういう抜けたところがあるよね君ぃ!」
普段はかっこよくて頼れるリーダーなんだけどね!
「誘拐犯さん、前からも誰か来てる」
「え? うぉぉぉ!? サオリ、正面正面!」
後ろにしか意識を向けていなかった私たちは、お姫様の言葉でようやく前方からもアリウス生徒が迫っていることに気づいた。
数は三、四人程度。両手が塞がってるから私は撃てないし、サオリの銃だけでは対処は難しい。
それなら!
「サオリィ!」
お姫様の背中に回していた腕を一瞬だけ離し、ポケットの中に入れていた
それを苦もなく受け取ったサオリは、二丁のハンドガンを真っ直ぐ前方のアリウス生たちへ向けた。まるでマシンガンのように断続的に銃声が響き、一人また一人と倒れていくアリウス生。
この距離で片手でこの命中精度。
相変わらず物凄い射撃の腕だ。
「カッコいい……!」
腕の中でお姫様も目を輝かせてる。
てか、君はもう少し怯えたりしないの? 私たち仮にも誘拐犯だよ?
「弾も無限じゃないよ! このままじゃジリ貧になる!」
器用に二つの銃をリロードしながらも、サオリの表情は優れない。
今回は襲撃するために弾倉を多めに持ってきたけど、そのほとんどは荷物担当のヒヨリが持っている。今こちらの手持ちは私とサオリが携帯していた弾倉数個分のみ。
弾を拾いに行く余裕も無いし、銃弾が尽きるのも時間の問題だ。
「これならヒヨリからもっと弾を貰っておけば──ッ! 十時の方向から二人!」
「くっ!」
苦々しい表情のまま二丁拳銃を撃つサオリ。
彼女が的確に急所を狙うおかげで銃弾の消費は最小限に留まっているけど、それでも残弾数は心許ない。
なかなかにやばい状況になってきた。
「てか本当にこっちで良かったの!? 全然知ってる道に出ないんだけど!」
「レンゲがこっちの方に走り出したんでしょ!」
「私が方向音痴なの知ってるじゃん! ああもう、助けてミサキー!」
今この場にミサキがいたら、「馬鹿みたい……」って呆れてるところだろう。私も自分が情けない。
「ん? おぉ! ちょうど良さそうな家発見!」
何度目になるか分からない交差点を曲がった瞬間、ちょうど右手側に現れた一件の家。他とは違い特に壁が崩れていたり屋根が吹き飛んだりしていない、なかなか小綺麗な空き家だ。
まだ追手に見つかってない今しかない!
「サオリ、パス!」
「わぁ……!」
「え、ちょっと待って──ぐふっ」
抱えていたお姫様をサオリに投げ……じゃなくて渡して、窓に向かって飛び上がる。突き出ていた窓のフレームに手を掛け、振り子のように自分の身体を大きく宙に浮かせて──
「お邪魔しまーす!」
両足で窓を突き破って突入した。
「ほら、サオリたちも早く!」
肝心のサオリはお姫様を受け止めきれなかったのか、女の子に下敷きにされたまま立ち上がれずにいた。軟弱者め。
キョトンとしながらなぜか退こうとしないお姫様に手を伸ばして、なんとか家の中に引っ張り上げる。ガラスは私が入る時に全部粉々に蹴飛ばしといたから安心だ。
「もー、そんなところで寝てないで早く上がってきてよ! このままだと見つかっちゃうよ?」
「は?」
「ひえっ」
サオリにも手を貸してあげると、なぜか睨まれてしまった。
「ふぅ……これでようやく一息つけるね。あいつらもなんとか撒けたみたいだし──いてっ!?」
床に座り込んで大きく息を吸い込んだ瞬間、何か硬いものが私のおでこに投げつけられた。じんわりと痛む頭をさすりながら投げつけられた物体を見ると、それは私の銃だった。
「返すね。助かったよ」
「もっと優しく渡してよぉ……」
「銃弾も一緒に返してあげようか?」
「ありがとうございますサオリお姉様!」
銃を返して下さり、ありがたき幸せ。
「よしよし、誘拐犯さんはよく頑張ったね」
「どうしようサオリ、この子めちゃくちゃ可愛いんだけど」
「真顔でなんてこと言うの……」
膝を抱えて蹲る私の頭を撫でてくれるお姫様。
優しすぎて思わず泣きそうになった。腕に枷が付けられてるから鉄の部分が当たって痛いけど。
「あ、そういえばそれ外してあげないとね」
「え? いつの間に鍵なんて──」
「むんっ!」
「すごい、外れた」
「えぇ……」
お姫様の綺麗な手をできる限り傷つけないように力を込めたけど、手枷は割と素直に壊れてくれた。もしかして元々脆かったのかな?
ドン引きした様子のサオリを無視して、私とお姫様は「いえーい!」と手を合わせた。この子意外とノリが良い。
「ところで、誘拐犯さんたちは誰なの?」
お祝いもそこそこ、今更のように首を傾げながら聞くお姫様に、私とサオリは思わず顔を見合わせてしまった。
この子からすれば、敵の捕虜になりかけたところを見ず知らずの子供二人に唐突に爆破テロされた挙句拉致されただけだからね。考えてみるとなかなかぶっ飛んだ状況だ。
「私はレンゲで、こっちのおっかない方がサオリ。別に怪しいもんじゃねぇですぜ、お嬢さん」
「その喋り方やめて。それにおっかないって言うな!」
「ほら、こうやってすぐ怒るから君も気をつけてね」
「レ〜ン〜ゲ〜!」
「ほわぁ!? いででで、騒ぐとあいつらにバレちゃうよ! あ、その関節はそっちに曲げると……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
少しからかいすぎてしまったみたいで、サオリにもみくちゃにされる私。相変わらず激しいスキンシップだぜ。でも関節技キメるのはやめて。
喧嘩(という名の一方的な暴力)する私たちを眺め、お姫様はクスクスと笑っている。
「仲が良いんだね、二人は」
「勿論だよ、なんせ相棒だからね! 私たちは会った時から運命共同体みたいなものだったから」
「……?」
「話せば長くなる」
不思議そうにこちらを見つめるお姫様を見て、サオリがげっそりとしながら呟いた。
これじゃあまるで私との出会いが苦労話みたいじゃないか。
「でも……羨ましいな。私はレンゲたちみたいに話せる人がいなかったから。ずっと守られてばかりで……」
「お姫様って本当だったんだ……てっきりレンゲが適当に言ってるのかと思った」
適当とはなんだ。我ながらなかなか良い例えだったと思うけど。
でも、守られていたって事は、よっぽどこの子は大切な人だったのかな。あるいは、大切な
「あまり間違ってないかな。周りの人は私の事を『姫様』って呼ぶから。でも……それがなんだか寂しかった」
どこか遠い目をしながら、目の前の女の子は微笑んだ。
「あなた達は私でどうするつもり? はっきり言って私自身、自分がどういう存在なのかは分からない。でも、何か目的があって私を攫ったんでしょ?」
「目的? あはは、あまり深く考えてなかったかな。強いて言うなら君とお友達になりたかったから、とか?」
「え?」
私もサオリも、彼女からの問いに思わず肩をすくめてしまう。
そういえば特に理由なんて考えてなかった。ただこの子が辛そうだったから、
言い出しっぺの自分がこのザマだけど他の家族は誰も反対しなかったから、多分全員同じ気持ちだったんだと思う。
目の前のこの少女は自分達と同じだ、って。
「私とお友達になりたいから……? だからあんなに沢山の人を敵に回して、私を誘拐したの……?」
ポカーンと口を開けて私たちを見つめる女の子。
そんなにおかしな理由だったのかな。
「本当はもうちょっと上手くやるつもりだったんだけどねぇ。どこかの錠前さんが調子に乗ってグレネード全部使っちゃうから」
「うぐっ、それは忘れて! もぉ、あの時の私はなんで……」
「珍しくテンション高くて可愛かったよ!」
「うぅ……うるさい!」
プルプルと震え始めたお姫様を他所に再び喧嘩をおっ始める私たち。
「フフ……あはははは!」
すると突然、目の前の女の子が声を上げて笑い始めた。
今までどこか大人びた不思議な雰囲気を持っていたお姫様が、年相応の子供みたいに笑っている。
その姿は、今まで見た中で一番可愛らしい。
彼女はやがて笑いすぎるあまり目に溜まった涙を拭き、数回ほど咳き込んだ。
その表情は、なんだか憑き物が取れたように晴れやかだった。
「ごめんなさい、なんだか分からないけど可笑しくて……フフ」
「ほら、しんこきゅーだよお姫様。ひっひっふー」
確かヒヨリに読んでもらった雑誌にこの息の吸い方が人を落ち着かせるって書いてあった気がする。私は文字が読めないからヒヨリ頼みだけど。
この呼吸法を知ってたのかは定かでは無いけど、ようやくお姫様は最後に小さくクスクスと笑い、大きく息を吐いた。
「
「やった! これから私たちはお友達……ううん、『家族』だよ!」
「家族?」
「私とサオリがお姉ちゃんで、今ここにはいないけどミサキとヒヨリが妹! だからアツコは末っ子だね!」
目を丸くしたアツコは何度か「家族……」と呟く。
まるで噛み締めるかのように、何度も。
「……なんだか素敵な響き。えへへ、良いかも」
目を輝かせ、へにゃりと優しく笑った。
うん、可愛い笑顔だ。
「虚しいだけのこの世界でも、家族と一緒なら耐えられる。だからアツコ、今日から宜しく」
「それは違うよ、サオリ」
サオリもまたアツコに向けて手を伸ばすも、彼女はその手を拒絶した。「え?」と固まるサオリを他所に、アツコは言葉を続ける。
「たとえ虚しくても、耐えるだけじゃ何も変わらない。この荒れた世界から出られるのは、自分から動いた人だけだよ」
「ッ!」
「…………」
ただの箱入りお姫様だと思っていたアツコの思わぬ言葉に、サオリは息を呑んだ。
あまりにも強く希望に満ちた眼差し。
そもそも考えた事も無かった。
サオリはある意味この虚しい世界を受け入れていて、こんな世界を家族と耐え抜こうとしている。私もそんなサオリを手助けして、家族全員が幸せに暮らせるようにするのが自分の使命と思っている。
結局どちらも、
だからアツコの言葉は、この小さな世界でしか生きたことがない私たちにとってはあまりにも衝撃的だった。
「きっと世界はとても広いよ。私たちが知らないだけで」
「わ、私たちも見れるのかな……その『世界』が」
「それはサオリたち次第だよ」
拳を強く握るサオリ。
一方はスラムで生きて、この世界に絶望している子供。一方は姫として守られながらも、この世界に希望を見出して進もうとしているお姫様。
対照的な二人の少女が見つめ合っている。
「ッ! この音は……! サオリ、アツコ!」
そんな中、外から響く無数の足音が私たちを現実へと引き戻した。
数からして十人どころの騒ぎじゃない。軽く数十人ぐらいはいるはずだ。
それにこの濃密な火薬の匂い。
その正体に気づいた瞬間、私は慌てて二人を押し倒そうと手を伸ばす。
「二人とも伏せて──」
次の瞬間、家全体を揺らす衝撃と共に、爆風が私たちを包み込んだ。
肌が焼けるような熱さが全身を襲い、床に身体を叩きつけられる。今まで感じた事のない衝撃に自分自身の脳の処理が追いついていない。
これはグレネードとかそんな生優しいものじゃない。
「けほっ、けほっ……二人とも大丈夫!?」
「私は大丈夫! それよりサオリが……」
アツコの声は聞こえる。
でも、私が何より聞きたかった人の声がまだ聞こえない。
煙が晴れ、めちゃくちゃになった家の中を見た瞬間、私は自分の全身が震え上がったのが分かった。
「さ、サオリ……?」
アツコを庇うように横たわる、一人の黒髪の少女。
頭から赤い液体が流れ、床に染み込んでいる。
ヘイローが消えている。どうして?
これは一体なんだ。
「そんな……」
守るはずの家族が倒れている。
私は何をやっていたんだ。
私が気づくのが遅れたから?
外を警戒していなかったから?
二人を庇いきれなかったから?
いや、それだけじゃない。
すぐ外にいるじゃないか、
「ぶっ殺す」
頭が真っ白になり、私の理性という名の枷が外れた。
主人公、キレる。
次ぐらいで幼少期編ラストです。
やっとタイトル詐欺から抜け出せる…
・レンゲ
「素晴らしい提案をしよう。お前も『家族』にならないか?」
・サオリ
アツコにカルチャーショックを受ける。果たして無事なのか。
・アツコ
昔から芯の通った強い子というイメージ。まさにスクワッドにとっての希望。ノリが良い。
・アリウスの皆様
奪還対象のアツコがいるか分からないのにロケランぶっ放すガバ。
主人公の名前どうする?
-
変更なし
-
改名するべき